姿をくらます落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
「出てくる気配がない…」
閉ざされた扉は、沈黙を保ち続けている。
「籠城か」
引き下がるのを待つつもりだろう。
しかし、下がる気は毛頭ない。
「突入するか」
「そうなるか」
反対する者はいない。
「ところでナギ、治療の方はどうだ?」
「ええ、全員終わったわ」
致命傷を受けた者はいない。
前線に戻れる状態にまで回復している。
「助かったぜ、術士の姉ちゃん!」
「俺もだ。当分休業になるかと思ったぞ」
一方、アヤンは羨望の眼差しを送る。
「さすがです。短時間で全員の傷を…」
「術士としての仕事をしたまでよ」
「これができないなんて、術士としてもどかしいです…」
失言だった。
ナギは気まずそうになる。
「おい、タシノキ」
「何だカチル」
「おかしくないか?」
「おかしいって何がだ?」
「今日、ここには幹部が集結している」
「そのはずだ」
「だったら、この状況を黙っていると思うか?」
「言われてみれば…」
確かに妙だ。
直接出向いて来ても、おかしくはない。
「確かにいるんだよな?」
疑っているわけではない。
皮肉にしては辛辣。
「どうなんだ、シユ?」
「監視していたレンジャーが確認していた。間違いない」
一帯はレンジャーの監視対象。
虚偽でない限り、精度の情報だ。
「だとしたら、なおさら中に入るしかねえ」
「ああ」
不可解な状況。
それでも引き下がらない。
報酬は確かに欲しい。
だがそれ以上に、冒険者としての探究心が彼らを駆り立てた。
「カチル、頼む」
「ああ」
まずは、閉ざされた扉を排除しなくてはならない。
カチルは目を閉じ、罠探知を始めた。
「どうやら仕掛けはなさそうだ。みんな、下がれ」
一同が扉から距離を取ったのを確認する、カチルは詠唱を始める。
紅く染まった手のひらを扉へと押し当てる。
轟音とともに扉は内側へと吹き飛び、周囲には粉塵が巻き起こる。
「お前ら、突入だ!」
「おお!!」
破壊された扉から、一行が雪崩れ込んだ。
ホールに配置された野盗は慌てふためいていた。
爆発に巻き込まれ、倒れた者もいる。
出鼻は完全にくじいた。
戦いは初手から一行の優位に。
瞬く間に、城中に怒号が飛び交った。
戦時下に造られた城。
侵入者を阻むため、通路は狭く複雑に入り組んでいる。
だが、それは時間稼ぎ程度にしかならない。
一行は城内を下層から順に制圧。
やがて最上階に達した。
四層目を象徴するように設られたバルコニー。
階下を見下ろしながら、タシノキがつぶやいた。
「何故だ…」
隣にいるカチルも眉を顰める。
「幹部と思しき奴が一人もいない」
「ああ。倒したのは下っ端ばかりだ」
ここに至る道中、ついに幹部の姿を見つけられなかった。
「だから、何故なんだ!?」
標的を一人も仕留められていない。
このままだと、遠征は失敗となる。
「タシノキ、生け捕った賊を連れて来たぞ」
縄で縛られた男たちが並べられた。
尋問に耐える傷の浅い者が選ばれた。
「おい、お前」
男を前に、タシノキはしゃがみ込む。
「今日ここには幹部が集まっている、そうだよな?」
「……」
「それなのに、なぜ誰も出てこない!?」
威圧的に迫るタシノキ。
しかし、男は答えようとはせず視線を逸した。
「くそが!!」
男の腹を蹴り上げた。
「ぐごっ!」
男は白目を剥いて崩れ落ちる。
情けをかける余裕などない。
すぐさま、隣の男の胸ぐらを掴み上げた。
「次はお前だ!答えないと同じ目に遭うぞ!!」
男は怯えた表情で、失神した仲間に目をやった。
「……だ」
「何だって!?」
厳しく口止めをされていたのであろう。
そのせいで、引き出せる情報は小出しだった。
「何かの作戦で出払っている、だとよ」
聞き出せた情報を、カチルとシユに伝える。
「どんな作戦なんだ?」
「知らされていないとよ」
教えなければ漏れる心配はない。
情報統制は徹底されていた。
「いつ出発したんだ?」
「それも不明だ。普段通り見張りをやらされていただけだとよ」
「だとしたらおかしい。その見張りが気づくはずだ」
「いっ…言われてみればそうだ!!」
野盗の証言が真実なら、矛盾が生じる。
隠し通路は塞がれている。
城外に出るには正門を通るしかない。
「ところでな、妙に思っていることがある」
「どうかしたのか?」
「これを見てくれ」
シユは城内の地図を広げた。
「さっき見たやつか。これがどうした?」
「改築はされていたが、構造は同じだ。今いる四層目を見てくれ」
シユの指が、バルコニーから直線上にある一角で止まる。
「部屋か…。だがあそこには壁があるだけだ」
「でも地図にあの“壁”はない」
三人の視線がそこへと向く。
「じゃあ、あの向こうに何かがあると?」
一方、ユリィとアヤンには待機を命じられた。
手持ち無沙汰になった二人は、この階を探索していた。
「勝手に歩き回って大丈夫ですか?」
「変なことしなければ怒られないよ」
「そういうものでしょうか…」
四層目は、裏手の階段から正面へ回り込むように通路が造られている。
その先にあるのがバルコニーだ。
「玉座の間はないんだ」
「お城と言っても、立て篭もるための建物ですし。だから、必要はなかったのではないですか?」
「城というより拠点か。普通はバルコニーとお向かいにあるのが定番だけど」
ユリィは何気なく、手近な壁に手を当てて体を預けようとした。
「あれ?」
確かに壁に触れたはずなのに、支えがない。
身体が傾く感覚が起きる。
「どうかしました…ええ!!」
悲鳴が城内に響き渡った。
「嬢ちゃんの声か?」
タシノキはその方へと振り向く。
遠目にアヤンの姿が映る。
「ひどく慌てているぞ」
「見にいくか」
三人が駆けつけた頃、他の仲間も集まっていた。
「何かあったの、アヤンちゃん!?」
ナギが駆け寄る。
アヤンは震える指で壁を指し示した。
「あの壁か…」
それは地図に描かれていない、例の場所と同じだった。
「ユリィさんが…」
「そっちは壁よ」
「壁です!そこへ吸い込まれるように、消えました…」
一行にざわめきが走る。
「ただの壁だよな」
そこにあるのは石レンガで積まれた、ごく普通の壁。
継ぎ目にも不自然な点は見当たらない。
「でも、本当なんです!触れた瞬間、そのまま…」
アヤンに、冗談を言っている気配はない。
しかし仲間達は半信半疑。
「おい、タシノキ」
それはタシノキ達に、ある確信へ至らせた。
「やはり、この先に何かあるな」
「地図は正しいって訳か…」
「よし。俺が調べてみる」
カチルが壁に手を向けると軽く目を閉じ、詠唱を始める。
皆が見守る。
やがてカチルは何らかの反応を示した。
「どうだ?」
「何もない」
「何もないって、ただの壁だって意味か?」
「違う。残留思念が一切感じられない」
「それが問題なのか?」
「人工物の中で何もないのは、逆に不自然だ」
「不自然?」
「何らかの妨害魔法が、かけられている可能性がある」
「つまり、何かがあるというわけか」
そう結論を出そうとした、その時だった。
アヤンが再び悲鳴を上げる。
「ナギさん、あれ!」
震える指が、壁を指し示す。
「えっ…。なに、あれ!?」
そこには何かが這い出ようとしている。
細く、長く、うねる奇怪な物体。
だが見覚えがある。
一本。
二本。
三本。
数が増えていく。
やがて根元が顕になり、形がはっきりする。
それは、人の手だった。
「……」
息遣いだけがこだまする。
次いで、頭部がぬるりと現れ、肩、胴体が続く。
「よい…しょっと!」
壁をすり抜け出たのは、見覚えのある人物。
「ユリィさん!!」
アヤンの声に気づいた、ユリィはきょとんとする。
「あれ…、みんな集まってどうしたの?」
状況をまるで理解していない声。
次の瞬間、タシノキが割って入った。
「心配していたんだぞ!」
怒号が飛ぶ。
そこでようやく、ユリィは気づくことになる。
「そんなことになっていたんだ…。ごめん」
気まずそうに肩を落とす。
だが、仲間達の間には安堵が広がった。
ユリィに怪我は見当らず、危険な目に遭った様子はない。
「無事で何よりです」
アヤンは、へたり込みそうになりながら呟いた。
「アヤンもごめん。それよりみんな、中に変なものがあったんだ!」
「変なものだと?」
「祭壇とか、色々怪しげなものがあって」
「はあ…」
「それを見ていたら、つい長居してしまった」
その言葉に、タシノキ達の表情が変わる。
「やっぱり、ここに部屋が隠されていた!」
「ああ」
「しかも祭壇…。キナ臭いな」
幹部の不在。
知らされていない“作戦”
そして、魔法で隠された部屋。
重要な何かがあることは確実。
タシノキは一歩、ユリィへと詰め寄った。
「おい」
「な、なに?怖い顔して」
「中がどうなっているのか、詳しく話せ」
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