いきなり絡まれる
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
それからユリィは一心不乱に働いた。余計な出費が起きないよう今まで以上に節制した。その甲斐もあり、数週間が経過した頃には目標の金額に到達した。
これで一つ目の準備が完了した。そうとなれば、これ以上現場に行く理由はない。ユリィは就業後に日雇いを辞めた。
次に行う準備は冒険者の登録。旅をするには冒険者の身分を得ていた方が便利なことが多い。冒険者カードは身分証になるし、急な出費で持ち金が足りなくなってもクエストを受けて用立てることができる。
目的地である冒険者ギルドの王都支部の前にユリィは辿り着いた。中に入ろうと扉の取っ手に手が触れる直前、不意に言葉が溢れた。
「冒険者になるなんて考えたこともなかったな」
魔導士として生きるつもりだったユリィは冒険者に興味がなかった。この前を通っても終生無縁の建造物だと思っていた。その扉を今では自分の意思で開こうとしている。胸に今まで感じた事がない畏怖の念が湧く。ただ扉を開けるだけの動作に、思いのほか時間を要してしまう。意を決して開けると中から流れ出た空気が全身を包み込む。それは外気より重く感じる。ユリィは一度息を整え、恐る恐る足を踏み入れた。
視界には初めて見る扉の内側があった。そこには冒険者と思しき人達が散在する空間があり、その先には受付嬢の姿が見えるカウンターがある。ここでの目的、冒険者の登録はそこで行う。
「登録ですか?」
「えっと…、うん」
ユリィが言う前に受付嬢から声をかけられた。振る舞いから見抜かれたのだろうか。受付嬢からの案内に従い手渡された用紙に必要事項を記載した。しばらくするとユリィの手が止まった。
「職業か…」
この欄は必須事項でパーティの結成やクエストの受注の時に重要になる。魔導学院を卒業しているのなら『魔導士』と書けばよい。だが自身の現状を鑑みるとそう書く気にはなれない。だがユリィの身分である事は確かなので、気は進まないが『魔導士』と書いた。
「これでいいかな?」
受付嬢が確認する。
「名前はユリィさん。職業は…魔導士ですね」
ユリィは即答できなかった。魔導士と名乗ることにはやはり躊躇いがある。
「…うん」
小さく答えると、受付嬢は不思議そうに首を傾げた。
それらが終わると登録料の支払い。これには数日分の日当に相当するが必要な経費だ。これも旅の支度金に組み込まれている。カードの発行まではしばらく時間を要した。名前を呼ばれ窓口に向かうと冒険者カードが手渡された。
「これが冒険者カードか…」
ユリィは小さい頃に欲しかったおもちゃを手に入れた時に似た喜びが起きた。それは何かを成し遂げた時の感覚にも近い。これは冒険者の資格を得ただけにすぎない。しかしユリィには人生の一大行事のように思えた。
「ユリィさん、ちょっとよろしいですか?」
カードに魅入っていたユリィはその声で我に返った。
「えっ…、どうしたの?」
「これまだ完成じゃないのですよ。能力値の欄に何も書かれていませんよね?今から測定しますのでこちらの装置に手をかざしてください」
ユリィはそそくさと建物を出ようとする。測定の結果、魔法関係の能力値が全て最低値であることが冒険者カードに記載された。これは他者に能力を示すための重要な項目だが、ユリィにとっては恥部の発表になる。
「気まずそうな顔をされたなぁ…」
結果を見た受付嬢の表情が、脳裏に焼き付いて離れない。先ほどまで誇らしげに見えた冒険者カードも、今では汚らわしいように感じられた。俯きながら落胆しながら建物から出ようとした、そのとき。
「ねえ、君」
声をかけれら、顔を上げる。そこに立っていたのは、同い年くらいの男だった。胸当てに腰の剣。剣士系の職業か。戦闘職ではあるが物腰の柔らかそうな印象を受けた。
「新規パーティを組みたくて魔法系の職業を探しているんだ。興味があるならこれから俺の仲間と会ってくれないか?」
登録を終えたばかりで、いきなりの勧誘。ユリィは戸惑った。魔導士のローブと杖を身につけているので、声をかけられた理由は明白だ。
「えっと…、誘ってくれるのはありがたいけど俺には行きたい場所がある。だから誰かとパーティを組む予定はない」
既に目的地が決まっている者を、普通は受け入れない。ユリィはそう判断し、即座に辞退した。
「どこに向かうの?」
引き下がると思っていた男は、意外にも話を続けてきた。
「えっ…、サカウオだけど」
「本当か!?俺達のパーティも、そっちの方面を目指しているんだ。奇遇だね!!」
男は魔導士を喉から手が出るくらい欲しているようでガッついた表情で迫ってきた。
「ちょっと待って!サカウオに着いたら離脱することになるけど、それでもいいの?」
「ああ、そうなるね。じゃあ、その条件で加入させられるか仲間に確認しよ」
男はにぃっと笑い、胸を張る。
「俺はユキンリ、職業は剣士だ。案内するから着いてきてくれ!」
ユキンリはそういうところが、ユリィの意思を確認することなく袖を掴み、半ば強引に歩き出そうとした。突然の展開に、ユリィの思考は追いつかない。元々一人で旅立つつもりだったが、仲間がいれば安全性は格段に上がる。目的地が同じで、なおかつ途中離脱も考慮してくれるというのは、破格の条件だ。登録した矢先にこんな話が舞い込むとは、完全に想定外だ。『幸先が良い』、そう思いかけたがユリィにはある懸念がある。
−初級魔法しか使えないって知ったら、どんな顔をされるかな…−
魔導士でありながら、魔法が不得意。そんな自分を受け入れてもらえるとは、正直思えない。断れる可能性は高い、それでも…。
−話だけはしてみよう−
ユリィはそう決めた。
「会いに行くから、手を離してくれ」
「あっ、ごめん」
折れたというのが正しいだろう。とりあえず仲間と顔を合わせるだけはしてみることにした。
「君が来てくれたら、仲間もきっと喜ぶよ。じゃあ、着いてきて」
先導するユキンリは、どこか浮かれていた。ユリィはまだ“候補”に過ぎない。それなのに、この男はすでに加入が決まったかのような振る舞いをしている。その温度差に、ユリィの胸には小さな違和感が生まれていた。
−なんか、コイツ苦手だ…−
ギルドから出た二人は、しばらく歩くと路地裏へと入った。先位ほどまでの大通りとは違い、道幅は狭く日も差し込まない。人通りも少なく、誰かとすれ違う気配すらない。
「近道なのか?」
「ああ」
素っ気ない返事が返っただけで話は途切れた。
「ところであんた、冒険者になったの最近?」
「最近だね」
「職業剣士だけど、剣の腕前ってどれくらい?」
「そこそこ」
「顔合わせするパーティって最近できたの?」
「そんな感じ」
「メンバーは何人いてどんな職業がいるの?」
「五人組で色々いる」
パーティの内情は知りたいが話も広げたい。しかし返ってくるのは短い言葉ばかり。ユキンリに会話を続ける意思があるようには、とてもじゃないが思えない。
−さっきまではあんなに嬉しそうだったのに…−
違和感は苛立ちへと変わり、時間と共に積み重なっていくそして、遂に限界を迎えた。
「悪いけど、辞退するわ」
そう言い捨て、ユリィは踵を返す。
「えっ!?」
一泊遅れてユキンリは振り返る。
「まっ、待ってくれ!もう少し、あとちょっとで仲間がいる所に…」
「もういい。じゃあね!」
「何が嫌なんだ!?」
「……」
「お〜い!!」
必死に呼び止める声を背に、ユリィは小走りで進んだ。曲がり角を一つ曲がり姿が見えなくなった所で、ようやく足を緩める。
「なんだったんだ、あいつ!」
吐き出すように呟く。それと同時にユキンリの顔が思い出される。不快感が込み上げ、思わず叫びそうになる。冒険者になった初日から、このような思いをする羽目になった。ユリィは自身の運のなさを呪わずにいられなかった。
「一旦ギルドに戻ろう」
この辺の地理に疎いユリィにとってはギルドが唯一の目印だ。そこに戻らなければ、街のどこにいるのかすらわからなくなる。こんな場所まで連れ回されたことを思い出し、ユキンリへの怒りが再燃する。その苛立ちの中で、ユリィはふと重要なことに気づいた。
「どうやって帰るんだ?」
ユキンリの後を突いて歩いただけで、道順を全く覚えていない。そもそも冒険者ギルドの通り自体、普段は近寄らない場所だ。今どこにいるのか、全く見当がつかない。
「仕方ない…。あいつに聞くか」
本心では気が進まない。そもそも頼みづらい。しかし頼れる相手は他にいない。ユリィは引き返した。別れた場所へはすぐに辿り着いた。だが、そこにユキンリの姿はなかった。
「そんな…」
冷静に考えれば当然だ。だが頼れる人間がいないという状況が焦りを加速させる。
「まだ近くにいるかもしれない」
藁にも縋る思いでいるユリィはさらに奥へと進んだ。道は狭く、薄暗く、人通りも少ない。見るからに治安は悪そうでそれが不安を掻き立てる。懸命に路地を走るユリィ。その前方に人の気配がした。
「うわ!」
「ぶつかる!!」
咄嗟に足を止める。相手側も判断が早く衝突は免れた。
「危なかった…」
胸を撫で下ろすユリィ。同時に面倒事の予感が頭をよぎる。
−急いでいるのに…−
うんざりしながら頭を上げたユリィは、目を疑った。
「あんたは!」
「お前は…」
そこにいたのはユキンリだった。後方には見知らぬ男がいる。
「勝手に帰ってごめん。実は道に迷っちゃって、悪いけど帰り道を…」
「あいつだよ!俺が連れて来たヤツ!!」
ユキンリはユリィの言葉をさえぎり指を差して来た。
「逃げられたんじゃないのか?」
「理由は知らねえが戻って来たんだよ!」
連れの男達がユキンリのパーティメンバーなのか。だがその会話には違和感を感じる。
「なんで逃げられた?」
「コイツの事だ。おおかた強引に引っ張ったけど話を持たせられなくて飽きられたんだろう」
「お前は話を合わすのが相変わらず下手だな」
「仕方ねえヤツだな。悪そうに見えないお前の見た目が一番の武器なんだから、しっかりしろ!」
ユリィは思わず心の中で頷いた。その推測は見事に的中している。確かに仲間が言う通りユキンリは悪人ズラではない。だが他の男達は揃いも揃ってゴロツキの風体をしている。
「こういう事は遅かれ早かれギルドに把握される。そう何回もできないんだ!」
「そうだぞ、一回の失敗だけでも大きい」
「肝に銘じとけ!」
「わりぃ…」
ユキンリへの叱責に夢中でユリィは蚊帳の外。だが会話の内容からこれだけはハッキリした。
−仲間にするのが目的ではない-
その答え合わせはユキンリ達がしてくれた。
「兎にも角にも追いかける手間が省けた」
「次からは気をつけろよ」
「ところで、この格好は魔導士だな」
「初心者の魔導士…、絶好のカモじゃねえか!」
「よくやったな、お前」
魔導士という言葉で一同が浮かれ始める。
「おい、お前!」
男達の表情が変わった。同時に武器に手を添え始める。
「死にたくなかったら有り金だしな」
典型的な脅し文句を吐きながら距離を詰める。
「これが目的だったのか」
勧誘を装って人気のない場所へと誘い出し金品を奪い取る卑劣な連中。初心者が狙われやすいのでこう呼ばれている。
−初心者狩り−
このような手口が横行していると聞いたことはある。
−まさか、それが俺に…−
誰しも『自分は当事者にならない』、そんな根拠のない自信を持ってしまう。ユリィもその一人だった。
「早くしろ!」
「魔導士のお前が抵抗してどうにかなると思っているのか!?」
口調に反して奴らの表情は余裕そのものだ。ユキンリを除けば他はガタイのいい男達。明らかに男達の方が優位。
「それにしても、しけた装備だな」
男の一人が近づき物色を始める。
「初心者用の安物ばっかか」
「今日冒険者登録したばっかだって」
「少しは良いもの持てよ」
男はため息をつきながらユリィの杖に目をやる
「こんな棒切れ、売っぱらっても二束三文だぞ」
男が杖に手を伸ばす。突如天地が反転した。何が起きたのか、その答えが出る前に背中に激痛が走った。
「お前…、確か魔導士だよな?」
足元では連れの男達が呻き転がっている。一部始終を見てはいたがユキンリはどうしても理解できなかった。仲間の男達は腕力があり喧嘩慣れもしている。その連中が非力の代名詞であるはずの魔導士相手に討ちにされている。
「魔導士だからケンカが弱いと思ったのか」
その言葉にユキンリは小さく頷く。
「はあ…」
ユリィは思わずため息をついた。やはり自分は普通の魔導士ではない。ユキンリが混乱しているのは、そのような存在を受けいれられないからだろう。奴のために答え合わせをするのは躊躇う。それは魔導士を名乗る人間には不名誉となる。だから答える義理はなない。しかし、このままだと釈然としない。結局ユリィは言ってあげることにした。
「俺、武術の方が得意なんだ」
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