落ちこぼれの進路
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい
(まとうか…ってなんだ)
夕餉で賑わう大衆食堂。
聞こえた“その単語”にユリィは引っかかった。
普段なら、気にもしない他人の会話。
しかし、何故か今日は気に留めてしまった。
「魔法が使える武闘家、そんなのがいるらしい」
たまたま隣に座った、冒険者の一行が始めた話題。
詳しく知りたい。
だが、相手は初対面。
そんな人から教えを乞う度胸はない。
だが、もどかしいほど興味をそそう。
「ガハハ!お前は相変わらずドジなだぁ」
他の席からの談笑。
肝心な情報が遮られる。
(頼むから静かにしてくれ…)
普段なら気にもならない客の声。
しかし、今日は耳障りでたまらない。
ユリィは食事を中断する。
一音一句聞き逃すまいと、耳に全神経を向けた。
(王国内に、指南してくれる道場があるのか)
地名らしき単語が出る。
初めて聞く地名。
(知らないのも仕方ないか。魔導学院卒だからか)
いや…。
(学歴は無関係だろ)
心の中で、そう突っ込んだ。
元々、地理への興味は薄い。
そのせいで、出身地と学院のある王都以外は疎い。
だが、もっと気にしなければならない問題がある。
ユリィは魔導学院に三年間在籍していた。
しかし、初歩的な魔法しか習得できなかった。
魔導士としては致命的。
三年間皆勤した。
寝ていたわけでもない。
単に才能がなかった。
つまりは“落ちこぼれ”だ。
そんな彼には、誰にも負けない特技があった。
副教科にある“杖術”と“武術”。
魔法系の学院で履修させられる戦闘術。
この二つだけは、常に最高の成績を収めていた。
称賛はされた。
だがここは魔導学院。
武術が優秀でも役には立たない。
嘲笑の的。
ユリィは肌で感じていた。
特技が武術。それはある意味幸いだった。
力ではユリィに誰も勝てない。
おかげで、面と向かってバカにする者はいなかった。
だが、気づいてはいた。
裏で“脳筋魔導士”と呼ばれていることを。
(しまった!)
ユリィは慌てて座り直す。
いつの間にか席から身を乗り出していた。
(盗み聞き…バレちゃった?)
チラリと目をやる。
話に夢中。
どうやら気付いていないようだ。
魔法で闘う武闘家。
だから魔闘家。
ユリィは、虜になった。
言葉の響き。
根拠は…、それだけ。
若さゆえか。
短絡的としか言いようがない。
「そのことについて詳しく教えて」
喉元まで出かけた。
だが踏みとどまった。
聞いたら、教えてもらえるかもしれない。
そんな勇気はない。
聞き耳を立てるしかなかった。
「そんなことより、明日のクエストだけど…」
話題が変わる。
(ちょっと!話を戻して!!)
ユリィは両手を組み願う。
だが、その願いが叶うことはなかった。
「なんでだ…」
ユリィに悲壮感が襲う。
唯一の情報源を失った。
地団駄を踏みそうになる。
思えば仲間の反応が薄かった。
ある意味当然の展開。
だが、いじけても状況が変わる事がないことはない。
(先に進むには、行動するしかない)
ユリィは歯を食いしばる。
自身の両頬を叩いた。
「……」
斜め隣の客が不審な目を向けている。
だが、ユリィは気を強く持った。
(やるべきことができた)
その前に、食事を片付けなければならない。
詰め込むように平らげ、水を流し込む。
席を立つ。
そのまま会計へと向かう。
普段なら気にならないこの時間。
だが、今日はもどかしい。
ようやく会計が終わる。
「また来てね」
おばちゃんからいつも通りの愛想のいい挨拶。
お釣りを受け取る。
すぐさま店を出ようとした。
ユリィは踏みとどまる。
そして、おばちゃんを呼び止めた。
「ねえ、おばちゃん」
「…なんだい?」
忙しい時間帯。
自責が胸をよぎる。
手短に終わらせよう。
「魔闘家って知ってる?」
「まとう…か?聞いたことないねぇ」
「そうなんだ…、ごちそうさま」
おばちゃんは仕事へと戻る。
「知らないのが普通なのか」
誰に聞いても同じ、そんな気がする。
もう、ここに止まる理由はない。
ユリィは通りを足早に進んだ。
ユリィが向かった先。
それは馬車の停留所。
店からそう遠くない距離。
だが今は日没。
職員は片付けを始めていた。
「…急がないと」
備え付けられた地図。
そこには王国内の地名と街道が記されている。
ユリィはその前へと駆け寄る。
まずは現在地である王都を探す。
「この辺だったかな?」
地理に疎いせいで、時間を取られてしまう。
「あった!」
ここを目印に、今度は目的地を探す。
「地名は確か、メ…」
会話に出てきた地名。
ここに道場があるらしい。
それは初めて聞く地名だった。
忘れるわけにはいかない。
ここへ向かう道中、頭の中で反芻していた。
「これはヤネワガ、こっちはハビノキ…」
大体の場所は把握しているが、目的地が見つからない。
苛立ち、小刻みに足を打ち鳴らしてしまう。
「またヨトカナだ…、これじゃない!」
さっき見た地名に行き着く。
それが何度も続き苛立ちがつのる。
そして…。
「あった!」
ようやく、目的の地名が目に入る。
同時に苛立ちも消える。
「はぁ〜」
肩の荷が降り深く息を吐く。
(これで終わりじゃない)
場所は覚えた。
ユリィは王都へと視線を戻し、距離を測る。
「うわっ、遠いな…」
思っていたもの以上だった。
思わず肩を落としてしまう。
すると、横にある表が目にとまる。
「所要日数か…」
地名と日数が羅列されている。
王国内の停留所へ移動に要する推定日数だ。
そこから最寄りの停留所を探した。
「あった!馬車で五日…」
ユリィは頭の中で計算する。
「歩きだと一ヶ月はかかるな」
ユリィは馬車を利用する選択肢はない。
料金は高額。
裕福な者か、公務で出張費を支給される者でなければ厳しい。
「今の手持ちは確か…」
再び計算を始める。
足りない旅費を概算した。
次は、日当から生活を差し引く。
そして、目標額に到達する日数を割り出した。
ユリィは現在、建設現場に従事している。
初級魔法しか扱えない落ちこぼれ。
そんな魔導士が内定をもらえるはずがない。
ユリィは進路未定で卒業した。
学生寮は卒業と同時に強制的に退寮。
現在は日雇いで稼ぎ、簡易宿で寝起きしている。
「あと何日かだ!」
居を構えるために貯めていた資金がある。
それを元手にすれば、旅立つ日はそう遠くない。
ユリィの腹は決まった。
だが、今は何かをするには遅い時刻だ。
逸る気持ちを押し殺し、ユリィは宿への道を歩き出した。
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