加護の活用
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
「なんだと…」
その報せを聞いてタシノキは落胆した。
「どうしたの?」
「打ち合わせで言っただろ。俺達はこの先にある砦と繋がる抜け穴から潜り込む予定だった。それを賊の奴らが塞いでいやがった」
城や砦で逃げ道として造られる抜け道。そこを通って直接城の本陣へ侵入する手筈だった。
「通れるようにはできそうか?」
「簡単には戻せるとは思えない。悠長に修復なんてしていたら見つかる」
「確か他はなかったな」
「地形を利用して急拵えで作られた城だ。侵入経路は正門と裏門、そしてこの抜け穴の三つしかない」
「じゃあどうしたらいい?」
「正門か裏門からの強行突破だな」
「そうなるか」
タシノキはため息をついた。
「くそぉ!」
予定が狂ってしまいタシノキは苛立った。同時に他の仲間の表情も厳しくなった。
「中止になるのか?」
そのような声が出る一方ユリィは城に目をやっていた。
−確かに地形を活かした構造になっている。高地に壁を囲っただけだ−
しばらく観察したユリィがある事を思いついた。
「なあタシノキ」
「なんだ?」
「俺に考えがある」
一同は根城の近くまで移動した。この先には正門があるが見張台からは死角になる位置。周囲の詳細を把握しているシユはそのギリギリの場所で一同を停止させた。
「確かにお前さんの言うとおりそんなに高くないな」
タシノキが見上げる根城の壁。他の城塞と比べれば粗末な造り。休憩に利用した砦も同様に小高い場所に簡易的な壁を築いただけ。周囲が天然の要害として防衛機能を果たすため建物自体の防御力はさほど高くない。
「正門の上に作られた見張り台に二人いる。壁の向こうにはどれくらいいるかは分からん」
シユは遠目から見張りが手薄である事を確認した。有事の頃には厳重に監視をしていただろうが、そうではない今現在その必要はない。
「この程度の高さならなんとかできそうだけど、どうする?」
「お前さんができるというのならまかす」
「よし!それじゃアヤン、頼むよ」
「分かりました!」
アヤンが詠唱するとユリィは緑色の光に包まれた。
「じゃあ行ってくるよ」
ユリィが駆け出すと森の中を風のように突き抜けて行った。加護からの得た俊足は瞬く間に根城の目の前へと進ませた。
「誰かこっちに向かっているぞ」
「本当だ。仲間なのか?」
見張りがユリィの姿を確認した。だがそれは異様に見えた。止まる気配はなくこのままでは激突する。そうなる直前、ユリィは飛び上がった。
「とっ…、飛び越えたぞ!!」
加護を得ることにより壁を飛び越えることを可能にした。見張り台にいる二人は横を障害の柵の如く飛び越えるユリィを見て唖然となった。一方降りたった壁の向こうには退屈そうに突っ立つ見張り役が数人いた。
「ふわぁ〜、って誰だ!?」
「急に降って来たぞ!」
野盗達は慌てた。普段なら退屈な任務であるはずだが今日は予想だにしない方法で侵入者が現れた。
「そっちに誰か行ったぞ!」
「分かっている!それよりこいつ誰だ!?」
「知らん!」
焦りながらも野盗は臨戦体制に入った。しかしユリィは冷静にその場にいる見張りを全て眠らせた。
「ひいっ!」
加勢するため見張り台の梯子から降りて来た二人は倒された仲間を見て目を疑った。二人を見つけたユリィは迫った。
「お前ら、扉を開けろ!」
勝てないと悟った二人はユリィの指示に従い正門を開けた。この扉は取り替えられた物のようで粗末な作りだった。だが複数人でロープを引かないと開けられない構造だったためこの二人を利用した。
「扉が開いた!」
「ユリィの奴やってくれたな。よし、向かうぞ!!」
タシノキの号令で一同はユリィが待つ城門へと一斉に駆け出した。見張りを縛り仲間の到達を待つユリィはそれとは別の気配に気づいた。
「もうバレたか」
騒ぎに気づき近くにいた野盗がこちらへと駆けつけて来た。遅かれ早かれこうなる事は予想していたがやはり面倒だ。
「見張りが倒されている!」
「しかも扉が開かれているぞ!」
仲間が横たわる中無事でいるユリィの存在はすぐに目に入った。
「なんだ、あのガキは?」
「あいつがやったのか!」
野盗達は武器を抜き構えた。
「こいつ武器を持ってねえぞ」
「そういやコイツら斬られた形跡がねえな」
「じゃあ素手でやったのか!?」
その結論に至りはしたが皆半信半疑だった。一方ユリィはまだ遠目にいる仲間達に目をやっていた。
−みんなが着くまでまだ時間がかかる。この程度のなら俺一人でなんとかなるか−
ユリィが増援を倒し終わった頃タシノキ達がようやく辿り着いた。
「やっとか」
「待たせたな!」
一同は続々と城門をくぐるとその周囲にはユリィの手で倒された十人近い野盗の姿があった。
「野盗の集団を一人で…」
「あの少女の術のおかげか?」
「そうだ!あれは何だ!?」
昨日の救出劇に参加していない冒険者達はユリィの戦い方を見るのは初めてだ。その頃遅れてアヤンとナギが辿り着いた。
「これってあなたの術のおかげよね?すごいじゃない!」
「そっ…それもありますが、ユリィさんが強いおかげですよ」
褒められたアヤンは反応に困っていた。謙遜したが実際アヤン一人の力ではない事も確かである。
「お前ら、質問は後にしろ!」
ユリィに起きた現象を皆が気になり理由を知りたいと思った。しかし今は敵のど真ん中にいる。タシノキの言うとおり無駄話をしている余裕はなく、その言葉で一同は再び臨戦体勢に入った。
「一番デカい建物が奴らの本陣だ」
シユが指摘した四層の建物。大所帯の野盗団を収容できるだけの容積がある。外観は荒廃しているが防衛拠点として築かれた頑丈な建物なので今も現役で使えそうだ。その方角からは怒号が聞こえた。
「本陣に俺たちの襲撃が伝わったようだな」
予定とは違い強行突破をすればやはりこうなる。一同は構えるとタシノキは号令を送った。
「行くぞ、お前ら!」
タシノキを先頭に一同は本陣へと向かった。
「アヤン、無理はするんじゃないよ!」
ユリィはペースを落とし後方から追うアヤンと並走した。後方支援であるアヤンを最前線へ送るのは心配であった。
「大丈夫!上級の防御魔法が使える私が責任を持ってアヤンちゃんを守るから」
ナギは自信ありげに言った。彼女が術士としての腕は確かなので任せても良いだろう。
「アヤンを頼む」
ナギにアヤンを託すとユリィは速度をあげタシノキに追いついた。
本陣からは冒険者の何倍もの数の野盗が溢れ出た。しかし上級の冒険者である彼らには脅威ですらなかった。野盗は次々と蹴散らされ数を減らした。特に加護により俊足を得たユリィの活躍は大きかった。
「ぐわっ!」
死角から飛びかかって来た野盗に仲間の一人が負傷した。
「こいつめ!」
近くにいた仲間が仕留めたがすぐさま別の死角から新たな敵が襲いかかる。同様の手口で仲間が次々と倒されていった。
「引っ込めろ!」
タシノキの指示で負傷者を後方へと退避させた。治療を行うにも安全圏でなければそれはできない。
「一旦侵攻を止めてくれ」
シユはタシノキに促すとそれに従った。
「抜け穴を通れたらこんなことには!!」
この城は小規模ではあるが壁の内側も防衛のために色々な仕掛けがある。本陣への道は進行を妨げるために蛇行した形状で敷設され、さらに伏兵を忍ばせる死角をも作っている。歴戦の勇士であってもこのような場所を無傷で通り抜けるのは厳しい。
「あの建物には恐らく弓兵が潜んでいる。あっちの建物にもだ」
タシノキが指差す建物には弓を撃つためと思われる小さな窓や平らな屋根があった。そのような場所から狙われれば文字通り狙い撃ちされる。不利な戦況となっては下手に動くことはできない。
「あの…」
タシノキが悩む中ユリィが手を挙げた。
「何かいい考えが浮かんだのか?」
「うん、俺が伏兵を見つけ出す」
「どうやって見つける?」
「屋根に登って上から探す」
「なるほど。加護を得たお前さんなら屋根を飛び歩けるな」
「それはいいが弓兵に狙われたらどうする」
伏兵には弓兵がいる。矢を撃たれると回避は難しい。
「頑張って避ける」
「簡単に言うんだな…」
結局は短絡的な発想だったがタシノキはまたしてもユリィに頼ることにした。
「じゃあ、行くよ!」
ユリィは飛び上がると通りに築かれた建物の屋根へ降り立った。高い位置を陣取れば敵の配置は一目瞭然となる。
「少し先にある右手の建物の影、次に少し先の左手の出っ張り!」
見えない敵の位置が分かると脅威ではなくなる。不安が消えた一同をタシノキが先導し侵攻を再開させた。
「あれは…」
ユリィは屋根に潜んだ弓兵の姿が目に入った。すでにユリィへと狙いを定めている。
「来る!」
側面へと飛びユリィは逃れた。避けられたのは俊足に加え距離があったおかげでもある。一方弓兵は次なる矢をつがえようしている。
「そりゃそうだよね」
加護があれば避けられるがそれは同じことを繰り返すだけになる。それを終わらすためにユリィは弓兵の方へと走り出した。
「あいつ何をしようとしている!?」
彼らは理解するのにしばらく時間を要した。逃げると思っていた標的がこちらへと向かったいる。今すぐに矢を撃とうとしたが手元が狂う。改めて狙いを定めようとしているとユリィは目の前まで迫っていた。
「どりゃあ!!」
ユリィが回し蹴りを放つと弓が次々と破壊された。予想外の攻撃によって武器を失った彼らは慌て何人かは逃げ出す途中誤って屋根から転げ落ちる。戦意を失った者は相手にせずユリィは別の場所に潜む伏兵へと目指しそれらを潰して行った。
ユリィの活躍で一行はようやく本陣の前まで辿り着いた。残った野盗は抵抗をやめ本陣へと撤退すると同時に扉は閉ざされてしまった。
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