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緊張感のない落ちこぼれ

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 レンジャーに先導されながら、一行は根城へと向かう。

 先の見えない森だが、迷うことなく案内する。


 レンジャーは街のギルドに所属し、要請があれば派遣される。

 普段は地理を調査、及び周囲の監視。

 そのため地形を熟知している。


 森の手前までは馬車で進めた。

 しかし、途中からは足場の悪い獣道へと変わる。

 以降は徒歩での移動を余儀なくされた。


 生い茂る草木が進行を阻むが、根城からは発見されにくい。

 そのため、この経路が選ばれた。


「見ろ、あれが根城だ」


 木々の隙間から、遠くにその姿が見えた。


「目的地が見えるってことは、もうそんなに時間はかからないな」


 そう思ったユリィの足取りは自然と軽くなる。


「油断するな。この辺りからは罠が仕掛けられている」


「えっ!?」


 ユリィは慌てて足を止める。

 言われてみれば、その通りだ。

 このような場所に立て籠もる以上、何もしていないはずがない。


「じゃあ、どうやって進むの?」


「対策はしてある。おい、カチル!」


 指示を受けたカチルは静かに詠唱を始めた。

 やがてそれを終えると、ある一点を指差した。


「あの木の近くだ」


「次、頼む」


 その言葉で動いたのはレンジャー。

 示された方向へ慎重に進む。


「何をしているの?」


「魔法で罠を探している」


「罠探知の魔法なんてあったっけ?」


 ユリィの知る限り、罠そのものを探し出す魔法は存在しない。


「ある魔法を活用させているだけだ」


 術者の脳裏には、人工物に宿る残留思念が投影される。

 それらは色として視える。

 悪意を示す色が浮かび上がれば、罠である可能性が高い。

 特性を応用した罠探知である。


「あったぞ!」


 レンジャーが示した箇所を、ユリィは目を凝らして見る。


「ロープだ」


 足元には、引っ掛けた相手に飛び道具が襲いかかる仕掛けが施されていた。

 レンジャーはしゃがみ込み、解除を始める。


「うっかり発動させたら死ぬかもしれないのに…。慣れているな」


「あいつはシユ。俺の知る中で、最も罠の解除が秀でた頼れる男だ」


 その鮮やかな手際見れば、タシノキの信頼も頷ける。

 以降も二人の連携によって罠は次々と解除され、一行は順調に根城へと近づいていった。


「止まれ」


 シユの号令で、一行は一斉に足を止める。


「どうした?」


「見ろ。この先には見張り用の砦がある」


 指差す先に目をやったタシノキは、荒れ果てた建造物を見つけた。


「地図にあったやつか。思っていたよりもボロいな」


 目指す根城。

 かつて王国統一戦争の時代に、敵対勢力が拠点として築かれた。

 その周囲には、砦や防衛のための施設が点在している。


 戦争終結後には破壊された。

 それを修復したものを利用している。


「あれが拠点?」


「所々壊れているが、充分使える」


 打ち合わせで言っていた建物を思い返す。


「問題は、賊が潜んでいないかだ」


「俺が確認しに行く。安全なら合図を送る」


 タシノキの指摘に応えるように、シユは身を屈めながら砦へと向かった。

 シユは潜伏能力にも優れている。


 物音ひとつ立てず、塔から目視されぬ位置を選んで進む。

 やがて砦の手前で動きを止めた。


「じっとしているけど、あれは?」


「建物に人がいないか音を探っている。あいつは耳が異常なほどいい」


 内部に人がいないと判断したシユは、砦へと入った。

 やがて塔の最上階に姿を現す。


「賊はいないようだ。行くぞ」


 城を破却と同時にここにも火が放たれた。

 建物全体に焦げた跡が残っている。

 その影響で屋根は焼失し、雨水や埃によって内部は荒れ果てていた。

 全体的に損傷は激しいが、見張り台としての役割は果たせられる。


「お前ら、ここで休憩だ」


 ここは根城からさほど離れていない。

 各々は荷物を下ろし一息つく一方、ポーター達は陣の設営を始めていた。


 ポーターは一見地味に思える。

 しかし、上級者になれば多くの技能を習得している。

 馬車の操作、整備、遭難時の対応、人命救助など。

 裏方としての役割は大きく、遠征には欠かせない存在。


 同行した者たちも熟練者で、手際よく作業を進めていく。


 休憩を終えると、最後の準備に取り掛かかる。

 しばらくすれば戦闘状態になれる。

 荷物が多ければ妨げになる。


 そのため、最低限に絞らなければならない。


 決戦を前に、空気が張り詰める。

 そんな中、ユリィは別のことで頭を悩ませていた。


(今頃になって言い辛いなぁ。じゃあ我慢するか…)


 そう思って意識を逸らそうとするが、逆効果だった。

 考えないようにすればするほど気になる。

 時間が経つにつれて存在感を増していく。


(やっぱり、正直に言おう)


 意を決したユリィは、そっとタシノキのもとへ歩み寄った。


「ちょっといい?」


「どうかしたか?」


 意に反して、その行動は視線を集めてしまう。

 気をつけたはずだが、このような結果になりユリィはたじろいだ。


 沈黙が起きる。

 時間の経過がさらなる注目を集める。


「……」


「顔色が悪いぞ。具合でも悪いのか?」


 これ以上長引かす訳にはいかない。

 覚悟を決めたユリィは、小声で告げる。


「おしっこしたい…」


 一同からは失笑が漏れ、タシノキは呆れたように息をついた。


「なんだ、今頃」


「……仕方ないだろ」


 悔やんだが、我慢の限界は近い。

 意識はそっちに向いている。


「早く行ってこい」


 それを聞くと、小走りでその場を離れる。

 当然ながら、ここではできない。


 意識は尿意に支配されているが、周囲の目は気になっていた。


(アヤンに、どう思われただろう…)



「ふぅ〜」


 ユリィの脳内を爽快感が駆け抜けた。

 人体とは不思議なものだ。

 我慢をすればするほど、その開放感は何倍にも膨れ上がる。


 先ほどの気まずささえ、相殺された気がする。

 余韻に浸りたいところだが、今はそんな状況ではない。


「急いで戻らないと」


 用を足し終えたユリィは衣装を整え、踵を返す。

 死角を探しながら尿意と戦っていた行きとは違う。

 帰り道の足取りは軽い。


 朗らかな気分で森を抜けようとした、その時…。


「え…」


 見慣れない男と目が合った。


「お前みたいな奴、ウチにいたか?」


 粗暴な風貌に、小汚い装い。

 典型的な野盗だ。


「あんたもしかして、チムビ団の人?」


「そうだが…ん?」


 思わず質問に答えた男の表情が、険しくなる。


「お前、よその奴だな!?」


 男は武器を抜き、威嚇する。

 鋭い眼光。

 それは相手を見定めるために足元から這わせる。


「おん?」


 男の目線が腰元に戻る。


「丸腰じゃねえか」


 武器を握る力が緩む。


「抵抗なんかせずに、質問に答えろ」


 男の顔には余裕が生まれている。

 相手には武器がない。

 それで自分が優位だと、判断したらしい。


「目的は何だ?」


 男は歩み寄る。


(こっちに来た)


 ユリィに近づく。

 それは間合いに入ることになる。


「仲間はいるのか?」


 あと一歩踏み出せば、胸ぐらを掴める距離。

 素手で反撃されるとは、夢にも思っていない。


「黙っていないで、何か言え!!」


 次の瞬間。

 ユリィの手が男へと伸びた。



「コイツ以外の見回りがいるかもしれない」


 一刻も早く知らせなくては。

 ユリィは素早く来た道を引き返した。



 砦に戻ると、仲間たちが待ちくたびれた表情でユリィを迎えた。


「遅いぞ。かかり過ぎだ」


「本当に小便だけだったのか?」


「本当だって!」


 思わず声が上ずる。

 だが、今はそんなやり取りに時間を割いている場合ではなかった。


「さっき見回りと遭遇した!」


 空気が一変する。


「くそ!すんなり進ませてくれる程甘くないか。どうするシユ」


「まずは俺が偵察に行く。しばらく待っていてくれ」


 言うや否や、シユは根城の方角へと駆け出した。



「戻って来たぞ。おーい!」


「大声出すな!賊が近くにいるかもしれない」


 タシノキが鋭く叱責した。


 戻るまでにさほど時間が掛からなかった。

 他に見張りはいなかったと考えても良いようだ。

 だがシユの表情は暗い。


「根城までの道に、賊はいなかった」


「それはよかった」


「だが…」


「どうした?」


 シユは眉をひそめ、低い声で告げた。


「抜け穴が塞がれている」

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