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誘いを受ける落ちこぼれ

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 目を覚ましたユリィの瞳に、朝日が差し込んだ。


「もう朝か…」


 今日はこのまま馬車に乗り、次の街へ向かう予定になっている。

 昨日の同じ時間帯には、出発に時間に間に合うよう身支度を始めていた。

 だが今のユリィには、その気力が湧いてこなかった。


(俺は…魔闘家になれないかもしれない)


 魔法の才能がない。

 その事実から目を背けることで、未知の存在である魔闘家を目指し続けてきた。


 だがそれは、ただの現実逃避だった。

 昨日、遂にその現実を突きつけられたのだ。


(俺なんかが、精霊術を覚えられるのか…?)


 その疑問が、頭の中で何度も反響する。

 学院で三年間かけて習得できたのは初級魔法まで。

 精霊術を扱えるとは到底思えない。


(俺は…、一体何をしようとしているんだ?)


 完全に夢が潰えたわけではない。

 だが、どう考えても希望は薄い。

 そう考えると、旅を続ける気力さえ失いかけていた。


(もう一度寝ようか…)


 そんなことが脳裏をよぎった、その時だった。


 コン、コン。


 戸を叩く音が、静かな部屋に響く。


「ユリィさん、朝ですよ!」


 アヤンの声だった。

 普段なら、もう合流して食堂へ向かっている時間だ。

 このまま起きなければ、彼女を待たせてしまう。


(起きなきゃ…。アヤンに心配されてしまう)


 このままだと、旅が中断されてしまう。

 ユリィの都合で、アヤンを巻き込むわけにはいかない。


「……。起きるか」


 ユリィは重たい体を引きずるように、ようやくベッドを降りた。


「ごめん、今行くよ!」


 急いで身支度を整え、戸を開ける。


「おはようございます、ユリィさん」


「おはよう、アヤン。待たせちゃったね」


「いえ。私こそ、急かせたみたいでごめんなさい」


 その表情を見る限り、ユリィの胸中はまだ気づかれてはいないようだった。


「じゃあ、食堂に行こっか」



 気を引き締めたつもりでいたが、それでも無意識のうちに、昨日の話を思い返してしまう。


「気分が悪いのですか?」


「え!?」


「昨日、結構飲んでいましたから。もしそうでしたら、今日は無理をせず、ゆっくりしていた方が…」


 どうやら感情が、思った以上に顔に出ていたらしい。

 実際、この先も旅を続けるべきか、ユリィはまだ迷っていた。

 このままでは、アヤンの付き添いのためだけの旅になってしまう。


「そっ…、そんなことないよ。食べ終わったら出発しよう!」


 気丈に振る舞ったものの、胸の奥の重さは消えない。


 そんな中、廊下の方から賑やかな男たちの声が聞こえてきた。


「おい、お二人さん」


 声の主はタシノキだった。

 その隣にはカチルの姿もあり、昨夜の酒席にいた面々が次々と食堂へ入って来た。

 どうやら全員、同じ宿に泊まっていたようだ。


「ああ、おはよう」


「昨日は盛り上がったな」


 どこか能天気な口調だったが、それはタシノキなりの気遣いだった。

 ふとユリィへ目をやると、その表情は上の空だ。

 きっかけを作った身として、見てはいられない気持ちになる。


「ところで、お前さんたち」


 タシノキは話題を変えた。


「なんだ?」


「気分転換、しないか?」


「気分転換…ですか」


「ああ。これから俺たちは、賊の討伐を始める」



 タシノキは、この近辺を根城にしている野盗集団の討伐を計画していた。

 ビーツ団と呼ばれるその組織は、末端の配下を含めると千人近い大所帯で、昨日戦った野盗団とは比較にならない。


 王国内では最大規模の野盗組織で、警備兵だけでは手に負えず、ギルドを通じて討伐依頼が出されている。

 その強大さを物語るように。幹部らに設定された報酬はみな高額だった。


 普段、幹部達は各地に散って活動している。

 だが今現在、その全員が本部である根城に集結している。


 その情報を掴んだタシノキは、仲間達に召集をかけた。


「それを受けるために、隣国から遠征して来たのか」


「ああ」


「カチルは、そのための仲間か」


「ご名答だ。今日これから、他の仲間とも合流する」


 話を聞くうちに、ユリィにも狙いが見えてきた。


「幹部が一斉に集まっている今なら、踏み込めば組織そのものを壊滅できる。ということか」


「それも狙いの一つだ。だが、俺には他にも目的がある」


「他にも?」


 意味ありげな言葉に、ユリィは眉をひそめた。


「ビーツ団は、ほんの数年前にできた小悪党の一つに過ぎなかった。頭領も、単に腕っぷしが強いだけの男だった」


「最初は、その辺の野盗団と変わらなかったんだな」


「ああ。だが、ある時期から急に周辺の野盗を取り込み始めた。そして、瞬く間に今の規模まで膨れ上がった」


「急にって、優秀な部下でも入ったのか?」


「近いと言えば近い」


「どういう意味だ?」


「賞金首になった幹部は、全員身元が割れている。その中に頭の切れる奴はいない。側近も洗ったが、頭脳になりそうなやつはいなかった」


「じゃあ、誰が…」


「外部の人間だ。そいつが『入れ知恵している』と考えるのが自然だ」


「なるほど」


「だが、そいつが厄介でな」


「どんな風に?」


「過去に捕まった団員は…全員、死んでいる」


「全員!?」


「ああ。例外なくな」


 空気が一気に重くなる。

 ユリィは思わず眉を顰めた。


「偶然…って言い方じゃないな」


「少なくとも、俺はそうは思っていない」


「看守からの暴行や、拷問が原因じゃないのか?」


「勾留中に起きてはいる。だが、それで片付けるには出来すぎている」


「じゃあ、口封じをされた…?」


「順当に考えたら、そうなる。刺客が送り込まれたのか、警備兵を買収したのか。そのせいで賊の実体が掴めない」


 気分転換と呼ぶには、あまりにも重い話。

 ユリィは無意識に息を呑んだ。


「つまりあんたは、危険な相手だからこそ、逆に深入りしたくなったってわけか」


「そうだ。だから、厳選した冒険者を呼び寄せた」


 タシノキが他国から出向いて来たのは、ギルド間で情報が共有されているためだ。

 越境した犯罪者の捕縛協力や、今回のような手に追えない凶悪犯の討伐も可能となっている。


「それで、俺たちも加えたいってことか」


「平たく言うとそういう訳だ。無論、分け前は渡す」


 危険な案件。

 だが同時に、真相への興味も湧いた。


 一瞬、話に乗りかけた。

 だが、ユリィは踏みとどまる。


(俺は、アヤンと旅をしているんだ)


 この話は、旅の目的から逸脱している。

 資金も十二分にあるので、分け前で動く気にはならない。

 そもそも、タシノキは昨日会ったばかり。

 そんな相手に、無理をしてまで協力する義理がない。


 断るべきだ。

 そう思っているはずなのに、迷いが消えない。


(今の俺は、目的を失いかけている)


 予定通り目的地に辿り着けば、そこが全ての終着点になるかもしれない。

 ユリィはアヤンと違い、門前払いを受ける可能性が高い。


(引導を渡されるために旅を続けるなんて…)


 精霊術の素質が必要だと知ってしまった今、即断はできなかった。

 タシノキの言う通り、気分転換になるかもしれない。


 つい気持ちが、そちらへ傾きかけた。


(いや…)


 ユリィは踏みとどまる。


(アヤンの旅に支障をきたすわけにはいかない)


 アヤンは巻き込めない。

 無事に辿り着くのを見届ける。

 それを思い返したユリィは、気持ちが固まった。


(…断ろう)


 そう口にしかけた瞬間、アヤンが静かに言った。


「ユリィさんが参加したいのなら、私は構いませんよ」


「え!?」


 そこに、無理をしている様子はなかった。


「それから、私も参加させて下さい」


「……」


 アヤン自身が、はっきりと意思を示す。

 本ユリィは、すぐに言葉を返せずにいた。


「お前さんが本領を発揮するためには、嬢ちゃんが必要なんだろ?


「………」


「その嬢ちゃんがいいって言っている。どうするんだ!?」


「いい経験になると思います。どうしますか?」


 そこまで言われてしまえば、もう断る理由はなかった。


「わかった。参加する」


「あんたらは、いい戦力だ。うれしいぞ」


「はい!ユリィさん、頑張りましょう」


 笑顔でそう言ったアヤンは、本当に乗る気だったようだ。


「ところで嬢ちゃん」


「どうかしましたか?」


「今回は、昨日より何倍も危険な相手だ」


「承知しています」


「術士も誘っている。そいつと一緒に行動するんだ」



 タシノキに引き連れられ向かった集合場所。

 そこには二十人近い冒険者が集まっていた。


 彼らは皆、この討伐のために呼び寄せられたタシノキの仲間。

 雰囲気が他の冒険者とは明らかに違う。

 まさに、歴戦の猛者と言えよう。


 大所帯となったパーティは、荷物の量だけでも相当なものだ。

 それらの輸送任務は、専門家であるポーター。

 さらに、案内役には土地勘のあるレンジャーが配置されている。


 一流の冒険者となれば、後方支援の人材もこだわる。

 タシノキは、彼らと最終確認を行なっていた。


「…場違いだな。俺達がいていいのか?」


「私も、そう思います…」


 二人はその空気に圧倒され、しばし立ち尽くしていた。


 すると、女性術士がこちらに歩み寄って来た。

 タシノキが言っていた術士なのか。

 清楚な風貌で、歳の頃は少し上。

 タシノキに呼ばれたということは、上級の術士なのであろう。


「こんにちは、お嬢さん」


「わっ、私ですか?こんにちは…」


 突如話しかけられ、アヤンは思わず身を縮めた。


「あなたも術士なの?」


「えっと…はい、一応術士です」


 自分の未熟さを自覚しているアヤンは、あえて『一応』を付けて答えた。


「術士のナギよ。よろしくね」


「私はアヤンで…、こちらはパーティメンバーのユリィさんです。よろしくお願いします…」


 相手は格上の術士。

 辿々しく自己紹介するアヤンに対して、ナギはにこやかに笑った。


「そんなに緊張しなくてもいいわよ、アヤンちゃん!」


 気取らない口調に、張り詰めていた空気がふっと緩む。

 近寄りがたい雰囲気とは裏腹に、ナギは気さくな人物のようだった。


 やがて二人は自然に言葉を交わし始める。

 ユリィは取り残される。

 だが、その場を離れずにいた


「みんな、集まれ!!」


 タシノキの号令が場を貫いた。

 雑談がぴたりと止み、冒険者達は一斉に視線を向ける。


 一方、二人の話に入れなかったユリィには、救いの声に聞こえた。


「始まるわよ。二人とも向かいましょ」


 ナギに促され、ユリィとアヤンも皆が集まる方へと歩き出した。

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