68話 反人間国家
獣人たちがうちのそばに来てから5年、彼らは最初の気絶が嘘だったかのようにドラゴン達との生活になじんだ。やはり同胞の死を悼んでくれたというのが大きかったようだ。あの宴を期にしてドラゴン達に積極的に関わるようになった。
彼らは決して強くはなかったが、そこがフィード達の母性(フィードは男だが)を刺激したのかドラゴン側からも急速に近づき、お互いに親友と呼んで間違いない関係を築いた。
獣人とドラゴンという種族の垣根を超えて友情を育んだ彼らは、その輪に自分達以外の仲間を増やしたいと望んだ。仲良くなったドラゴンにまたがり、人間達に迫害されている同胞を救いたいと言って、各地をドラゴンとともに回ったのだ。
時には人間に使われている奴隷達を救出することもあった。さすがにただの村人に奴隷商への潜入はできないので、オリヴィアやアイラを筆頭とした救出組が潜入。その場で奴隷の首輪を破壊してかばんに収納。一夜のうちに立ち去るという荒業をこなしていた。俺も最初のうちは救出に加わっていたのだが、人間だと言うのがまずいようで、俺が助けに来たと言ってもなかなか信じてもらえなかったので表に出るのは控えるようになった。
各地で見つけた人々を村ごと引越しさせ、山の下に新たな村を起こした。
そこには獣人も竜人も魔族もエルフ、ドワーフもいる。人間にはじかれた種族が数は多くないながらも仲良く暮らしている。その中には人間との混血も多くいる。
この世界の人間は例に漏れず混血を迫害している。理由はお察しの通りで、大体が良くない扱いを受けている。問答無用で殺されることはあまりないが、それが救いであるとはとても言えない扱いだった。ゆえにこの村では一員としてなじむことが出来ているのは皮肉か。
こうして唯一いないのは純粋な人間族だけ、と言うぐらいの状況が出来上がった。
ドラゴンにも俺達にも、大勢の人間を養うだけの用意はなかった。そのため肉はドラゴンが取って来るにしても、その他の食料が非常に不足した。それを打ち破るために、かなりの広さを開墾して村を広げていったので、3年目からは人間の町に頼らずともほぼ自給自足の生活が出来るようになった。各種野菜、果物、魔物の肉を手に入れることが出来、必要な物資があればドラゴンとともに収集、買い物に行く。そんな村が出来上がっていた。貿易こそしていないものの、人間の町をかなり有効活用していたのだ。そのための資金は人間(冒険者ギルド)から出ているのだが。
この村に唯一絶対的に足りないものをあげるとするなら海だろう。広大な森のど真ん中に村があるため、当たり前のことながら海に接する所がない。だからドラゴンの手を借りるにしても海の幸や塩だけは人間の町か、人間が存在しない外海の島へ行って取って来る事になる。逆に言えばこの大地の海側はすべて人間に押さえられていると言って間違いない。外海の島ですら、その多くは人間がすでに入植しており、塩を含めた物資を穏便に集めることはなかなか難しかった。この広大な森以外の場所で何かの施設を建てようとすると時をおかずに人間に見つかってしまい、人間の軍隊が押し寄せることになるだろう。人間との開戦は望むところではなく、必然的に穏便な手段を探すしかなかった。
獣人達には難しい塩の入手を一番簡単に済ませられるには、俺達が直接出向くことだ。俺がゴルラドに乗って海のど真ん中に行き、水魔法で大量の海水を汲む。その上で海水から水を抜けばそこには塩が残る。それをかばんに大量に詰め込んで戻ってくるだけだ。かばんの容量が巨大なため、一回行けば当分困らない量の塩を手に入れることが出来る。相変わらず魔法は便利だ。水魔法のさらなるレベル上げにもなるので俺的にも損は無い。足として使われるゴルラドが不憫と言えば不憫だが。
この村、いや国が年々豊かになっていることは間違いない。人の数も増え、それに応じて出来る事も、出来る物も増えていっている。この国に引っ越して来た人々は今までの隠れ住む生活から解放されたことに泣いて喜んでいた。だからこそ自分達の国を作るのだと精力的に働いた。その彼らの努力が実ったことは嬉しいし、初めの村を救った判断は間違いではなかったと感じられる。
だが唯一の誤算は、この国が対人間で固まってしまったことだ。
はじまりの人々は俺達への隔意はなかった。これは間違いない。なにせ奴隷にされるかもと言っていた戦士達でさえ、後に謝罪に訪れたほどだ。疑って悪かった、貴方達のおかげで生きることが出来たと。そのため俺達も彼らのやりたいことに積極的に手を貸したし、塩に代表されるような裏方の物資調達はかなり手伝った。
だが人数が増え、俺達と係わり合いのない人が増えるほどに人間に対する憎しみ、恨みが強くなっていくのはとめようがなかった。
ある程度人数が増えた頃では村を俺達が歩いていると、
「なんでここに人間がいる!?また、俺達を奴隷にするつもり何だな!!」
という叫び声とともに襲い掛かられた事もあった。村長を初め、姫様と呼ばれていた女の子達が自分達の救い主であるし、彼らは支援者だと説明してくれたためにその場は事なきを得た。ここで俺達は裏方に徹し、彼らの心の傷が癒えるのを待つことにした。辛い目にあったまま引っ越してきたばかりであり、急に恩人だと言われても人間を受け入れるのは難しいだろうと。
しかし引っ越してくる人は後を絶たなかった。一つのグループに時間を与えているうちに次の引越しがやってくる。そしてまたしばらくすると次がやってくるという状況になってしまった。村が大規模化していくにしたがって誰かに仲立ちを頼むのも難しくなってしまう。襲われたからと言って不用意な反撃も出来ないということで村へ行くのを最低限にしてしまった結果、気付いた時にはドラゴンにすら制御できないほど反人間思想が広まっていた。
この国の頂点はドラゴンであり、この国に住む人々はその意思に沿って行動するというのが唯一絶対の法となっている。ドラゴンは俺達と違って非常に目立つからね。だから、俺達が襲われた現場にドラゴンがいれば、その場はすぐに収まる。だが彼らの根底には、人間に襲われてきた恨みが、人間に殺されてきた無念が残っており、それは多少の支援を受けたとか、ドラゴンの指示だからといって覆せるものではなかったのだ。
そんな訳で俺達だけはドラゴンと共に山の上に住んでいる。そのことに不満を抱くものもいるのだが、さすがにここまで文句を言いにくることは出来ないので実害はない。この実害はないこともみぞを深くしてしまう一因だったのかもしれない。
とまあ近所に反人間国家が誕生したわけだが、そもそも俺は人間のしがらみから抜けたくて森に潜んだわけで、周りが気にしてくれるほど現状を憂いてはいなかった。アイラ、オリヴィア、ジークを筆頭として仲間達との仲が悪くなったわけではないし、人間と言う種族がしてきたことの結果が凝縮されているので仕方のないことだと思っていた。メイド達も人間なのでそこは申し訳ないと思っているのだが、俺個人の力でどうこうはなかなか難しい。
ぶっちゃけ、俺にあんまり関係ないからまあいいかなって所だ。




