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69話 仕事

「申し訳ありません、命の恩人であり、この国を影から支えてくださっている貴方達が忍んで来なくてはならないなんて・・・」


そう言いながらシーヴェが頭を下げてくる。


ここは竜を頂点とした国、国名はプロヒ。統治体系で言えば共和国?になるだろうか。引越しをして来た各村の代表が一堂に会して国の方針を決めている。その中心となる最初の村(旧エドラ村)の村長達が暮らす屋敷の一室だ。今日は塩と海産物の必要量に関しての話し合いに来た所だ。


ちなみに村長の名前はイギーレと言い、迫害されている人族を救うことに熱心で、この国の中心人物だ。シーヴェの父であり、この国の最初の民を集めてきたのもイギーレである。


「いやぁ気にしなくていいよ。堂々と歩いてもいいんだけど、ちょっと歩くたびに喧嘩売られても困るしね」


「本当に申し訳ない。私の不徳の致すところです・・・」


イギーレさんも一緒になって頭を下げてくる。実のところイギーレさん自身も人間に対する恨みは持っているが、だからと言って人間という種族全体にその恨みを広げる気はない、という方針だ。彼としても現状の反人間的な思想は憂慮しているようだが、かと言って国民の方針を転換させるには人間に恨みを持つ者を集めすぎた(・・・・・)と言えよう。


「だからいいって。人間がしてきたことなんだからある程度はしょうがないさ。と言ってもここから人間を滅ぼすための反転攻勢をかけるとか言われたら困るけどさ」


「・・・」


「え、やばそうなの?」


「裏で少し、不穏な空気が流れています。今はまだこちらにはドラゴンがいるのだから、人間がもし攻めてきても大丈夫という話題しか出ていません。しかしその話を人間への復讐に変えたいと思っているのが何人かいます」


「自分達で戦争するならともかく、ドラゴン達を戦力として当てにする気なのか?」


「自分の力ではなくとも、自分達の力なら振るって構わないと言い出すのも時間の問題かと。今はまだ生活を安定させることに必死ですが、これが落ち着いてドラゴンが戦ってくれるとなれば人間憎しの派閥が強くなると予想されます」


「一部のドラゴンは喜んで味方しそうだしな」


「そうなのです。フィードさんを筆頭とした我々と仲良くなったドラゴン達は涙の一つでも見せてしまえば勝手に攻め込みそうな勢いで・・・」


「ドラゴンを戦力として計算するってことは竜殺しが効かないって話は漏れたのか?」


「イラ君がぺろっとしゃべりました」


「あのお調子者め・・・長老に告げ口してやろう」


イラはフィードの子分で、とってもお調子者だ。まだ若いドラゴンであり、自分達を悩ませていた竜殺しから解放されたことでかなり調子に乗っている。ドラゴンとしてはかなり弱く、竜殺しがなかったとしても一流の冒険者が束でかかれば普通に殺せる程度だ。だが本人はその現実を知らない。一度〆ておかないと人間の町に攻め込んで殺される、なんてことになりかねない危うさがある。



ドラゴン達を戦争に巻き込みたくなかった俺は、竜殺しがほとんど効かないことをこの国の人間に伝えないように頼んだ。彼らが復讐に走るのはある種当然の流れだが、それにドラゴンを巻き込んで欲しくなかったのだ。完全に俺のわがままではあるが、自分が知遇を得た仲間を戦争で失うなんてことはしたくなかった。


それに彼らが出てしまえばそこら一帯は焼け野原になり、すべての生物が息絶える場所になってしまう。元々ドラゴン自体がそういうことをあまり望まない種族であるため、この世界は自然豊かなままだ。しかしドラゴン達を本気で暴れさせれば、早晩この世界の自然体系は崩壊するだろう。



それに竜殺しが効かないとは言っても、手元にある物に対抗出来るようになったというだけで、竜族に対する呪いを完全に無効化出来ているわけではない。下手をするとエリアごと纏めて落とされる可能性も無くは無いのだ。この世界では非常に甘い考えなのだろうが、知り合いにはベットの上で往生してもらいたい。


「それではよろしくお願いします」


「ああ、今回もいつも通りにだね」


塩の補充はこの国がやっていくために必須だし、アイラやジークと遊びに行くついでの作業なので大したことではない。彼ら的には一方的な支援になってしまうので、非常に申し訳ないと思ってくれているようだが、野菜などを都合してもらっているので俺達に不満は無い。もし金額に換算するのであれば、ものすごーーーく不利な取引であることは間違いないが、塩も海産物も自分達が楽しむためにも必要なので頼まれなくてもどうせ定期的に行くことは間違いない。

魚を捕まえるのも魔法があれば楽チンだ。魚の周りの空間ごと水魔法で引き寄せてかばんに吸い込み、必要な分だけ残して水を捨てればOK。ちなみに水魔法のレベルが低いと水への干渉が足りず、魚を入れたまま手元に引き寄せることは出来ない。相応のレベルと魔力を使って初めて出来る方法だ。色々な意味でひどい漁だが、便利だから仕方ない。



「ゴルラド、この辺でいいんじゃないか?」


「分かった。ではいかだを出してくれ」


村長達との話が終わったその足で皆を拾い、ゴルラド達に乗って海まで飛んできている。家がある山からははるか遠く、陸地ですらすでに視界には無い。周りに人間の住んでいるような島も、船も無い所で大きめないかだを浮かべ、皆をかばんから出す。

皆がかばんから出てくる頃にはジークはイレーネさんと一緒にすでに海の中だ。ゴルラドも二人の後を追って潜っていった。


「じゃあ、魔物に気をつけてね。そう簡単にどうにかなるわけ無いけど、一応水の中だからね」


「はい。ゴルラドさん達が潜ってますし、大丈夫だとは思いますけど一応の用心はします」


皆には海産物の収集をお願いしている。もちろん自分達がお昼ご飯にするようだ。前の世界基準で考えると、大体の人間がある程度泳げて当たり前(好き嫌いはあれど)だが、一番最初に来たときはメイド達にも泳いだことの無い者がほとんどだった。特に海で泳いだことのあるものはゼロで、海水を飲んでしまって頻繁にむせると言う有様だった。特にオリヴィアは泳ぎがまったく上達しなかったため、有り余る魔力を使って泳ぐことを放棄した。そう、自分の周りに障壁を張ってそれを水魔法で動かすのだ。このMPの無駄遣いはなはだしい使い方は普通の人族には到底まねできない。俺ですら浅いところならともかく水深が深くなるにつれてMPの消費が加速するため、すぐにMP切れが見えてきてしまうのだ。MPお化けのオリヴィアならではと言えよう。やってることは完全に無駄だが。


俺はプロヒに持って帰る塩をまず集めてしまうことにした。大量の水を浮かべそれを片っ端から塩に変えていく。空間魔法で作った漏斗を通して手元に持ったかばんに流し込んでいく。家が入るかばんに詰め込んだらお仕舞いだ。家一件分が升代わりという恐ろしいどんぶり勘定である。


皆にそれほど遅れることもなく、俺も海中の人となった。ちなみに俺は海中が苦手だ。もし海水を吸ってしまうと頭痛になる未来が待っているので、海上で大量の空気を吸い、顔の周りを障壁で覆う。ゴーグルのように曇ることもないし、口の中に水が入ってくることも無い。もう一度呼吸するときには障壁に乗って海上に完全に出る徹底振りだ。お前もMPの無駄遣いだろって?小さいからいいのさ!


しばらく泳いだら皆はいかだの上に上がってくる。捕まえた海産物や海の魔物を食べるのだ。イレーネさんとゴルラドはオリヴィアが作った障壁の上で小休止。二人は重すぎていかだに乗ったら沈むからね。


皆で集めたえびっぽいものや貝っぽいもの、各種魚を刺身で食べる。多少毒があったとしても全員効かないから気にせず食べてしまっている。寄生虫だけはちょっと心配だが、内臓はよけているので大丈夫だろう。たぶん。ちなみにっぽいものとついているのは向こうの世界と微妙に違うところがあるせいだ。えびっぽいものには巨大な角がついており、後ろではなく前に向かって突撃してくる。貝っぽいものは水魔法を使って攻撃してくる。ちなみにどっちも魔物だ。ほぼ海面には出てこないのが救いだが、そうじゃなければまともな漁など出来はしないだろう。普通のあみなど容易に切り裂いてしまうのだから。


食後は全員で日向ぼっこ兼お昼ねをし、村長に渡す分の獲物をゲットしてから帰路に着くのであった。

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