67話 新しい住人
翌日、ゴルラドに乗って村に戻ってみると村人達は引越し準備万端で待ち構えていた。
長老が許可を出してくれたから、彼らの準備も無駄になることはないんだけど少し気が早くないか?これでやっぱりだめだったと言ったらどうしたんだろう。
「こんにちは。その様子ですと引っ越すと言うことでいいのですか?」
「ええ、一晩しっかりと皆で話し合わせていただきました。我々の現状を考えるにお言葉に甘えさせていただく以外の選択肢はありません。助けていただいた御礼も出来ていませんが、本当によろしいのですか?」
「大丈夫ですよ。そもそも見返りが欲しくて助けに入ったわけじゃありませんからね」
向こうがどうとらえたかは知らないけど、ゴルラドがあほやって、そのお仕置きしてただけだからな。善意どころか、襲われていたことも知らなかったよ。実質やったことと言えば長老に住ませていいかの確認取っただけだしな。
一応俺の功績?と言うなら俺達という前例があったことかな。俺達が一度揉めてなきゃドラゴン達も獣人を受け入れたりはしなかっただろうし。
「それでは、このかばんの中に入ってください。もって行きたい荷物などはこちらのかばんに。もし使える建物があるのならそれも持って行きますが?」
「は?」
「皆さんで歩くとなると山はとても険しく、道中には魔物も多いのでかなり危険です。時間もとてもかかってしまいます。そこでこのかばんの出番です。このかばんは空間魔法で中がとても広くなっているんです。ですから人、物、建物までも問題なく運べるんです」
「はあ。え?ええ?」
だめだ、言ってることが常識外れすぎて理解することを放棄してしまったようだ。なにを言っているんだこいつは、と言う顔からぽかーんと口をあけたまま全員が固まったまま動かないや。押し問答は時間の無駄だし、オリヴィアのアドバイスにしたがっておいてよかった。
カパッとかばんを開けて中のジークを呼び出す。
「ジーク、出てきてくれ」
ぴょーんとかばんから出てくるドラゴンの子供。彼らの常識ならこれだけでもずいぶんと異常事態だろう。
「ギュルア!」
声とともにポーズをつけて自慢げだ。まさしく男の子なのでカッコつけたい年頃なんだろうがカッコいいと言うより可愛いだな。ジークには、昨日も会っているのでびっくりはしたみたいだけど恐慌状態にはならなかった。
「お、お話は分かりました。本当に家が持っていけるのであれば嬉しいですが・・・」
と言うわけで建物を土台ごと仕舞い、用意していた手荷物をまとめて放り込み、全員をかばんに詰め込んで俺達の家のそばまで飛んだ。
「はい、ここがドラゴン達の住んでる山の上です」
「ほ、本当に景色が変わっている・・・」
「この屋敷はなんだ?」
「ドラゴン達って他にもいるのか・・・?」
「うむ、上を見るが良い!」
「えっ」
かばんから出て、いきなりドラゴンに周りを囲まれていたら村人達は生きた心地がしないだろう、と俺達がいったので、お出迎えは俺達人族だけだ。ただし、他のドラゴン達は上空を旋回している。逆に威圧感が増すからやめろと言ったのだが、歓迎の証だというよくわからない理論でごり押しされた。散々やめろと言ったのだが、我らの文化を馬鹿にするのか!?と怒られたので諦めたのだ。これが文化なのか?という疑問がないではなかったが。
「我ら一堂の歓迎の気持ちだ!!」
「自信満々なところ悪いけどほとんどが倒れたぞ」
「「え?」」
やっぱり一般人にとってたくさんのドラゴンが自分の真上を飛んでいるのは恐怖でしかないよね。まあ囲まれてたらそれはそれで気絶しそうだけど。
あの後俺達だけじゃ手が足りなかったので、人化したドラゴン達も使って村から持ってきた家に運び込んだ。建物はとりあえず近場に仮置きさせてもらった。村長も気絶したからしょうがないよね。
ちなみに倒れなかったのは小さな子供だけだ。5歳の男の子と4歳の女の子、後は赤ん坊が3人。赤ん坊はお母さんが気絶したので落っことさないように俺達がお母さんごとキャッチした。ぶっ倒れても赤ん坊を放り出す母親がいなかったのは幸いだった。
男の子はがたがた震えていたのでドラゴンが怖いものだというのは分かっていたのだろう。ただ、女の子を抱きしめながら震えていたのでずいぶんと根性のある子の様だ。ぶっ倒れた大人より立派だね!女の子の方は
「うわー、すごーい!お空にいっぱいだ!」
とのことなので、よく分かってない様子だった。
「それで、どうします?もし彼らといるのが気になるなら山の下に移しますけど」
「その前にドラゴンの方々には申し訳ないことをしてしまった。怒ってはいなかっただろうか?」
「大丈夫ですよ」
くすくすと笑いながらオリヴィアがその後の様子を説明した。
まあ気絶させてしまったことにショックを受けて落ち込んでいただけだ。たいした事はない。
そもそも先ほど俺が村に着いたときでも全員が準備万端で待っていたにもかかわらず、一度は壁の向こうへ隠れていたのだ。それがゴルラドの上に乗る俺を見てやっと壁からおずおず出てきたという状態だった。そんな風にドラゴンに慣れていない人々が頭の上をドラゴンで埋め尽くされて平然としていられる訳がない。
「怒らせてはいないのなら本当に良かった。後でしっかりとお礼とお詫びを言わせて欲しい。それで、ここは魔物が出ないとのことなので、出来るならここに住まわせていただきたい。昨日の戦いで戦える大人はほとんど死んでしまった。残ったものだけではとてもじゃないが村の皆を守れぬ・・・」
ドラゴンが怒っていないというのはかなりの朗報だったようだ。とてもほっとした様子だった。どちらかと言えば、よく考えずに決行したドラゴン達が悪いので、そんなに心配することもないだろう。
基本的に気のいい奴らなので、はやく仲良くなってくれると嬉しい。
彼らはこうしてこの山の上に住むことになった。長老達的には山の下に住ませるという選択肢はないらしい。なぜなら心配事が増えるだけだから、との事。お世話係にはフィードが就任。こちらにとっては好ましい変化なので下手なことは言わないが、本当にこいつ性格が変わりすぎだろう。ドラゴン至上主義はどこへいってしまったのやら。
夜にはドラゴン主催の歓迎の宴が催された。と言っても彼らの中で料理を作れるのはごく一部(しかも最近覚えたばかり)なので、材料の調達はともかくとして、準備はほとんど俺達がやった。
宴のスタートはドラゴン式の死者を悼む儀式だった。全員で空に火を噴く光景は幻想的で、きれいなものだった。村の人たちはその光景を見て涙を流していたから、ドラゴン達の気遣いを喜んでくれたに違いない。
宴は酒も振舞われ遅くまで続いた。彼らの未来に平和がありますように。




