40話 貴族様
その日の夕方には無事森を抜けてユシュンまで帰ってきた。未知の魔物に出会うこともなく無事に戻って来ることができた。人前で使えない剣とはいえ、試し切りに三日もかかってしまったのは長すぎだった。
メイドさんたちも心配しているだろうからということでひとまず二人を家に帰し、俺一人でギルドへ向かう。
もう酒場が混み始める時間になっていたためギルドの酒場もなかなか盛況で騒がしかった。
当然酒を飲んでいる人も多かったので、やはり一人で来て正解だっただろう。また前みたいに絡まれてもめんどくさいからね。
「Bランク、ケンです。依頼を終わらせてきました。納品したいんですが」
受付嬢にそう申し出ると、買取のカウンターに誘導された。
「おう、バジリスクの納品だな?物はギルドの外か?」
「いえ、このかばんの中です」
「なに?毒袋だけ持って来たのか?尻尾とかも一緒に納品しないと依頼の達成にならんぞ?」
「いえいえ、全部まとめて入ってます」
「・・・は?」
「相方が優秀なんで空間魔法で拡張してあるんですよ」
「それにしてもバジリスクの尻尾が納まるなんて。すげえな。そのかばんのほうが高価なんじゃないか・・・?」
「あはは、ありがとうございます。奥へ行って出せばいいですか?」
「おっと、そうだなしっぽもあるんなら奥で出してくれ。ここじゃ受け取っても困るからな」
という訳で奥へ一緒に移動した。おじさんは俺がかばんから出すまで勘違いしていたが、かばんから出てくるのは納品箇所だけじゃなくてバジリスク丸々一頭だ。
今までは担いで持っていくなど、あまりかばんの存在を公にする気はなかった。しかしユシュンの町は大きすぎて、担いで獲物を運び込むのはどう考えても無理だったので解禁することにしたのだ。
というか一度やってみたら物の見事に門番に怒られた。お説教の上に騒がせたからといって金貨5枚を罰金として取られた。荷車を持っていかなかったのが敗因だったな。(そういう話じゃない)
奥でバジリスクを一頭丸々出したときのおじさんの驚きはすごかった。口をあんぐりあけた挙句、目をごしごしこすっていた。見える光景は変わらないけどね!
解体と、依頼の品以外はギルドに買い取ってもらえるようお願いして受付に戻った。受付では完了の手続きを終えてあって、お金を受け取るだけだった。事務手続きがささっと済んでいいね!
ギルドでお金を受け取った俺はまっすぐ家に帰る。するとなんと門のところに大きな馬車が止まり、その前でなにやら揉めていた。
聞こえてくる声は奴隷の癖に生意気な!とか主人をさっさと出せ!今はいないのでお帰りください!とかそんな感じだった。まあ端的に言って敵だろう。せっかく気分良く帰ってきたというのに空気の読めない奴だな!
「私がこの家の主人ですが、そちら様はどなた様でしょう?」
真横から声をかけてやると執事です!という格好をしたおじいさんはびっくりしたようで飛び上がった。気配消して近づいてやったからな。ざまあ。
「なっな、な!」
驚きすぎて声もないようだ。
「外出中で失礼致しました、私をお探しのようでしたがなにか?」
まるっと無視して再度水を向けると気を取り直したように話し始める。
「む、う、うぉほんっ。こちらにおわしますのは、アーソルド子爵家四男デュオニース様です。このたびこちらにお住まいのお嬢様がデュオニース様のお眼鏡にかないました。これは大変名誉なことですぞ!第三婦人としてお迎えさせていただきます。またエルフの奴隷をお持ちとの事、そちらも購入額の倍の値段でお引取りさせていただきますので、疾くお引渡しを」
なに言ってんだこいつ・・・馬鹿?それともこういうテンプレ貴族しかいないんだろうか。
気軽にぶっ飛ばしたいところだけど貴族と、ましてや国と全面戦争するのはめんどくさいなぁ。隠れ住むのも趣味じゃないが、かと言ってこんなアホに売り渡す理由もない。困ったもんだ。
一応本人の意思を確認してみるか。
「そうですか、それでは少々お待ちください」
俺がそう告げると馬車の中でふごふごと変な音がする。その音を聞いた執事は馬車の戸を開け、中の人物と言葉を交わす。言葉を交わすといっても聞こえてくる音声は相変わらずふごふごだけだし、うんうん頷く執事の一人芝居にしか見えなかったが。
それと隙間から見えたのはとんでもない横幅のブt・・・いや、人の身体的な欠陥を悪く言っちゃいけないな。ここは言葉を選んで言おう。
んーオーk・・・。クリーty・・・。すごい醜いデブだった。
残念ながらこれ以上選べなかったわ。
「寛大なるデュオニース様はしばらくお待ちくださるそうです。しかし貴族をあまり長時間待たせるのは感心しません。またあなたがいない間とはいえ、躾のなっていない使用人に散々待たされたことでもありますし、出来る限り急がれたほうがよろしいでしょうな」
うーん。ここまで来るとあれだな。特に怒りはわいてこないな。逆に笑えて来るぞ。
外にいた男二人を連れて部屋に戻ると全員が揃っていた。オリヴィアは俺の強さを知っているので困った顔をしていただけだが、エルフのティナは死にそうな顔をしていた。俺はただの冒険者だし、相手は貴族だ。最悪の想像をするのもしょうがないだろう。
「オリヴィアとティナに聞きたいんだけど、二人はその・・・ものすごいデブが大好きとか言う特殊な趣味は・・・ある?もしくはあれの物になってでも贅沢な生活がしたいとか」
「ないです」
「あるわけありません!!」
よかった。好き嫌いは人の自由だけど、あれは人間って言うよりモンスターのほうが近そうだもんな。
「そか。じゃあお断りしてくるね」
「え?で、でも貴族の命令を断ったらご主人様がなにをされるか・・・!」
「お、俺の心配してくれるんだ?嬉しいな。大丈夫、大丈夫。心配無用だよ」
ふふふ。俺も人間族だから、なんだかんだで嫌われてるんじゃないかと思ってたけどそんなことはないようでよかった。喜びでニコニコしながら門のところまで戻ってきた俺を執事の怒声が迎える。
「二人はどうしました!?いつまで待たせるつもりです?」
「あ、二人はお断りするとの事です。なのでお帰りください」
「な!?」
執事は一瞬驚いた表情をした後、目を細めこちらをにらみつけてくる。
「アーソルド子爵家を敵に回すおつもりですか?」
馬車の中ではデブがこちらもふごふごと盛り上がっている。
「いやー申し訳ない。世間知らずで貴族様には詳しくないもので、子爵様と言われてもとんと分からなくて」
「・・・いいでしょう。今日のところは帰りますが、Bランク冒険者ごときが貴族をなめた代償、払わせて差し上げます」
執事はふごふご喚くデブと一緒に馬車で帰っていった。俺がBランクだってことをよく知ってるな。Sランクとかなら諦めてくれたのかねぇ。
一応大人しく帰ってくれたけど報復はどうしてくるかなぁ。権力サイドに味方がいないのが難点だな。
家に入ると相変わらず皆して不安そうな目でこちらを見ていた。
「帰ってもらったから大丈夫。お腹減ったから晩御飯の支度を頼むよ」
と号令をかけると一応仕事を始めたが、夕食の席までに話を纏めておかないといけないかな。
アイラとオリヴィアを呼び、どういう対応をしたかを話す。
「と言うわけで何かしらの報復があると思うからしばらく俺は家を空けない。オリヴィアもなるべく家にいること。また買い物などはかならずアイラが付き添ってくれ」
「すみません・・・私のせいで余計な厄介ごとを」
「向こうが厄介ごとを運んで来たのであって、オリヴィアが運んできたわけじゃないさ」
「そう言って頂けると・・・ありがとうございます」
食事時にも同じ話をし、男でも女でもかならずアイラの付き添いなしに行動しないよう言い含めておいた。男でも人質にはなるからね。
最悪この町を逃げ出す必要もあるだろう。せっかく家を買ったと言うのになかなか安定した生活にならないものだ。




