39話 チビドラゴン
睡眠不足で眠い目をこすりながら起き上がる。結局ほとんど眠ることが出来なかった。
一度目を覚まして戦いを始めてしまうとなかなか次の眠りに入れない。うつらうつらする頃には次の襲撃が、という感じだった。さっさとバジリスクを倒して家のベットで寝たい。
昼ごろまで森をさまよっているとギュアアアア!ガアアア!ガアアア!という威嚇の声が複数聞こえてきた。どうやら魔物同士で戦っているようだ。
「聞いた事のない声だからついに当たりかな?」
「だといいですねぇ。このままではもう一晩この森で過ごすことになってしまいます」
「お風呂が私を呼んでいるのでさっさと帰りましょう」
俺も他の場所ならともかく、この森でもう一晩過ごすのは勘弁してもらいたい。
急いで声のしたほうへ行くと案の定魔物が争っていた。ただしそれはバジリスクなどではなく、ドラゴンだった。ファンタジー生物の頂点キタ!
「ワイバーンの子ども・・・でしょう?」
「いや、下級竜のワイバーンではなくドラゴンの子どものようだ」
「初めて見ました。あれが私たちの源流たる竜種の頂点・・・!」
どうやら親がそばにいないらしく、子どもだけの様子。子どもはまだ小さく、せいぜい子牛ぐらいの大きさしかない。また翼と後ろ足を怪我しているようだ。そこをハイゴブリンの集団に見つかったらしくリンチされている。
「ギュアアア!ギュアアアアア!」
必死になって威嚇しているが、ハイゴブリンはゴブリンとは比べ物にならない強さで、手負いの子ども相手にびびる事はない。完全に遊んでいるようで複数で囲みながらも、少しずつしかダメージを与えていないようだ。攻撃していない奴はゲギャギャギャと不快な笑い声を上げている。
「よし、ぶっ殺そう」
俺の憧れ、ドラゴンをリンチするとか許さん。
瞬間的に近づいた俺は、10匹のハイゴブリンの手足を瞬時にたたきおった。やつらは全員が倒れてからやっと怪我に気づき悲鳴を上げた。
「グギャアアア。ニン、ゲ、ン!」
「おお、しゃべれるのか。お前達の楽しみを邪魔して悪いな。運が悪かったと後悔しながら死んでくれ」
しゃべったのは一番レベルの高い個体だけで、後は意味のわからない音で痛みを訴えたり、文句を言ったりしているようだった。雰囲気だけだが。
全員に恐怖スキルを与えてから殺してやった。普通に戦闘していただけなら俺もここまでの非道はしなかっただろう。だが奴らがしていたのは狩じゃない。くずは死ねっ。
ドラゴンの子どもは怪我が深刻なようで、うずくまったまま動かない。グルルルルとうなり声こそ上げるもののそれ以上のことは出来ないようだ。
「ご主人様、魔物を前に言うことでないのかもしれませんが・・・助けていただけませんか!?正々堂々敗れるならともかく、こんな死に方はっ・・・お金、お金なら頑張って稼ぎますから!」
「あんまり見損なわないでくれよ」
そんなに金、金いってたかな・・・。アイラの中の俺のイメージがおかしい。
翼を触ると首を振って痛みを訴え、俺に噛み付こうと大暴れする。
「ちょっと口を閉じさせてくれ。集中できない。」
「はいっ」
当然のことながらアイラの力に負けたドラゴンの子どもは口をまったく開けなくなった。
翼は粉砕骨折といったところで、中で骨が粉々になっているようだ。
後ろ足もかなり痛めており、出血もけっこうしている。早急な治療が必要だろう。
状態を確認した俺はすぐさま光魔法を発動した。
血管の結合を、骨の再生を、傷の修復をイメージし、眼でも確認しながら魔法をかけていく。
10秒ほどで翼の修復を終え、同じぐらいの時間で後ろ足も治療し終えた。
アイラが口を離してやると驚いたようにギュア?ギュア?といいながら傷のあった場所をぺろぺろなめている。
「よしよし、もう大丈夫だぞ。治してやったからな」
俺になでられると人間がそばにいたことを思い出したようで、俺の手を振り払いまたギュアアアア!と威嚇が始まってしまった。
「おっと。餌でもあげたら仲良くなれるかな?」
ごそごそ。町で買ってきた保存食のお肉を取り出してみる。このお肉塩抜きしてふやかせばなかなかうまいのだが、そのままでは塩辛すぎて食えたものじゃない。
水魔法で適当に濡らしたものを口元に持って言ってやる。
首を傾げつつふんふんと匂いをかいでいる姿がとても可愛い。
「かわいい・・・!」
うちの女の子たちもばっちり虜のようだ。
安全だと判断したようでばくりと大きな口で食べ始めた。思い切りがいいのは良いのだがもうちょっとで俺の手ごと食べられるところだった。なんて危ない奴だ。
意外と警戒心が薄いようでもう撫でても嫌がらなかった。野生動物がこんなにちょろくていいのだろうか。3人で順番に餌やりをしているとなかなか大きな生物が結界に引っかかる。
「何かが接近中です。この子の親でしょうか?」
「なんだろう?縦に長いから爬虫類っぽいけど・・・羽はなさそうだから今度こそあたりか?」
子ドラゴンを背中に庇い、戦闘態勢で待ち構えているとついにバジリスクが現れた。
ギュアアアア、ギュアアアアとすごいパニックを起こして必死に威嚇しているが、如何せんサイズの差がすごい。こちらは尻尾まで含めても2mほどしかないのに対し、バジリスクのほうは8mほどはありそうだ。
向こうは余裕の表情でぐるるる・・・と軽く鳴くだけだ。まあサイズの差を考えたらちょっとしたおやつを見つけたぐらいの感覚だろう。
「えーっと肺?を傷つけちゃいけないんだから首飛ばせばいいよね?」
「はい、それでいいかと」
大丈夫だぞっと頭を撫でてやった俺は、次の瞬間にはバジリスクの足元に立っており、かばんから俺の剣を出して首に向けて切りつける!
剣は何の抵抗もなくバジリスクの首を半分ほど切り裂いた。サイズの都合で完全に切り落とすことは出来なかったが、即死には違いない。
吹き出した血をよけつつみんなの元へ戻った。
「すごい切れ味だわ。素振りと同じぐらい抵抗がなかった。ファンタジー武器はやっぱすごいな」
「やはり人前では出せませんね。能力的な話もあるでしょうが、それにしてもAランクの魔物を一刀で切り伏せるとは・・・恐ろしいものです」
ですよねー。今まで以上に封印が確定してしまった。
バジリスクをマジックバックにまるっと仕舞う。子ドラゴンは守ってくれる存在だと認識したのか先ほどよりさらに友好的になった。しかし、助けたはいいがこいつどうしよう・・・?
「この子どうしよう?」
「お家に持って帰って飼いましょう!」
アイラが多少壊れ気味だ。
それが出来たら苦労しないんだけど、どう考えても無理。
「門番が入れてくれるわけないでしょ。速攻で殺されちゃうよ」
「しかしこんなところに置いて行ったら死んでしまいます・・・」
正々堂々敗れるならとか言ってたのはどうなった。まあ可愛いから分からなくはないけど。
俺としても憧れのドラゴンの子どもをみすみす他の生物に殺させるというのも望むところではない。この世界にテイム等があるのかは知らないができるならしたいぐらいだし。そしていつか俺を乗せて空を飛んで欲しい。寿命がもつか心配だが、そこは気合で何とかしたい。
「うーん・・・、そうは言ってもどうにもしようがないだろ」
俺たちの方もそんなに長期間篭れる準備はしていないし、家に残してきたメイドさんたちにも何も告げてないのだから要らぬ心配をかけてしまう。
散々話し合った挙句やはり置いて帰ることになった。というより他に選択肢がなかった。
ただこのまま野放しではすぐに殺されてしまうだろうということで、昨日の自分達の拠点に住ませる事にした。あそこも完全に安全ではないが、今の状況よりはましだろう。
昨日の拠点まで一緒に戻り、土壁で囲いを3重ほど作って、一応の守りとしておいた。
さすがドラゴンといえばいいのかかなり賢いようで、囲いからの出かたはすぐ覚えたし、俺たちの言うこともある程度理解しているようだった。時間の都合上すぐには帰れないので一晩一緒に過ごし、それから町に帰ることにする。狩を一緒にして獲物を分け合い、一緒の場所で寝た。親元から離れて寂しかったのか結構積極的に甘えてくるので、俺たちは心行くまで可愛がった。
他の魔物や人間に気をつけろと言い含めて俺たちはその場を後にする。アイラは何度も振り返って見ていたし、俺も結界の限界まで探知で様子を見ているのだった。またすぐに来るからな!




