38話 試し切り
今日は夜も明けないうちからギルドに来ている。森の奥に行く依頼をゲットするため、早くから出てきたのだ。一応残っている依頼を全部見てみたが、簡単な依頼がほとんどで必要ランクもDとかEだった。
朝一で張り出される依頼に期待するしかないだろう。ギルドの受付さんに聞いたところによればもうそろそろ依頼の張り出しの時間だ。俺のそばにも同じくいい依頼を求める冒険者がぞろぞろいる。7パーティ30人ほどが待機している。なかなか競争は厳しそうだ。
ガチャ
受付から依頼表を持った女性が出てくる。彼女が依頼をすべて張り終え、受付の扉をくぐるまでは依頼表に触ってはいけないルールだ。なにせ筋骨隆々の男女が揃っているのに、か弱い受付嬢にタックルでもしようものなら大怪我になる。以前それをやりかけた奴がいて、ギルドマスターに死ぬほど絞られたそうだ。その後で受付嬢のファンにそれ以上にぼこぼこにされたそうだが。
皆、一枚一枚張られていく依頼を目を皿のようにしてみている。自分たちにふさわしい依頼はどれか、一番楽な依頼はどれかなど各々目的は違うだろうが、意気込みだけは皆一緒だ。
シーンとした部屋に受付嬢の歩くコツコツという音だけが響く。掲示板の外枠を離れ扉をくぐり・・・バタンと扉が閉まった。
次の瞬間、一堂が一斉に依頼表に向かって駆け寄り自分の欲しい依頼を引っぺがす。
「取ったあああああ」
「離せっこら!俺が先に触っただろうが!」
「ふざけんなてめえ!俺のほうが早かっただろうが!」
等など、それはもう醜い争いが繰り広げられるのだった。
俺?俺は神速で近づいて取ってきたので喧騒には混ざってないよ。
あんな暑苦しい所は勘弁だ。肉壁にはさまれそうだしな。
「これ、お願いします」
「はい。えーと、こちらバジリスクの討伐はAランクの依頼の中でも高位のものです。十分な準備、対策をしてから出発されることをお勧めします。また素材を持ち帰ることが依頼の達成条件になりますので運搬に関してもご準備ください」
今回の目的はバジリスクの肺と同じ位置にある毒袋、牙、そして尻尾だ。
毒袋はまあ、毒が目的。牙は武器の素材で、尻尾は珍味らしい。
おいしいとのことだがあまり毒を持った生物を食べたいとは思わないな。内蔵じゃなければ平気とかなんだろうか。
「また、バジリスクは竜の森の深部に存在が確認されていますので他の魔物、魔獣にも十分お気をつけください。中にはSランクの魔物も存在しますので」
「忠告どうもです。気をつけていってきますね」
という訳で通称竜の森へ試し切りに出発だ。
森の外周部は背の低い木が多く、鬱蒼とした印象を受ける。一応しばらく先までは人が切り開いた道があるのでそこを通らせてもらおう。
人に会うことを考えそこそこのスピードで移動すること10分ほど。もう道が途切れてしまった。なんとも短い道だった。ここから先は自分たちで切り開いていくしかないようだ。
藪をかき分け森を進んでいく。遠くから魔獣の遠吠えも聞こえてくる。
「今のは狼系の魔獣ですかね」
「かなぁ。そんなに近くはなさそうだったけど」
しばらく進むと案の定狼が襲い掛かってきた。森の暗さに適応したのか真っ黒な体毛をした狼だった。
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ブラックウルフ Bランク
レベル41
闇にまぎれて襲い掛かる狼
多くても3匹程度の少数で活動する
奇襲を得意とするがその戦闘力が低いわけでは決してない
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俺の左横から一匹が首を狙って飛び掛ってくる。アイラとオリヴィアにも一匹ずつだ。
アイラは放置でいいが、オリヴィアは魔法の発動が間に合うか心配だ。
首への一撃をかわしながら相手の首を掴み、流れるようにもう一匹へ投げる!
オリヴィアに飛び掛る寸前だった奴に衝突しキャンと悲鳴をあげた。
そこへオリヴィアが風魔法を発動。首に風の刃が当たり、その命を絶った。
「余計なお世話だった?」
「いえ、もう少し結界を広くしておかないと間に合いませんね。ありがとうございました」
「ご主人様、私は放置とかひどくないですか?」
「放置ではない!信頼したのだ!」
物は言い様だよね。
アイラは私もか弱いのに!と泣きまねをするがとってもわざとらしい。
Bランクの狼の首を跳ね飛ばす人はか弱くないと思います!
結局奇襲は俺たちには効かず、戦闘力を発揮する間も無く倒してしまった。だが気配は薄く、目にもほとんど映らないため、魔法やスキルがないと厄介を通り越してこちらが即死だろう。俺たちにとってはそこまで強くないのが救いだが、最初からなかなか厳しいお出迎えだな。
その後も奥へ奥へと進むが、なかなか目的のバジリスクは現れなかった。他の魔物や魔獣は戦闘音を聞きつけるのか、かなり頻繁に襲って来た。
中でも厄介だったのは猿の魔物で前後衛がしっかりしており、連携して攻め立ててくる。
しかもその数の多さが対処を手間取らせた。目視では5匹ほどしか見えないのだが、”気配探知”のスキルによれば隠れた猿の数は38匹。実に30匹以上が隠れ潜んでいるのだ。
その隠れ潜んだ猿たちが木の影からこれでもかと石を投げつけてくる。そして一部の猿が体勢を崩したところへ襲い掛かってくるという戦法だった。前後だけでなく真上からすら石が降ってくるため、オリヴィアを置いて攻め込むことができなかった。
しょうがないので体勢を崩した振りをして近づいてくる奴をぶった切っていたら10匹ほどが切り殺されたところで勝てないことが分かったのか撤退に移った。
その他にも蜘蛛や植物の魔物など、搦め手を得意とする魔物が多く、なかなか前に進めず、非常に時間がかかった。単純な力押しなら得意とするところなのだが、ここへきて経験と人数の少なさが足を引っ張っている。
朝早く出たとはいえもう昼を回った。これ以上バジリスクを探すとなるとこの森で夜を明かす可能性が出てくるだろう。
「どうする?野宿でいいかな?」
「敵が多いのであまり好ましくはないですが、また明日ここまで来る事を考えると野宿でも致し方ないのでは?」
「早めに土魔法か何かで拠点を作ればなんとかなりそうですが」
物怖じしない女性陣で助かるよ。魔物あふれる森なんだけどね。
話し合いの中で一番印象に残ったのは、今日はお風呂なしですかという言葉だった。ひじょーに残念そうな声だったよ。
結局あたりが暗くなる前にバジリスクを見つけることは出来ず、野営することが決まった。
適当なところに人工的な洞窟(奥行き4mほど)を作り、そこで寝ることにした。
結界を張っておけばぐーすか寝れるかと思ったのだが、夜行性の魔物も多いらしく結局5回も迎撃が必要だった。狼やら蝙蝠やら蛇やらが邪魔してくるので、安眠は難しいのだった。




