第28話 保護は口だけでは足りない
「灯台保護隊、今日の合言葉は、保護です」
啓彰の号令で、子どもたちは一斉に手を挙げた。
「ほご!」
紗那だけ少し遅れ、広河は「灯台姫が保護する」と別の台詞を重ねた。一彰は壁に貼った紙へ、今日の目標を書き足す。
灯台を守る。
灯台をもっと守る。
灯台をすごく守る。
大輝は、その三行を見て頭を抱えた。
「気持ちはわかるけど、全部同じ方向かな」
「違うよ」
一彰は真剣だった。
「一行目は普通で、二行目はがんばるで、三行目は最大」
「最大の中身を考えよう」
そこへ麻央が、分厚い紙束を抱えて入ってきた。大学の講義帰りらしく、肩にかけた鞄から付箋が飛び出している。
「中身、考えてきました」
子どもたちは歓声を上げたが、麻央が机に置いた資料を見た瞬間、声がしぼんだ。
修繕費概算。管理当番表案。保険加入の確認事項。避難時の使用規則。子どもの立ち入り範囲。湿気対策。電気設備の点検周期。
紗那が首をかしげる。
「ほご、どこ?」
「ここ全部」
麻央は笑った。
「残したい、だけじゃ残せないの。誰が掃除するか、誰が鍵を持つか、危ないときにどう閉めるか。そういうことを決めるのも保護」
広河の顔がくしゃっと歪んだ。
「灯台姫、むずかしいの嫌」
「難しいのは、大人がやる」
涼が後ろから言った。
涼は、いつも人と人の間に紙一枚分の余白を置くように話す。今日も声は静かだった。
「でも、子どもができることもある。危ない場所に勝手に入らない。掃除の日に道具を運ぶ。説明を聞いたら、聞いたって返事をする」
啓彰は背筋を伸ばした。
「返事ならできます」
「まず、そこからだね」
大輝は、子どもたちの作戦表の横に、麻央の資料を一枚ずつ並べた。
「保護って、好きって言うだけじゃ足りないんだ」
一彰は、壁の目標を消しゴムでこすった。紙が少し薄くなり、穴が空きそうになる。
「じゃあ、書き直す」
新しい目標は、ゆっくりした字になった。
灯台を守るために、できることを一つ決める。
紗那は「一つ」に花丸をつけた。広河はまだ涙目だったが、自分の募金箱を見つめていた。
「お金だけじゃだめ?」
「だめじゃないよ」
大輝はしゃがんで、広河と目の高さを合わせた。
「でも、お金だけだと、広河ちゃんが何を守りたいのか伝わらないことがある」
「じゃあ、何を入れる?」
「掃除当番表とか、危ないところを見つけたら知らせる係とか」
広河はしばらく考え、募金箱の紙をはがした。そこに新しく書いたのは、幼い字で「おそうじとうばんばこ」だった。
「箱はそのまま使うのね」
可純が感心したように言った。
「再利用です」
啓彰が礼儀正しく説明した。
麻央は、資料の一枚を大輝に渡した。
「大人のほうが難しいです。残したい人だけで負担すると続かない。賛成に傾いている人にも、怖さやお金の話を出せる形にしないと」
「わかってます」
大輝は言いながら、実際にはまだわかりきれていないことを知っていた。
灯台を壊さないためには、感動だけでは足りない。名前の残った領収書だけでも足りない。緑茶と歌と子どもの花丸だけで町が動くなら、こんなに誰も困っていない。
それでも、子どもたちが書き直した目標を見ていると、足りないものを数えるのも仕事なのだと思えた。
午後、涼が店の壁に新しい紙を貼った。
できること一覧。
非常食の管理。月一回の掃除。鍵の保管。配線点検の立ち会い。子どもが入れる範囲の確認。霧の日の仮灯確認。
最初に名前を書いたのは、勇だった。
「非常食。あと冷凍コロッケ。ただし焦げたら自己責任」
可純が「焦げる前提で書かない」と赤ペンを入れた。
大輝はその横に、自分の名前を書いた。
領収書整理と緑茶。
役目としては、地味すぎる。
けれど、地味なものほど、続くには必要だった。




