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領収書屋さんと霧の中の灯台 ――北町商店街、最後の一枚まで愛で保護します――  作者: 乾為天女


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第19話 子ども作戦会議

 翌朝の店は、紙の音で始まった。

 大輝が湯気の立つ鍋を火から下ろしたとき、戸口の鈴が鳴り、啓彰が先頭に立って入ってきた。後ろには一彰、紗那、広河、正朋。広河は今日も灯台姫の衣装を着ていたが、昨日より裾が短い。走りやすくするために、自分で折って安全ピンで留めたらしい。

 「おはようございます。灯台保護隊、入室いたします」

 啓彰が深々と頭を下げる。

 「入室許可します」

 可純がなぜか偉そうに言った。

 「可純さんも、挨拶をお願いします」

 「お、おはようございます」

 可純が半分だけ頭を下げると、紗那が花丸を貼った。

 大輝は笑いながら、丸椅子を出した。子どもたちは座らず、テーブルの上に紙を広げた。一彰の字で、今日やること、明日聞くこと、大人に言ってはいけないこと、と三つの欄が作られている。

 「大人に言ってはいけないこと?」

 大輝が尋ねると、一彰は真顔でうなずいた。

 「言うと、大人が先にけんかすること」

 可純が胸を押さえた。

 「私のこと?」

 「はい」

 即答だった。

 店の中が笑いでほどけた。けれど、紙に書かれている内容は思ったより細かかった。昔、霧の日に誰が灯台を見たか。小火の日に、倉庫へ誰が入ったか。商店街の看板がいつ貼り替えられたか。再開発会社の人が、どの店で説明したか。

 「これ、誰が考えたの?」

 「みんなです。ぼくが書いて、啓彰くんが順番を直して、紗那ちゃんが花丸をつけて、広河ちゃんが姫の命令を出しました」

 「姫の命令は必要なの?」

 「必要。みんな言うこときくから」

 広河は胸を張った。衣装の安全ピンが一つ外れかけ、大輝はそっと留め直した。

 正朋だけは、紙の端をじっと見ていた。小さな指で、余白をなぞっている。

 「ここ、書いてない」

 「何が?」

 「こわかった人」

 大人たちは一瞬、黙った。

 正朋はうまく言葉にできないまま、首をかしげる。

 「灯台こわいって言ってたおじいちゃん。階段が暗いって。だから、こわい人のことも書く」

 大輝は息をのんだ。

 子どもたちは、残したい人の声だけを集めていたわけではなかった。壊したいと言う人、怖いと言う人、近づきたくない人。その理由も聞かなければ、灯台はただの願い事になってしまう。

 「正朋くん、それは大事だ」

 大輝が言うと、正朋は照れたように椅子の下へ足を引っこめた。

 真喜子と早貴が学校帰りに寄ると、子ども作戦表はさらに広がった。真喜子は一行ずつ読み、言葉の強いところをやわらかく直す。早貴は商店街の簡単な地図を描き、どこで誰に聞くか印をつけた。

 「これ、もう子ども用じゃないですね」

 航貴が入力用の台から顔を上げた。

 「大人用より、見やすいかもしれない」

 大輝が言うと、道雄がちょうど入ってきて、紙をのぞいた。

 「項目分けがいい。聞き取り先、日付、証言者、確認者。これなら後で使える」

 啓彰が姿勢を正した。

 「では、道雄さんも確認者として署名してください」

 「俺が?」

 「はい。大人なので」

 道雄は苦笑しながら名前を書いた。

 夕方、店の壁には、子ども作戦表が貼られた。隣には真喜子の聞き取り表、早貴の地図、そして大輝が書いた白い封筒の注意書きが並ぶ。

 可純はそれを見上げ、珍しく腕を組まなかった。

 「大人って、負けてる?」

 「負けてますね」

 大輝が答えると、可純は悔しそうに笑った。

 紙の前で、紗那が一番下に大きな字を足した。

 『わすれない。』

 字は曲がっていた。けれど、その曲がり方まで、北町の今の姿に見えた。



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