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第十二景 すりガラス
私はエミちゃんが好きだった。
エミちゃんはいつも私の家の『すりガラス』の向こうを通って小学校に通っていた。
アレから十五年経った。
偶然、電車の中でエミちゃんと会った。
凄く美しく成っていた。
私は恥ずかしくて何も喋れなかった。
そして三十年経った。
偶然、笑美さんと町で出会った。
笑美さんは子供を連れていた。
僕はオジギをして別れた。
五十年経った。
笑美さんはオバサンに成って居た。
笑美さんの方から声を掛けて来た。
「前田さん、久しぶり〜」
「あッ、どうも。お買い物ですか?」
少し・・・喋った。
七五年経った。
道ですれ違った人は笑美さんの様だった。
「あの・・・」
と声を掛けたが気が付かなかった様だ。
そしてまた五年経った。
偶然、特養ホームで声をかけて来たお婆さんが居た。
「あら、木村さん? 久しぶ〜り」
「あの、失礼ですが、どちら様ですか?」
お婆さんは僕の名前を木村と云う人の名前で呼んでいた。
僕も笑美さんだとは分からなかった。
特養お婆さん達はみんな同じ顔をしている。
僕も周りのお爺さんと同じ顔に成っているはずだ。
『すりガラス』の向こうは現実だった。




