和菓子・洋菓子交流会編 後編
緊張感漂う場だ。
直線の道に、等間隔に的が三つ並べられている。
そこから離れた位置に観覧席が設けられ、ショートケーキ団長たちを案内。
遅れて、僕らも座った。
「一番目の射手が位置についた後、扇が掲げられます。
それがスタートの合図です」
説明した直後、一番手のきんつばさんが、位置についた。
見張り役が、周囲を確認。
直後、扇を掲げた。
馬で走りだす、きんつばさん。
……いきなり速いな。
結果、的は三つともど真ん中に命中。
「……見事だ。あそこまで速く走りながら……稀代の名手、と評されるだけはある」
アントルメ騎士団の人たちが、驚いたり感心したりして拍手をしている。
……次は、いよいよぼた餅さん。
念のため、緊張をほぐすためにあんこを渡しておこうかと提案すると、
「お心遣い、感謝いたします。
ですが、ご心配には及びません。あの頃の情けない私は、もうおりませんので」
凛々しい顔で、そう言いきっていた。
……楽しみだ。
まもなく、ぼた餅さんが姿を現した。
「は!? 弟子って、女かよ!?」
「そうです」
「……なるほど」
驚きを隠せないクッキーさん他アントルメ騎士団の四人。
ショートケーキ団長だけは、なにかに気づいたように言った後、大福さんを一瞥していた。
……たしかに、似ているからな。
大福さんが、ごくりと唾を飲みこむ。
そして――ぼた餅さんが走りだした。
疾走する馬の上で、すらっと背筋をのばして弓矢をかまえる。
――放った。
見事、命中。
続けて二つの的も、同じく。
「華奢な体で、よくあれほど鋭く射られるものだ。師弟そろって凄腕だな。ダイマル」
「……そう言ってくれて、嬉しいぞ」
大福さんは、腕組みをして、うんうんとうなずいていた。
端によけていたおはぎさんも、両手の拳を握りながらうなずいていた。
……第一幕、成功。
次の会場の準備は、すでに整っている。
「……続きまして、餡月郷流のお茶会へとご招待いたします。
ご移動をお願いいたします」
声をかけて、ぞろぞろと移動する。
野点の会場は、流鏑馬の会場から目と鼻の先にある。
赤い敷物の上に、椅子が五脚。
「ここに座るのか?」
「はい。本来は、このように床にじかに座って行うのが正式な作法ですが」
説明役担当の輝一さんが、敷物の上で正座している大福さんたちを指ししめす。
「本日は、楽な姿勢でご参加いただけるようにと椅子をご用意いたしました。
もちろん、正座ができる方がいらっしゃれば、それでもかまいません」
「……プリンさん、いかがですか」
「あ、無理ですぅ。お茶のお稽古は、ほんっとうに苦手だったんですよぉ」
プリンさんは、「大丈夫かなぁ」などと言って、不安そうに他の仲間と一緒に椅子に座っていた。
「稽古って、そんな訓練するほどのもんなのか?」
「お茶会のマナーを教えてもらう、みたいなものじゃないの?」
「似てなくもないですけどぉ。覚えること、すっごい多いし細かいんですよ?」
聞いたクッキーさんとアイスクリームさんが、げぇ、とうなった。
「ご安心ください。
作法については、私のほうから口頭のみで紹介させていただきます。
決して強要はいたしませんので、お好きなようにお寛ぎください」
げんなりしていた三人が、輝一さんの言葉でほっと胸をなでおろす。
まもなく、抹茶さん登場。
一礼してから、お茶をたてはじめた。
その間も、輝一さんの説明が入る。
……やっぱり、説明役は彼に頼んで正解だったな。
心得のない僕では、細かい部分に気づけないおそれがあるから。
やがて、お茶が全員に配られた。
それを飲んだ瞬間――アントルメ騎士団の面々は、顔をしかめていた。
……事前に味見はしたが、あれでもそれなりに苦い。
ただ、その後配られたお菓子を食べた瞬間、驚きの表情に変わった。
「ええ……? なにこれ。どこかで食べたような味……」
「……砂糖か」
アイスクリームさん他が首を傾げて不思議そうにしている中、ショートケーキ団長は確信に似た問いをしてきた。
輝一さんが、うなずく。
「菓子の材料は、ほとんどがメローリア産のものを使用しております。
市田殿をはじめとする、紅の郷の皆さまによるお力添えのおかげでございます」
「不思議な味わいじゃな。材料が違えば、これだけ変わるものなのか」
大福さんが、感心したように食べかけの練り切りを見ながら言った。
続いて、二杯目のお茶。
騎士団の人たちは、おそるおそる飲んだ後、またしても驚いていた。
特にアイスクリームさんは、「なんかさっきと違うんだけど……?」と言って、衝撃を受けている様子。
「見事ですね。一杯目より、味がよくわかります」
「ああ。ただ苦いだけではない奥深さを感じる」
「待ってよ。これ、本当にさっきと同じやつ?」
「はぁ……こんなお茶とお菓子があったら、もっと真面目に稽古できたかもなぁ……」
「俺はこの菓子だけあれば十分だけどな」
シュークリームさんとショートケーキ団長は感心して食レポをし、アイスクリームさんは不思議そうに首を傾げ、プリンさんは羨ましそうに目を細め、クッキーさんはお菓子をぺろりと平らげていた。
そして、ショートケーキ団長が顔を上げて、大福さんを見る。
「餡月郷では、このような茶会が行われているのだな」
「そうしょっちゅうやっておるわけではないがのう。
外の景色を楽しみながら茶を飲むのは、また格別じゃろうて」
「たしかに、そのとおりだ」
ショートケーキ団長が、大福さんにならうように顔を上げ、うっすら紅葉してきた木々を見つめる。
……さすが、絵になるな。
そう思ったところで、輝一さんがこちらに目配せしてきた。
うなずいて、応える。
「……お付き合いいただき、ありがとうございました。
どうぞこの後もゆるりとお寛ぎください。
ささやかながら、交流の記念といたしまして、様々な変わったお菓子をご用意いたしました」
「変わったお菓子?」
僕のセリフが合図になったように、ぞろぞろと運ばれてきた。
この日のために作った、和洋折衷のお菓子たちだ。
抹茶の和風ケーキ、餡ドーナツ、生クリーム入りどら焼き、フルーツ大福、その他。
「わー! なにこれ、かわいいっ!」
さっそくプリンさんが、断面を見せるように切られたフルーツ大福に目をつけた。
「それは、イチゴさんに作っていただいたものです」
「ほう。ケイゴが。先日そなたからもらったものと似ているな」
「……はい。今回は、他のフルーツのものもあります。
ぜひお召し上がりください」
勧めると、ショートケーキ団長はミカン入りの大福を手にとって、食べた。
口角をすこし上げて、一言。
「まちがいないな。やはり、フルーツを扱わせればケイゴの右に出る者はおらぬ」
満足そうに食べて、あっという間に完食。
興味をそそられた他の騎士団の人たちも、次々と手にとっていた。
そっと、裏方のほうへ目をむけてみる。
……裏で控えていたイチゴさんが、震えて目元を押さえている姿が見えた。
最大級のお褒めの言葉をもらったからな。呼んでおいて正解だった。
その後は、うまい具合に宴会モードに突入。
「なんだこりゃ? ドーナツの中になんか入ってるぞ」
「それは餡子というものじゃ。美味いじゃろ?」
「アンコ……? 聞いたことあるな」
どら焼きさんの解説を聞いて、クッキーさんが僕を見る。
……正確には、僕の肩の上にいるあんこを。
「……いや、違うぞ! その餡子とあのあんこは別物じゃ!」
「当たり前だろ! あんなの食えるか!」
指をさされて言われ、なにか察したあんこは僕の首の後ろに隠れていた。
「プリモ殿」
「はぁい?……えっ? 本当にぃ!? やったぁ! お願いしまぁすっ」
抹茶のマフィンを食べていたプリンさんに、みたらし団子さんがこそっと話しかけていた。
プリンさんは、喜びながら席を立って彼女についていく。
「ねぇ。さっきのお茶菓子、なにか変なもの使ってた?
あれ食べた後、お茶の味が別物みたく感じたんだけど?」
抹茶のソフトクリームを手にしたアイスクリームさんが、輝一さんに聞いた。
「いえ。あれは、和三盆を使った特別な練り切りです」
「ワサンボン?」
「熱処理から粉砕までの工程を三度繰り返して、徹底的に不純物を取りのぞいた上質な砂糖です」
「はぁ!? 三回だと!? イカれてんのか!?」
クッキーさんが、目を大きく見開いた驚愕の顔で割って入ってきた。
対してアイスクリームさんは、砂糖づくりの大変さを知らない様子で、首を傾げていた。
二人の反応の違いは、経験済みかどうかの差だな。面白い。
視線を動かすと、隅でしずかに見守っていた羊羹さんのもとに、シュークリームさんが近づいていくのが見えた。
「お約束を、果たしていただけませんか」
シュークリームさんは、手に赤ワインのボトルを持っている。
羊羹さんが、意外そうに目を丸くした。
「……俺でいいのか」
「あなた以外に、適任者はおりません」
シュークリームさんに真剣な表情でまっすぐに見つめられ、羊羹さんはうなずいた。
……約束。
大人になったら一杯飲もう、という、先生もとい羊羹さんのお兄さんとした、例の。
そこからは、耳だけで二人の様子をうかがう。
けど……羊羹とワインとは、なかなか奇抜なコラボだな。
「赤い酒? それがメローリアの酒か」
「わかりやすく言えば、ブドウ酒です。数ある中から厳選してまいりました」
「ほう。ぶどうの酒か」
羊羹さんが、ワインのグラスを傾ける。
そして、うなずいた。
「いい味だ。兄上にも、飲ませて差しあげたかった」
「お口に合ったのなら、なによりです」
シュークリームさんの声は、なぜか悲しそうだった。
「……先生は、今の私を見てなんとおっしゃるでしょうか。
目的のために汚い手もたくさん使ってきた、この私を」
「褒めはしないだろうな。だが、喜んでいるのはまちがいない」
「……喜ん、で?」
「ああ……ずいぶん大きくなりやがって、とでも言ってな」
瞬間、ひゅっと息をのむ音がはっきり聞こえた。
そこからは……なにも聞こえなかった。
「お待たせしましたぁっ!」
そこに、プリンさんとみたらし団子さんが戻ってきた。
プリンさんは、振袖に着替えていた。
髪も、簪などで飾りつけて整えている。
「おお……? なんだ、その服は」
「お着つけしてもらっちゃったぁ! きれいでしょー? 花魁みたいで最高っ!」
「そんなチャラチャラした感じのが、オイランなの?」
「アイザックさん、ひどいっ!
だいぶ違いますけどぉ。でもこれ、一度着てみたかったんですよぉ!
ミツハちゃんのおかげっ! ありがとねっ」
「お気に召していただけて、私も嬉しいです」
くるくる回ってはしゃいでいるプリンさんは、みたらし団子さんの手をとって、お礼を言っていた。
みたらし団子さんも、愛想笑いとは違う穏やかな笑みを浮かべ、応じている。
「プリモ」
「……! はい!」
興奮気味だったプリンさんを、ショートケーキ団長が呼んだ。
途端、プリンさんはビシッと背筋を伸ばして、彼のほうをむく。
「申し訳ありません、団長! ついはしゃいでしまってぇ……」
「かまわぬ。よく似合っている、と伝えたかっただけだ」
「……!?」
不敵な笑みを浮かべて褒められたプリンさんは、顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。
……今日は、やたら褒めるな。ショートケーキ団長。
「ええ雰囲気じゃなぁ。これきりにせずに、また何度かやっていきたいものじゃ」
「同感だ。今度は、団員たちも交えて行えればいいのだがな」
「はっは! それは様々な意味で大騒ぎになるじゃろうて」
酒を飲みかわしていた大福さんとショートケーキ団長が、互いに笑いながら言っていた。
……互いの隊士・団員も含めた交流会か。
ただの宴会というか、どんちゃん騒ぎで終わりそうだな。
その後は、協力してくれた紅翠域や恵環域の人たちも呼んで、お菓子を食べながらにぎやかにすごした。
……交流会は、まちがいなく成功と言える。
実感した途端、自然に口角が上がる感覚。
にぎやかな光景を眺めながら、あんこと一緒に抹茶のシフォンケーキをのんびりと味わった。




