和菓子・洋菓子交流会編 中編
まずは、むこうのお手並み拝見。
「ここよりすこしだけ移動していただき、まずは歌劇を鑑賞していただきます」
「歌劇?」
「歌いながら、役者が物語を演じる芸術の一種です。
メローリアでは、大衆的な娯楽になっております」
シュークリームさんが、相変わらずのはっきりとした口調で説明してくれた。
つまり、あちらのもてなし役は、彼か。
案内されて、すこし歩いた先にあった劇場に入る。
数十人程度が収容できる、小さめの劇場だ。
当然のごとく、他に観客はいない貸し切り状態。
全員が席についてまもなく、照明が消されて劇が始まった。
行われたのは、シュークリームさんが言ったとおりの歌劇、いわゆるミュージカル。
貧困層に生まれた勇気ある女性が主人公で、一国の女王にまで成り上がるストーリーだった。
……意外に思い、洋菓子側の人たちの反応を見る。
どこか共感できる部分があるのか、クッキーさんとプリンさんは泣きそうな顔をしていた。
それ以外の貴族出身の三人は、能面のような顔をしていたが。
一方のこちらは、というと。
「う……っうぐ……っ」
どら焼きさんが、泣いていた。
輝一さんも、声は出してはいないが、自身の手を握ったり立ちあがりそうになったり。
かなり心が揺さぶられている様子だった。
他三人は、冷静に、かつ真剣に見入っている。
……が、途中。
「ここは私が引きうけるっ! 先に行くがいい!」
羊羹さんの未来の妻のさつまいもさんが、敵に囲まれた主人公を助ける人の役として出てきた。
……声が生き生きとしている。かなり練習したんだな。
横目で見ると、羊羹さんが目を大きく開いているのが確認できた。
――やがて、その劇が終わって、休憩時間に入ったとき。
「お前の仕業か?」
羊羹さんが、すぐに鋭い目線をむけて聞いてきた。
……想定内。
「僕は一切関与していません」
「……そうか」
羊羹さんは、すぐに納得して引いてくれた。
……十中八九、シュークリームさんの仕業だな。
彼のほうへ目をむけると、我関せずといった様子で前を見つづけていた。
続いて、第二幕。
今度は、喜劇。
ある貴族の使用人の明るい天然ポジティブな青年が、あちこちで大騒ぎを起こして自ら解決する話。
……これも、貴族出身者が好む作品とは、方向性がかなり違う気がする。
思ったとおり、その三人はまたしても能面。
シュークリームさんが僕らに配慮して、庶民にウケやすいストーリーを選んだようだ。
ここでも、どら焼きさんは笑い声を上げたり手を叩いたりと、遠慮なくリアクションしていた。
輝一さんは真に受けて、「だめだ、そちらへは行くな……!」などと、小声でぶつぶつ言っていた。
他三人は基本しずかだったが、役者がウケを狙って観客席にむけてアピールしたときは、軽く笑い声を上げていた。
その劇が終わった後。
「すばらしかったですね。妹たちにも、できれば見せてあげたかったです」
ほぼ無反応だったみたらし団子さんが、しみじみとそう言っていた。
「たしかに。第一幕もそうじゃが、餡月郷の者でも楽しめそうな内容じゃったな」
「メローリアの連中は、こんなのをいつでも見られるんじゃな……」
どら焼きさんは、羨ましそうに言った後、「ああ、笑いすぎた」と、腹をさすっていた。
やがて、シュークリームさんが近寄ってきた。
「お楽しみいただけましたか?」
「ああ。存分に楽しませてもらったぞ」
「それはなによりです。
昼食を用意してありますので、ご移動をお願いいたします」
言われたとおり、劇場内の食堂のような広い部屋に移動して、昼食。
「メローリアの料理に加えて、餡月郷でよく出される料理もご用意してあります。
どうぞ、好きなようにお召し上がりください」
長テーブルに、銀の皿の上にずらりと並べられた、数々の料理。
茹で野菜に豆料理。
様々な種類のチーズ。
ローストチキンや魚の香草焼きらしきものなどの、肉・魚料理。
白パンに黒パン。パイやタルト。
カラフルな生のフルーツや、コンポート。
飲み物各種。ただし、酒はあまりない。
極めつけは、デザート。
種類豊富で、それだけで一つのテーブルを占領していた。
シュークリームさんの言うとおり、おにぎりや野菜の煮物、魚の煮つけのような和食もある。
……なるほど。ビュッフェか。
「席がないようだが?」
「はい。立ったまま、好きな料理を自由にとって食べつつ歓談するという形式です」
「……ほう?」
甘誠組の面々は、全員戸惑いを隠せない様子だった。
……だが。
「おお!? なんじゃ、この『そーせーじ』とかいうやつ! 美味いぞ!」
「発音、不器用かよ」
「この野菜のスープ、いいんじゃない? ヘルシーっぽくて」
「アイザック殿、それはスープではなく芋煮ですね」
「……温かいものなんて食べていいのですか? アイスクリームさん」
「ばかにしてる?」
「よくぞここまで餡月郷の料理をそろえられたもんじゃ」
「ああ。中立地帯の者たちの協力あってこそだ」
「……その黄色いものは、そのようにしてかけて食べるものなのか?」
「チーズですか? いえ。個人の好みにもよります。
硬いものをパンにはさんでも美味しいですよ」
「ほう。様々な種類があるのだな……」
「あーん! このお味噌汁、美味しいっ! なんかぁ、ほっとする味だよねぇっ」
「同感です。そう思っていただけて嬉しいです」
それぞれが、自由に料理を食べながら歓談していた。
いがみ合いになる懸念も若干あったが、やはり食べ物を前にすれば気持ちも変わるのか。
僕は、軽く食事を済ませてから、デザートのテーブルの前にはりつく。
なにしろ、あんこがそわそわしすぎてうるさいから。
スコーン生地のショートケーキがあったので、さっそく一皿。
……やはり、スポンジ生地とは違う。これはこれで美味い。
クリームは、クロテッドクリームを使っているようだ。
バターに似た濃厚さがあって、口の中であっという間にとろける。
……これは、あんこに与えていいものなのか?
疑問に思いつつ、待ちきれないとばかりに暴れているあんこに、一口与えてみた。
途端に、とろけたように脱力して、横になっていた。
美味すぎるらしい。
中毒になっても困るから、これだけにしておくか。
続けて、梨のタルトを皿にとったところで、シュークリームさんが近づいてきた。
「このあとの予定について、確認させていただいてもよろしいですか?」
「……はい。事前にご提示したとおり、恵環域に移動していただきます」
「変更はなし、ですね。承知しました」
「ところで」
うなずいて踵を返したシュークリームさんの背中に、素早く問いかける。
「第一幕の劇で、さつまいも――紅はるかさんを登場させたのは、あなたの差し金ですね?」
振りかえったシュークリームさんは、そのまま僕を見つめ、すこししてからふっとほほえんだ。
「当然です。いいサプライズになるかと思ったので」
不敵に笑い、素直に答えてくれた。
嫌味は一切感じられない……雰囲気、変わったか?
……まぁ、いい方向に転んだのならなによりだ。
◇◇◇
昼食会でまったりした空気に包まれた後。
今度は、こちらの番だ。
恵環域に入ってまもなく、用意した会場が見えてきた。
……頃合いだな。
「大福さん」
「なんじゃ?」
「実は、あなたに内緒である催しを計画していました」
「ある催し?」
「はい。野点の前に、皆さんに観ていただくのがちょうどいいと思いまして」
そこでちょうど、馬が走ってくる音が近づいてきた。
……計画どおり。ベストなタイミングだ。
その馬に乗っている人物が見えてきたところで、大福さんが目を見開いた。
「皆様、お待ちしておりました!」
やってきたのは――彼の息子、おはぎさん。
一言あいさつしてから馬を降り、丁寧に一礼していた。
「これより、我らが甘誠組の催し物をご覧いただきます。
ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」
「その前に、名乗りを」
「……! 大変失礼いたしました!
甘誠組三番隊隊士、大丸萩之介にございます」
「……ダイマル?」
ショートケーキ団長がすぐに反応して、興味ありげにおはぎさんをじっと見つめた。
すると、すぐにおはぎさんが近寄ってきた。
……ついでに、大福さんも。
「失礼いたしました……!
ただの案内役とうかがっていたので、名乗りは必要ないものとばかり!」
「あなたに落ち度はありません。事前にお伝えしていなかったので」
「待て待て待て。萩之介、なんでお主がここにおるんじゃ」
「軍師殿からご依頼を受けたもので。案内役と、牡丹のさぽー……ええと……?」
「サポート。補助と同じ意味です」
「それです! それをしてほしいと」
「牡丹の……補助?」
大福さんが、不安げに眉を寄せる。
「もしや、そなたの息子か」
「……ああ」
「雰囲気がよく似ている。有望だな」
「いや……まだまだ伸びしろがある程度だがな」
ショートケーキ団長からの質問に、当たり障りのない返事をした大福さん。
作り笑いを浮かべた後は、踵を返して僕の肩を引きよせてきた。
「牡丹になにをさせるつもりじゃ」
「流鏑馬です」
「……は? いや、まだ人前で披露するには早すぎるじゃろうて」
「きんつばさんから、『どこに出しても恥ずかしくねぇくらいにはなった。問題ねぇよ』と、お墨つきをいただいたので。
ここで披露していただかない手はないかと」
「……!」
大福さんが、目を大きく見開いて固まった。
……彼に反論されては、取りやめになる公算が大きかった。
あえて伝えずに、水面下で準備を進めていた甲斐があったな。
「……これからご覧いただくのは、流鏑馬という競技になります」
「ヤブサメ?」
「馬を疾走させながら、配置されている的を弓矢で射るものです。
ただのスポーツではなく、神事としての側面もあります」
「……なるほど。内容は騎射のようなものですね」
案内役のおはぎさんを先頭に移動しながら、こちらで簡単に説明をしていく。
「……先代局長の時代に、きんつ――金田椿様という、稀代の名手がおりまして。
その方と、その方に師事している弟子が行います」
「稀代の名手とその弟子か。さぞかし腕がいいのだろうな」
「それは楽しみですね」
「…………」
大福さんは努めて冷静だったが、よく見れば冷や汗をかいていた。
……そんなに心配する必要は、まったくないけどな。




