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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
後日談

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和菓子・洋菓子交流会編 前編

 だいぶ変化しているように見えた。

 甘味通りの店は、季節の移ろいによって雰囲気を変えているところがほとんどだった。


 ……季節感、一応大事にしていたんだな。


 あんこも、僕の右肩と左肩をせわしなく移動しながら、辺りをうかがっている。


 観察しながら、甘味通りを歩く。

 強めの若干肌寒い風に吹かれながら、どこでなにを食べようかと逡巡。


「おお、風。ちょうどよかった」


 前方から、岩――じゃない、大福さんが、片手を上げながら歩いてきた。


 彼の提案で、涼風亭(りょうふうてい)に入る。

 春と夏は、名前のとおりあんみつなどの涼菓を出しているが、秋と冬には温かい甘味も出しているらしい。


 席につくなり、二人して新しくメニューに加わっていたお汁粉を注文。


「気が合うな。最近はめっきり涼しくなってきたからのう」

「……そうですね。過ごしやすくて、ありがたいです」

「本当じゃな」


 暑いと、考えをまとめようとしていても、集中が切れやすい。寒すぎても同様。

 じっとしていれば汗をかかずに済むくらいの体感だと、非常に効率がいい。


「……それで、なにか相談でも?」

「はっは。さすがよくわかっておるな」


 大福さんが、嬉しそうに笑いながら言った。


「実はな。ヴィクトリウスから、甘誠組(かんせいぐみ)の儂らとアントルメ騎士団……ん? 合っておるか?

 で、交流会をしないかと申し出があってな」

「合っています……交流会、ですか」


 大福さんが、先に出されたお茶を飲みながら、うなずいた。


 ショートケーキ団長……フットワーク、軽いな。

 いろいろ処理すべきものがあって、忙しいだろうに。

 まさか、気分転換目的に言いだしたのか?


 ……いや、あの方はそんな思考をする人じゃない。


「交流会という名のとおり、互いの文化を知ることが目的なんじゃが……なにをするべきか、なかなかまとまらなくてのう。

 やはり、おんしの知恵を借りない手はないと思ったわけじゃ」

「……互いに、互いの文化に沿った出し物をしてもてなす、というわけですか」

「そんなところじゃ」


 ……なるほど。


 納得してうなずいたところで、注文したお汁粉が運ばれてきた。

 湯気の立つお椀をすぐに持ちあげて、のぞきこもうとしていたあんこを阻止。


 一口、すする。

 ……荒く潰された小豆の食感と、ほんのりとした塩味がいい仕事をしている。


 よく冷ましてから、あんこに与えた。

 それでも、びくっと体を震わせていたが。

 食べた後は、いつもの喜びのダンス。


「……野点(のだて)はいかがですか」

「……うん?」


 のびる餅を噛みきって咀嚼した後で、提案。

 箸を持った状態の大福さんが、固まった。


「……相変わらずじゃな。

 てっきり汁粉に気を取られていたかと思ったが……今の間で考えておったのか」

「当然です」

「そうか……野点なぁ。儂も実は考えておった。それでいいと思うか?」

「それ『が』、いいと思います」


 が、と強調して言うと、大福さんは二度うなずいて、続きを促してきた。


「……もちろん、そのままの形でやるわけにはいきませんが。

 相手方に合わせたやり方を取り入れるのが可能であれば、ちょうどいいと思います。

 こちらの文化を知っていただくことと、おもてなしをすることの両方の目的を叶えられます」

「ふむ……相手に合わせたやり方とは?」

「……まず、メローリア側では床に座ることはほとんどありません。

 正座ができないお方も大勢いらっしゃるはずなので、椅子が必要不可欠です」

「そうなのか」


 言いながら、ショートケーキ団長を始めとする騎士団幹部たちが正座している姿を思いうかべる。

 ……うん。やはり無理だ。


「……それと、お茶についても。

 苦みと渋みを抑えて、ある程度は飲みやすくする必要があります。

 お菓子についても同じです。

 可能なかぎり、メローリアから材料を取り寄せて作ったほうがまちがいないかと。

 彼らの口にもなじみのある味に近づけられるので、受け入れていただけるかと思います」

「……なるほどのう」


 大福さんが感心して、あごに手を添えつつうなずいた。


 あんこが、きゅーきゅー言っておかわりをねだってきたので、小豆の粒を与えてやった。

 僕も汁粉を一口すすってから、また口を開く。


「あと、大事なのは勧める順番を変えることです」

「勧める順番?」

「お茶を先に勧めて、次にお菓子。落ちついたところでまたお茶、と。

 そうすれば、お茶もお菓子も両方楽しんでいただけます。

 本来の形式については、口頭で説明すれば十分です」

「そうか……それもいいかもしれんな」


 苦いものが苦手な人は、ほぼまちがいなくいる。

 でも、この順番なら、お茶が悪者にはならないはず。


「……お菓子については、予算にもよりますが。

 せっかくですし、和三盆を使ったお菓子を作れたら最適です。

 練り切りに羊羹……季節を感じられる生菓子も、候補になります。

 二回目のお茶の後には、正式な餡月郷(あんげつきょう)のお菓子をお出しする手もあります。

 ……もしくは、逆にメローリア側のお菓子を用意して、お茶と合わせてみるのも悪くないのでは」

「…………」


 そこまで言うと、大福さんがあごから手を離し、唖然として僕を見ているのに気づいた。

 ……すこし、度が過ぎたか。


「やけに生き生きとしておるな? なにかいいことでもあったのか?」

「……いえ、特には」

「そうか? 前々から思っておったが、よくもまぁそんなに次々と浮かぶもんじゃ」


 大福さんは、餅を口に入れながら感心していた。


 ……企画立案は、昔から得意分野だった。

 双甘大試(そうかんたいし)のオーダーも、今回の交流会の企画も、似たようなものだ。


「……今言ったのは、ただの思いつきです。

 関係各所への理解と協力を求める必要があるので、実現できるかは不明ですが」

「いや。儂はぜひ実現してみたいと思ったぞ。

 客側に合わせて趣向を変えるのは、交流会においては重要な点じゃろうて。

 ただ……野点だけではあまり時間はかからんように思えるがのう」


 お汁粉を食べおわり、新しくいれてもらったお茶を飲みつつ、うなずく。


「野点の後は……宴会、のようにしても面白いかと思います。

 他にもいろいろお菓子を用意して、あとはそれに合う酒なども。

 ただ、まずは案が通るかどうかを確認してからですね。

 具体的な内容をつめるのは、その後にすべきです」

「おお。宴会か……ええのう。儂らも相手方も楽しめるに違いない!」


 大福さんが、箸を軽く叩きつけるように置いて、楽しそうに言った。

 ……彼は、みんなでわいわいやる宴会が好きで、提案すれば確実にのってくる。

 もはや、わかりきったことだ。


「……メローリア側からも、なにか出し物をしていただけるのですよね?

 それを加味した上で、段取りを整える必要がありますが」

「それについては、すでに提案がなされておる」


 大福さんは、袖口からなにかが書かれた紙片を出して、それを見ながら説明してくれた。


 まず、こちらがメローリア側のおもてなしを受ける。

 その後、昼食をいただいた後で移動。

 ようするに、こちらの出し物は午後に行う、と。


「……それなら、都合がいいですね」

「そう思うか」

「はい。場所は、メローリアと餡月郷を行き来するので?」

「いや。規則の問題があるからな。

 無難に、紅(べに)の郷(さと)と恵みの地ではどうかという話になっておる」

「……それなら、現地の方々にご協力いただくことも、よければ参加していただくことも可能ですね」

「そのとおりじゃ」

「ちなみに、白妙様やガレオ王は?」

「主催者という立場にはなっていただくが、参加は見送られるはずじゃ。

 そうでなければ、とんでもない大事になってしまうからのう」


 ……たしかに、まだあの方々に参加いただけるような段階ではない。


 二つの中立地帯を借りて行えるなら、二重の意味で好都合。

 予想していた以上に、できることが増えそうだ。

 特に……菓子作りにおいては、紅翠域(こうすいいき)は重要。

 以前、イチゴさんに話したフルーツ大福は、まちがいなく実現可能になる。

 恵環域の野菜を使った素朴かつヘルシーな菓子も、ウケは悪くないはず。


 ……楽しいな。


「おんしのその顔……頼もしいのう。うすら寒くはなるがな」


 ……どの顔だ?

 首を傾げた瞬間、大福さんは膝を叩いて立ちあがった。


「よし。さっそく手配に走らんとな!」

「……他の、輝一さんなどに相談は?」

「もちろん話はする。じゃが、それほど時間に余裕はないからの」


 たしかに。

 準備と並行してするのが効率的だ。

 となると……輝一さんたち用に、納得してもらえるような説明を用意しておく必要があるな。


 すると、大福さんが強めに僕の肩を叩いてきた。


「と、いうわけじゃ。風。もてなし役を頼んだぞ」


 満面の笑顔でこちらをのぞきこんでくる、岩人間こと大福さん。

 ……やはり、そうくるか。


 ◇◇◇


 予想どおり、輝一さんたちに話をしたときは、ちょっとした騒ぎになった。


「アントルメ騎士団の方々と交流会!?」

「形式を大幅に変えた野点!?」

「その後に宴会じゃと!?」

「……蜜森殿らしいですね」


 最後の達観した――いや、諦観したようなセリフは、みたらし団子さんのもの。

 とはいえ、最後は大福さんの「あちらを楽しませるのが目的じゃ」との鶴の一声で、実行することが正式に決まった。


 関係各所への協力の取りつけも、おおむねスムーズに済んだ。

 特に、イチゴさんはとてもやる気で、


「ヴィクトリウス様にお召し上がりいただけるのですね!? 僕の作ったフルーツ大福を!」


 と、目を輝かせていた。


 唯一、お茶をたてる役として候補に挙がった抹茶さんは、若干渋ってはいたけれど。


「そうじゃな……お主には、せがれの件で借りがある。喜んで協力しよう」


 ……顔は、あまり喜んではいなかった。

 息子の若抹茶さんが逮捕された件は、ずっと残りつづける事実だからな。

 跡取りとして養子を迎える件は、叶ったらしいけど。

 ……それが、「抹茶さん自身にとって」本当によかったことなのかは、わからない。


 そんなこんなで。

 場所と段取りを完璧に整えて、不測の事態にもすぐに対処できるように、連絡網を構築。

 やれることは、すべてやった。


 そうして――待ちに待った、交流会当日。


 餡月郷からほど近い、紅翠域の広場にて。

 アントルメ騎士団の五人が、すでにその場にいた。

 僕を加えた甘誠組の幹部六人が近づくと、すぐにショートケーキ団長が前に出る。


「こちらの提案に賛同してもらえた件、感謝する」

「こちらこそじゃ。素晴らしい提案を申し出てくれた件、礼を言う」


 ショートケーキ団長が差しだした手を、大福さんが一拍置いてから、握りかえす。

 離した後で、大福さんはその自身の手をまじまじと見つめていた。


「手を合わせるとは、ええもんじゃな」

「……そういえば、そちらではあまりやらないことだと聞いた」

「ああ。今日は、そういうこともたくさん体験できたら嬉しいのう」

「我もだ。楽しみにしている」


 ショートケーキ団長が、最後にこちらへ視線をむけた。

 反射的に会釈すると、彼はわずかに口角を上げていた。


 ……お手並み拝見、とでも言いたいのか。

 ああ。なにも問題はない。

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