火薬が弾ける音がした。
火薬が弾ける音がした。
……花火だ。
「さぁて……次は儂らの番じゃの。三葉」
「は。少々お待ちを」
今のは、第二試合開始の予鈴のようなものだったらしい。
長い髪を後ろで一つにまとめたみたらし団子さんが、大福さんに一言断って控え場所の奥に移動。
かけられている肖像画の前に立ち、合掌した。
「……あれは、だれですか?」
汗をぬぐって一息ついた粕谷さんに、聞いた。
「名は、橋本八重殿。先代局長の部下で、『薄紅の女傑』と呼ばれた剣豪だ。
単身で敵軍に突撃して、壊滅状態にしたと聞く」
……強いな。八つ橋。
あの地域を代表する名菓だからこそか。
「蜜森。儂らはどう動かす?」
腕を組んで自信満々の様子の大福さんが、こちらを見た。
「局長。そんなの聞くまでもないでしょうに。だれが相手でも勝ったも同然――」
「みたらし団子さん、前衛で攻撃役」
――瞬間、全員の動きがぴたりと止まった。
「……私は団子ではありません」
「そう呼ぶほうが識別効率が高いので」
渋い顔をする彼女を見つめていたら、むこうが目をそらした。
「待て待て待て。じゃあなにか? 局長は後衛で防御に回れと?」
「そうです」
「あ……っアホかぁ! 局長の力で押すのが定石じゃろ!」
吠えているどら焼きさんをスルーして、みたらし団子さんにむけて続ける。
「大福さんから離れすぎないように。機会がきたら、一気に攻撃を」
「……本当に、それでよろしいので? 私はてっきり支援役だと――」
「じゃあ、負けますね」
みたらし団子さんが、びしっと固まる。
こう言うのが、彼女に一番効く。
そして、残念だ、とばかりに首を振ってみせた。
場の空気が凍りつく中、大福さんが笑い声をあげた。
「ええのう。敵も敵じゃ。手の内の読みあいになって楽しめそうじゃな」
大福さんが、みたらし団子さんを振りかえる。
「参るぞ」
「……はっ!」
二人が戦場に入った。
同じく歩みよってくる敵に、近づいていく。
第二試合の相手は、クッキーさんとシュークリームさん。
前者は、小柄な体型でソフトモヒカン。見るからに機動力がある。
後者は、ゆるいパーマがかかったような薄茶色の髪が特徴で、メガネをかけたインテリ風の見た目。体型的にはバランス型か。
……相性70%、補完率42%。
クッキー生地で外側の守りを固めつつ、中身のカスタードクリームの爆発力で大ダメージを与える。
前衛と後衛でしっかり役割分担ができれば、崩されにくくなる。かなり強いペア。
当然だが、「しっかり連携ができる」前提があるなら。
「ぼーっとしているようで、よく見ているな」
声をかけられ、振りかえる。
羊羹さんが、こちらを見ていた。
「ああ言えば、団はお前の指示に従わざるをえなくなる」
「つまり……わざと、か?」
粕谷さんに問われ、「まぁ」と短く返した。
……みたらし団子は、大福とは合うけれど添え物にはなりえない。ただそれだけの話だ。
「第二試合――始めっ!」
始まった。
すぐにみたらし団子さんが前に出る。
その様子に、敵側の二人が一瞬驚いたように見えた。
「はぁっ!」
「……っなめんな!」
みたらし団子さんが、クッキーさんに木刀を振りおろす。
クッキーさんはそれを受けとめ、一瞬ためてから弾いた。
続けざまに、彼の反撃。
みたらし団子さんが下がり、大福さんがガードした。
素早く下がるクッキーさん。
想定どおりの動きだ。
けれど……妙だ。
クッキーだから防御面はもろいと思っていたけれど、そうでもない。
「シュリオ!」
入れ替わるようにシュークリームさんが前に出た。
一気にみたらし団子さんへと間合いをつめる。
……想定以上の早さ。こちらもか。
みたらし団子さんが一歩遅れて、下がりそこねた。
シュークリームさんの猛攻。
受けている側は体勢を崩しつつある。
そこに、大福さんが木刀を振って割りこんだ。
「お待ちしておりましたよ。あなたが来るのを」
「……ほう」
大福さんの攻撃。
シュークリームさんは、華麗な動きで次々とかわしていく。
「あいつ……! 局長の動きを読んでるのか!?」
立ちあがって叫ぶように言ったどら焼きさんの疑問に、首を傾げる。
……素のスピードが違うだけで、読む以前の問題だ。こうなるに決まっている。
大福さんの攻撃がやんだ隙をついて、シュークリームさんの猛攻が始まる。
もしこれで、みたらし団子さんがサポート役に回ってしまえば――負ける。
けれど、そうはならない。
みたらし団子さんは、「自分が前衛にまわされた意味」を理解している。
饅頭をまた一つ、食べる。
たらふく食べたと思ったが……これは、いくらでも食べられてしまうタイプのものだ。
体重管理をきちんとしないといけない。あとでチェックが必要だ。
「そろそろ終わりにしましょう」
「そうじゃな……おんしらを、な」
「っ!?」
大福さんが、素早く横移動。
みたらし団子さんの突き攻撃。
下がるシュークリームさん。
「クリス! 前に出なさい!」
「あぁ!? 命令すんじゃねぇよ! 俺はお前の部下じゃねぇ!」
クッキーさんが前に出る。
ターゲットに決めたのは、みたらし団子さん。
……かかったな。
「ちが……っ」
制止しようとするシュークリームさんだが――間に合わない。
クッキーさんの頭上へ、大福さんの木刀が振りおろされる。
そのまま、地に伏す。
……砕けてからも強いはずだけど、あの人の圧には耐えられない。
「うおおお! さすが局長っ!」
どら焼きさんが立ちあがり、腕を上げて歓喜の声を上げた。
……よく見えない。
あんこの頭をつまんで、どら焼きさんめがけて放りなげる。
彼が、「ぎゃっ!? なんじゃ!?」と言ってもがいている隙に、前に出た。
「三葉!」
「はっ!」
大福さんが、木刀を横にして両手で持つ。
その上にみたらし団子さんが飛びのると、空へと打ちあげた。
大福さんはすぐに振りかえり、シュークリームさんの攻撃を受けとめる。
「その手は食いませんよ!」
シュークリームさんが距離を取る。
それを大福さんが追いかける。
……面白い勝ち方をするんだな。
「彼女を逃がしたつもりですか? それとも、空から援護でも?」
「そんなわけがなかろうて。おんし……三葉が今どこにおるか、わかっておるのか?」
シュークリームさんが、上をむく。
もう遅い。
みたらし団子さんは、すでに背後にいた。
次の瞬間――
「なっ……!?」
大福さんの圧力により、体勢は崩れている。
そこに、二人の同時攻撃。
「……っ不覚……!」
木刀がへし折れる。
シュークリームさんの体が吹きとんだ。
壁にあたってうつ伏せになり、倒れる。
勝負あり。
「……なんだ?」
どら焼きさんのところから戻ってきたあんこ。
肩によじのぼってきて、じっとりと不満げな目をむけていた。
……人のような反応をする。
かなり高い知能を有しているのは、まちがいない。
「第二試合、決着! 勝者――甘誠組!」
審判の号令とともに、再び和菓子側から大きな歓声が上がった。
洋菓子側は、もはや葬式モードとばかりに唖然としている様子だった。
「か……勝った……勝ったぁぁ! わしらの勝ち! わしらの勝ちじゃあ! なぁ、おい!」
興奮したどら焼きさんが、僕の両手に肩を置いて上下に揺さぶってきた。
「……まだもう一試合、残っていますが」
あなたの試合が。
そう意味をこめて言えば、途端に「あ……」と言って、青い顔で後ずさりするどら焼きさん。
まぁでも、たしかに勝ちは勝ちだ。
三試合のうち、すでに二試合をものにしているのだから。
前方を見れば、戦場に駆けつけたスタッフが敗者側の救護で慌ただしくしている。
それを尻目に、大福さんとみたらし団子さんがこちらに戻ってくる。
みたらし団子さんの身軽さは、戦闘以外でも重宝されているのがよくわかった。
一方の大福さんの火力は、予想以上。
個々の爆発力の高さにかかっている単騎戦にあてたくなるのも、無理はない。
けれど、この大会は組みあわせが勝敗に左右する。
これでいい。
あとは、最後の一人――ヴィクトリウス・ショルテンハイム氏がどう攻めてくるかによる。
「戻ったぞ」
「さすがです。局長。団殿」
「お見事でした」
大福さんとみたらし団子さんが戻ってくると、粕谷さんと羊羹さんが立ちあがって出迎えた。
満足そうに笑顔を浮かべている大福さん。
その一方で、みたらし団子さんはほっとしたような、穏やかな表情でうなずいた。
……緊張がほどけた様子。
女中が運んできたお茶と手ぬぐいを、二人に差しだした。
「おお。礼を言うぞ、蜜森。おんしが三葉と組ませてくれたおかげで勝てた」
「いえ。すべては局長のおかげです」
「なにを言うか。
おんしが蜜森の指示を守って、支援に回らず攻撃しつづけたのがよかったんじゃ。のう?」
「……大福さんのおっしゃるとおりです」
みたらし団子さんを見上げると、彼女は若干戸惑い、体を横にむけて目をそらした。
序盤、大福さんがシュークリームさんの猛攻を肩代わりしたとき。
我慢してひたすら守りに徹していた――一撃を加えるチャンスを狙っていたのは、大正解だった。
その判断力は、さすがと言わざるをえない。踏んできた場数が違う。
「弥太郎」
どこかへ行こうとしていたどら焼きさん。
手ぬぐいで汗を拭いている大福さんに呼ばれ、びくっと体を震わせた。
「そう気負うな。おんしらしく戦えばええんじゃ。くれぐれも無茶はするなよ」
「……はい」
今戦ってきたばかりの大福よりも、大量の冷や汗をかいている。
……単騎戦は、変数が多い。試合開始前の精神状態の補正が必要不可欠。
そのための材料を探していると、腕章をつけたスタッフが一人、駆けよってきた。
「失礼いたします。最後の試合、行う意思はあるか確認をしにまいりました」
「…………」
全員の視線が、どら焼きさんにむけられる。
「……っや、やる! やるに決まっとるじゃろうが!」
「かしこまりました。では、お支度を」
一礼して、スタッフが去っていく。
汗が止まらない様子のどら焼きさんが、踵を返した。
「ちょっと……厠へ」
ふらふらとおぼつかない足取りの彼の背中を、目で追う。
――そのとき。
(おばあ……っ! わしを置いていかんでくれ! 一人にしないでくれ!)
どら焼きさんに似た、しかし子どものような高い声。
……デジャブ。




