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甘味戦争の軍師 ~社畜の僕、相性が見えるだけで最強編成を作れるけど、この戦争ちょっとおかしくないか?~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第一章 お菓子の戦争

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火薬が弾ける音がした。

 火薬が弾ける音がした。

 ……花火だ。


「さぁて……次は儂らの番じゃの。三葉」

「は。少々お待ちを」


 今のは、第二試合開始の予鈴のようなものだったらしい。


 長い髪を後ろで一つにまとめたみたらし団子さんが、大福さんに一言断って控え場所の奥に移動。

 かけられている肖像画の前に立ち、合掌した。


「……あれは、だれですか?」


 汗をぬぐって一息ついた粕谷さんに、聞いた。


「名は、橋本八重(はしもとやえ)殿。先代局長の部下で、『薄紅の女傑』と呼ばれた剣豪だ。

 単身で敵軍に突撃して、壊滅状態にしたと聞く」


 ……強いな。八つ橋。

 あの地域を代表する名菓だからこそか。


「蜜森。儂らはどう動かす?」


 腕を組んで自信満々の様子の大福さんが、こちらを見た。


「局長。そんなの聞くまでもないでしょうに。だれが相手でも勝ったも同然――」

「みたらし団子さん、前衛で攻撃役」


 ――瞬間、全員の動きがぴたりと止まった。


「……私は団子ではありません」

「そう呼ぶほうが識別効率が高いので」


 渋い顔をする彼女を見つめていたら、むこうが目をそらした。


「待て待て待て。じゃあなにか? 局長は後衛で防御に回れと?」

「そうです」

「あ……っアホかぁ! 局長の力で押すのが定石じゃろ!」


 吠えているどら焼きさんをスルーして、みたらし団子さんにむけて続ける。


「大福さんから離れすぎないように。機会がきたら、一気に攻撃を」

「……本当に、それでよろしいので? 私はてっきり支援役だと――」

「じゃあ、負けますね」


 みたらし団子さんが、びしっと固まる。

 こう言うのが、彼女に一番効く。


 そして、残念だ、とばかりに首を振ってみせた。


 場の空気が凍りつく中、大福さんが笑い声をあげた。


「ええのう。敵も敵じゃ。手の内の読みあいになって楽しめそうじゃな」


 大福さんが、みたらし団子さんを振りかえる。


「参るぞ」

「……はっ!」


 二人が戦場に入った。

 同じく歩みよってくる敵に、近づいていく。


 第二試合の相手は、クッキーさんとシュークリームさん。

 前者は、小柄な体型でソフトモヒカン。見るからに機動力がある。

 後者は、ゆるいパーマがかかったような薄茶色の髪が特徴で、メガネをかけたインテリ風の見た目。体型的にはバランス型か。


 ……相性70%、補完率42%。


 クッキー生地で外側の守りを固めつつ、中身のカスタードクリームの爆発力で大ダメージを与える。

 前衛と後衛でしっかり役割分担ができれば、崩されにくくなる。かなり強いペア。

 当然だが、「しっかり連携ができる」前提があるなら。


「ぼーっとしているようで、よく見ているな」


 声をかけられ、振りかえる。

 羊羹さんが、こちらを見ていた。


「ああ言えば、団はお前の指示に従わざるをえなくなる」

「つまり……わざと、か?」


 粕谷さんに問われ、「まぁ」と短く返した。

 ……みたらし団子は、大福とは合うけれど添え物にはなりえない。ただそれだけの話だ。


「第二試合――始めっ!」


 始まった。

 すぐにみたらし団子さんが前に出る。

 その様子に、敵側の二人が一瞬驚いたように見えた。


「はぁっ!」

「……っなめんな!」


 みたらし団子さんが、クッキーさんに木刀を振りおろす。

 クッキーさんはそれを受けとめ、一瞬ためてから弾いた。

 続けざまに、彼の反撃。

 みたらし団子さんが下がり、大福さんがガードした。

 素早く下がるクッキーさん。


 想定どおりの動きだ。

 けれど……妙だ。

 クッキーだから防御面はもろいと思っていたけれど、そうでもない。


「シュリオ!」


 入れ替わるようにシュークリームさんが前に出た。

 一気にみたらし団子さんへと間合いをつめる。


 ……想定以上の早さ。こちらもか。


 みたらし団子さんが一歩遅れて、下がりそこねた。

 シュークリームさんの猛攻。

 受けている側は体勢を崩しつつある。

 そこに、大福さんが木刀を振って割りこんだ。


「お待ちしておりましたよ。あなたが来るのを」

「……ほう」


 大福さんの攻撃。

 シュークリームさんは、華麗な動きで次々とかわしていく。


「あいつ……! 局長の動きを読んでるのか!?」


 立ちあがって叫ぶように言ったどら焼きさんの疑問に、首を傾げる。

 ……素のスピードが違うだけで、読む以前の問題だ。こうなるに決まっている。


 大福さんの攻撃がやんだ隙をついて、シュークリームさんの猛攻が始まる。


 もしこれで、みたらし団子さんがサポート役に回ってしまえば――負ける。

 けれど、そうはならない。

 みたらし団子さんは、「自分が前衛にまわされた意味」を理解している。


 饅頭をまた一つ、食べる。

 たらふく食べたと思ったが……これは、いくらでも食べられてしまうタイプのものだ。

 体重管理をきちんとしないといけない。あとでチェックが必要だ。


「そろそろ終わりにしましょう」

「そうじゃな……おんしらを、な」

「っ!?」


 大福さんが、素早く横移動。

 みたらし団子さんの突き攻撃。

 下がるシュークリームさん。


「クリス! 前に出なさい!」

「あぁ!? 命令すんじゃねぇよ! 俺はお前の部下じゃねぇ!」


 クッキーさんが前に出る。

 ターゲットに決めたのは、みたらし団子さん。


 ……かかったな。


「ちが……っ」


 制止しようとするシュークリームさんだが――間に合わない。

 クッキーさんの頭上へ、大福さんの木刀が振りおろされる。

 そのまま、地に伏す。


 ……砕けてからも強いはずだけど、あの人の圧には耐えられない。


「うおおお! さすが局長っ!」


 どら焼きさんが立ちあがり、腕を上げて歓喜の声を上げた。

 ……よく見えない。


 あんこの頭をつまんで、どら焼きさんめがけて放りなげる。

 彼が、「ぎゃっ!? なんじゃ!?」と言ってもがいている隙に、前に出た。


「三葉!」

「はっ!」


 大福さんが、木刀を横にして両手で持つ。

 その上にみたらし団子さんが飛びのると、空へと打ちあげた。

 大福さんはすぐに振りかえり、シュークリームさんの攻撃を受けとめる。


「その手は食いませんよ!」


 シュークリームさんが距離を取る。

 それを大福さんが追いかける。


 ……面白い勝ち方をするんだな。


「彼女を逃がしたつもりですか? それとも、空から援護でも?」

「そんなわけがなかろうて。おんし……三葉が今どこにおるか、わかっておるのか?」


 シュークリームさんが、上をむく。

 もう遅い。


 みたらし団子さんは、すでに背後にいた。

 次の瞬間――


「なっ……!?」


 大福さんの圧力により、体勢は崩れている。

 そこに、二人の同時攻撃。


「……っ不覚……!」


 木刀がへし折れる。

 シュークリームさんの体が吹きとんだ。

 壁にあたってうつ伏せになり、倒れる。


 勝負あり。


「……なんだ?」


 どら焼きさんのところから戻ってきたあんこ。

 肩によじのぼってきて、じっとりと不満げな目をむけていた。


 ……人のような反応をする。

 かなり高い知能を有しているのは、まちがいない。


「第二試合、決着! 勝者――甘誠組(かんせいぐみ)!」


 審判の号令とともに、再び和菓子側から大きな歓声が上がった。

 洋菓子側は、もはや葬式モードとばかりに唖然としている様子だった。


「か……勝った……勝ったぁぁ! わしらの勝ち! わしらの勝ちじゃあ! なぁ、おい!」


 興奮したどら焼きさんが、僕の両手に肩を置いて上下に揺さぶってきた。


「……まだもう一試合、残っていますが」


 あなたの試合が。

 そう意味をこめて言えば、途端に「あ……」と言って、青い顔で後ずさりするどら焼きさん。


 まぁでも、たしかに勝ちは勝ちだ。

 三試合のうち、すでに二試合をものにしているのだから。


 前方を見れば、戦場に駆けつけたスタッフが敗者側の救護で慌ただしくしている。

 それを尻目に、大福さんとみたらし団子さんがこちらに戻ってくる。


 みたらし団子さんの身軽さは、戦闘以外でも重宝されているのがよくわかった。

 一方の大福さんの火力は、予想以上。

 個々の爆発力の高さにかかっている単騎戦にあてたくなるのも、無理はない。


 けれど、この大会は組みあわせが勝敗に左右する。

 これでいい。


 あとは、最後の一人――ヴィクトリウス・ショルテンハイム氏がどう攻めてくるかによる。


「戻ったぞ」

「さすがです。局長。団殿」

「お見事でした」


 大福さんとみたらし団子さんが戻ってくると、粕谷さんと羊羹さんが立ちあがって出迎えた。

 満足そうに笑顔を浮かべている大福さん。

 その一方で、みたらし団子さんはほっとしたような、穏やかな表情でうなずいた。


 ……緊張がほどけた様子。

 女中が運んできたお茶と手ぬぐいを、二人に差しだした。


「おお。礼を言うぞ、蜜森。おんしが三葉と組ませてくれたおかげで勝てた」

「いえ。すべては局長のおかげです」

「なにを言うか。

 おんしが蜜森の指示を守って、支援に回らず攻撃しつづけたのがよかったんじゃ。のう?」

「……大福さんのおっしゃるとおりです」


 みたらし団子さんを見上げると、彼女は若干戸惑い、体を横にむけて目をそらした。


 序盤、大福さんがシュークリームさんの猛攻を肩代わりしたとき。

 我慢してひたすら守りに徹していた――一撃を加えるチャンスを狙っていたのは、大正解だった。

 その判断力は、さすがと言わざるをえない。踏んできた場数が違う。


「弥太郎」


 どこかへ行こうとしていたどら焼きさん。

 手ぬぐいで汗を拭いている大福さんに呼ばれ、びくっと体を震わせた。


「そう気負うな。おんしらしく戦えばええんじゃ。くれぐれも無茶はするなよ」

「……はい」


 今戦ってきたばかりの大福よりも、大量の冷や汗をかいている。


 ……単騎戦は、変数が多い。試合開始前の精神状態の補正が必要不可欠。

 そのための材料を探していると、腕章をつけたスタッフが一人、駆けよってきた。


「失礼いたします。最後の試合、行う意思はあるか確認をしにまいりました」

「…………」


 全員の視線が、どら焼きさんにむけられる。


「……っや、やる! やるに決まっとるじゃろうが!」

「かしこまりました。では、お支度を」


 一礼して、スタッフが去っていく。


 汗が止まらない様子のどら焼きさんが、踵を返した。


「ちょっと……厠へ」


 ふらふらとおぼつかない足取りの彼の背中を、目で追う。

 ――そのとき。



(おばあ……っ! わしを置いていかんでくれ! 一人にしないでくれ!)



 どら焼きさんに似た、しかし子どものような高い声。

 ……デジャブ。

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