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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第七章 あるべき場所へ

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当然といえば当然、だな。

 当然といえば当然、だな。


「ラウニー・ノワールへは、報酬も支払われていた模様です。

 彼が所属していた、後援会の活動に必要な物資として、仕入れていたものの中に紛れこませていたと発覚しました」


 それは、想定どおり。


「現在、フェブル氏は牢の中です。

 ただ、精神状態が非常に不安定で、未だに自白を得られる状態ではありません」


 ……それは、正直想定外。


「なんじゃ。それじゃあ、罰を与えることもままならんじゃろ」

「それについては、保留とするしかありません。

 かなりの老齢のため、残りの一生を牢の中ですごすことになるでしょう」


 どら焼きさんが、面白くなさそうに「けっ」と小さくつぶやいていた。


 ……仕方ない。いや、それで問題ない。

 すでにフェーブさんは、耐えがたい罰を受けているから。


 続く報告を聞きながしつつ、お茶を飲んだ。


「――と、なった次第です。

 以上でこちらからの報告を終わります」


 シュークリームさんが一礼して、着席した。


「相分かった。聞いた内容は、上に報告させてもらう。では――」

「他に、もう一つ話しておくべきことがある」


 大福さんのまとめに入ろうとした言葉を遮って、ショートケーキ団長が割りこんだ。


 ……本気だな。


 大福さんだけでなく、他の僕以外の全員が、彼を不思議そうに見ていた。


「今回召集をかけた目的は、むしろこちらのほうがメインだ」

「主要、もしくは重要という意味です」


 聞かれる前に、解説。


 全員が、ショートケーキ団長の言葉を待っていた。


「我が、ミツモリと手を組むきっかけになった部分について。

 この場を借りて、皆に話しておきたい」

「ほう? それは、ぜひとも聞いておきたいが」


 大福さんが、ちらりとこちらを見る。


 ……このクッキーのつぶつぶは、紅茶の茶葉だったか。美味い。

 あんこには不評だったけど。


「それは、我の最大の秘密を知りながらも、他に決して明かさなかった。

 その信頼があったからだ」

「最大の秘密……?」


 そこで、ショートケーキ団長以外の全員の視線が、僕にむけられた。


 お茶を一口。

 ……すこし渋すぎるな。


「おいコラ……! いい加減にしろよ。

 お前がショルテンハイム公の信頼を得ていたってことだけで腹立つってのに」

「……いい加減に、とは?」

「食うのをやめろっつってんだよ!」

「僕はただ必要だからしているだけです。これから話すこと、起こることのために」


 わざと、すこしだけ音が鳴るように湯飲みを置く。


 いら立っていた様子のクッキーさんは、戸惑った様子で眉を寄せた。


 ショートケーキ団長のほうへ視線をむけてみると、彼がかすかにうなずいた。

 ……僕の口から話してほしい、と。


「……僕が知ったのは、ショートケーキ団長の出自についてです」

「おまっ――」

「許可は得ています」


 呼び方について指摘しようとしたクッキーさんの言葉を、遮る。


 ……事前に言っておいてくれていたら、よかったのに。

 非効率だな。


「出自もなにも……ヴィクトリウス様のご両親は、どちらも言わずと知れたお方ですよ。

 お父上は、かの有名な先代団長スコルティウス様。

 お母上は、メローリアの名門貴族の出です。

 それをあなたが知ったところで――」

「違う」


 シュークリームさんが語る表向きの話を、ショートケーキ団長が止めた。

 顔の前で、手を組んだ格好をしている。

 一度目を閉じ、間を置いてからその場にいた全員を見回した。


「我が母の名は――


 ハシモト・ヤエという」


「……は?」


 その問いかける短い声は、だれの声だったかはわからなかった。

 とにかく、その場にいた全員が、目を見開いて固まっていた。


 沈黙が流れる。


「……っご、ご冗談を! なにをおっしゃるのですか!」


 先に言葉らしい言葉を発したのは、クッキーさん。

 立ちあがり、冷や汗をかきながらショートケーキ団長を見ている。


「我が、そのような冗談を言うように見えるか」

「……っ!?」


 クッキーさんは、一歩後ろに下がって、口をパクパクさせていた。


「あ、あのぅ……ハシモトって、餡月郷(あんげつきょう)の方っぽい名前です、けど……?」

「そうだ」

「そ、そうだ、って……!」


 遠慮がちに質問してきたプリンさんは、即答されて唖然としていた。


 ショートケーキ団長は、落ちついた様子でこちら――甘誠組(かんせいぐみ)の面々を見ている。


「メローリアの騎士団団長が……橋本様の、お子だと……?」


 みたらし団子さんが、動揺を隠せない様子で言った。


「……にわかには信じられん。

 つまり、おんしは我ら餡月郷とめろー……りあ、の混血ということか?」

「いかにも」


 即答する様子に、さすがの大福さんまでも言葉を失っていた。


 かつて、「薄紅の女傑」と呼ばれて伝説化されていた女武士。

 その人が、メローリアの人と結ばれて子を産むなんて最大のタブーを犯していた。

 しかもその子が、ショートケーキ団長。


 ……改めて言葉にしてみると、受ける衝撃の度合いがよくわかる。


「お、お待ちください……!

 では、どうして、どのようにして軍師はそれを知ったのですか!?」

「そうだよ。メローリアの情報を知りつくしてるシュリオが知らなかったのに。

 なんであんたが知ってんの? どこで知ったのさ」


 アイスクリームさんが、シュークリームさんの言葉にかぶせて、僕を指さして聞いてきた。


 ……想定内。


 ガーデンで、ショートケーキ団長がこの件を僕に予告した理由。

 それは、その質問が出る可能性が高いと予測していたから。


 全員の視線が僕に集まる中、すこし間を置いてから、シュークリームさんを見て口を開いた。


「……あなたは、餡月郷のだれかに嘘をつかれたのですか?」

「は?」

「幼いあなたが、空にむかって叫んでいたところを視ました。

 やはりあなたは嘘つきだ、と」


 瞬間、シュークリームさんが息をのんだ。


「……幼いってなに? あんた、シュリオの子どもの頃を知ってんの?」

「知りません。僕はつい三か月ほど前にこの国にきたばかりです」

「はぁ……?」


 アイスクリームさんの頭上に、クエスチョンマークがいくつも浮かんでいるかのように見える。

 他の人たちも、心境的には同じようなものか。


「それが……お前の力、ということなのか? 風」


 輝一さんが、自信なさげに小さめの声で聞いてきた。


 うなずいてから、


「僕自身、はっきりとしたことは言えません。

 発現したのは、この国にきて間もない頃だったので」

「み、視えるとはなんじゃ!? なにが視えるっちゅうんじゃ!?」


 どら焼きさんが、自分の分のお茶の湯飲みを倒しそうになるほどの勢いで、拳をテーブルに叩きつけた。


 落ちつけ、とそれをなだめている羊羹さんも、額から冷や汗を流していた。


「その人の、過去のある場面です。

 ……推測ですが、強く感情が揺さぶられて心に残っていたシーン――場面ではないかと」

「か、過去ぉ……?」


 それを聞いたプリンさんが、口元を引きつらせていた。


 ……そうだ。

 彼女のも視たけれど、どこのどんなシーンかはわかりづらかった。

 ここで聞けたらいいんだけど。


「人の過去が、視えるだって?

 ……ばかか! んなもん信じられるか!」


 クッキーさんが、先程のどら焼きさんと同じように拳を叩きつける。


「けど……もし本当なら、納得できるよね。団長の出生の秘密を知れた理由としては」

「アイザック!? お前、こいつの話を信じるのかよ!?」

「だから、さっきも言ったじゃん。

 シュリオでさえ知らなかったことを、どうやって甘誠組の軍師が知ったのさ?

 他に説明できる?」

「それは、どっかから情報がもれ――てるわけなんて、ねぇし……」


 クッキーさんの返答は、語尾にいくにつれて弱々しくなっていった。


 頭をかきむしるクッキーさんを見て、アイスクリームさんが嘆息する。


「……じゃあさ。この場でやってみせれば? そしたらみんな信じるんじゃない?」

「……この場で?」

「そう。できないの?

 ……まさか、場所とか状況を選ぶ能力です、なんてめんどくさいこと言わないよね?」

「……それはないはずです」

「じゃあ、やってみせてよ。俺でいいから。

 俺とソフィアと、ある人しか知らない秘密があるんだ。それがわかれば、信じてあげる」

「秘密? なんだよそれ」

「言えるわけないでしょ、ばかなの?」

「あ!?」


 アイスクリームさんに食ってかかろうとしたクッキーさんを、シュークリームさんが腕を前に出して引かせた。


「……できるのか」


 心配そうに眉を垂らした輝一さんが、聞いてくる。


「……やってみますが。

 あなたのおっしゃったその秘密が、必ずしもわかるとはかぎりません。

 視るものは、僕の意思では決められないので」

「なに、その力。不便すぎない?」

「望んで得た力ではないので」

「はぁ……まぁ、いいけど。とりあえず、やってみなよ」

「…………」


 ……アイスクリームさんは、心の中ではまったくと言っていいほど信じていない。

 でなければ、「自分の秘密を視てみろ」なんて、言うはずがないから。


 お言葉に甘えて、試してみるか。

 あんこが肩の上に乗ったのを感じながら、深呼吸を一回。

 意識を、アイスクリームさんに集中させる。


 ――瞬間。



(ふざけるな! 子どもなんて、親戚からでももらってくればいい!

 だれが離縁なんてするもんか!

 俺には……! お前しかいないんだよ!)

(……っ旦那様……!)



 アイスクリームさんが、妻のソフィアさん――ソフトクリームさんを、強く抱きしめる姿。

 ソフトクリームさんも、泣きながら彼にすがりつくように、腕を背中に回していた。


 ……なんだ?


 墨を吐いたあんこの口を押さえつつ、首を傾げる。


 子どもを、親戚からもらってくる?

 離縁?

 二人以外では、ある人しか知らないこと。


 ……そうか。


「その、ご夫婦以外で知っているお方というのは……医者ですか?」

「……!」


 それまで、余裕そうにしていたアイスクリームさんが、目を見開いて体をびくっと震わせた。


 ……図星。

 あの過去でまちがいなかったらしい。


「……わかった。もういいよ。なにも言うな」

「もちろんです」


 アイスクリームさんに鋭い目をむけられて言われたので、すぐに頭を下げて返事。

 その後、彼はショートケーキ団長のほうをむいて、一礼していた。


「おい! どういうことだよ!? まさかお前、こいつの――」

「黙れ」


 アイスクリームさんに低い声で短く言われたクッキーさんは、ぐっと声を詰まらせていた。


 ……これでほぼ、メローリア側は問題ないと言える。

 あとは、甘誠組のほう。


「おんしは……その力で、儂らの秘密も知ったのか」


 神妙な顔をした大福さんが、言った。


「……ここにいる全員を視たわけではありません。

 皆さんで言えば、輝一さんとどら焼きさんのお二人だけです」

「は!? わしもか!?」


 聞きかえしてくるどら焼きさんに、うなずいた。

 一方の輝一さんは、どこか落ちついていた。


「蜜森殿、教えてください。

 どのような経緯で、橋本様はメローリアへ?

 アントルメ騎士団団長を産むにいたったわけは?」


 みたらし団子さんが、すこし身を乗りだして聞いてきた。


 説明する前に、ショートケーキ団長を見る。

 彼は……どこか遠くを見るような、虚ろな目をしていた。

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