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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第六章 暗部

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さっきから、後をつけてきている人がいる。

 さっきから、後をつけてきている人がいる。


 数歩歩いて、振りかえった。

 そこには――


「…………」


 見覚えのある顔。

 この人は……こんぺいとうさん。

 輝一さんの部下だ。


 じっと見ていると、口元を引きつらせながらも無理して表情を作っていた。


 ……笑顔、へたくそか。

 あまり触れないほうがよさそうだな。

 ただの、今日限定の護衛役だから。


 甘味通りに入り、わんこそば形式の団子屋、花見屋に入る。

 餡団子を注文し、頃合いを見て給仕にストップをかける。

 うち一本は、「これは厳しいな……」と、わざとらしく言って、こんぺいとうさんに食べてもらった。


 食べすぎてソフトボール大になったあんこを持って、立ちあがる。

 代金を払いおえたところで、なぜかこんぺいとうさんが前に出てきた。


「蜜森様!……です、よねっ!?」


 声をかけてきたのは、女性だった。


 無害そうだと感じ、こんぺいとうさんの肩に手を置いて、下がるよう指示。


「……どちら様ですか」

「お初にお目にかかります! 私、市田ケイゴの妻、アイカと申します!」


 その女性は、人懐っこい笑みを浮かべて頭を下げた。


 ……イチゴさんの妻? 結婚していたのか。

 そばかすがあって、愛嬌のある明るい女性だ。

 名前は、市田アイカ。


 ……アイカ?


「……つかぬことをおうかがいしますが、旧姓を教えていただくわけには?」

「え? あ、はい。大丈夫ですよ! 栃谷(とちたに)といいます」


 栃谷アイカ。


 ……なるほど。品種名だったか。

 さつまいもさんもそうだったし、野菜や果物モチーフの人はそういう傾向がある可能性が高いな。


「……なにかご用でしょうか」

「はい! 夫から、蜜森様宛てにお手紙を預かりしまして。配達ついでに寄らせていただきました!」


 彼女はそう言って、両手で茶封筒を差しだしてきた。


 ……茶封筒。

 中を開けて、確認。


 思ったとおりだった。

 ショートケーキ団長からの、呼びだし状だ。


 曰く……紅翠域(こうすいいき)のイチゴさんの店までいけば、あとは彼が案内してくれる、とのことだ。


 ……あれから、まだ一週間もたっていない。

 もうつかめたのか?

 なにか問題があった可能性も……否定できない。


 手紙を見つめながら考えていると、ニコニコした顔でそこに立ったままのアイカさんがいることに気づいた。


「……ありがとうございます。たしかに受けとりました」

「はい! それじゃ、私はこれで!」


 再度お礼を言いつつ、アイカさんを見送る。


 ……さて、一旦屯所に行って大福さんかだれかに一言断って――


「蜜森様ぁ! 忘れておりましたぁー!」


 アイカさんの元気な声が響いて、考えが中断される。

 駆けもどってきた彼女の手には、パック詰めされたイチゴがあった。


「これ! よかったらどうぞ!」

「……いただいてもよろしいのですか?」

「はい! それも夫からです。

 特別おいしいのを選んだのでよかったら、と申しておりました!」

「そうですか。では……ありがたく」

「はい! お邪魔しましたぁ!」


 元気よく手をぶんぶん振って、去っていくアイカさんを見送る。

 ……商売人だから、必然的に声が明るくて大きくなるものなのか。


 もらったイチゴを見る。

 まるで贈答用のような整った形の、鮮やかに赤く輝くイチゴたち。

 消化が済んで元のサイズに戻ったあんこが、肩の上からじっと見ていた。


 ……そうだ。


「こんぺいとうさん」

「はっ」

「この通りに、餡子が柔らかめですこし大きめの大福を売っている店はありますか」

「餡子が柔らかめ……で、大きめの大福……?」


 こんぺいとうさんは、まだ食べるのか、とでも言いたげに困惑して、瞬きを数回繰りかえしていた。

 ……僕じゃない。


 ◇◇◇


 屯所にいた大福さんの部下に言伝を頼んで、その足で紅翠域にむかった。


 検問所を通る関係で、こんぺいとうさんに先導を頼むつもりだった。

 が、その必要はなく、すんなり通してもらえた。


「市田くんより話は聞いとります。蜜森さんには大変お世話になったから、通してあげてほしいと。

 ささ、どうぞどうぞ」


 客人が来たかのように、毛深い腕の職員が笑顔で招きいれてくれた。

 イチゴさんの手配のおかげ、か。


 ……引け目を感じすぎていやしないか、あの人。


 ちゃんと手順を踏めば通れなくもないのだから、ここまでする必要はない。

 あの人の性格上、ちょくちょくイチゴを送ってよこしてくる……なんてことまでしかねない。

 会ったら、まず一言伝えておくべきだな。


 市場を通って、目当てのイチゴさんの店へとむかう。


「……人ごみで動きづらいかと思います。ご容赦ください」

「ご心配なく。お気になさらずお進みください」


 こんぺいとうさんから頼もしい言葉を受けて、人ごみの中に突入する。


「蜜森様!」


 まもなく、店に近づいたところでイチゴさんがすぐ見つけてくれて、手をあげて振ってきた。

 なんとか人をかきわけで、進んでいく。


「すみません。ここまでご足労いただくなんて。本当ならお迎えに――」

「イチゴさん」

「え? はい。なんでしょう」


 すまなそうに眉を垂らして近寄ってきたイチゴさんの言葉を遮り、言った。


「僕には、この先もあなたの協力が必要になるときがあると思います」

「はい。もちろんその際はできるかぎり――いえ。あらゆる手を使って、なんとしてでもお力になります!」

「いいえ。『応じられる範囲で』お願いします」

「え?……い、いえ。そんなわけには」

「そのほうが、僕としては一番助かります」


 再び遮って言いながら、抱えていた包みから一つ、中に入れていたものを取りだした。

 先程、アイカさんから受けとったイチゴで作った、急ごしらえのイチゴ大福。

 ……市販の大福にイチゴを詰めただけの、セルフイチゴ大福だけど。


 懐紙に包んで、それをイチゴさんの手の上に乗せた。


「いただいたイチゴを包んだ大福です。どうぞお召し上がりください」

「い……いえ、そんな! 僕がいただくわけには!」

「なぜですか」

「なぜって……っだって、僕はあなたを……!」

「おいしいものは、分けあって食べるほうが美味いに決まっています。あげるばかりでは意味がありません」


 ……いい加減、伝われ。

 そう思いながら、うろたえているイチゴさんの目を、じっと見つめた。


 そのうち、言葉を失ったイチゴさんの顔が、泣きそうにゆがんだ。

 ぐっと歯を食いしばって、こらえている。


「……ありがとう、ございます。蜜森さん。そうさせていただきます……!」


 イチゴさんは、手の上のイチゴ大福を掲げるようにして、頭を下げた。


 ……様付けから、元のさん付け呼びに戻った。

 わかってくれたようだ。


 そして、イチゴさんは手の上の大福をまじまじと観察しだした。


「本当にこの中にイチゴが? 大福に入れるなんて……考えたこともなかったな。美味しそうですね」

「……他にも、オレンジとかブドウとか、いろいろ入れても美味しいですよ」

「そうなんですか。今度、うちでも試してみようかなぁ。

 うまくいけば、餡月郷(あんげつきょう)のお店にも提案できるかもしれませんし」

「それはぜひ。あなたの手で広めてください」

「……はい!」


 イチゴさんは、満面の笑みで返事をした。

 やっと、心から笑えているように感じられた。


 ……よし。ここはこれで、解決と。


「それで」

「はい。ご案内しますね。すこしお待ちください。

 おい、これ預かって。いや、違う食べるな。だめだって!……ごめんな! あとで同じの作ってやるから!」


 イチゴさんは、一旦店の中に戻って、かなり下の弟らしき子どもにイチゴ大福を託していた。

 ……あの様子じゃ、彼が帰ったときにはなくなっている可能性大だけど。


「お待たせしました。こちらへどうぞ」


 戻ってきたイチゴさんに言われ、一旦こんぺいとうさんのほうを振りかえってアイコンタクトしてから、歩きだした。


 しばらく歩いていくと、人気がまばらな通りに入った。


「ここは、宿泊施設が立ちならぶエリアになります」


 イチゴさんの説明を聞きつつ、辺りを見回す。


 客引きなのか、男性の腕にまとわりついている妖艶な女性の姿もある。

 ……ただの宿泊施設ではない宿泊施設もあるようだ。


 奥へと進み、ある重厚な扉がついたホテルの前で止まる。

 中に入り、階段を上がって、三階へ。

 そこには、扉が――部屋が、一つしかなかった。


 開けて入ると、そこには……


「待ちわびたぞ」


 すでに、ショートケーキ団長がいた。


 赤いじゅうたんが敷かれた部屋。

 彼は、その窓際に置かれたソファに座って足を組み、ティーカップを持った状態でこちらを振りむいた。


「ホテル側には話はつけてあります。どうぞごゆっくり」


 イチゴさんはそう言って、にこやかな笑顔で一礼して去っていった。


「……その者は?」


 ショートケーキ団長が、僕の背後にいるこんぺいとうさんに鋭い目をむけた。

 その威圧感は、こんぺいとうさんが思わず腰の刀に手をかけるほどだった。


「……僕の護衛役です。

 先日の帰り道で襲われた件を報告したら、大福さんがつけてくださったのです」

「なるほど。それは妥当な判断だ」

「離れた位置で待機していただくので、どうか――」

「いえ、軍師様。私は外で待機しております。なにかあればすぐ駆けつけますので、ご安心を」

「……助かります」


 こちらが返事をすると、こんぺいとうさんは僕とショートケーキ団長に順番に頭を下げてあいさつし、部屋から出ていった。


「……今の者。先日そなたに付き添っていた副長と、どこか雰囲気が似ている気がするが?」

「はい。輝一さんの部下の方です」

「やはりそうか」


 ショートケーキ団長は、腑に落ちたように不敵に笑った。


 彼のむかい側のソファに座って、間にある丸テーブルの上に包みを置く。


「……なんだ?」

「お力添えをいただいた件のお礼です。

 あなたは絶対に口にしたことのないものです。お気に召していただけるかと」


 ショートケーキ団長は興味を引かれたのか、すぐにその包みを開けて、中のイチゴ大福を取りだした。


「……大福か。これなら食したことはある」

「中身が違います」

「中身?」


 うなずくだけで、答えはしない。


 不思議そうに目を細めたショートケーキ団長は、それでも一口、かじりついた。

 たちまち、その目が大きく見開かれる。


「これは……」

「イチゴさんにいただいた、上等なものです。お口に合えばいいのですが」


 ショートケーキ団長は、かじった断面をまじまじと見ていた。


 ……大福を食べた経験があるのは、すこし意外だったが。


 じっくり観察した後、あっという間にたいらげていた。


「イチゴを使った菓子は様々食してきたが、これはたしかに初めてだ……悪くない」

「喜んでいただけたのなら、なによりです」


 軽く頭を下げて再びショートケーキ団長を見ると、彼はなぜか虚ろな目をしていた。


「礼を言う。すこし……心が落ちついた」

「……では?」

「ああ……心して、聞くがいい」


 予想どおり、信じがたいことが判明したらしい。


 僕は背筋をピンとのばして、彼の次の言葉を待った。

読んでいただきありがとうございました。

これで80話に到達しました!

主人公たちが黒幕をどのようにして追いつめていくのか、そしてショートケーキ団長との関係はどうなるのか。引き続きお楽しみください。

感想、ブックマーク、評価等もお待ちしています。よかったらお願いします!

明日も20時頃更新予定です。

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