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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第六章 暗部

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「アイザック殿!?」

「アイザック殿!?」

「うるさい黙ってて。あと、絶対外に出るなよ」


 輝一さんの呼びかけに、アイスクリームさんはにべもなくそう返した。


 御者台から、降りるような音。


 ……ああ。なるほど。


「刺客ですね」

「……!」


 僕と同時に外を見て、事態を知った輝一さんが息をのむ。


 剣や斧などの刃物を構えた数人が、馬車を取り囲んでいた。

 多勢に無勢――なんてことは、ない。

 アイスクリームさんだけでも、難なく蹴散らせるはず。


 ……だけど。


「輝一さん。加勢を」

「いや、お前のそばを離れるわけにはいかない。アイザック殿なら大丈夫だろう」

「相手は素人です。目的は、この馬車を奪うことだと思います」

「……何?」

「そうすれば、あとで安全に僕を殺せるので」


 外にいる刺客たちを確認した輝一さんが、はっとした表情をした。

 気づいたようだ。

 刺客たちの構え方が、かなり雑な点に。


 たしかに、大勢で一斉に攻撃すれば、隙も生まれやすい。

 ……一理あるけど、浅はかだな。


「この場で、一人残らず叩きのめしてください」

「……承知した」


 輝一さんが神妙な顔をしてうなずき、客席の扉のノブに手をかけて、開けて外に出た。


「ちょっと――」

「風を守るためです」


 抗議しようとしたアイスクリームさんが、輝一さんの言葉で黙る。


 こちらからでは、声しか聞こえない。

 ただ……アイスクリームさんが不満そうな顔をしているのは、想像できる。


 刺客の数は、10人。

 問題ない。

 アイスクリームさんと輝一さん (カステラ)は……

 相性86%、補完率92%だから。


「甘誠組(かんせいぐみ)軍師ミツモリ・フウの命! ここでもらい受ける!」


 だれかが名乗りを上げた、直後――

 なにかが地面に落ちる――いや、倒れる音。


「こんなさぁ……なにもしてなくても暑い日にさぁ……

 お客の送迎なんてバカみたいな任務押しつけられてさぁ……

 早く帰ってソフィアと一緒に涼みたいって思ってたときに……っなにしてくれてんだよ!」


 アイスクリームさんの大きな怒声が、その場に響きわたった。


 今の音は、彼が一刀両断した刺客の一人が、地面に倒れた音だ。


 ……アイスクリームさんが、ブチギレモード。

 今日は、空気をあまり含んでいない硬いタイプのアイスだったんだな。

 それは、かえって都合がいい。

 硬すぎるアイスクリームに、ふわっと軽いカステラは対照的で好相性だ。


 馬車の中、不安そうにそわそわしているあんこを手の上に乗せて、つまんだりつついたりしながら待機。


 しばらくして……音が止んで、しずかになった。


 窓の外を見て、輝一さんとアイスクリームさん以外が立っていないことを確認してから、外に出た。

 輝一さんが、刀についた血を払って鞘におさめているところだった。


「……お疲れ様です」

「なにがお疲れ様だよ、ふざけんな……」


 地をはうようなアイスクリームさんの声が背後からして、素早く輝一さんの後ろに隠れて安全確保。


 辺りを見回すと、刺客たちが血を流して倒れていた。


「だからやだったんだよ。

 こういうのはクリスの役じゃん。なんで俺? 意味わかんない。

 やだもう帰りたい。っていうか、帰る……!」


 その場にしゃがんで、子どものように駄々をこねはじめたアイスクリームさん。


 ……帰したい気持ちはあるが、まだ確認しなきゃいけないことがある。


「ご面倒をおかけしますが、一つだけ確認させてください」

「なんだよ」

「この人たちに、見覚えはありませんか」

「あるわけないじゃん、そんなの。

 ……待って。まさかあんた、俺のこと疑ってる? ふざけんなよ。俺が――」

「違います」


 詰めよってきたアイスクリームさんを、輝一さんがガード。

 それを横目に、もう一度倒れている刺客たちを見回す。


「……僕がガレオ王に謁見して、帰るときに襲ってきた。

 その日程を、知っていたとしか思えません」


 一旦言葉を切り、輝一さんとアイスクリームさんを見た。


「いつ、どこで、どうやって知ったと思いますか?」

「まさか、フェブ――」

「ふぇぶ?」


 輝一さんが言いかけてやめたのを、アイスクリームさんが不審そうに目を細めて見た。

 直後に「なんでもありません」と輝一さんが言ったせいで、ますます疑いを深めている様子だ。


「……あーもう。めんどくさいな……」


 舌打ちをしてそう言いながら、アイスクリームさんは倒れている刺客の顔を確認していった。

 うつ伏せになっている人は、あおむけにして。

 そのたびに、あんこが「きゃっ」と声を上げている。

 一方のアイスクリームさんは、本当に知らないようで、反応はほとんどない。


 ……と、思いきや。


「あれ? この人……」


 最後の一人を見たとき、そう言った。


 頭もヒゲも白くて、背が低くてすこしまるっとした体形。老人といえる年齢の人物だ。

 左肩から右わき腹にかかる大きな傷を負っているが、まだかろうじて息はある。


「ご存じの方ですか」

「……思いだした。ノワール家の古参の使用人だ」

「ノワール家……ブラウニーさんの家ですね」


 アイスクリームさんがうなずいた。

 輝一さんが、目を見開く。


 ……使用人。

 それを雇えるほどの家の生まれだった。

 仮にそれなりの名菓――違う。名家なら、ガレオ王の側近との接点があっても不思議じゃない。


 僕が考えているうちに、輝一さんがその老人のそばにしゃがみこみ、血で汚れるのもおかまいなしに抱きおこした。


「なぜ風を狙ったのです? 死ぬ前にお答えください」

「……っラウニー坊ちゃまからの、命令だったから、です……」


 意外にも、その老人はあっさり白状してくれた。

 そして、懐に手を入れて、なにかの紙を取りだした。


 輝一さんが受けとって、そのまま僕へ。


 開くと――


「……『俺が死んだら、ミツモリ・フウを討て。詳細はあの方からの指示を待て』……だそうです」

「……!」

「あの方って……だれ?」

「……っ私は……っお会い、したことは、ありません……っ」


 輝一さんは険しい表情になり、アイスクリームさんは不思議そうに首を傾げた。


 ……まちがいなく、フェーブさんだ。


 だけど、なぜだろう。


「……なぜ、これを持っていたのですか?

 読んだらすぐ燃やすようにと言われなかったのですか?」

「……っおっしゃる、とおりで、す……っです、が……っぐ……っ」

「……! しっかりしてください!」


 限界が近い様子で、老人が血を吐いた。


 輝一さんが、窒息の予防でその体を横にむけ、声をかけている。

 ……いや、あなたかアイスクリームさんが容赦なく斬ったんだろうに。


「……っ私には……できません、でした。

 これ、は……っ坊ちゃ、まの……っ形見の、ようなも、の……っでした、から……!」

「…………」


 老人は、一筋の涙を流していた。


 ……そうだ。


『事を起こす前に、身の回りのものはほとんど処分していたようだ』


 ショートケーキ団長が、そう言っていた。


 ……この人は、古参の使用人。

 おそらく、ブラウニーさんが幼い頃から仕えていた人。


 預かった手紙を元どおり折りたたんでから、その場にしゃがむ。

 そして、それを老人の手に握らせた。


「……あちらの世界で、また会えるといいですね」

「……っ! も……もう、し……っわけ……」


 そこまで言って、老人の体はガクッと力を失い――動かなくなった。


 抱きおこしていた輝一さんが、その体を地面に横にして、合掌していた。


「……なに? あんた、そういうことするんだ?」

「……そういうこと?」


 意外そうにじろじろ見てくるアイスクリームさんの言葉の意図が、わからない。

 僕はただ、預かった手紙を返しただけだが。


 わけがわからず首を傾げていると、アイスクリームさんは「別にいいけど」とそっぽをむいていた。

 合掌していた輝一さんも、立ちあがって、なぜかほほえみながらこちらを見てきた。


 ……よくわからない人たちだ。

 ひとまず、そわそわしていたあんこを軽く握りつぶしておいた。


「……アイスクリームさん。この件、団長に報告していただけますか」

「するに決まってんじゃん……あーあ。まーた帰りが遅くなる……」


 アイスクリームさんは、その場にしゃがんでうなだれていた。


 ……ショートケーキ団長なら、すぐ気づくはず。


 この老人は、直接ではないにしろ『あの方』から指示を受けていた。

 つまり、辿っていけば、ブラウニーさんとフェーブさんとのつながりが立証できる可能性が高い。


 ……うまく事が進みすぎている感じがするな。

 油断は禁物。改めて肝に銘じておくべき。


「……では、帰りましょう。アイスクリームさん、お願いします」

「勝手に帰ってってくれないかな、あんたら……」


 顔を引きつらせたアイスクリームさんは、結局根負けして馬車の御者台に乗ってくれた。


 ◇◇◇


 無事に餡月郷に帰還し、さっそく大福さんに声をかけて報告をした。


「……と、いうわけで。

 黒幕が本当にフェーブさんなのか、ショートケーキ団長には諸々の点で捜査をしていただけることになりました。以上です」

「以上です、じゃないっ!」


 例によって、どら焼きさんが立ちあがって吠えた。

 そして、他の三人も一緒に、輝一さんのほうをむいた。


「……っ申し訳ございません!

 私が口出しを許されていたら、こんなことには……!

 いえ、それはただの言い訳です。処分はなんなりとお受けいたします!」


 なぜか、輝一さんはそう言って土下座していた。


「……まぁ、落ちつけ輝一。おんしはなにも悪くはない」

「そうじゃ。お前が謝る必要はないぞ」

「大事になるとは予想していたので」

「お前はちゃんと役目を果たした。これでよかったんだ」

「……! ありがとうございます」


 四人に順番に肩を叩かれ、感激して泣きそうな顔になる輝一さん。


 ……気持ちの整理がついたようで、なによりだ。


「それにしても……あちらの領主も面食らったじゃろうなぁ。自分に一番近い者が暗躍していた、などと聞かされて。

 それに、ヴィクトリウスも」

「……はい。さすがに多少は動揺されていましたが……

 お二人とも、むしろ闘志を燃やしていたようでした」

「ほう?」


 大福さんが、確認のためか輝一さんのほうをむいた。


「特に団長殿は、双甘大試(そうかんたいし)に挑むときのようなお顔をされていました」

「はっは! そうか。それなら問題はないじゃろうな」


 腕を組んだ大福さんが、嬉しそうに笑い声を上げた。

 ……が、すぐに眉を垂らして、僕を見た。


「また命を狙われたんじゃな。輝一がおったから事なきを得たようじゃが……」

「……はい。ご心配をおかけしました」

「おんしのせいではない。ただ、またしばらくは護衛をつけたほうがよさそうじゃな」


 頭を下げて詫びると、大福さんからそんな言葉。


 ……護衛、か。


「いえ。その心配はあまりないかと」

「なぜそう言える?」

「ブラウニーさんの家のあの使用人までで、指示は終わっている可能性が高いので」

「わからないではないか。

 可能性が高いというだけで、まったくないわけではないだろう?」


 輝一さんが、キリッとした目をむけて言ってきた。


 ……たしかにそうだけど。

 ここで護衛をつけられたら、面倒だ。


「さてはお前、護衛をつけられたらあちらの団長と会いにくくなる、とでも思っているのか?」

「はい」

「ずいぶん素直じゃな!?」


 羊羹さんの指摘に素直にうなずくと、どら焼きさんがきれいにツッコミを入れてきた。


 ……当然の懸念事項だ。ごまかす必要はないのだが。


「その点については、話を通しておく。当然、口の堅いものを選んでおくから安心せい」

「……お手間をおかけしますが、よろしくお願いします」

「決して、一人になるんじゃないぞ。わかったな?」


 輝一さんが、身を乗りだして念を押す。

 そんな必要性はないので、ここも素直にうなずいておいた。


 ……今のところは。

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