殺されたということか?
殺されたということか?
『急病で倒れられたのです』
と、シュークリームさんは言っていた。
だけど、ガレオ王の今の発言では、殺されたと断定しているようなもの。
……たしかに、立場的に命を狙われる可能性は十分ある。
それにしても、なぜ?
「スコ――ルティウス様は、急病で倒れられたとうかがいましたが」
「余に共同統治の提案をした直後に、そうなったのだぞ。
病を患っていたなどと聞いたおぼえはない。
……妙だとは思わぬか?」
「…………」
顔をうつむけ、考える。
つまり、スコーンさんの死は、自然死とは思えない状態だった。
そして、僕自身もあわや殺されるところだった。
……共同統治の考えを、もっていたから?
そこはたしかに、共通項ではある。
だけど、スコーンさんのほうは、現段階では殺されたと断定はできない。
『ガレオ王の側近の中には反対していたお方も多かったらしく……
結局、正式な協議は行われずに終わりました』
……側近で、反対していた人物たち。
「おうかがいしてもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「スコルティウス様亡き後、共同統治の話に異を唱えたお方はどなたでしたか」
「……異を唱えた者?
なぜそのようなことを知りたいのだ?」
ガレオ王が、眉間にシワを寄せて不審そうに聞きかえしてきた。
……ここで怪しまれては、この先話がしづらくなってしまう。
「……恐れながら、私はスコルティウス様同様、提案する側の者。当然、賛成派です。
なので、参考までに反対派の方々のお声も聞ければ、と考えた次第です。
ですが……陛下から直接お聞きするような話ではありませんでした。
どうかお許しください」
丁寧に言葉を選びつつ、頭を下げた。
すると、すぐそばから鼻で笑った音がした。
「……まったく。本当に、よく口が回る男よの。
かまわぬ。その程度のこと、語るに造作もない。
側近のほとんどが反対しておったのだ。
その中心にいたのが……
フェブルという者だ」
――すこしの間、思考が停止した。
ふと、ショートケーキ団長に視線をむけると、目を見開いていた。
……偶然、か?
スコーンさんの死と共同統治の案が消滅した件と、僕が殺されかけた件。
そのすべてに関わっている可能性が高いのは、フェーブさん。
『メローリアの領主に近しいお方じゃ』
『あなたに生きていられたら、困るお方がいらっしゃるんですよ……!』
『妨害工作に加担しろ、と言われました』
『側近のほとんどが反対しておったのだ。
その中心にいたのが……フェブルという者だ』
『その方も……命を狙われるやもしれぬからな』
瞬間。
最後のパズルのピースが、はまるような感覚がした。
……もはや、ほぼ確定したと言っても問題はない。
フェーブさんが黒幕。
どれも状況証拠にすぎないけれど……十分だ。
「……陛下。もう一つ、お尋ねしたきことがございます。
お許しください」
「そう萎縮するな。無礼講だと言ったであろう。
気にせず申せ」
ガレオ王は、すこし小馬鹿にしたような口調で言った。
僕は気にせず、続けた。
「感謝いたします。
陛下は……黒幕は、だれだとお考えですか」
「黒幕?……スコルティウスを殺した者のことか」
ショートケーキ団長が、一瞬、ほんのわずかびくっと震えたのがかろうじて見えた。
殺した、という言葉に反応した模様。
「さて、だれであろうな……正直、ずっと考えてはいた。
ただ、あれは上に立つ者のわりには、人が良すぎたものでな。
一方で、敵も多く作ってしまっていたと聞いた。
あてはまる者は相当数いるはずだ」
「……そうでしたか。
ところで……先程ご忠告いただいた、私も命を狙われるかもしれない、というお話ですが。
実は、そのとおりでございました」
「……何?」
「ある手の者より、刺されたのです。
このとおり、かろうじて命は取りとめましたが」
ガレオ王が、目を細めて半ば唖然として僕を見てきた。
しばらくして、ため息をついていた。
「……まったく。野暮なことをする者がいたものだな。
国の統治権を争っている裏で、そのような……不届きにも程がある」
「温かきお言葉、痛み入ります」
頭を下げて感謝する。
ガレオ王が遠くに視線を移したと思ったら、使用人が近づいてきて、新たな紅茶をいれた。
僕の、一口しか飲めずに冷めた紅茶も、カップごと取りかえてくれた。
「それで? その不届き者の正体はつかめたのか?」
「……実行犯は、本人の自白により判明いたしました。
それにより、陰で指示を出していた者がいたことも、同じく」
「指示を出していた者……まさしく黒幕だな」
「はい。その者については……今の陛下のお言葉のおかげで、確信いたしました。
あの人物しかいない、と」
「もったいぶるでない。だれなのだ、それは。
……まさか、余もよく知っている者ではあるまいな?」
「フェブル・ポートリー様です」
ガレオ王の、ティーカップを持ちあげようとした手が、ぴたりと止まった。
……叱責されるのは、覚悟の上。
そう内心身構えていた――が。
ガレオ王は、意外な反応を示した。
カップをソーサーに戻して、ふう、と長いため息。
ものすごく、落ちついている。
「……なるほど。妙に納得できてしまうな」
「……納得?」
「ああ。先程も申したであろう。
フェブルは、スコルティウスの案を頭ごなしに否定しておった。
この国の統治者は、余以外にありえない、とな。
その熱意に負け、一旦保留としたわけだが……」
紅茶を一口飲んで、物思いにふけっていたガレオ王。
しばらくして、突然その目を大きく見開いて、こちらにゆっくり顔をむけた。
「まさか……スコルティウスを殺したのも?」
「……その可能性は、かなり高いと考えます」
ティーカップに触れていたガレオ王の手が、カタカタと震えだした。
目は見開いたまま、口も半開きだ。
「……たしか、なのか」
「あるのは、かぎりなく黒に近いグレーだと示す状況証拠のみです。
根拠としては乏しいとも言えますが――」
「十分ではないか」
ガレオ王が、僕の言葉を遮った。
ティーカップが倒れるのもおかまいなしに、テーブルをつかんで立ちあがる。
顔は、鬼の形相。
うつむいた状態で、ぶるぶると震えていた。
「おのれフェブル……!
我が盟友スコルティウスを、亡き者にしたのはお前であったか! 許せぬ!」
想定以上に激怒していた。
……盟友、か。
ガレオ王は、湧きあがる怒りを必死でおさえているように、歯を食いしばっていた。
そして、ショートケーキ団長のほうを振りかえる。
「ヴィクトリウス! そなたもさぞ悔しいだろう!?」
「……おっしゃるとおりにございます。
お気持ち、ありがたく思います。
ですが、今はどうか怒りをお収めください」
「そうはいくか……!
そうとは知らず、あやつを重用していたのだぞ!
陰でほくそ笑んでいるに違いない!」
ガレオ王が椅子に座りなおして、テーブルにドン、と拳を叩きつけた。
ショートケーキ団長が、こちらを見ている。
……どうするつもりなのだ、と言いたそうだ。
「……つかぬことをおうかがいいたしますが。
今回、私をこちらに呼ぶ件で、フェブル様はなにかおっしゃっていたのでしょうか」
「ああ。強く反対しておったわ。
同席は無用と命じたときも、やけにうろたえておった。
余がこの件を知ってしまうのを、なんとしてでも防ぎたかったのだろう」
ぎり、と音が聞こえてきそうなほど、ガレオ王は拳を強く握っていた。
頃合いを見て駆けよってきた使用人が、素早くこぼれた紅茶とティーカップを片づけていった。
「ああ、腹立たしい……!
余が領主の座につけたのも、今まで重大な決断に迫られたときに助けになったのも、あれのおかげだった。
だからといって……っひいきしすぎたようだ。
なんてことだ……!」
ガレオ王の怒りは、未だおさまる気配はない。
足をパタパタと踏みならしている音が聞こえる。
……妙だな。
今日初めて会った僕の言葉を、ここまで信じこむなんて。
それだけ、フェーブさんを怪しむ要素があったのか?
……だとしたら。
このお方を、味方に引きこまない手はない。
「軍師。どうするのだ。
このままフェブルをのさばらせるわけにはいかんぞ」
「おっしゃるとおりにございます。
ただ、今の段階ではまだ確証がありません」
「ならば、それを得るまでだろう。なにか方法はないのか」
「……どうか、この私に考える時間をお与えください」
「……いいだろう。余もすこし落ちつきたい。
菓子を」
ガレオ王が手を叩き、使用人に命令した。
再び銀のカートを押した使用人がやってきて、同じく銀のトレイを運んできた。
その上には、濃い茶色の小さな塊が整然と並んでいる。
……チョコレート、か?
「考えるときには、甘いものは欠かせん。
遠慮はするな」
「おっしゃるとおりです。ありがたくいただきます」
……気が合う部分もあるようだ。
一礼してから、遠慮なく一つつまんだ。
噛んだ瞬間、とろりと流れ出す液体のようなもの。
これは……ラム酒。
「……とても美味しいです。
このような上質なチョコレートは初めてです」
「チョコレートを知っておったのだな。さすがは軍師だ」
ガレオ王は、感心しながらチョコレートを次々に口に放りこんでいた。
すこし落ちついた……とはいえ、ここから先の話をするには、あと一歩といったところ。
他の話題で気を紛らわせるのは、ナンセンス。
なにが最適解か。
「おい、やめないか……っ」
そのとき、背後で輝一さんがもだえるような声が聞こえた。
振りかえった瞬間――なにかが、顔に貼りついた。
引っぺがして、まじまじとそれを見る。
あんこ。
甘いものが出てきたせいで、我慢できなくなったか。
「なんだそれは……珍妙な生き物だな」
ガレオ王が、身を乗りだして不思議そうに凝視している。
……もしや、使えるか?
手のひらの上に乗せて、ガレオ王に差しだした。
後ろから、「おい……っ」と輝一さんの動揺しているような声が聞こえたが、無視して。
「名前は、あんこと申します。
餡月郷のある神聖な場所からついてきたものにございます」
「神聖な場所? もしや、神の使いか?」
「詳細は不明です。
陛下とお会いする折には、置いていくつもりでしたが――」
「もっと近う寄れ」
ガレオ王は、子どものように目を輝かせ、あんこに顔を近づけた。
……墨を吐く危険は、ないはず。
あんこは、近くにいるガレオ王をおっかなびっくり見ている。
ついでに、テーブルの上のチョコレートも気になる様子で、キョロキョロしている。
「これが欲しいのだな?」
ガレオ王が、チョコレートを一つつまんで、差しだした。
警戒しているのか、そのチョコレートとガレオ王を交互に見ているあんこ。
――しかし。
甘いにおいに負けたらしく、それを一気に吸いこんだ。
喜んで、小躍り。
「はは……! なんだこれは。
面白い! 実に面白いぞ、軍師。
こんなおかしなものを連れているとは、その方は本当に面白い男だ!」
手を叩いて笑う、ガレオ王。
……よし。収拾ついたな。
読んでいただきありがとうございました。
あんこは、絶対的な癒しキャラ枠です。私の中でも。
次回は、明後日10月1日(木)の20時頃更新予定です!




