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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第六章 暗部

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殺されたということか?

 殺されたということか?


『急病で倒れられたのです』


 と、シュークリームさんは言っていた。

 だけど、ガレオ王の今の発言では、殺されたと断定しているようなもの。


 ……たしかに、立場的に命を狙われる可能性は十分ある。

 それにしても、なぜ?


「スコ――ルティウス様は、急病で倒れられたとうかがいましたが」

「余に共同統治の提案をした直後に、そうなったのだぞ。

 病を患っていたなどと聞いたおぼえはない。

 ……妙だとは思わぬか?」

「…………」


 顔をうつむけ、考える。


 つまり、スコーンさんの死は、自然死とは思えない状態だった。

 そして、僕自身もあわや殺されるところだった。


 ……共同統治の考えを、もっていたから?


 そこはたしかに、共通項ではある。

 だけど、スコーンさんのほうは、現段階では殺されたと断定はできない。


『ガレオ王の側近の中には反対していたお方も多かったらしく……

 結局、正式な協議は行われずに終わりました』


 ……側近で、反対していた人物たち。


「おうかがいしてもよろしいでしょうか」

「なんだ?」

「スコルティウス様亡き後、共同統治の話に異を唱えたお方はどなたでしたか」

「……異を唱えた者?

 なぜそのようなことを知りたいのだ?」


 ガレオ王が、眉間にシワを寄せて不審そうに聞きかえしてきた。


 ……ここで怪しまれては、この先話がしづらくなってしまう。


「……恐れながら、私はスコルティウス様同様、提案する側の者。当然、賛成派です。

 なので、参考までに反対派の方々のお声も聞ければ、と考えた次第です。

 ですが……陛下から直接お聞きするような話ではありませんでした。

 どうかお許しください」


 丁寧に言葉を選びつつ、頭を下げた。


 すると、すぐそばから鼻で笑った音がした。


「……まったく。本当に、よく口が回る男よの。

 かまわぬ。その程度のこと、語るに造作もない。

 側近のほとんどが反対しておったのだ。

 その中心にいたのが……


 フェブルという者だ」


 ――すこしの間、思考が停止した。


 ふと、ショートケーキ団長に視線をむけると、目を見開いていた。


 ……偶然、か?

 スコーンさんの死と共同統治の案が消滅した件と、僕が殺されかけた件。

 そのすべてに関わっている可能性が高いのは、フェーブさん。



『メローリアの領主に近しいお方じゃ』


『あなたに生きていられたら、困るお方がいらっしゃるんですよ……!』


『妨害工作に加担しろ、と言われました』


『側近のほとんどが反対しておったのだ。

 その中心にいたのが……フェブルという者だ』


『その方も……命を狙われるやもしれぬからな』



 瞬間。

 最後のパズルのピースが、はまるような感覚がした。

 ……もはや、ほぼ確定したと言っても問題はない。


 フェーブさんが黒幕。


 どれも状況証拠にすぎないけれど……十分だ。


「……陛下。もう一つ、お尋ねしたきことがございます。

 お許しください」

「そう萎縮するな。無礼講だと言ったであろう。

 気にせず申せ」


 ガレオ王は、すこし小馬鹿にしたような口調で言った。

 僕は気にせず、続けた。


「感謝いたします。

 陛下は……黒幕は、だれだとお考えですか」

「黒幕?……スコルティウスを殺した者のことか」


 ショートケーキ団長が、一瞬、ほんのわずかびくっと震えたのがかろうじて見えた。

 殺した、という言葉に反応した模様。


「さて、だれであろうな……正直、ずっと考えてはいた。

 ただ、あれは上に立つ者のわりには、人が良すぎたものでな。

 一方で、敵も多く作ってしまっていたと聞いた。

 あてはまる者は相当数いるはずだ」

「……そうでしたか。

 ところで……先程ご忠告いただいた、私も命を狙われるかもしれない、というお話ですが。

 実は、そのとおりでございました」

「……何?」

「ある手の者より、刺されたのです。

 このとおり、かろうじて命は取りとめましたが」


 ガレオ王が、目を細めて半ば唖然として僕を見てきた。

 しばらくして、ため息をついていた。


「……まったく。野暮なことをする者がいたものだな。

 国の統治権を争っている裏で、そのような……不届きにも程がある」

「温かきお言葉、痛み入ります」


 頭を下げて感謝する。


 ガレオ王が遠くに視線を移したと思ったら、使用人が近づいてきて、新たな紅茶をいれた。

 僕の、一口しか飲めずに冷めた紅茶も、カップごと取りかえてくれた。


「それで? その不届き者の正体はつかめたのか?」

「……実行犯は、本人の自白により判明いたしました。

 それにより、陰で指示を出していた者がいたことも、同じく」

「指示を出していた者……まさしく黒幕だな」

「はい。その者については……今の陛下のお言葉のおかげで、確信いたしました。

 あの人物しかいない、と」

「もったいぶるでない。だれなのだ、それは。

 ……まさか、余もよく知っている者ではあるまいな?」

「フェブル・ポートリー様です」


 ガレオ王の、ティーカップを持ちあげようとした手が、ぴたりと止まった。


 ……叱責されるのは、覚悟の上。

 そう内心身構えていた――が。


 ガレオ王は、意外な反応を示した。

 カップをソーサーに戻して、ふう、と長いため息。

 ものすごく、落ちついている。


「……なるほど。妙に納得できてしまうな」

「……納得?」

「ああ。先程も申したであろう。

 フェブルは、スコルティウスの案を頭ごなしに否定しておった。

 この国の統治者は、余以外にありえない、とな。

 その熱意に負け、一旦保留としたわけだが……」


 紅茶を一口飲んで、物思いにふけっていたガレオ王。

 しばらくして、突然その目を大きく見開いて、こちらにゆっくり顔をむけた。


「まさか……スコルティウスを殺したのも?」

「……その可能性は、かなり高いと考えます」


 ティーカップに触れていたガレオ王の手が、カタカタと震えだした。

 目は見開いたまま、口も半開きだ。


「……たしか、なのか」

「あるのは、かぎりなく黒に近いグレーだと示す状況証拠のみです。

 根拠としては乏しいとも言えますが――」

「十分ではないか」


 ガレオ王が、僕の言葉を遮った。

 ティーカップが倒れるのもおかまいなしに、テーブルをつかんで立ちあがる。

 顔は、鬼の形相。

 うつむいた状態で、ぶるぶると震えていた。


「おのれフェブル……!

 我が盟友スコルティウスを、亡き者にしたのはお前であったか! 許せぬ!」


 想定以上に激怒していた。


 ……盟友、か。


 ガレオ王は、湧きあがる怒りを必死でおさえているように、歯を食いしばっていた。

 そして、ショートケーキ団長のほうを振りかえる。


「ヴィクトリウス! そなたもさぞ悔しいだろう!?」

「……おっしゃるとおりにございます。

 お気持ち、ありがたく思います。

 ですが、今はどうか怒りをお収めください」

「そうはいくか……!

 そうとは知らず、あやつを重用していたのだぞ!

 陰でほくそ笑んでいるに違いない!」


 ガレオ王が椅子に座りなおして、テーブルにドン、と拳を叩きつけた。


 ショートケーキ団長が、こちらを見ている。

 ……どうするつもりなのだ、と言いたそうだ。


「……つかぬことをおうかがいいたしますが。

 今回、私をこちらに呼ぶ件で、フェブル様はなにかおっしゃっていたのでしょうか」

「ああ。強く反対しておったわ。

 同席は無用と命じたときも、やけにうろたえておった。

 余がこの件を知ってしまうのを、なんとしてでも防ぎたかったのだろう」


 ぎり、と音が聞こえてきそうなほど、ガレオ王は拳を強く握っていた。


 頃合いを見て駆けよってきた使用人が、素早くこぼれた紅茶とティーカップを片づけていった。


「ああ、腹立たしい……!

 余が領主の座につけたのも、今まで重大な決断に迫られたときに助けになったのも、あれのおかげだった。

 だからといって……っひいきしすぎたようだ。

 なんてことだ……!」


 ガレオ王の怒りは、未だおさまる気配はない。

 足をパタパタと踏みならしている音が聞こえる。


 ……妙だな。

 今日初めて会った僕の言葉を、ここまで信じこむなんて。

 それだけ、フェーブさんを怪しむ要素があったのか?


 ……だとしたら。

 このお方を、味方に引きこまない手はない。


「軍師。どうするのだ。

 このままフェブルをのさばらせるわけにはいかんぞ」

「おっしゃるとおりにございます。

 ただ、今の段階ではまだ確証がありません」

「ならば、それを得るまでだろう。なにか方法はないのか」

「……どうか、この私に考える時間をお与えください」

「……いいだろう。余もすこし落ちつきたい。

 菓子を」


 ガレオ王が手を叩き、使用人に命令した。


 再び銀のカートを押した使用人がやってきて、同じく銀のトレイを運んできた。

 その上には、濃い茶色の小さな塊が整然と並んでいる。


 ……チョコレート、か?


「考えるときには、甘いものは欠かせん。

 遠慮はするな」

「おっしゃるとおりです。ありがたくいただきます」


 ……気が合う部分もあるようだ。


 一礼してから、遠慮なく一つつまんだ。

 噛んだ瞬間、とろりと流れ出す液体のようなもの。

 これは……ラム酒。


「……とても美味しいです。

 このような上質なチョコレートは初めてです」

「チョコレートを知っておったのだな。さすがは軍師だ」


 ガレオ王は、感心しながらチョコレートを次々に口に放りこんでいた。


 すこし落ちついた……とはいえ、ここから先の話をするには、あと一歩といったところ。

 他の話題で気を紛らわせるのは、ナンセンス。

 なにが最適解か。


「おい、やめないか……っ」


 そのとき、背後で輝一さんがもだえるような声が聞こえた。

 振りかえった瞬間――なにかが、顔に貼りついた。

 引っぺがして、まじまじとそれを見る。


 あんこ。

 甘いものが出てきたせいで、我慢できなくなったか。


「なんだそれは……珍妙な生き物だな」


 ガレオ王が、身を乗りだして不思議そうに凝視している。


 ……もしや、使えるか?


 手のひらの上に乗せて、ガレオ王に差しだした。

 後ろから、「おい……っ」と輝一さんの動揺しているような声が聞こえたが、無視して。


「名前は、あんこと申します。

 餡月郷(あんげつきょう)のある神聖な場所からついてきたものにございます」

「神聖な場所? もしや、神の使いか?」

「詳細は不明です。

 陛下とお会いする折には、置いていくつもりでしたが――」

「もっと近う寄れ」


 ガレオ王は、子どものように目を輝かせ、あんこに顔を近づけた。


 ……墨を吐く危険は、ないはず。


 あんこは、近くにいるガレオ王をおっかなびっくり見ている。

 ついでに、テーブルの上のチョコレートも気になる様子で、キョロキョロしている。


「これが欲しいのだな?」


 ガレオ王が、チョコレートを一つつまんで、差しだした。


 警戒しているのか、そのチョコレートとガレオ王を交互に見ているあんこ。


 ――しかし。

 甘いにおいに負けたらしく、それを一気に吸いこんだ。

 喜んで、小躍り。


「はは……! なんだこれは。

 面白い! 実に面白いぞ、軍師。

 こんなおかしなものを連れているとは、その方は本当に面白い男だ!」


 手を叩いて笑う、ガレオ王。


 ……よし。収拾ついたな。

読んでいただきありがとうございました。

あんこは、絶対的な癒しキャラ枠です。私の中でも。

次回は、明後日10月1日(木)の20時頃更新予定です!

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