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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第六章 暗部

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型崩れしているとでもいうべきか。

 型崩れしているとでもいうべきか。

 アントルメ騎士団の面々は、かなり動揺していた。


 なにしろ――ショートケーキ団長が、最敬礼しているのだから。


「ショルテンハイム公! 頭をお上げください!」

「ちょっと待って……やめてくださいよ、団長」

「だ、団長が謝ることじゃないですよぉ!」

「その言うとおりです。ヴィクトリウス様。

 だれが相手だろうと、手を組んだほうがいいとご判断されたのならそれでまちがいありません。

 異論はありません」


 それぞれが、なんとかしてショートケーキ団長に頭を上げさせようと、必死に声をかけている。

 あの冷静沈着なシュークリームさんでさえ早口になっていて、動揺を隠せない様子だった。


 じっくりと間を置いてから、ショートケーキ団長がようやく頭を上げた。


「……皆に、礼を言う」

「とんでもありません。もったいなきお言葉にございます」


 シュークリームさんの言葉を合図に、騎士団の四人が胸元に手を当てて一礼した。


 ……これで、あちらは一件落着。


「……皆さんはどう思われますか」


 甘誠組(かんせいぐみ)の面々へと視線を移す。


 なぜか、彼らは気だるそうに苦笑していた。


「どうもこうもないじゃろ……」

「どうせお前のことだ。

 『必要だからそうしたまで』とでも言うつもりなのだろう?」

「わかりきったことですよ」

「そうだな。今さら文句など言う気になれん」

「まったくじゃな」


 どら焼きさん、輝一さん、みたらし団子さん、羊羹さんで、最後に大福さんが豪快に笑って締めた。


 ……ほぼ、想定どおり。

 こちらも解決、と。


「それで、ヴィクトリウス。話を進めてもええか?」

「……ああ。かまわん」


 ショートケーキ団長が元の席につき、遅れて他の四人もそうした。


 それを見届けた後、大福さんが再度口を開いた。


「今回の協議は、おんしらの領主からある要請があったため、と聞いておる。

 それの具体的な内容について、改めて聞かせてもらいたい」

「……承知した」


 うなずきながら返事をしたショートケーキ団長は、いつもの鋭い目を全員にむけてきた。


「ガレオ王より――軍師ミツモリ・フウと面会したい、との希望を受けて、召集させてもらった。

 これより、その協議を行う」

「……なっ!?」


 声を上げたのは、やはりクッキーさん。

 思わず声をもらしてしまった、といった様子で、慌てて口を手で押さえていた。

 協議を行う理由を、聞かされていなかったようだ。


 そろそろいいかと思い、テーブル上にあったスコーンに手をのばす。

 横半分に割り、赤いジャムを選んで切り口に塗りつけた。


 そのジャムを、じっと見る。

 ……イチゴ? いや、色が微妙に違う。


 一口食べてみて、わかった。

 クランベリーだった。

 強めの酸味が、ほんのりとした甘さのあるスコーンと合って、美味い。


 自由に動きまわれなくて不満そうだったあんこにも、一かけらを与えた。

 途端に、肩の上で嬉しそうに飛びはねはじめたので、押さえつけておいた。


「すこしは自重しやがれってんだよ……」


 ぼそっと聞こえた、クッキーさんの恨みがましい声。


 ……これから頭を使う。つまり、必要だから食べているだけだ。

 スルーして、用意されていた緑茶を飲んだ。


「他の領地の者がガレオ王にお会いするには、関係する役人と我ら幹部全員の承認が必要になる」

「ならば、役人のほうは?」

「すでに承認は得ている」


 問いかけた大福さんが、納得した様子で二度うなずいた。


 密会したときにも、言っていたけれど。

 ショートケーキ団長もしくは、ガレオ王が直接、承認「させた」可能性が高いな。


「……ヴィクトリウス様。確認させていただいてもよろしいでしょうか」

「なんだ」

「本当に、陛下が軍師に会いたいとおっしゃっているのですか?」

「ああ。そうだ」


 自身の手を顔の前で組んで、一旦間を置いた。


「先日、ガレオ王が視察の際に何者かに襲撃された件は、当然知っているだろう?」

「はい。もちろんにございます」

「団長自ら、スマートに王をお守りしたって聞いてますぅ。さすがですっ」


 プリンさんが、無駄にウインクをしてショートケーキ団長を褒めたたえた。


 一方で、甘誠組側は真剣な顔で聞き入っていた。


「やはり本当のことだったのか……」


 大福さんが、困惑した様子でつぶやいた。


 ……まぁ、あってはならないことだからな。

 本当なら、実行される前に犯人たちを確保するなどして、未然に防ぐのがベストだった。


「事前に警備体制を厳重に整えていたため、大事には至らなかった。

 実行犯のラウニー・ノワールをみすみす死なせてしまったのは不徳の致すところではあるが……

 ガレオ王へのご報告の際に、軍師と情報共有していた件をお伝えした。

 それで、とても興味を持たれたのだ」

「そのときに、一度面会したいとおっしゃられたので?」

「そうだ」


 騎士団側の四人が、顔を見合わせる。


「なぜそんな報告を?

 それではまるで、この軍師の手柄のようになってしまいます!

 陛下をお守りしたのは、ショルテンハイム公。

 まちがいなく、公の手柄です!」

「軍師からの情報による部分もある。そういう意味でお伝えしただけだ」


 僕を指さしながら不満を言ったクッキーさんは、返事を聞いてもなお不満げだった。


 ……そこで、ふと思った。

 ショートケーキ団長が、僕のことをガレオ王に話した理由。

 それは、今の僕との関係を続けるべきと考えたからじゃないか?


 餡月郷(あんげつきょう)とメローリア。

 対立関係にある以上、情報共有するのは本来ならば不可能。

 また、彼個人の事情もある。

 僕が秘密をもらすような者ではない、と判断したとはいえ、絶対ではない。


 上司のガレオ王に認めてもらえれば、関係を続けるのは可能。

 ついでに、密会する必要もなくなる。


 ……合理的だ。

 さすがは、治安維持部隊を取りしきる長。

 妙だとは思っていたけれど、やはりただの生真面目さゆえの行動じゃなかったようだ。


 ただ……ガレオ王が僕に興味をもった点については、想定外だったようだけど。


「ガレオ王にはご子息がいらっしゃったが、若くして亡くなられている。

 ちょうど、軍師と同じくらいの年にだ。

 ……それも、関係しているのかもしれん」

「……ご子息が? では、他の後継者は?」

「もう一人のご子息がいる。まだ10歳にも満たないお方だが」


 ……次代の領主候補が、幼児一人のみ。

 それは、気が気じゃないだろうな。


「それで。そなたらはどう思う」


 ショートケーキ団長が、大福さんに聞いた。

 自身の組んだ手を顔の前からテーブルの上に移動させ、大福さんをじっと見ている。


「相分かった」


 大福さんは、力強くそう返事をした。

 そして、僕を含めた部下を見回し、うなずいた。


「当事者である蜜森は、すでに了承しておるがゆえ。

 それでかまわん」


 輝一さんだけは、なにやら緊張した様子で唾を飲みこんでいたが。

 結局、甘誠組側から反対意見は出なかった。


「おんしは賛成側なのか? ヴィクトリウス。

 餡月郷の者がおんしらの領主に会うなど、初めてのことだろう」

「……そうだ」


 騎士団側の席には、重い空気がたちこめているように感じられた。


 抵抗感があるのは、当然。

 なにかあれば、承認した自分たちの責任になってしまう。


「……ヴィクトリウス様。発言の許可を」

「申せ」


 シュークリームさんが、ショートケーキ団長にむかって一礼。


「私は、賛成いたします」

「……! おい、シュリオ! なに言ってやがる!」

「あなた方こそ、よくお考えなさい。

 『陛下が』軍師に会いたいとおっしゃっているのですよ。

 それを反対するのは、すなわち陛下の意向に背くことと同義です」

「……っそれは……!」


 強めの口調で言われて、クッキーさんはまともに反論できずに押し黙る。


「それに、こうも考えられますよ。

 陛下の命には、甘誠組の軍師といえど逆らえはしません。

 陛下のお力をもってすれば、彼の頭の中を丸裸にするなど造作もないでしょう」

「……そうかなぁ」


 ぽつり、とぎりぎり聞こえる程度の小さい声で言ったのは、アイスクリームさん。


「屁理屈こねて、のらりくらりとかわしそうだけど?」

「言えてるぅ……」


 アイスクリームさんが肩をすくめて言い、プリンさんは笑顔を引きつらせていた。


 それを見たシュークリームさんは、ため息をついていた。


 ……屁理屈を述べたおぼえはないのだが。


「それは、たしかにありえますね。ですが――」

「案ずるな。我も同行する」


 ショートケーキ団長が、言った。

 僕以外が、ぎょっとして彼を見つめる。


「不敬な言動も行動も、我が許さぬ。

 それでどうだ」

「……申し上げるまでもありません」


 シュークリームさんはそう言ってから、若干無言の圧力をかけつつ、クッキーさんを見た。


「……であれば。我ら全員、賛同いたします」


 顔を引きつらせたクッキーさんが、しかしはっきりした声でそう宣言。

 残りのアイスクリームさんとプリンさんも、遅れて一礼して賛成を表明した。


 ……ショートケーキ団長が同行してくれるとは、願ってもない。

 不敬な言動も行動も、もちろんするつもりはないけれど。


 じゃあ、あとは……輝一さんだ。


「……っならば、私も。

 立会人と、風――蜜森の護衛役として、同行させていただきたい」


 本人が、軽く身を乗りだして、すこし早口で言ってくれた。


 ショートケーキ団長が、目を丸くする。


「ダイマルではなく、副長が供か」

「僕が指名しました。

 この場をお借りして、大福さんとショートケ――ショルテンハイム公に、許可をいただきたいのですが」


 「ショートケーキ団長」と呼びかけたのに気づいたらしいクッキーさんが、すぐにらんできた。


「ああ、かまわんぞ。おんしはどうじゃ?」

「……軽いのではないか?」

「軽くなどない。

 蜜森が選んだんじゃ。なにも問題はなかろうて。

 なぁ?」


 ショートケーキ団長のツッコミに、大福さんは羊羹さんたちを見て、同意を求めた。

 その三人は、一様に「うんうん」とうなずいていた。


「そういうわけじゃ」

「……なるほど」


 次にショートケーキ団長は、ビシッと背筋をのばして待機している輝一さんを見た。


「たしかに、そなたならガレオ王にもお気に召していただけるかもしれぬ。

 同行を許可する」

「……ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 輝一さんが、立ちあがって頭を下げた。


 彼が着席したところで、ショートケーキ団長がうなずき、僕を見た。


「日取りについては、こちらで調整させてもらう」

「……承知しました。

 いつになってもいいように、準備を進めておきます」


 ショートケーキ団長にむかって、一礼。

 続いて、大福さんを見て、うなずき合った。


 ……ガレオ王もとい、ガレット・デ・ロワ様との謁見が叶う。

 ついでに言うなら、例の、黒幕とおぼしきあの人とも会えるチャンス。

 練り切り様のときと同様……いや。それ以上に、万全を期して臨む必要がある。


 段取りを考えていたら、あんこが恐々とのぞきこんできた上、輝一さんに「なにを笑っているのだ」と注意されてしまった。

読んでいただき感謝いたします。

ガレット・デ・ロワ様はどんなお方なのか、また狙いは何なのか、次回以降でお確かめください。

次回は、明後日25日(金)の20時頃更新予定です!

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