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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第六章 暗部

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残念ながら人だけど。

 残念ながら人だけど。

 和菓子と洋菓子が、互いにむっつりした顔でむかい合って座っている。


 我らが甘誠組(かんせいぐみ)は、大福さん、輝一 (カステラ)さん、羊羹さん、みたらし団子さん、どら焼きさん。

 相手のアントルメ騎士団は、ショートケーキ団長、クッキーさん、シュークリームさん、プリンさん、アイスクリームさん。


 壮観。この一言に尽きる。


 これだけのスイーツがテーブルにそろっていたら、あんこは興奮して踊り狂っていたはずだ。


 ……もう一度言うが、残念ながら人だけど。


「見慣れない奴がいるな。だれだ?」


 クッキーさんが、眉を寄せて目を細めた険しい顔で、指さした。

 その先には、地毛の金髪をさらした輝一さん。


「甘誠組副長、粕谷輝一にございます」

「は?」

「これが元々の姿です。諸事情があって、今までは染めておりました。

 ただ、顔は見覚えがあるのでは――ああ、いえ。倒すべき敵の顔など、はっきりと覚えているはずがありませんね。

 失礼いたしました」


 クッキーさんが唖然として、輝一さんをさしている指を小刻みに震わせていた。

 他の騎士団の面々も、驚きの表情を浮かべている。


 一方で、輝一さんは胸を張り、堂々としていた。


 珍しいな。彼が皮肉るとは。

 ……いや、素だな。今のは。


「……輝一さんは、出自を辿ればメローリアに行きつくお方です」

「なに?」

「その逆も、そちらには大勢いるのでは?」


 あなた方が驚いている理由が、理解不能。

 暗にそう告げれば、騎士団側の面々は黙りこんだ。


 輝一さんが、こちらへ力強い視線をむけてくる。

 軽くうなずいてから、指定された席についた。


「それは、じゃあいいとする。

 けど……お前までここにいるのは納得できねぇ!」


 未だ座ろうとしないクッキーさんが、今度は僕を指さして吠えた。


「……呼ばれたからここにいます」

「ここはうちと甘誠組の幹部間協議の場だ! お前は部外者だろ!

 ……その赤いやつは、もっとそうだろ!」

「なにを言っておる。

 蜜森は軍師。儂らの行動を決める重要な立場の者。立派な幹部じゃ。

 赤いのは、その蜜森の相棒。どこに問題がある?」

「……っ」


 大福さんが若干身を乗りだして言うと、クッキーさんは言葉を詰まらせていた。


 ……あんこは相棒ではない。ただの観察対象だ。


 しかし……クッキーさん、いら立っているな。

 ストレスフルで、重箱の隅をつつかないといられない心境なのか。

 いや、この世界風に言うなら……「パウンド型の隅をつつく」といったところか。


 なんて考えながら、テーブルに降りたそうにしていたあんこを、反対側の手のひらで押しつぶして阻止した。


「そういうことだ。クリス」

「ショルテンハイム公! 承認なさるので!?」

「当然だ。むしろいてもらわねば困る……我が、呼んだようなものだからな」


 クッキーさんだけでなく、他の騎士団のメンバーも目を見開いた。

 そして、甘誠組側も、ぎょっとしてショートケーキ団長を見る。


 全員の視線を集めたショートケーキ団長当人は、それをスルーして僕を見つめてきた。


「よいな?」

「……はい」


 言われて、その場にいる人たちをざっと見回す。


 大福さんだけが、なにか納得したかのように、落ちついた表情で二度うなずいていた。


 ……ああ。気づかれたな。


「……先日、紅翠域(こうすいいき)でイチゴ――市田ケイゴさんのご家族が何者かに襲われる事件がありましたね?」

「おや……さすがは、情報が早いですね」


 シュークリームさんが、言った。


「ヴィクトリウス様から指示を受けて、警備体制の確認のため私の部隊がむかいました。

 ……が、どこでそれを?」

「そうなるはずだと、事前に知っていたので」

「……はい?」

「市田が泣きついてきたんじゃ。蜜森を殺しかけておいてなぁ」


 どら焼きさんが、不満げに答えた。


「殺し……って。なに、あんた暗殺されかけたの?」

「はい。危ないところでした」


 問いかけてきたアイスクリームさんは、渋い顔で「白々しい……」と小声で言っていた。


「どういうことだ? それと市田の家族が襲われるのとどう関係してるんだよ?」

「……なるほど。そういうことですか」


 首を傾げているクッキーさんとは正反対に、シュークリームさんは無表情でうなずいていた。


「ええ……? シュリオさぁん、なんでわかるんですか? いったいどういうことですかぁ?」

「むしろなぜわからないのですか。

 つまり……市田氏は、何者かに家族を人質にとられて仕方なく軍師の命を狙った、というわけですよ」


 冷めた表情を浮かべたシュークリームさんが、手元にあるなにかの資料を整えながら言った。

 それから、尋ねてきたプリンさんを見たのち、こちらに視線を移動させてくる。


 ……確認のためだな。

 うなずいて、答える。


「はぁん。そうか。それは残念だったな。

 知っていたけど、お前らにはなにもできなかったわけだ」

「できなかったのではなく、しなかったのです」

「は?」


 答えた輝一さんが、一旦言葉を切って、僕と大福さんの順に視線をむけた。


「……そうじゃ。蜜森がすでに協力者に依頼済みだと言うもんでなぁ」

「はぁ? 協力者?」

「嘘でしょ。あんた、うちのだれかと通じてたの?」

「ええー? それ、まずいんじゃないですかぁ? 規則違反でしょ?」


 騎士団の四人が、僕を追及するように次々に口を出す。


 その中で、小馬鹿にするような言い方をしたプリンさんのほうへ顔をむけた。


「……こちらの規則について、お詳しいんですね。さすがです」

「え……べ、別にぃ。餡月郷(あんげつきょう)って妙にお堅いしぃ、なんとなくそうじゃないかって思っただけですよぉ。

 やだなぁ軍師様ったら……っ」


 プリンさんは最後に、一瞬だけにらんできた。


 そういうことを言うのなら、こちらもそういう返事をせざるをえない。

 ……と、わかってもらえたようだ。


「……規則違反についてですが」

「協力者がいるという話は、儂らも聞いて知っておった。問題はない」

「屁理屈だろ、それ」

「おんしらにとやかく言われる筋合いはない。

 儂らは身内だろうと、甘くはせん」


 腕組みをした大福さんが言いきったことで、それ以上追及してくる人はいなかった。

 不満そうに顔をしかめたり、腕組みをしたりしている人はいたけれど。


「というか……規則違反なのは、あなた方では?」

「はぁ? なんだと?」


 言いだしたみたらし団子さんに、クッキーさんが詰めよろうとした。

 それに対抗するように、みたらし団子さんの隣にいた羊羹さんが、片腕をテーブルについて身を乗りだした。


「蜜森をかどわかした件。なあなあで終わらせるつもりはないと申しておるのだが?」

「……っかどわかし?」

「誘拐、という意味です」


 みたらし団子さんが、補足する。


 羊羹さんに凄まれて、一瞬怯んだ様子で口ごもり、唾を飲みこむクッキーさん。


「なにを言ってる。俺たちは誘拐なんかしてねぇよ。なぁ、シュリオ」

「ええ。蜜森氏が自らメローリアに足を運ばれただけで――」

「どうでもいいです。それの証明のために時間をさくのは合理的ではありません」


 ぴしゃりと言いはなつと、シュークリームさんはただ不快そうに目を細めただけ。

 クッキーさんは、鼻で笑ってそっぽをむいていた。


 みたらし団子さんと、羊羹さんを見る。


「お気持ちは嬉しいですが、そういうことなので。今はおさめてください」

「……承知した」

「失礼いたしました」


 羊羹さんはうなずき、みたらし団子さんは僕にむかって頭を下げた。


「……どうでもよくないじゃろ、どうでもよくは」


 ぼそっと聞こえた声は、不満げに頬杖をついてそっぽをむいた、どら焼きさんのもの。

 いちいち反応していては話が進まないので、あえてスルーした。


「……先程の規則違反かどうかの点についてですが。

 協力者がだれなのか、知っていただければご納得いただけるかと」

「ずいぶん自信があるんだな。

 じゃあ、言ってみろよ。だれなんだ?」

「我だ」


 僕が口を開いた直後――ショートケーキ団長自ら、肯定の言葉を発した。


 全員が、ショートケーキ団長を見て固まる。


 しびれを切らしたあんこがテーブルに降りてしまったのも気にせず、僕は自分の耳をふさいだ。


「……はぁあああ!?」


 途端に、驚いたあんこがびくっと震えて、素早く肩の上に戻ってきた。


 耳をふさいでいた手を外して、確認。


 叫んだのは、まちがいなくどら焼きさんとクッキーさん。

 声を上げるタイミングだけでなく、立ちあがるタイミングもほぼ一致していた。


 この二人……気が合うか?

 測ってみると、相性77%、補完率36%。


 ……たしかに、味もとい役割はかぶっているからな。

 間に挟む人が必要か。


 納得した後、他の人たちを見回す。

 ほとんどが、唖然として言葉を失っていた。


 ……ただ一人、大福さんを除いては。


 彼は、すました顔で緑茶を飲み、「ちょうどいい塩梅じゃ」とのん気につぶやいていた。


「……お気づきだったんですね」

「ん? ああ。おんしが『あの方』と呼ぶ者はなかなかおらんからのう。

 まさか、ヴィクトリウスだったとは思わんかったが」


 大福さんが、けらけらと笑いながら言った。

 ……さすがだ。


「ど……っどういうことですか、ショルテンハイム公!」

「そうじゃ、蜜森! なんでよりにもよって敵の頭と!?」

「よりにもよって、とはなんだてめぇ! こっちのセリフだ!」

「なんじゃとコラ!」


 鼻先が付きそうな距離まで近づいて、ケンカをし始めたどら焼きさんとクッキーさん。

 前者はいつものように羊羹さんが、後者はアイスクリームさんが羽交い絞めにして引きはなした。


「なにすんだ、アイザック!」

「うるさいよ。ただでさえ暑いんだから、余計暑苦しくしないで」

「じゃあ、隅で縮こまってりゃいいだろ!」

「クリス」


 ショートケーキ団長が、クッキーさんを呼んだ。

 たちまち彼は、背筋をのばして自分の椅子に座りなおしていた。


 借りてきた猫――もとい、型にはめられた生地のようだった。


「蜜森殿。どういうことですか?」

「そ、そうだ、風! なぜ、どうやってあちらの団長と!?」


 みたらし団子さんに続き、輝一さんが聞いてきた。


 ……みたらし団子さんが、わかりやすく動揺している。

 彼女の妹たちの誘拐事件以来だな。


「……利害が一致したためです。

 イチゴさんのご家族を人質の立場から解放する件と、ブラウニーさんを排除する件で。

 以後も、治安維持のため情報共有が必要だと感じ、関係を続けていました」

「……そういうわけだ」


 ショートケーキ団長がそう言い、自分の部下たちを順番に一人ずつ見た。

 そして、立ちあがる。


「お前たちに黙っていたのは、早いうちに明かせば敵に知られるおそれがあったからだ。

 欺いていたわけではない……そう、理解してもらえぬか」


 次の瞬間、全員が息をのんだ。

 あのショートケーキ団長が――頭を下げた。

読んでいただき、ありがとうございました。

面白いと思っても思わなくても(?)、評価や感想お待ちしております!

次回は、明後日23日(水)20時頃の更新予定です。

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