残念ながら人だけど。
残念ながら人だけど。
和菓子と洋菓子が、互いにむっつりした顔でむかい合って座っている。
我らが甘誠組は、大福さん、輝一 (カステラ)さん、羊羹さん、みたらし団子さん、どら焼きさん。
相手のアントルメ騎士団は、ショートケーキ団長、クッキーさん、シュークリームさん、プリンさん、アイスクリームさん。
壮観。この一言に尽きる。
これだけのスイーツがテーブルにそろっていたら、あんこは興奮して踊り狂っていたはずだ。
……もう一度言うが、残念ながら人だけど。
「見慣れない奴がいるな。だれだ?」
クッキーさんが、眉を寄せて目を細めた険しい顔で、指さした。
その先には、地毛の金髪をさらした輝一さん。
「甘誠組副長、粕谷輝一にございます」
「は?」
「これが元々の姿です。諸事情があって、今までは染めておりました。
ただ、顔は見覚えがあるのでは――ああ、いえ。倒すべき敵の顔など、はっきりと覚えているはずがありませんね。
失礼いたしました」
クッキーさんが唖然として、輝一さんをさしている指を小刻みに震わせていた。
他の騎士団の面々も、驚きの表情を浮かべている。
一方で、輝一さんは胸を張り、堂々としていた。
珍しいな。彼が皮肉るとは。
……いや、素だな。今のは。
「……輝一さんは、出自を辿ればメローリアに行きつくお方です」
「なに?」
「その逆も、そちらには大勢いるのでは?」
あなた方が驚いている理由が、理解不能。
暗にそう告げれば、騎士団側の面々は黙りこんだ。
輝一さんが、こちらへ力強い視線をむけてくる。
軽くうなずいてから、指定された席についた。
「それは、じゃあいいとする。
けど……お前までここにいるのは納得できねぇ!」
未だ座ろうとしないクッキーさんが、今度は僕を指さして吠えた。
「……呼ばれたからここにいます」
「ここはうちと甘誠組の幹部間協議の場だ! お前は部外者だろ!
……その赤いやつは、もっとそうだろ!」
「なにを言っておる。
蜜森は軍師。儂らの行動を決める重要な立場の者。立派な幹部じゃ。
赤いのは、その蜜森の相棒。どこに問題がある?」
「……っ」
大福さんが若干身を乗りだして言うと、クッキーさんは言葉を詰まらせていた。
……あんこは相棒ではない。ただの観察対象だ。
しかし……クッキーさん、いら立っているな。
ストレスフルで、重箱の隅をつつかないといられない心境なのか。
いや、この世界風に言うなら……「パウンド型の隅をつつく」といったところか。
なんて考えながら、テーブルに降りたそうにしていたあんこを、反対側の手のひらで押しつぶして阻止した。
「そういうことだ。クリス」
「ショルテンハイム公! 承認なさるので!?」
「当然だ。むしろいてもらわねば困る……我が、呼んだようなものだからな」
クッキーさんだけでなく、他の騎士団のメンバーも目を見開いた。
そして、甘誠組側も、ぎょっとしてショートケーキ団長を見る。
全員の視線を集めたショートケーキ団長当人は、それをスルーして僕を見つめてきた。
「よいな?」
「……はい」
言われて、その場にいる人たちをざっと見回す。
大福さんだけが、なにか納得したかのように、落ちついた表情で二度うなずいていた。
……ああ。気づかれたな。
「……先日、紅翠域でイチゴ――市田ケイゴさんのご家族が何者かに襲われる事件がありましたね?」
「おや……さすがは、情報が早いですね」
シュークリームさんが、言った。
「ヴィクトリウス様から指示を受けて、警備体制の確認のため私の部隊がむかいました。
……が、どこでそれを?」
「そうなるはずだと、事前に知っていたので」
「……はい?」
「市田が泣きついてきたんじゃ。蜜森を殺しかけておいてなぁ」
どら焼きさんが、不満げに答えた。
「殺し……って。なに、あんた暗殺されかけたの?」
「はい。危ないところでした」
問いかけてきたアイスクリームさんは、渋い顔で「白々しい……」と小声で言っていた。
「どういうことだ? それと市田の家族が襲われるのとどう関係してるんだよ?」
「……なるほど。そういうことですか」
首を傾げているクッキーさんとは正反対に、シュークリームさんは無表情でうなずいていた。
「ええ……? シュリオさぁん、なんでわかるんですか? いったいどういうことですかぁ?」
「むしろなぜわからないのですか。
つまり……市田氏は、何者かに家族を人質にとられて仕方なく軍師の命を狙った、というわけですよ」
冷めた表情を浮かべたシュークリームさんが、手元にあるなにかの資料を整えながら言った。
それから、尋ねてきたプリンさんを見たのち、こちらに視線を移動させてくる。
……確認のためだな。
うなずいて、答える。
「はぁん。そうか。それは残念だったな。
知っていたけど、お前らにはなにもできなかったわけだ」
「できなかったのではなく、しなかったのです」
「は?」
答えた輝一さんが、一旦言葉を切って、僕と大福さんの順に視線をむけた。
「……そうじゃ。蜜森がすでに協力者に依頼済みだと言うもんでなぁ」
「はぁ? 協力者?」
「嘘でしょ。あんた、うちのだれかと通じてたの?」
「ええー? それ、まずいんじゃないですかぁ? 規則違反でしょ?」
騎士団の四人が、僕を追及するように次々に口を出す。
その中で、小馬鹿にするような言い方をしたプリンさんのほうへ顔をむけた。
「……こちらの規則について、お詳しいんですね。さすがです」
「え……べ、別にぃ。餡月郷って妙にお堅いしぃ、なんとなくそうじゃないかって思っただけですよぉ。
やだなぁ軍師様ったら……っ」
プリンさんは最後に、一瞬だけにらんできた。
そういうことを言うのなら、こちらもそういう返事をせざるをえない。
……と、わかってもらえたようだ。
「……規則違反についてですが」
「協力者がいるという話は、儂らも聞いて知っておった。問題はない」
「屁理屈だろ、それ」
「おんしらにとやかく言われる筋合いはない。
儂らは身内だろうと、甘くはせん」
腕組みをした大福さんが言いきったことで、それ以上追及してくる人はいなかった。
不満そうに顔をしかめたり、腕組みをしたりしている人はいたけれど。
「というか……規則違反なのは、あなた方では?」
「はぁ? なんだと?」
言いだしたみたらし団子さんに、クッキーさんが詰めよろうとした。
それに対抗するように、みたらし団子さんの隣にいた羊羹さんが、片腕をテーブルについて身を乗りだした。
「蜜森をかどわかした件。なあなあで終わらせるつもりはないと申しておるのだが?」
「……っかどわかし?」
「誘拐、という意味です」
みたらし団子さんが、補足する。
羊羹さんに凄まれて、一瞬怯んだ様子で口ごもり、唾を飲みこむクッキーさん。
「なにを言ってる。俺たちは誘拐なんかしてねぇよ。なぁ、シュリオ」
「ええ。蜜森氏が自らメローリアに足を運ばれただけで――」
「どうでもいいです。それの証明のために時間をさくのは合理的ではありません」
ぴしゃりと言いはなつと、シュークリームさんはただ不快そうに目を細めただけ。
クッキーさんは、鼻で笑ってそっぽをむいていた。
みたらし団子さんと、羊羹さんを見る。
「お気持ちは嬉しいですが、そういうことなので。今はおさめてください」
「……承知した」
「失礼いたしました」
羊羹さんはうなずき、みたらし団子さんは僕にむかって頭を下げた。
「……どうでもよくないじゃろ、どうでもよくは」
ぼそっと聞こえた声は、不満げに頬杖をついてそっぽをむいた、どら焼きさんのもの。
いちいち反応していては話が進まないので、あえてスルーした。
「……先程の規則違反かどうかの点についてですが。
協力者がだれなのか、知っていただければご納得いただけるかと」
「ずいぶん自信があるんだな。
じゃあ、言ってみろよ。だれなんだ?」
「我だ」
僕が口を開いた直後――ショートケーキ団長自ら、肯定の言葉を発した。
全員が、ショートケーキ団長を見て固まる。
しびれを切らしたあんこがテーブルに降りてしまったのも気にせず、僕は自分の耳をふさいだ。
「……はぁあああ!?」
途端に、驚いたあんこがびくっと震えて、素早く肩の上に戻ってきた。
耳をふさいでいた手を外して、確認。
叫んだのは、まちがいなくどら焼きさんとクッキーさん。
声を上げるタイミングだけでなく、立ちあがるタイミングもほぼ一致していた。
この二人……気が合うか?
測ってみると、相性77%、補完率36%。
……たしかに、味もとい役割はかぶっているからな。
間に挟む人が必要か。
納得した後、他の人たちを見回す。
ほとんどが、唖然として言葉を失っていた。
……ただ一人、大福さんを除いては。
彼は、すました顔で緑茶を飲み、「ちょうどいい塩梅じゃ」とのん気につぶやいていた。
「……お気づきだったんですね」
「ん? ああ。おんしが『あの方』と呼ぶ者はなかなかおらんからのう。
まさか、ヴィクトリウスだったとは思わんかったが」
大福さんが、けらけらと笑いながら言った。
……さすがだ。
「ど……っどういうことですか、ショルテンハイム公!」
「そうじゃ、蜜森! なんでよりにもよって敵の頭と!?」
「よりにもよって、とはなんだてめぇ! こっちのセリフだ!」
「なんじゃとコラ!」
鼻先が付きそうな距離まで近づいて、ケンカをし始めたどら焼きさんとクッキーさん。
前者はいつものように羊羹さんが、後者はアイスクリームさんが羽交い絞めにして引きはなした。
「なにすんだ、アイザック!」
「うるさいよ。ただでさえ暑いんだから、余計暑苦しくしないで」
「じゃあ、隅で縮こまってりゃいいだろ!」
「クリス」
ショートケーキ団長が、クッキーさんを呼んだ。
たちまち彼は、背筋をのばして自分の椅子に座りなおしていた。
借りてきた猫――もとい、型にはめられた生地のようだった。
「蜜森殿。どういうことですか?」
「そ、そうだ、風! なぜ、どうやってあちらの団長と!?」
みたらし団子さんに続き、輝一さんが聞いてきた。
……みたらし団子さんが、わかりやすく動揺している。
彼女の妹たちの誘拐事件以来だな。
「……利害が一致したためです。
イチゴさんのご家族を人質の立場から解放する件と、ブラウニーさんを排除する件で。
以後も、治安維持のため情報共有が必要だと感じ、関係を続けていました」
「……そういうわけだ」
ショートケーキ団長がそう言い、自分の部下たちを順番に一人ずつ見た。
そして、立ちあがる。
「お前たちに黙っていたのは、早いうちに明かせば敵に知られるおそれがあったからだ。
欺いていたわけではない……そう、理解してもらえぬか」
次の瞬間、全員が息をのんだ。
あのショートケーキ団長が――頭を下げた。
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次回は、明後日23日(水)20時頃の更新予定です。




