声が沈んでいた。
声が沈んでいた。
「実行犯ラウニー・ノワールは、その場で自ら毒を飲んで自害した。
もはや、奴から供述をとることはかなわぬ」
「……毒を」
「歯の間に仕込んでいたようだ。想定はしていたのだが……」
「襲撃が成功してもしなくとも、最初からそのつもりだった可能性がありますね」
「……そうかもしれん」
消え入りそうな声。
重要参考人をみすみす死なせたとあっては、ある意味大失態。
そう自覚しているせいと思われる。
「……こちらの内通者も、自害しようとしていました」
「では、やはり黒幕の指示か」
「ほぼまちがいありません」
大きく息を吐いた音がした。
……わからない。
落雁さんも、ブラウニーさんも。
どうしてそこまで、黒幕(仮)のフェーブさんの指示に忠実だったのか。
落雁さんにいたっては、メローリアへの移住を叶えることが動機だったはず。
それだけのために、命まで張る必要がどこにある?
役所の警護隊の監視下にある落雁さんに、直接話を聞くのは難易度が高すぎる。
となると……黒幕を叩くほうが早いか。
「……ありがとうございました。こちらでまた考えてみます。お忙しいところ――」
「軍師」
あいさつして去ろうとしたところ、言葉を遮られた。
壁のほうを振りかえる。
「ガレオ王には、すでにそなたの話をしてある」
「……僕の話?」
「そうだ。
王をお守りできたのは、甘誠組の軍師と情報共有できたおかげだとな」
「それは――」
「事実だ。
我は、人の手柄を自身のものにするなどという卑しい行為はせぬ」
……いや、普通にショートケーキ団長の手柄じゃないか。
輝一さんと似た生真面目さ、とも言える。
「……ガレオ王は、お怒りでは?
敵側にいる僕と手を組むなど、と」
「真逆だ。
むしろ、そなたに興味をお持ちになった様子だ」
「興味?」
「ああ」
一拍置いたショートケーキ団長。
すると、不意に壁のむこう側から飛びだしてきて、僕の目の前に立った。
「ガレオ王からのお言葉として受けとれ……
ミツモリ・フウ。王に、謁見せよ」
……一瞬、思考が停止。
ガレオ王が、僕に会いたいと?
練り切り様と同等の立場にある、敵側の最高権力者にそう思ってもらえた。
たとえるなら、競合する大企業の社長に仕事ぶりを評価されたようなもの。
……当然ながら、なにが別の目的があるはず。
けれど、実現すればこちらが得られるものは多い。
断る理由は、皆無。
「わかりました。どういった手続きが必要なのでしょうか」
「……わかった?」
「はい」
「本当に、理解しているのか?」
「もちろんです。
ガレオ王が会いたいとおっしゃってくださったのですよね?
お受けする以外に道はあるのですか?」
「……ない」
「では、それでいいのでは」
「…………」
沈黙してしまった。
なぜだ。
考えていると、服の中に押しこめていたあんこが、顔を出してきた。
いい加減窮屈だといわんばかりだ。
「これを同行するのはやめておくべきですか?」
「……よくわからぬ男だ」
あんこではなく、僕を見つめていたショートケーキ団長は、再び壁のむこう側に戻った。
……まぁ、聞くまでもなく置いていくつもりだけど。
それを察知したのか不明だが、あんこは僕の肩の上で、ピタリと吸盤を貼りつけてきた。
「必要なのは、まずはこちら側の役人たちの承認。
これについては問題ない。
他に必要なのは……我が騎士団と、そなたら甘誠組の幹部の同意だ」
「互いの幹部の同意……となると」
「ああ。一度、協議の場を設ける必要がある」
「…………」
すこし間を置いてから、ため息をついた。
あのメンバーが、同じ場にそろう。
……荒れるのは必至だな。
どう話を進めるか……の、前に。
まずはあの人たちと、しっかり話をする必要がある。
◇◇◇
「いったいどういうわけじゃ……」
後日。
困惑した大福さんが、ある書状に目を落とした状態で言った。
それは、まぎれもなくショートケーキ団長からのもの。
内容は――言うまでもない。
「幹部間協議……いったいなにを話したいと?」
「そりゃ、国の統治についてじゃろ。
俄然有利なわしらに、待ったをかけたいんじゃ」
みたらし団子さんの問いに、両手で拳を握って自信ありげに笑っているどら焼きさんが答えた。
しかし、大福さんは浮かない顔のまま。
「それが……そうではないようじゃ」
大福さんが、書状を床に置いた。
「めろり――じゃない、メローリア、の領主からある要請があったという話じゃ」
「メローリアの領主からの、要請?」
羊羹さんが聞きかえす。
大福さんは、「うーむ」と言って、腕組みをして目を閉じた。
彼が目を開け、僕を見る。
同じく、他の人も同じタイミングで。
……気持ち悪いくらいに、息がぴったりだ。
「おい。なにか知ってるんじゃろ。言え」
「例の協力者から、なにか聞いたのではないのか?」
「……聞きました」
答えた瞬間、全員がはっと目を開いて、すこし身を乗りだしてきた。
今日のお茶菓子、干し芋を一口かじる。
「……会いたいそうです」
「会いたい? だれがだれに?」
「メローリアの領主が、僕に」
「……は?」
全員が、きょとんとして固まる。
その後の反応は――それぞれ違った。
「はぁあああ!?」
大声を上げたのは、どら焼きさん。
輝一さんは、口を半開きにして絶句。
みたらし団子さんは、疑っているかのように目を細めていた。
羊羹さんは不安そうに眉を寄せ、大福さんは苦笑していた。
「な、なんでそうなるんじゃ!」
「ガレオ王襲撃事件を未然に防いだ件が関係しています。
協力者の方が、僕と情報共有していたおかげだと報告したそうで。
それで、興味をもたれたみたいです」
「……ほう?」
大福さんが、指であごをつまみながら感心していた。
他は、唖然としていたが。
「……なので、皆さんには事前に許可をいただきたいのですが」
「許可っておい! 会ってどうするのじゃ!?」
「そうだ!
敵の本拠地に乗りこむだけでも、危険きわまりないぞ!」
「だからこそです。そんな機会、滅多にありません。
例の……僕を殺させるよう命令した黒幕の件もあります」
「なに?」
大福さんの表情から、瞬時に笑顔が消えた。
「落合様に指示をしていた者のことか?
めろろ――メローリア、の領主に近しいお方という」
「そうです」
大福さんがまた噛んでいた。
慣れたわけじゃなかったんだな。
メローリア。
……そんなに言いにくいのか?
「だれなんじゃ?」
「……候補はいます。でも、確定していないのでだれとは言いきれません」
それを聞き、大福さんが口を真一文字に結んで、うなずいた。
「待て、風。
もしお前とメローリアの領主の謁見が実現すれば、今度はそれを妨害してくるのではないか?
ラウニー氏はまだ捕まっていないのだろう?
やはり危険だ」
輝一さんが、僕の肩に手を置いて言ってきた。
干し芋を気に入らなかった様子のあんこが、ふてくされて転がって遊んでいるのを目で追う。
甘みが控えめだったせいだな。
「……その心配はありません」
「なぜだ」
「いえ。僕が言ったのは、『ブラウニーさんが』僕を襲ってくることはない、という意味です」
「だから、なぜ言いきれるのだ」
「すでにこの世にはいないからです」
「……なに?」
一瞬で、空気がぴりついた。
全員が、眉を寄せたり目を細めたり、険しい顔をしている。
「協力者からの情報です。
ブラウニーさんは、ガレオ王襲撃事件の実行犯でした。
捕縛されたときに自ら毒を飲んで、命を絶ったそうです」
「……そう命じられていた、というわけか」
「おそらくは」
「口封じか……なんてことを」
輝一さんが、悔しそうに顔をゆがませて、うつむいた。
彼より先に聞いてきた羊羹さんも、同じような表情をしていた。
「……よし! わかった」
大福さんが、膝を叩いて立ちあがる。
「協議に応じるとしよう」
「はいっ!?」
「局長! なぜそうなるので!?」
「謁見を承認したわけではない。
ひとまず『協議に』応じるだけじゃ」
……反論は、出なかった。
他の四人は、互いに顔を見合わせるだけ。
中でも、羊羹さんはすでに同意しているかのように、うなずいていた。
「蜜森。
おんしが、めろー……りあ、の領主と謁見する件は、協議の場で詳しい話を聞いてから決める。
それでよいな?」
「……はい。よろしくお願いします」
他の四人を見回してから、一礼した。
……無難な判断だ。
「あと、大福さん」
「なんじゃ?」
「いい加減、慣れたらいかがですか。『メローリア』です」
「……そのうちな」
非常にわかりやすく、若干引きつった笑顔を浮かべて目をそらしていた。
その後はいつもの見回りでの報告がされて、解散となった。
「本当にお会いするつもりなのか」
屯所から出て、一緒に歩いていた輝一さんが心配そうに言った。
「……ガレオ王に、ですか?」
輝一さんが、神妙な顔でうなずく。
「たしかに、敵側の領主とお会いできる機会など、よほどのことがなければありえない。
だが、むこうの狙いが不明じゃないか。
そんな状態で会うのは、危険きわまりないだろう?」
「リスクはあります。
ですが、それを加味しても……得られるものと比較すれば、会うべきだと考えます」
「それはそうかもしれないが……」
輝一さんは、納得できない様子で首を横に振っていた。
肩の上にいるあんこが、甘味通りに行きたそうにしていたので、輝一さんをそちらに誘導した。
「では、一緒に来てください」
「どこにだ?
……甘味通りにか? 先程干し芋をたらふく食べていただろう」
「ガレオ王との謁見が正式に決まったあかつきには、お供として輝一さんがついてきてください」
呆れて苦笑した表情から、固まって動かなくなった輝一さん。
その顔の前で、手を横に振る。
「私が、お前の供?……私も行けと言うのか!?」
「嫌なら他の方に頼みますが」
「いやいや! いっこうにかまわないが……!
なぜ私なのだ。局長ではないのか?」
「護衛役として考えれば、輝一さんが適任です」
うろたえる輝一さんを見ながら、能力のパラメーターの図を思いうかべる。
……思ったとおり。
身軽さがずば抜けている。
つまり、万が一のことがあったときに、すばやく動ける。
みたらし団子さんは、女性という点で先入観を持たれる可能性がある。
大福さんと羊羹さんでは、頼もしいけれど逆にその圧に問題がある。
短気などら焼きさんは、論外。
もとより。
「これ以上、なにもできない遠くで待たせて心労をおかけするわけにはいきませんので」
「……余計かけられるはめになりそうだがな」
焦りを見せていた輝一さんの顔に、穏やかな表情が浮かんでいた。
「わかった。念のため、局長にもうかがっておく。
正式に任じられた場合は……今度こそ、守り通してみせよう」
「……僕からも、大福さんにお願いしておきます」
「ああ」
輝一さんが、手を差しだす。
それに自分の手を重ねて、握手した。
正体不明のこそばゆい感覚は……首元で、あんこがもぞもぞ動いていたのが原因だった。
つかんで、ボールのように握ったり離したりを繰りかえす。
……さて。
協議がどんな流れになるか、できるだけ想定できるパターンを考えておく必要がある。
――どうなったとしても、いいように。
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次回は明後日21日(月)の20時頃更新予定です。




