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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第六章 暗部

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「メローリアの領主に近しいお方じゃ」

「メローリアの領主に近しいお方じゃ」


 僕以外、それを聞いて絶句していた。


 ……大福さんが、珍しく噛まずに「メローリア」と言った。

 さすがに慣れたのか。


「メローリアの領主……の、側近、ということですか?」

「おそらくそういうことじゃろうな」

「そんなばかな! もし本当なら、大問題じゃぞ!?」


 みたらし団子さんの質問を、大福さんが肯定。

 直後に、どら焼きさんが立ちあがって吠えた。


「……大問題、どころでは済まないと思います」

「お前はだからどうしてそんな冷静でいられるんじゃ!」


 詰めよってくるどら焼きさんをいなして、お茶をすする。


「……風。お前は、なにを知ったのだ?

 メローリアの領主の襲撃事件を知っていたのは、なぜなんだ?」

「なに?」

「予測していたからです。

 大福さん、動機についても説明を」


 輝一さんからの問いは、今は重要ではないので簡単に答えただけ。

 湯飲みを置いて、大福さんを見た。


「動機は、蜜森のかどわかしに関わった狩山とほとんど同じじゃ」

「落合様も、メローリアに移住したいと希望していたのですか?」

「そのようじゃ……まったく、世も末じゃなぁ」


 羊羹さんに聞かれて答えた大福さんが、残念そうに目を細め、首を横に振った。


 ……狩山もとい、かりんとうさん。

 彼は、若抹茶さんに移住をあっせんしてもらえると信じて、従っていた。


 今回の落雁さんを操っていたのは、若抹茶さん以上の存在だった。

 落雁さんがその人物と知り合ったのは、餡月郷(あんげつきょう)とメローリア間のある協議の場だったらしい。


 ……効果がてきめんだったとは、容易に想像できる。

 なにしろ、相手はメローリアの領主の側近。

 その気になれば、すぐに領主に話を通してもらえる。


 大した制約もなく、移住が叶う。


 そんなエサをぶら下げておけば、操るのは造作もない。


 黒幕は――メローリアの領主、ガレット・デ・ロワの側近。

 それに近い、似たお菓子か。


 ……現時点では、手がかりがすくなすぎる。

 せめて、名前がわかれば。


「……大福さん」

「なんじゃ?」

「もう一度、お会いしてきてもよろしいでしょうか」

「会う?……おんしの協力者とか?」

「はい。あの方なら、十分な情報を持っている可能性が高いです。

 ただ……」


 大福さんを始め、他の四人を順に見る。

 そして、深く頭を下げた。


「お!? おいおい、どうした!?」

「ご心配をおかけしている件は、重々承知しております。

 ですが、そのお方がだれかを明かすのは、もうすこし後にさせてください」


 そう言ってしばらく、沈黙が下りた。


 ……この仕事は、信用が第一。

 隠し事をしつづけると、それが危うくなるのは当たり前。

 でも……今じゃない。


 栗饅頭で腹がふくれて、寝転がっていたあんこ。

 空気を察したのか、そっと僕の着物の袖に隠れた。


「……なにを言うておる。そんなことせんでもええ」


 大福さんが、僕の肩をつかんでぐいっと持ちあげてきた。


 顔を上げた先にいた人たちは、一様に穏やかに笑っていた。


「そうじゃ。今さらじゃろ。

 お前がなにか妙なことを考えているなんて、今に始まったわけじゃない。

 なぁ、輝一」

「はい。土井殿のおっしゃるとおりだ、風」

「そんなしおらしくされても、今さらですよ」

「好きにしたらいい。俺たちにできることがあれば、従うぞ」

「…………」


 どら焼きさん、輝一さん、みたらし団子さん、羊羹さん。


 順に声をかけられて、今までにない感情が胸の内で渦巻いていた。

 袖の中からちらちらうかがっているあんこを、なんとなく手のひらで押しつぶしておいた。


「おんしはどうじゃ。儂らのこと、信じられるのか」

「……言うまでもありません」


 この人たちならわかってくれる。

 その確信がなければ、こんなことは言わない。


 うなずいて答えると、五人は穏やかな表情を浮かべていた。


「ただ、その協力者とやらに会いにいく前に教えてくれんか。

 白妙様とお会いして、どうなった?」

「……ご報告が遅れました。

 規則改正と共同統治について、前向きに検討するとお約束していただけました」


 途端、聞いてきた大福さん他全員が、目を丸くしていた。


「な……共同統治の件まで話したのか!?」

「当然です」

「不敬だと言われなかったか」

「言われてないので、問題ありません」

「……お前という奴は」


 詰めよってきた輝一さんが、呆れてのけ反っていた。


 ……その意図は、どうでもいいとして。


 羊羹さんを見る。


「近いうちに、叶うはずです」

「……恩に着る」


 羊羹さんは、一度視線を外し、目を閉じてからまた開けて、僕を見て言った。


 彼がさつまいもさんを迎えにいく日は、近いうちに必ずやってくる。

 協議が滞らないよう、目を光らせておく必要はあるけれど。


「肥田様もその場にいたじゃろうて。

 なにか言われなかったのか?」

「……謁見の後に、共同統治の話について問われました。

 だれかから入れ知恵されたのかと」

「それだけか?」

「はい」

「やはり、肥田様はご存じだったので?」


 みたらし団子さんに聞かれて、うなずく。


「局長をされていた頃に、あちらの先代団長から聞かされたようです」

「それは……さぞお怒りになったじゃろうなぁ」


 大福さんが、笑顔を引きつらせていた。


 やはり、そう思うか。


「まぁ、それはともかくじゃ。ご苦労じゃったな、蜜森」

「……問題ありません」


 大福さんの労いの言葉に返事した後、再度五人を見回して、頭を下げた。


 ◇◇◇


 ショートケーキ団長からもらったバッジを使って、その日のうちに密会することに成功した。


 ……やはり、便利だな。もらっておいてよかった。


 先日と同じ密会場所で、待機。

 まもなくむかい側の壁に、トン、とだれかが寄りかかったような音がした。


「……お忙しいときに申し訳ありません」

「手短にせよ」


 ショートケーキ団長の声は、どこか疲れているようにも聞こえた。


 それもそうだ。

 なにしろ、領主の襲撃未遂事件なんていう、前代未聞の事件が起こったのだから。


 事後処理で慌ただしくしていたはず……だが。

 それにも関係がある話だから、遠慮してはいられない。


「こちらの内通者が判明し、捕縛しました。

 取り調べを担当したお方から、その結果報告をいただいたのですが……

 それ関連で、お尋ねしたいことがあります」

「黒幕の正体でも白状したのか」

「……はい」


 身じろぐような、布がこすれる音がした。

 動揺したか。


「……だれだ」

「ガレオ王に近しいお方だと。名前は不明です」

「なんだと……?」


 今度は、はっきりと動揺しているのが声でわかった。


 しばらく、反応はなかった。


「……それで? 尋ねたいというのは、その者についてか」

「はい。あなたの考えをお聞きしたく」

「考え?」

「ガレオ王に近しいお方――側近は、大勢いるかと思います。

 ただ、直接お会いして話ができる人物となると、限られるのではないかと」

「直接お会いできる人物……なぜだ?」

「内通者は、メローリアへの移住を強く希望していた模様です」

「……なるほど。

 ガレオ王に直接話を通せるお方なら、そういう者を手玉にとることも容易いか」

「はい。心当たりはありませんか」


 尋ねると、また彼は沈黙した。


「……一人、思いつくお方がいる」

「一人?」


 ……予想外。

 この時点で、そこまで絞りこめるのか。

 逆に危うい気もするが。


「名は言えぬが……そのお方は、まさしくガレオ王に一番近いお方だ」

「……具体的には?」

「先代の頃から仕えていて、ガレオ王を領主に擁立した人物として知られている。

 王からの信頼は厚く、役人の間では決して無視できない存在となっている」


 ……なるほど。

 そうやって、領主の信頼を得つつ政界に幅を利かせてきたんだな。


「……そのお方にお会いしたことは?」

「ある……が、ほんの数回だけだ。

 ほとんど表には姿を見せないものでな。

 聞いた話では、過去の闘病中に負った傷が原因で、人前に出ることを極端に嫌っていると」


 表に姿を現さない。

 ガレオ王――ガレット・デ・ロワ様の側近。

 洋菓子の王を擁立。


 王を、選んだ人。


「……フェーブ」

「なに?」


 ぽつりとつぶやいた瞬間、布がこすれる音と動揺したショートケーキ団長の声が聞こえた。


「……不敬ですが、ご容赦ください。

 ガレオ王をお菓子にたとえるなら、ガレット・デ・ロワが相当するかと。

 その中に隠されていて、手に入れた者が王になる陶器製の人形フェーブ……

 それに似た名前のお方では?」


 ……無音。

 ショートケーキ団長は、答えるどころか反応も示さない。


 この推理がまちがっているのなら……違う観点から、一から考えなければならなくなるが。


「……そなたには敵わぬ」

「では?」

「フェーブではない。フェブル・ポートリー様だ」


 ……正解か。

 フェブル……原形のフェーブとほとんど変わらない。


 お菓子そのものではなく、お菓子に関係するものがモチーフになっている人。

 みたらし団子さんの妹たちを誘拐した、串本さん以来だ。


 ……いや。たしか、「フェーブ」はそら豆を意味するらしいから、一応食べ物ではあるな。


「そなたの話が本当ならば、大事だな。

 メローリアだけでなく、国全体を巻きこむ大問題になりかねん」

「……すでに大事になっているのでは? ガレオ王はご無事ですか?」

「当然だ」


 そこで切り、すこし間を置いてから、ため息をついたような音がかすかに聞こえてきた。


「……今の情報の代わりだ。詳しく話しておこう」

「お願いします」


 そうして、ショートケーキ団長はかいつまんで語ってくれた。


 まず、人質にされていたイチゴさんの家族が狙われたときまでさかのぼる。


 ショートケーキ団長は、隠密行動が得意なシュークリームさんに命令。

 その部隊を、家族の警護にあたらせた。

 おかげで、周辺をうろついていた不審者は残らず逮捕され、イチゴさんの家族は全員保護された。


 ……だが。

 その者の中に、イチゴさんに指示を出していたブラウニーさんの姿はなかったらしい。


「軍師の暗殺、嘆願書の強奪および謁見阻止。続けて失敗したことになる。

 しかし、それで諦めるとは思えん。

 軍師を止められない。

 餡月郷にいた手駒も失った。

 ならば、次に狙うものはなにか……

 そもそも、なぜ黒幕がそれらをしようとしていたのか。

 そこを考えれば、答えは明白だ」


 双甘大試(そうかんたいし)で三連勝を果たした僕ら餡月郷側が、国の覇権を握るのに一歩近づいた。

 それを、なんとしてでも阻止したかった。


 ……そんな思惑が、透けてみえる。


 ならば、次に狙われるのは――最終的な協議の相手となる人物。

 ガレオ王。


 屋敷から領内へ公務のために赴く予定があり、そのタイミングを狙ってくるはず。

 と、踏んでいたとショートケーキ団長は言った。


 ……しかし。


 ガレオ王を殺してしまったら、フェーブさんの立場も危うくなってしまう。

 つまり、公の場に出られなくなる程度でよかったのだ。

 国にとって最重要な協議が、当事者不在で行われるはずがないから。


 ……実行犯のブラウニーさんを追及すれば、より真実に近づけるはず。


「ブラウニーさんは、その場にいたのですか?」

「ああ。やはり今回は、直接手を下す側に回ったようだ」

「では、今は取り調べの最中ですか?」

「……いや」


 ショートケーキ団長は、なぜかそこで言葉を濁した。

読んでいただきありがとうございました。

次回は、明後日19日(土)の20時頃の更新です。

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