強い弾力性だけで勝負に出るとは限らない。
強い弾力性だけで勝負に出るとは限らない。
プリンにも、いろいろ種類がある。
持ち味もそれぞれ。
だから、プリンさんがどう出てくるか。
そこをまず見極める必要がある。
「蜜森殿」
決意を固めたらしいみたらし団子さんが、目の前に立っていた。
じっと見つめてきて、指示を待っている。
「……相手の出方を、よく見極めてください」
「受け流して反撃してくるのが定石では?」
「そうしてこない可能性も大いにあります」
「……承知しました」
みたらし団子さんが、僕と大福さんに一礼。
そして、戦場に立った。
――試合は、意外な結果となった。
序盤、押していたのはみたらし団子さんだった。
プリンさんが、防御に徹するしかないほどの猛攻。
さすがのプリンさんにも、次第に焦りが見えてきた。
――そんなときだった。
「おいプリモ!『す』が入ってるぞ!」
洋菓子側の控え場所から、クッキーさんがヤジを飛ばした。
……利用された。
瞬時に、そう察した。
「ああん!? てめぇ、だれの顔がどうなってるって!?
どこに目ぇつけてんだよ! この……クソがぁ!」
「っ!?」
突然汚い言葉を発して詰めよってくるプリンさんに、驚くみたらし団子さん。
どよめく観客。
――その後は、形勢逆転。
執拗に攻めたてられたみたらし団子さんは、必死に抵抗。
しかし、足を打たれたせいで自慢のスピードをほとんど封じられた。
それが、決定打となった。
「第二試合、決着! 勝者は、アントルメ騎士団プリモ・カラメッロ様!」
まともに動けなくなったみたらし団子さんが、泣く泣く降参をしたのだった。
「ぬあ……っ! 三葉……!」
「担架を急げ!」
羊羹さんの指示で、担架をもった救護役が駆けよっていく。
輝一さんは、なにも言わずに険しい顔。
大福さんは、腕を組んで同じように目を細めていた。
……想定、できていなかった。
「……僕の失策です」
「なに?」
「あのヤジは、僕があちらにいたときに使ったものです」
それを、利用された。
敵が僕を分析していたことを知っていたのに、ああしてくると思いいたれなかった。
情報管理の不備だ。
顔をうつむけて考えていると、背中を強く叩かれた。
「なにを落ちこんでおるんじゃ。なにが失策じゃ。まだ終わっとらんではないか」
犯人は、大福さん。
不敵な笑みを浮かべている。
……痛い。
手形が残っていそうなほどヒリヒリする。
「局長のおっしゃるとおりだ、風。気にするな。団殿はおそらく大丈夫だ」
「……みたらし団子さんのことは気にしていません」
「そこはせんかい!」
輝一さんの謎の激励の言葉と、どら焼きさんのツッコミの言葉に、首を傾げる。
あんこが、ジト目で見てきたのも謎だった。
そしてまもなく、担架で運ばれてきたみたらし団子さんは、そのまま重傷者用の救護所へと運ばれていった。
……足をやられたのは、かなりの痛手。
治療に専念してもらうよう促すほかない。
妹の三色団子さんたちに、看護を依頼するのが最適か。
次、洋菓子側の控え場所に目をやる。
例のヤジを飛ばしたクッキーさんが、こちらを見ていた。
……ざまぁみろ、とでも思っている様子。
早々にお返しさせてもらう。
けれど、お返ししなければならない状況になるとは。
「……焼きが回りました」
「おう! そのとおりじゃ! 次こそ勝って大手をかけるんじゃ!
なぁ、養田殿!」
「……ああ」
どら焼きさんが、一人で盛りあがっている。
一方で、羊羹さんはキリッと目を吊りあげて、きつく鉢巻きを締めていた。
……思っていた意味と違ったらしい。
まぁ、結果オーライだけど。
「蜜森」
羊羹さんに呼ばれ、咀嚼していたすあまを飲みこんでから、口を開いた。
次の相手は……アイスクリームさん。
「……相手が守りから入った場合、口で攻撃してください」
「口?」
「シュークリームさんがどら焼きさんに使った手を、お返しするんです」
羊羹さんは、了承せずにただ眉を寄せた。
「俺にあいつの真似ができると思うか」
「真似ではありません。指摘してください」
「……指摘」
僕の言葉をリピートした羊羹さんは、わずかに口角を上げて、うなずいた。
……知っている。
口下手な羊羹さんには、挑発行為は難しい。
だけど、彼の部下は違う。
荒くれ者ばかりで、相手を挑発するのはむしろ得意。
羊羹さんは、常にそれをたしなめる側。
彼には、「挑発」ではなく「指摘」がしっくりくる。
「行ってまいります」
「まかせたぞ」
大福さんに背中を叩かれ、羊羹さんが出撃する。
……眉一つ動いてなかった。
叩かれるのに慣れているのか。あの馬鹿力に。
――そして、第三試合が始まった。
想定どおり、アイスクリームさんは序盤、守りに徹していた。
カチカチのアイスクリーム。
本来なら、守りに入るのは最適解。
けれど……それは、相手を考えた上での話。
「今回はずいぶん大人しいな。
今までの戦い方がまちがっていたとようやく気づいたのだな。いいことだ」
「……っ!」
「自身のまちがいに気づかず、改善しようとしない。それこそ真の愚か者だ。
気づくことは強者になるための一歩。よくわかっているじゃないか」
「……うるさいんだけど」
「恥ずかしがらなくてもいい。お前は自身の弱さを認めた。立派だ。褒めてやる」
「……っだから、うるさいって言ってるだろっ!」
アイスクリームさんは、早々に攻撃に転換してしまった。
……さすがだ。
「気持ちはわかるぞ……わしが言われる側なら、絶対無理じゃ」
「儂も怪しいぞ。霞月亭の堅焼き煎餅並みに、意思の固い者でないと無理じゃな」
どら焼きさんはげんなりとして、大福さんは苦笑しながら、戦いを見守っていた。
「……なぜアイザック殿は怒っているのだ? 褒めていただいているのに」
輝一さんが、心底意味不明だとばかりに眉を寄せて、聞いてきた。
……通用しない人が、ここに。
僕は、「さぁ」とだけ答えておいた。
早々に攻撃にシフトしてしまったアイスクリームさんは、羊羹さんとまともにぶつかり合うはめになった。
だけど、力では羊羹さんのほうが上。
「待て、アイザック!」
攻撃しつづけるアイスクリームさんを止めようと、またクッキーさんが叫ぶ。
……なぜショートケーキ団長じゃないんだ?
アイスクリームさんを止めるには、あの人以外の言葉では無理に決まっているのに。
そのクッキーさんの制止は当然聞かずに、アイスクリームさんが攻撃する。
羊羹さんも、それに合わせて木刀を振るう。
相手の木刀を砕き、その勢いのまま、アイスクリームさんに直撃。
そして――吹きとんだ。
「第三試合! 勝者、甘誠組・養田完二郎様に決しました!」
「うおおおお! 隊長ーっ!」
「さすがですぜ! 隊長ぉぉ!」
最中さんに雷おこしさん、その他羊羹さんの部下らしき人の歓声が、ひどい。
……どら焼きさんのときと同じく、今回もか。
当の羊羹さんは、まるでその喧騒は耳に入っていないかのように、観客席のある一点をしずかに見つめていた。
だれかを見ている。
……あの人だな。
そして、羊羹さんはしっかりとした足取りで戻ってきた。
「ようやった、完二郎。さすがじゃ!」
「ありがとうございます」
羊羹さんが、大福さんから手ぬぐいを受けとり、汗を拭いた。
「……さつまいもさん、いましたか」
顔を手ぬぐいで覆ったところでぼそりと聞くと、羊羹さんが固まった。
……わかりやすい図星の表現。
さつまいもさん――近い将来、羊羹さんの妻になる人。
中立の立場にある彼女は、公には応援はできない。
けれど、想いはしっかり届いていたようだ。
「……お父上と、一緒に来ていた」
「お父さんと」
「ああ。なにやら騒いでいるお父上をなだめている様子だった。ちゃんと、目も……合った」
「よかったですね」
「……お前の仕業か?」
「なにがですか」
「……いや。別にいい」
羊羹さんはそれだけ言って、鉢巻きを外しながら大福さんの後ろの席に座った。
……本当に、なにもしていないのだが。
「よし……次は輝一じゃな!……輝一?」
「…………」
輝一さんは、座ったまま目を閉じ、何度も深呼吸していた。
……集中して、自分の世界に入っている。
その気合いが、空回りするのだけは避けないといけない。
「輝一。いつもどおりじゃ。勝ちなど意識せんでええ」
「……わかっております」
大福さんに肩を思いきり叩かれ、輝一さんはやっと目を開けた。
……脱臼しそうなほどの強打。
やはりここの人たちは、この人に叩かれ慣れている。
感心しながら見ていると、輝一さんは最後に大きく息を吐き、立ちあがって鉢巻きをつけた。
……彼の相手は、クッキーさん。
彼も正直、どう出てくるかが予想しづらい。
「……輝一さん。クッキーさんは――」
「わかっている。どんなお方くらいは」
輝一さんが、僕の言葉を遮って、振りかえった。
「私に考えがある。任せてくれないか」
「……では、お願いします」
会釈しながら返事。
輝一さんがうなずき、大福さんのほうをむいて頭を下げ、戦場にむかった。
あんこが、僕の肩の上でなぜかそわそわしている。
顔に当たった触手を払いながら、輝一さんの背中をじっと見た。
……ここで、決まるか。
始まる前に、お茶のおかわりをもらう。
「では……これより、第四試合を始めます! 粕谷輝一様対クリス・ディアマンテ様! 準備が整ったようです!」
二人が、にらみ合っている。
「これで決める、とか思ってんじゃねぇだろうな」
「……無論です」
「はっ! そうはいくかよ……なめんな」
互いに木刀をかまえた。
「では――始めっ!」
イチゴさんの号令の直後、輝一さんが駆けだした。
素早く距離をつめ、クッキーさんの間合いに入る。
クッキーさんが、驚いたように目を見開いた。
――以前より、速い。
次の瞬間、輝一さんが木刀を振るった。
そこから、クッキーさんに息をつかせる間もない猛攻。
「いいぞ、輝一! もっと攻めろ!」
「……なるほど」
「なるほど?」
応援しながら騒いでいるどら焼きさんの傍らで、僕のつぶやきを聞いた大福さんが振りむいた。
「……相手は、中距離型。多彩な攻撃が得意な方です」
クッキー。
食感や形が様々な、ザ・洋菓子。
手札を出させる前に、潰す。
それが、輝一さんの考えだ。
「……そうか。近距離を保って、相手の攻撃を封じる作戦か。いい手じゃな」
感心して、大福さんがあごを指でつまんでいる。
……だけど。
戦場を見つめながら考えていた――そのとき。
観客席から、ひときわ大きな歓声。
輝一さんが、クッキーさんの木刀を払ったのだ。
大きな攻撃のチャンス。
「終わりです!」
輝一さんの、横一閃の攻撃。
クッキーさんのみぞおちに、その木刀が食いこんだ。




