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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第四章 共存

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強い弾力性だけで勝負に出るとは限らない。

 強い弾力性だけで勝負に出るとは限らない。

 プリンにも、いろいろ種類がある。

 持ち味もそれぞれ。


 だから、プリンさんがどう出てくるか。

 そこをまず見極める必要がある。


「蜜森殿」


 決意を固めたらしいみたらし団子さんが、目の前に立っていた。

 じっと見つめてきて、指示を待っている。


「……相手の出方を、よく見極めてください」

「受け流して反撃してくるのが定石では?」

「そうしてこない可能性も大いにあります」

「……承知しました」


 みたらし団子さんが、僕と大福さんに一礼。


 そして、戦場に立った。


 ――試合は、意外な結果となった。


 序盤、押していたのはみたらし団子さんだった。

 プリンさんが、防御に徹するしかないほどの猛攻。

 さすがのプリンさんにも、次第に焦りが見えてきた。


 ――そんなときだった。


「おいプリモ!『す』が入ってるぞ!」


 洋菓子側の控え場所から、クッキーさんがヤジを飛ばした。


 ……利用された。

 瞬時に、そう察した。


「ああん!? てめぇ、だれの顔がどうなってるって!?

 どこに目ぇつけてんだよ! この……クソがぁ!」

「っ!?」


 突然汚い言葉を発して詰めよってくるプリンさんに、驚くみたらし団子さん。

 どよめく観客。


 ――その後は、形勢逆転。

 執拗に攻めたてられたみたらし団子さんは、必死に抵抗。

 しかし、足を打たれたせいで自慢のスピードをほとんど封じられた。


 それが、決定打となった。


「第二試合、決着! 勝者は、アントルメ騎士団プリモ・カラメッロ様!」


 まともに動けなくなったみたらし団子さんが、泣く泣く降参をしたのだった。


「ぬあ……っ! 三葉……!」

「担架を急げ!」


 羊羹さんの指示で、担架をもった救護役が駆けよっていく。


 輝一さんは、なにも言わずに険しい顔。

 大福さんは、腕を組んで同じように目を細めていた。


 ……想定、できていなかった。


「……僕の失策です」

「なに?」

「あのヤジは、僕があちらにいたときに使ったものです」


 それを、利用された。

 敵が僕を分析していたことを知っていたのに、ああしてくると思いいたれなかった。

 情報管理の不備だ。


 顔をうつむけて考えていると、背中を強く叩かれた。


「なにを落ちこんでおるんじゃ。なにが失策じゃ。まだ終わっとらんではないか」


 犯人は、大福さん。

 不敵な笑みを浮かべている。


 ……痛い。

 手形が残っていそうなほどヒリヒリする。


「局長のおっしゃるとおりだ、風。気にするな。団殿はおそらく大丈夫だ」

「……みたらし団子さんのことは気にしていません」

「そこはせんかい!」


 輝一さんの謎の激励の言葉と、どら焼きさんのツッコミの言葉に、首を傾げる。

 あんこが、ジト目で見てきたのも謎だった。


 そしてまもなく、担架で運ばれてきたみたらし団子さんは、そのまま重傷者用の救護所へと運ばれていった。


 ……足をやられたのは、かなりの痛手。

 治療に専念してもらうよう促すほかない。

 妹の三色団子さんたちに、看護を依頼するのが最適か。


 次、洋菓子側の控え場所に目をやる。

 例のヤジを飛ばしたクッキーさんが、こちらを見ていた。


 ……ざまぁみろ、とでも思っている様子。

 早々にお返しさせてもらう。


 けれど、お返ししなければならない状況になるとは。


「……焼きが回りました」

「おう! そのとおりじゃ! 次こそ勝って大手をかけるんじゃ!

 なぁ、養田殿!」

「……ああ」


 どら焼きさんが、一人で盛りあがっている。

 一方で、羊羹さんはキリッと目を吊りあげて、きつく鉢巻きを締めていた。


 ……思っていた意味と違ったらしい。

 まぁ、結果オーライだけど。


「蜜森」


 羊羹さんに呼ばれ、咀嚼していたすあまを飲みこんでから、口を開いた。


 次の相手は……アイスクリームさん。


「……相手が守りから入った場合、口で攻撃してください」

「口?」

「シュークリームさんがどら焼きさんに使った手を、お返しするんです」


 羊羹さんは、了承せずにただ眉を寄せた。


「俺にあいつの真似ができると思うか」

「真似ではありません。指摘してください」

「……指摘」


 僕の言葉をリピートした羊羹さんは、わずかに口角を上げて、うなずいた。


 ……知っている。


 口下手な羊羹さんには、挑発行為は難しい。

 だけど、彼の部下は違う。

 荒くれ者ばかりで、相手を挑発するのはむしろ得意。


 羊羹さんは、常にそれをたしなめる側。

 彼には、「挑発」ではなく「指摘」がしっくりくる。


「行ってまいります」

「まかせたぞ」


 大福さんに背中を叩かれ、羊羹さんが出撃する。

 ……眉一つ動いてなかった。


 叩かれるのに慣れているのか。あの馬鹿力に。


 ――そして、第三試合が始まった。


 想定どおり、アイスクリームさんは序盤、守りに徹していた。

 カチカチのアイスクリーム。

 本来なら、守りに入るのは最適解。


 けれど……それは、相手を考えた上での話。


「今回はずいぶん大人しいな。

 今までの戦い方がまちがっていたとようやく気づいたのだな。いいことだ」

「……っ!」

「自身のまちがいに気づかず、改善しようとしない。それこそ真の愚か者だ。

 気づくことは強者になるための一歩。よくわかっているじゃないか」

「……うるさいんだけど」

「恥ずかしがらなくてもいい。お前は自身の弱さを認めた。立派だ。褒めてやる」

「……っだから、うるさいって言ってるだろっ!」


 アイスクリームさんは、早々に攻撃に転換してしまった。


 ……さすがだ。


「気持ちはわかるぞ……わしが言われる側なら、絶対無理じゃ」

「儂も怪しいぞ。霞月亭(かげつてい)の堅焼き煎餅並みに、意思の固い者でないと無理じゃな」


 どら焼きさんはげんなりとして、大福さんは苦笑しながら、戦いを見守っていた。


「……なぜアイザック殿は怒っているのだ? 褒めていただいているのに」


 輝一さんが、心底意味不明だとばかりに眉を寄せて、聞いてきた。


 ……通用しない人が、ここに。

 僕は、「さぁ」とだけ答えておいた。


 早々に攻撃にシフトしてしまったアイスクリームさんは、羊羹さんとまともにぶつかり合うはめになった。

 だけど、力では羊羹さんのほうが上。


「待て、アイザック!」


 攻撃しつづけるアイスクリームさんを止めようと、またクッキーさんが叫ぶ。


 ……なぜショートケーキ団長じゃないんだ?

 アイスクリームさんを止めるには、あの人以外の言葉では無理に決まっているのに。


 そのクッキーさんの制止は当然聞かずに、アイスクリームさんが攻撃する。

 羊羹さんも、それに合わせて木刀を振るう。

 相手の木刀を砕き、その勢いのまま、アイスクリームさんに直撃。


 そして――吹きとんだ。


「第三試合! 勝者、甘誠組(かんせいぐみ)・養田完二郎様に決しました!」

「うおおおお! 隊長ーっ!」

「さすがですぜ! 隊長ぉぉ!」


 最中さんに雷おこしさん、その他羊羹さんの部下らしき人の歓声が、ひどい。

 ……どら焼きさんのときと同じく、今回もか。


 当の羊羹さんは、まるでその喧騒は耳に入っていないかのように、観客席のある一点をしずかに見つめていた。


 だれかを見ている。

 ……あの人だな。


 そして、羊羹さんはしっかりとした足取りで戻ってきた。


「ようやった、完二郎。さすがじゃ!」

「ありがとうございます」


 羊羹さんが、大福さんから手ぬぐいを受けとり、汗を拭いた。


「……さつまいもさん、いましたか」


 顔を手ぬぐいで覆ったところでぼそりと聞くと、羊羹さんが固まった。

 ……わかりやすい図星の表現。


 さつまいもさん――近い将来、羊羹さんの妻になる人。

 中立の立場にある彼女は、公には応援はできない。

 けれど、想いはしっかり届いていたようだ。


「……お父上と、一緒に来ていた」

「お父さんと」

「ああ。なにやら騒いでいるお父上をなだめている様子だった。ちゃんと、目も……合った」

「よかったですね」

「……お前の仕業か?」

「なにがですか」

「……いや。別にいい」


 羊羹さんはそれだけ言って、鉢巻きを外しながら大福さんの後ろの席に座った。


 ……本当に、なにもしていないのだが。


「よし……次は輝一じゃな!……輝一?」

「…………」


 輝一さんは、座ったまま目を閉じ、何度も深呼吸していた。

 ……集中して、自分の世界に入っている。


 その気合いが、空回りするのだけは避けないといけない。


「輝一。いつもどおりじゃ。勝ちなど意識せんでええ」

「……わかっております」


 大福さんに肩を思いきり叩かれ、輝一さんはやっと目を開けた。


 ……脱臼しそうなほどの強打。

 やはりここの人たちは、この人に叩かれ慣れている。


 感心しながら見ていると、輝一さんは最後に大きく息を吐き、立ちあがって鉢巻きをつけた。


 ……彼の相手は、クッキーさん。

 彼も正直、どう出てくるかが予想しづらい。


「……輝一さん。クッキーさんは――」

「わかっている。どんなお方くらいは」


 輝一さんが、僕の言葉を遮って、振りかえった。


「私に考えがある。任せてくれないか」

「……では、お願いします」


 会釈しながら返事。


 輝一さんがうなずき、大福さんのほうをむいて頭を下げ、戦場にむかった。


 あんこが、僕の肩の上でなぜかそわそわしている。

 顔に当たった触手を払いながら、輝一さんの背中をじっと見た。


 ……ここで、決まるか。


 始まる前に、お茶のおかわりをもらう。


「では……これより、第四試合を始めます! 粕谷輝一様対クリス・ディアマンテ様! 準備が整ったようです!」


 二人が、にらみ合っている。


「これで決める、とか思ってんじゃねぇだろうな」

「……無論です」

「はっ! そうはいくかよ……なめんな」


 互いに木刀をかまえた。


「では――始めっ!」


 イチゴさんの号令の直後、輝一さんが駆けだした。

 素早く距離をつめ、クッキーさんの間合いに入る。

 クッキーさんが、驚いたように目を見開いた。


 ――以前より、速い。


 次の瞬間、輝一さんが木刀を振るった。

 そこから、クッキーさんに息をつかせる間もない猛攻。


「いいぞ、輝一! もっと攻めろ!」

「……なるほど」

「なるほど?」


 応援しながら騒いでいるどら焼きさんの傍らで、僕のつぶやきを聞いた大福さんが振りむいた。


「……相手は、中距離型。多彩な攻撃が得意な方です」


 クッキー。

 食感や形が様々な、ザ・洋菓子。


 手札を出させる前に、潰す。

 それが、輝一さんの考えだ。


「……そうか。近距離を保って、相手の攻撃を封じる作戦か。いい手じゃな」


 感心して、大福さんがあごを指でつまんでいる。


 ……だけど。


 戦場を見つめながら考えていた――そのとき。

 観客席から、ひときわ大きな歓声。


 輝一さんが、クッキーさんの木刀を払ったのだ。

 大きな攻撃のチャンス。


「終わりです!」


 輝一さんの、横一閃の攻撃。

 クッキーさんのみぞおちに、その木刀が食いこんだ。

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