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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第四章 共存

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今になって気づいた。これは、病気か?

 今になって気づいた。これは、病気か?

 中庭の松の木の一部が、茶色く変色していた。

 ちっとも気づかなかった。


 ……けれど。

 今回の大会では、わずかな見逃しも許されない。


 絶対に負けられない戦い――それは、今までだってそうだった。

 今回との差は、重みだ。



『この件があるからといって、勝ちだけに囚われぬことだ』



 求肥さんの言葉が蘇る。


 ……さすがは、先代局長。

 饅頭さんのような指導役になってもらえたら、別の意味で戦力は飛躍的に向上するはず。

 だが、惜しいことに、提案しても本人が了承しない可能性が非常に高い。


 ……思考がそれた。


 不思議そうにこちらを見て首を傾げているあんこに気づき、頭をつまんで持ちあげ、離す。

 べちょ、と音を立てて、落ちた。


 触手をパタパタ動かして、なにするんだとばかりに憤慨しているあんこを見つめる。


 ……さて。どうするか。


 アントルメ騎士団側は、ほぼ固定で第三試合にショートケーキ団長を配置してくるはず。

 ならば、今回はそこに大福さんをあてがってもいい。

 そうなると、一番の悩みどころは、どら焼きさんをだれと組ませるか。

 輝一さんとでは、補完率が死んでいるからありえない……し……


「……なにか?」

「失礼いたしまする」


 妙な気配を感じて声をかけると、すぐ目の前に、どこからか人が現れた。

 彼は――みたらし団子さんのところの隊のナンバーツー、よもぎ団子さん。


 ……忍者か。


「隊長の命で参りました。至急、屯所にお連れするようにと」

「……承知しました」


 草履を履いて、あんこを肩の上へ。


 ひざまずいていたよもぎ団子さんが、しゃがんでこちらに背をむけた格好をしていた。


「……なんでしょうか」

「お乗りください。馬より早くお送りできますゆえ」

「…………」


 この、ちんまりとした老人が、人を乗せた状態で、馬より早く?


 ……にわかには信じられなかったが、みたらし団子さんが差しむけた人だ。根拠はある。

 お試しのつもりで、その背に乗ってみた。


「では。舌を噛まれませぬよう」

「よろしくお願い、し……ま、す」


 言いきるより先に、よもぎ団子さんはすでに走りだしていた。

 その、早いこと。


「到着いたしました」

「…………」


 文字どおり、あっという間に屯所に到着。

 走っている最中は、周りの景色がぶれてよく見えないほどだった。

 あんこは、強制的に襟の中に収納していなければ確実に飛ばされていた。


 ……能ある鷹は爪を隠す。

 この人も十分候補になるな。


「……ありがとうございました」


 お礼を言うと、よもぎ団子さんは一礼して、足音も立てずに去っていった。


 ……さて。至急の用事とは、なんだ?


「来たか、蜜森。早かったな」

「……よもぎ団子さんのおかげで」


 会議室には、大福さん他幹部全員がそろっていた。


 みたらし団子さんを見て会釈。彼女も同じようにしていた。


「ヴィクトリウスの名で、要望書が届いた」

「……内容は?」

双甘大試(そうかんたいし)の形式について、話し合いたいことがあるとのことじゃ」

「具体的には?」

「そこまでは書いておらん。正式な協議の場で詳しく話をしたいそうじゃが……どう思う?」


 ……双甘大試の形式についての話し合い。

 なにかしらの変更を希望している。


 今の形式――第一と第二試合がダブルス戦で、最終第三試合がシングルス。

 これを変えるとするなら。


「すべてシン――単騎戦にしたいと考えているのでは」


 予想を口にしたが、だれ一人驚いてはいなかった。

 すでにそう考えていたらしい。


 腕組みをした大福さんが、うなずいた。


「十中八九、そうじゃろうなぁ」

「妙な話じゃ。負けが越している側のくせして、よくもそんな申し入れができたもんじゃ」


 どら焼きさんが、鼻で笑う。


 一方で、菓子鉢に月見団子よろしく積まれている、色の濃い饅頭に近づいていくあんこ。

 それを目で追いながら、どら焼きさんへ視線を移す。


「……今は五分の状態では」

「じゃから! こっちが二連勝したんじゃから、むこうが負け越しているようなもんじゃろ!」

「……?」

「なんでわからんのじゃっ!」


 首を傾げつつ、あんこが持ってきた饅頭を受けとった。


 ……この皮の硬さ。かりんとう饅頭か。

 一口かじった瞬間、カリッとした食感と、黒砂糖とこし餡の風味が口の中に広がる。


 あんこにちぎって与えたら、食感に驚いたのか一瞬固まって、しかしすぐに喜びの踊りをしていた。


「土井殿のおっしゃるとおり、むこうは二連敗している。

 もう負けられないと考えて、あらゆる方法で自分たちを有利にしたいと思っているに違いない」

「上は、応じるのでしょうか?」


 輝一さんに続いて、羊羹さんが大福さんを見て、聞いた。

 振られた大福さんは、「ううむ」とうなっていた。


 ……上、は?


「どういう意味ですか」


 饅頭を咀嚼して飲みこんでから、羊羹さんに聞いた。


「双甘大試で戦うのは我らだが、決めるのは我らではないのだ」

「そうじゃ。決定権は、白妙様にある。

 もしあのお方が是と言えば、役人が派遣されて話し合いとなるはずじゃ」


 ……そうか。

 そういえば以前、大福さんが言っていたな。

 双甘大試で木刀が使われる理由。

 それは、白妙様もとい練り切り様と、メローリアの領主との間で結ばれた取り決めによるものだと。


 役人の間だけ――現場の者抜きで、話が進められるのか。

 ……その人たちが現場を十分理解しているのであれば、かまわない。

 そうでなければ、ただの不合理だ。


「その話し合いに、僕らが同席することは不可能ですか?」

「いや。意見を言える立場にはないが、警護目的で立ちあうのは許されとる。

 どうじゃ、蜜森。儂と同席せんか?」

「ぜひお願いいたします」


 軽く頭を下げると、大福さんは満足げに二度うなずいていた。


 あとは、その協議の場はどこなのか、だ。


「場所は?」

(べに)(さと)じゃ」

「……変更するよう申し入れましょう」

「変更?」


 うなずいて、一拍置いた。


「……紅翠域(こうすいいき)には、メローリアの息がかかったお方がすくなからずいます」


 真っ先に思いうかぶのは、イチゴさん。

 上層部レベルの話し合いに彼らが関わってくる可能性は低いが、万に一つということもある。


「……たしかにそれは気になるな。よし。恵みの地に変更を要請するか」


 大福さんの提案に、うなずく。


 彼はすぐに立ちあがり、上層部へ連絡をとるため会議室を出ていった。


「……風。言っておくぞ」

「なんですか?」

「頼むから、口を出すな。

 上の方々の心証を悪くすれば、なにを言われるかわかったものではない」


 輝一さんが、真剣な表情をして詰めよってきた。


 ……なにを言っているんだろう。

 自ら不利になるようなことを、するわけがない。


 ……必要がなければ。


「勘違いするな。お前のことは信頼している。

 そうではなく……そうではなくて、だな!

 損得より大事なものもあるという話だ!」

「……はぁ」


 たまに意味不明なことを言うよな、この人は。

 真面目すぎて、余計なことまで考えすぎている証拠だ。


 ……今度の双甘大試の前に一度、ざらめさんか、可能であれば饅頭さんに相談しておこう。


 ◇◇◇


 次の双甘大試まで、一週間を切りそうになった頃。

 ようやく会談が行われる運びになった。


 聞けば、どうやら大会の日程自体が延期される話になっているらしい。


 ……妥当だな。

 協議でなにか決まったとしても、それで終わるわけじゃないからな。

 こちらとしても、落ちついて考える時間が増えるのはありがたい話だ。


 会談の場所として、改められた恵環域(けいかんいき)にて。

 餡月郷(あんげつきょう)の役人三人と、メローリアの役人が同じく三人。

 むかい合わせで、長テーブルについている。


 こちら側は、全員髷を結って月代を整えている。

 中央にいる人だけが白髪で、年長者だとわかる。


 あちら側は、金髪や薄茶色の髪にかっちりした洋服。

 こちらも、中央にいる人は茶色い立派なあごひげがあり、貫禄がある。


 ……異様だな。


「……大福さんは、なぜ髷を結わないので?」

「趣味に合わんからじゃ」


 ……この人らしい。

 けど、それで許されるんだな。


 僕と大福さんは、餡月郷側の壁ぎわに立っている。


 反対のメローリア側にいるのは、クッキーさんとシュークリームさんだった。

 そろって、こちらをにらんでいる。


「……ショートケーキ団長はいらっしゃらないんですね」

「しょーと?……ヴィクトリウスのことか?

 まぁ、そうじゃな。口出しできる場ではないからのう」


 ……あの人が言い出しっぺではなかったのか。

 逃げた僕をなぜか追わせなかった件といい、読みづらい人だ。


「我が主、ガレオ王の申し入れを受けていただき、感謝申し上げます」


 メローリア側の役人、茶色のひげの人物が最初のあいさつをした。


「それには及びませぬ。

 して……議題は、双甘大試の形式についてとおうかがいしておりますが?」


 応じたのは、白髪の髷の人。


「はい。そろそろ試合形式を変えるときがやってきたと、ガレオ王はお考えなのです」

「変える、というのは……具体的には?」

「簡単です。以前の形式――五試合すべてをシングルスに戻すのです」


 ……やはり。


 でも、和菓子側の役人は意外に思ったのか、三人でこそこそと話をしはじめた。


「……しんぐるす、とはどういう意味じゃ?」

「単騎戦です」


 こそっと大福さんに聞かれて、視線はそのまま前方を見たまま、訳した。


 納得したように、二度うなずく大福さん。


「昨今の試合では、こちらの無様な敗北が続いているせいでエンターテインメント性が失われつつあります」


 クッキーさんとシュークリームさんが、一瞬、ぎくりと身をこわばらせた。


「えんたー……とは?」

「……娯楽です」


 ぼそりと尋ねてきた大福さんが、答えを聞いて顔をしかめる。


 ……なるほど、理解した。

 僕を同行させたのは、通訳としてだな。


「今の形式にしたのは、国民を楽しませ、興味をもつように仕向け、一人一人が自分事のように感じられるようにとの思いからでした。

 しかし、あの大会はそもそも、国の統治者を決めるためのもの。

 その原点に立ちかえり、安定した国家運営が行えるようにすべきではないか……

 というのが、我が主のお考えです。

 いかがですかな?」


 問いかけられた餡月郷の役人は、再び三人でこそこそ話し合いを始めた。


 ……建前だな。

 あちらは、これ以上負ければ沽券に関わる。

 優勢だった頃の、以前の形式に戻すべきと考えるのは必然だ。


 ……けれど。

 それはつまり、あちら側が僕の強みを――組みあわせの最適解を出す力があると、理解したということ。


 誘拐して留置していたあの数日は、データをとるためのもの。

 自分たち側に引き抜こうとした件は、できれば、くらいの扱いだった。

 そう考えれば、ショートケーキ団長が逃げた僕へ追っ手を出さなかった理由も、説明がつく。


 ……なるほど。見事だな。


 彼らはいったい、どこまで僕を知ったのか。


 クッキーさんとシュークリームさんに、目をむける。

 視線が合った瞬間にびくりと体を震わせた二人を、じっと見つめた。


 ……「にやけるな」と、大福さんから注意されるまで。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

これで50話に到達しました!

評価、ブックマーク等での応援をいただき、本当にありがとうございます……!

大会の形式は変わるのか、どんな戦いになるのか、これからもお楽しみください。

毎日20時頃に更新しております。明日からもよろしくお願いします。

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