↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第四章 共存

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/66

難解なパズルのようだった。

 難解なパズルのようだった。


 ――抹茶さんは、知っていた。


 つまり、ごく一部の人たちが共同統治の話を聞いた後。

 領主の練り切り様に話が上がる前に取り消された、ということになる。



『あなた方の領主に提案をする前に、立ち消えになってしまったそうです』



 ……あの、シュークリームさんの説明が事実であれば。


 固く口をつぐんで背むけてしまった抹茶さんからは、これ以上詳しく話を聞くのは不可能。

 もうすこし、別方面から調べてみる必要がある。


 ……が。

 懸念すべき事柄が、もう一つ。


「聞きましたよ、旦那。どうやって茶吉さんが内通者だとわかったんで?」

「まさか茶吉さんが……私、どうしても信じられなくって。本当なんですか?」


 目が合えば、必ずといっていいほど話しかけられるようになった。


 妙な意味で有名人になってしまったらしい。

 理由は、僕が若抹茶さんの件を暴いたとして、話題になっているから。


「遅かれ早かれ、世間に知られれば騒がれる。

 あらぬ噂が立てられる前に、真実を話すべきと思ってなぁ。悪く思わんでくれ」


 大福さんの仕業だった。


 仕事に支障がなければ、問題はないけれど。

 不用意に外は出歩かないようにしたほうが無難。


 ……それもあって、今回。


 本当ならこちらから出向くべきところを、事情を説明し、家にきてもらった。

 その人――饅頭さんは、キリッとした顔で、僕とむかい合って正座していた。


 輝一さんが、僕の横――襖近くの下座に待機している。


「体の具合はどうなのだ」


 鋭い目でこちらを見ながら、聞いてきた。


 怒っているわけではないのは、わかる。

 だが、あんこは怖がって、襟の中に隠れていた。


「……問題ありません。すぐご報告できず、申し訳ありませんでした」

「かまわぬ。話は耳に入っている」


 饅頭さんが、ざらめさんが入れてくれたお茶を一口飲んだ。


「馬の訓練は、再開できるのか」

「……いえ。あと数日はかかると」

「問題あるではないか。その口癖を直せ」


 ……口癖? なにがだ。


 饅頭さんが、ため息をつきながら湯飲みを置いた。


「……まぁ、敵に捕まっておきながらその程度で済んだのは、不幸中の幸いと言うべきだがな」

「……いえ」


 ぼそっと否定すると、饅頭さんが眉を寄せた。


「これは、逃げたときのものです」

「何?」

「馬を速く走らせすぎて操縦不能になり、落ちました」

「…………」


 饅頭さんが、黙って僕をじっと見つめる。


 ……表情に変化がないので、なにを考えているのかは不明だ。


 と、思っていた瞬間。

 饅頭さんの目に、鋭さが宿った。


「まだまだ鍛錬が必要だな」

「……はい。よろしくお願いいたします」

「いい度胸だ。治ったあかつきには……覚悟しておけ」


 横から、なにかを飲みこむような音が聞こえてきたが、気にせず手をついて頭を下げた。


「用向きを話せ。そんな報告のためにわざわざ呼びつけたわけではあるまい」

「はい。お願いがあります」


 そう言って、一度輝一さんを横目で見た。

 ……彼が、かすかにうなずいた。


「肥田様に、お伝えいただきたいことがあります」

「……肥田様に?」

「白妙様に、謁見させていただきたいと」


 瞬間、饅頭さんが目を見開かせ、片眉を上げた。

 同時に、人差し指がぴくりと動く。


「……何を考えている。何のためにだ」

餡月郷(あんげつきょう)にある理不尽な規則を改正したく、直接お話しさせていただきたいのです」

「……! 意味をわかっているのか。

 規則とは、白妙様や歴代領主様がお決めになったもの。

 それがまちがっていると言っているようなものだぞ!」

「そう解釈していただいてもかまいません」

「不敬だぞ! 口を慎め!」


 怒鳴ったあと、饅頭さんはじろりと輝一さんをにらんだ。


「お前も同じ意見なのか」

「……はい」

「この、ばか者どもが!

 規則とは、国、ひいては民を守るためのものだ! それを理不尽などと、どの口が言えるのだ!」

「守るために縛る必要は、皆無です」


 くだらない、と今すぐにでも立ちあがって出ていきそうな饅頭さん。


 彼から目を離さず、後ろに置いておいた文箱をつかんで、間にどさりと置いた。


「一般人の中にも、おかしいと思っている者は大勢います」


 饅頭さんは、不愉快そうに目を細めながらも、開けた文箱の中にあった書類を手にとり、読みはじめた。


「……規則のすべてが、悪いとは言いません。

 変えるべきなのは、中立地帯との交流を制限している規則です」

「…………」


 饅頭さんからの反応は、ない。

 次々に書類を手にとって、ひたすら文字を目で追っている。


「……この規則ができた背景は、理解できます。ですが……不合理な面が大きすぎます」


 お茶を飲んで、一旦言葉を切る。


「それを、未来に生きる人たちにまで背負わせるのも含めてです」


 触れ合えるけれど、くっつくことは許されない。

 それは、治安維持のため。ひいては民のため。


 ……だけど。

 そのせいで、過去にどれだけの悲劇が生まれてきたか、想像には難くない。


「……人の心が離れれば、領地の安定的運営にも影響が及びかねません。

 白妙様はどうお考えなのか。それを、直接お聞きしたいのです」


 書類からこちらに目線を戻した饅頭さんを、じっと見つめる。

 そして、両手を床について、頭を下げた。


 輝一さんも、一拍遅れて同じように。


「……本気か」


 小さめの声で聞かれ、顔を上げてうなずく。


 饅頭さんは、次に輝一さんを凝視した。


「……民の切実な想いを聞いて、私も同様に、なすべきことだと強く思うようになりました」


 腰を低くした状態で、輝一さんが僕を一瞥。


「萬田様。どうか、お願い申し上げます」


 二人そろって、頭を下げた。

 饅頭さんの言葉を待つ。


「……私がお伝えしたところで、同じだぞ。軽く一蹴されるだけだ」

「理由については、同じように説明いたします。あとは、肥田様次第かと」


 顔を上げ、こちらに鋭い目をむけてくる饅頭さんを、じっと見つめる。


 ……沈黙。


 しずかになったせいか、襟の中に隠れたあんこがもぞもぞと動く感触がした。


「……いいだろう」

「……! 本当で――」

「ただし!」


 バッと顔を上げて言った輝一さんの言葉を、饅頭さんが即座に遮る。


「肥田様を説得するには、この程度の理屈では不十分だぞ」

「……承知しております」


 しばらく僕を見つめていた饅頭さんが、目元を若干緩めて肩を落とし、ため息をついた。


「やはり……変わり者だな」


 そうつぶやいたあと、輝一さんのほうへ顔をむけた。


「苦労しているだろう」

「……いえ。もうだいぶ慣れました」


 輝一さんが苦笑する。


 意味はよくわからないけど……なにはともあれ。

 無事、ノーマルステージはクリアした。

 しかし、次のボス戦はハードどころの話ではない。

 あらゆる状況、指摘されそうなことを想定した上で、交渉材料を用意しておく必要がある。


 ……でも、問題はない。

 こちらには、「あの切り札」がある。


 ◇◇◇


 肥田――求肥さんとの会談は、予想以上に早く実現した。

 饅頭さんに話をした日から数えると、わずか四日後。

 手首の捻挫が、日常生活を送る分には問題ない状態にまで回復した頃だった。


「…………」


 場所は、大福さんの家。


 あんこは、大福さんの妻であるつぶ餡さんに預けてある。


 まもなくやってきた求肥さんは、座った途端腕を組み、不機嫌そうな顔でこちらを見た。


「……十蔵から話は聞いた。顔を見るのも久しかったもので、嬉しく思ったが……

 まさか、よりにもよってその方らと関わる用件だったとはな」


 ……十蔵。

 一瞬わからなかったが、饅頭さんの下の名前だったと思いだす。


「……どう思われますか」

「応えるまでもない」


 僕の問いかけをスパッと切り捨て、嘲るように鼻で笑った。


「御前にお会いしたいなど……以後、大した成果もあげていないというのに。片腹痛いわ」


 求肥さんが、大福さんに勧められた煙草盆から煙管を受けとり、吸いだした。


 ……絵になるな。


「おまけに、規則改正についての話をするためだと?……身の程をわきまえぬか」


 小馬鹿にするような口調から、瞬時に鋭い口調になる。


 あの豪胆な大福さんでさえ、肩をぴくりと震わせていたくらいだった。


「……それは、本心ですか」

「……何?」


 僕の横、若干求肥さんに近い位置に座った大福さんが、ちらりと視線をむけてくる。

 ……顔がこわばっている理由は、不明。


「萬田様からのお話を一蹴されたなら、あなたはここにはいらっしゃらないはずでは?

 応じていただき、ありがとうございます」


 手をついて、軽く頭を下げる。


「……調子に乗るな。私がここにきたのは、十蔵の顔を立てるためだ」


 求肥さんが、二息しか吸っていない煙管をさかさまにして、灰皿部分の縁に叩きつけて灰を落とす。

 その煙管箱を手で押しかえして、立ちあがった。


「その方らの顔は見た。これでもう用はない」


 そう言って、部屋を出ていこうと襖の前に移動。

 手をかけた。


「成果を上げれば、よろしいのですね」


 襖にかかった求肥さんの手が、止まる。


「……そうだな。だが、生半可なものでは許されんぞ」

「三連勝でいかがでしょう」


 求肥さんが手を下ろし、振りかえった。


 体のむきを、彼にむかって正面になるように変えて、見上げる。


「前回の双甘大試(そうかんたいし)後の総括の場で、大丸局長がおっしゃっていました。

 先代――肥田様の代から数えても、三連勝は未だかつてないと」


 横の大福さんが、驚きと困惑を浮かべた顔をむけてきたのが、視界の端に見えた。


 求肥さんは無言のまま、僕をにらみつけていた。


「成し遂げた場合……検討していただけないでしょうか」

「……簡単に申すのだな」

「簡単ではありません。だからこそ、価値があると考えます」


 目を離さない。

 静寂が下りる。


 ――しばらくして、求肥さんのほうが目をそらし、ふっと息をもらした。


「十蔵が申しておったわ。くれぐれも気をつけろ、とな」


 なにを、と問う前に、求肥さんが一歩前に出て、僕に近づいた。


「いいだろう。もし次も勝利をおさめられたら、すぐに御前に話をつけてやる」

「……検討する、ではなくですか」

「そうだ」


 求肥さんが、大福さんへと目を移す。


「そなたも聞いたな?」

「……! はっ」


 大福さんが返事をした。

 この角度からは見えないが、頭を下げた様子。


「この件があるからといって、勝ちだけに囚われぬことだ。足元をすくわれるぞ」

「……肝に銘じておきます」


 求肥さんは、わずかではあるが穏やかな表情をしていた。

 この場の空気も、気のせいかと思うレベルではあるが、軽くなったように感じる。


「気はあまり進まんが……期待はしている。なにより、御前がお喜びになるはずだからな。

 ただでさえ今は……」


 求肥さんはそこで不自然に切り、襖に手をかけた。


 大福さんがすぐ立ちあがったが、目で制される。

 二人そろって頭を深く下げて、見送った。


 ……「ただでさえ今は」? なんだ?


 その答えを知る人の足音が遠ざかっていき、聞こえなくなる。


 そこで、大福さんが大きく息を吐きながら足を崩し、天井を見上げた。


「おんしは……儂の寿命を縮める気か?」

「……いいえ?」


 もう一度息を吐いた大福さんが、なにかに気づいたように襖のむこうに視線をむけ、姿勢を正した。


「なにをしておる?」


 大福さんが声をかけてまもなく、ススス、と襖が遠慮がちに開いた。

 そこにいたのは――ぼた餅さんとおはぎさん。


「失礼つかまつりました。父上」

「して、お話はまとまったので?」

「ああ。大変なほうに、のう」


 大福さんが、苦笑しながらこちらを見てくる。


 僕は首を傾げつつ、なぜかおはぎさんが連れていたあんこを受けとった。


 ……不機嫌そうだ。

 この二人に弄ばれていたか。


「これからが大変じゃぞ。蜜森」

「……承知しております」


 次、勝つための準備。

 いつもどおり、怠らなければいいだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。