表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘味戦争の軍師 ~社畜の僕、相性が見えるだけで最強編成を作れるけど、この戦争ちょっとおかしくないか?~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第一章 お菓子の戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/22

粕谷さんが、ぎょっとして目を見開いた。

 粕谷さんが、ぎょっとして目を見開いた。


「その赤いものはなんだ? どこで拾ってきた?」

「……さぁ」

「さぁ、ではない! 得体のしれないものがいるのに、どうしてそう無関心でいられるのだ!」


 声を荒らげる粕谷さんに、僕は首を傾げた。


 ……無関心ではない。

 考えたところでなにかが判明するわけではないから、今はほっとくだけだ。


 階段を下りようとして、謎の声が聞こえた直後に現れたから、神殿となにか関わりがあるに違いない。


「今のところ害はないので、問題ありません」

「わからないではないか……! 毒があるかもしれないだろう」


 粕谷さんが、タコに手をのばす。

 タコが動いて、僕の背中に移動する。

 粕谷さんが、それを追いかける。

 またタコが反対側に逃げる。


 ……不毛だ。


「時間の無駄です。粕谷さん、お忙しいのでは?」

「時間の無駄とはなんだ!」


 粕谷さんが止まると、タコが触手を一本あげて、「ふう……」とでも言いたげに目の上をぬぐっていた。

 そして、のそのそとまた元の位置――肩の上に戻っていく。


「気色悪いな……そなたは平気なのか?」

「特に問題はありません」


 ただのタコだ。

 やたらと墨を吐くわけではないようだし、騒がしくもない。


 それでも、粕谷さんは納得できない様子で眉を寄せ、しばらく警戒していた。

 何度もこちらを振りかえってくる粕谷さんの後ろについて、石段を下りていく。


「今日は問題ない。召集がかかるまでは、そなたに町を案内するようにと局長から言いつかっている」

「……町を」

「ああ。もしよければ、甘味通りを案内しようと思うのだが。甘味は好きか?」

「はい。好きです」


 甘味、と聞いて、僕の腹が小さく鳴った。


 糖分の過剰摂取は逆効果だが……今の状態なら、むしろ必要とまで言える。

 頭の回転率を維持するにも、欠かせないからな。


 なにより、甘味には砂糖を使う。

 砂糖の流通度合いは、この国、この地域のおおよその発展度を知るための指標になりえる。


 ……と、考えている傍ら、腹の音を不思議に思ったらしいタコが、僕の腹を見下ろして首を傾げていた。


「……あんこ」

「なに?」

「これの名前です」

「なぜ名前をつける」

「なんとなくです」

「……飼うのか」

「観察してみようと思います。

 というか……危険かもしれない生物なら、野放しするほうがまずいのでは?」


 ぐ、と粕谷さんがうなって、黙りこんだ。


「あんこ」


 再度、ぼそっと呼んでみる。

 タコは、それが自分につけられた名前と認識したのか否か、二本の触手を上げて振りまわしていた。


 ……珍しい感情表現だな。


「……問題ないかと」

「……仕方ない。だが、もしすこしでも危険性のある生き物だとわかったら、すぐに処理するぞ」

「そうしてください」


 タコのあんこを見てみると、相変わらずとぼけた顔をしていた。

 ……人の言葉は、やはり理解できないようだ。

 他にもいろいろ検証してみたいのだが、あとでまた落ちついてできるときにしよう。


「では、参るか」


 粕谷さんがため息をつき、諦めた様子で再び歩きだした。

 彼の家とは逆方向の道を進んでしばらくすると、にぎわっている通りに出た。


「ここが、餡月郷(あんげつきょう)自慢の甘味通りだ」


 粕谷さんが、紹介するように腕をのばしながら言った。


 ……甘くて品のいい香りが漂っている。

 人通りが多いが、歩くのに不便なほどではない。


 肩にのっているあんこも、感心した様子で触手を口の横において、通りをじっと見ている。


「先日いただいた饅頭の……福寿屋(ふくじゅや)、ですよね。それもここに?」

「ああ。ちょうど中央あたりにある。

 そこもいいが、せっかくだ。店先に飲食場があるところにするのはどうだ?」

「……いいですね」


 歩きながら食べるのは、落ちつかないからな。


 粕谷さんのあとについて、看板に「花見屋(はなみや)」と出ている店に入った。


 注文をまかせ、店先にある赤い布が敷かれた飲食スペースの隅に座って待機する。


 まもなく粕谷さんが戻ってきて、隣に座った。

 それからほとんど間を置かずに、餡子にまみれた団子が運ばれてきた。

 三つ刺さった団子の串が、二本のっている。


「いただきます」


 串を一つつまんで、一口。


 ……美味い。

 甘さも十分、むしろすこし強い気がするほどだ。

 規模的にはそこまで大きくはない店で、これだけの甘さがある甘味を出せているのか。


「……なんだ」


 肩にいるあんこが、僕が手に持っている団子をじっと見つめている。


 ……ほしいのか。


 餡子に触れないように、慎重に一つの団子を串から外し、それをあんこに近づけた。

 目が、感激したかのようにキラキラと輝いたように見える。


「きゅっ」


 あんこが甲高く短い声を上げると、その団子は一瞬でひょっとこ口に吸いこまれた。


 ……なるほど。雑食性のタコか。便利だな。

 あと、声も出せるらしい。


「ところで、粕谷さん」

「なんだ……私の分はそやつにはやらんぞ」

「……なぜそんな話に?」

「違うのか?」


 聞きかえされ、持っていた串に残った最後の団子を口に入れてから、あんこを見る。

 触手の付け根の上あたりをさすっていた。食べすぎた、と言わんばかりである。


 ……団子一つで腹いっぱいになるのか。

 小食すぎるが、飼い主としては助かる。


「……必要ないようです」

「見れば見るほど珍妙な生き物だな……では、なんだ?」

「この地域では、砂糖は貴重品ではないのですか?」


 想定外、といわんばかりに、粕谷さんが目を丸くして、持っていた串を一旦皿に置いた。


「貴重品? まさか。どこにでもあるぞ」

「……どこにでも?」

「ああ。あそこに、透明な石が落ちているのが見えるか?」


 粕谷さんが、前方を指さした。

 人が行きかう通りの隅に、半分ほど埋まっている透明な石がある。


蜜石(みついし)という。あれを加工すると、砂糖ができるのだ。

 そなたがいた国にはなかったのか?」

「……はい」


 石から、砂糖を精製。

 砕いて粉末状にするのか。熱処理の過程が必要だな。

 いずれにしろ、道端に落ちているものが原料になるのなら、貴重品ではない。

 実に合理的だ。


 すると、埋まっていた蜜石に子どもが駆けよっていった。

 その子は、慎重に素手で触れないように、紙をかけて石を包み、そっと持ちあげ、嬉しそうに去っていく。


「母ちゃん! いい石見つけた!」


 左前方にいたらしい母親に近づいていき、それを自慢げに見せた。


「あのように、子どもたちはあれを拾いあつめて甘露屋(かんろや)にもっていき、売って小遣いかせぎをするのだ」

「……甘露屋とは、砂糖を専門に扱っている店でしょうか」

「ああ」


 ……子どもの小遣いかせぎ、か。

 大人がするのはルール違反なのか、確認する必要があるな。


「おや、副長さん。調子はいかがで?」


 店の前を通った、上等な着物を着た中年の男性が、粕谷さんに声をかけてきた。


「これは、霞月亭(かげつてい)のご主人。おかげさまで、調整は順調です」

「それはよかった。今度こそ勝っていただかないと。こちらとしても……ねぇ」

「もちろんにございます」

「ま、期待していますよ」


 軽い調子で手をあげ、へらへらと笑いながら去っていった。

 どこかの甘味処か、別のところにある小料理屋かなにかの店主だな。


「スポンサーですか?」

「……支援者という意味であるなら、そのとおりだ。

 煎餅屋の主人で、双甘大試(そうかんたいし)において我らを支援してくださっている」


 粕谷さんは、半ばやけくそのように団子を口にくわえて、ぐっと串から外した。


 今の煎餅屋の主人が、あのような皮肉めいた言葉をかけてくる理由は、わかる。


 運ばれてきた団子の皿から、新たな団子の串をとって、一口。


「……負けこしているのですか?」

「……ああ。恥ずかしながら、な」


 そういいつつも、粕谷さんは下手な言葉で否定しなかった。

 いい意味でも悪い意味でも、生真面目だな。


 彼が食べおわったあとの串を皿に置くと、すぐさまそれが店員によって回収されていく。


「正直に話そう。次を落とせば……あとがない。相手方が権利を要求してくる公算が高いだろう。

 だから、局長には慎重に組み合わせを考えていただかねばならないのだ」

「…………」


 粕谷さんが、僕をにらんできた。

 余計なことを言って惑わすな、と。


 ……それは、こちらの知ったことではない。

 最終的には、局長である大福さんの決断がすべてなのだから。


 お茶をすすって、一息ついた。


 すると、あんこが触手をぺちぺち叩き、指をさす動作のように突きだした。

 その先を見ると、粕谷さんの横に、いつの間にか新たな団子がのった皿が置いてあった。


「……いくつ注文したんですか?」

「ん?……っしまった。あれで終わりにするつもりだったのに」


 粕谷さんが、顔をしかめて店員を呼びつける。


 ……この店は、わんこそば方式か。

 甘味処でその方式をとっているとは、珍しい。


 店員と話したあと、粕谷さんは団子がのった皿を持ちあげたり下ろしたりしている。困っているな。


「……それ、僕が食べましょうか」

「ありがたい……が、そなた、食べすぎではないか?」

「普段ならそのはずですが……なぜか妙に空腹だったので」

「そうか。糖明神殿(とうみょうしんでん)に行った際の緊張感のせいかもしれないな」


 粕谷さんの皿を受けとり、六本目の団子を食べる。


 緊張は、まったくしていない。

 むしろ、高い石段を上り下りしたせいのほうが、説得力がある。

 けれど、あれ程度の運動は普段からやっているので、どのみち可能性は低いが。


「粕谷殿」


 声がしたほうを振りむくと、粕谷さんのすぐ隣に、いつの間にか女性が座っていた。

 紺色で無地の着物。

 髪はセミロングで、後ろでくるっと折りたたんでとめている。


 前をむいていて、こちらには目もくれないため、本当に彼女が呼んだのか一瞬わからなかった。


「どうなされた」

「召集です」

「……次の戦の件ですね」


 女性の短い言葉に、粕谷さんがすぐ反応。

 それに彼女がかすかにうなずいたように見えた。


「失礼」


 粕谷さんが立ちあがり、店員を呼びつけて代金の支払いをした。


 ……大福さんが、決断したか。


 最後の団子を口に入れ、黙ったまま前を見続ける。


「急用ができた。そなたは先に帰っていろ。道はわかるな?」

「……はい。問題ありません」


 僕の返答を聞いて、花見屋を出ようとした粕谷さんだったが、呼びにきた女性は座ったままだった。

 粕谷さんがそれに、不審げに目を細めて足を止める。


「そちらのお方もお連れするようにと」

「……なに?」


 眉を寄せた粕谷さんが、若干うろたえて僕と女性を交互に見た。


 ……そういうことか。


 遠くからの得体のしれない視線を感じつつも、気にせず残ったお茶を飲みきって、立ちあがった。

読んでいただいた方々に感謝申し上げます。

毎日20時頃更新しています。

明日以降も是非お読みください。

感想、ブックマーク等もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ