自己主張の激しいマカロンがあった。
自己主張の激しいマカロンがあった。
どれもこれも、ビビットカラーで強烈だ。
……これなら、ある程度は日持ちするはず。
おみやげ用に購入した。
「軍師様って、センス抜群ですねっ!」
不思議な感性のプリンさんが、快く買ってくれた。
宝石箱のような装飾を施された箱に入った、カラフルなマカロン。
これを本当におみやげとして持ちかえられたら……すこしは、安心させられるはず。
「お腹いっぱいになりましたよね? おみやげも買ったしぃ……」
前を歩くプリンさんが、指を折りながら言って、こちらを振りかえった。
「実は、ぜひお連れしたいところがあるんですぅ。
ちょっと歩くんですけど……腹ごなしにちょうどいいだろうし。
どぉですか?」
「……いいですね」
「やった! じゃ、ご案内しまぁすっ」
ぴょんと軽く飛びはねたプリンさんに案内され、歩きだす。
コンフィズリー通りから外れて、人気のすくない道に入る。
まもなく、ツタが絡みつくトンネルが見えてきた。
そこを抜けると――
植木が左右対称に整えられた、庭園。
入口の前で止まり、プリンさんがシルバーの鍵を取りだした。
「はぁい。どうぞ」
扉を開けたプリンさんに促され、中に入る。
色とりどりで鮮やかな花たち。
すこし歩いた先には、真っ白な長テーブルと椅子。
隅に、燕尾服を着た執事のような格好の男性がいて、こちらにむけて最敬礼してきた。
「そちらにおかけくださいっ」
プリンさんに勧められ、一番奥のお誕生日席に座る。
彼女は、左隣の席に。
まもなく、男性が慣れた手つきでお茶を用意。
背を見せないように下がって、姿を消した。
……ティーカップが真新しい。
このために用意したのか。
「はぁ……感無量ですぅ。私、ここで軍師様と二人っきりでお茶をしたかったんですよ」
「……ここは、どういう場所ですか」
「単に、『ガーデン』って呼んでるんですけどね? 古くからある場所でぇ、だれが作ったかはわからないみたいです。
グラサージュ・マッチで勝ったあと、ここで団長と幹部だけでお茶をするっていう習慣があるんですよっ」
グラサージュ・マッチ。こちらでいう、双甘大試。
「……そんな場所に、入ってもよかったんですか?」
「大丈夫ですっ。ちゃーんと、団長の許可はいただいてますから!……でも……」
ウインクしながら言ったプリンさんは、一変してティーカップを置いて顔をうつむけ、ため息をついた。
「最近は、二回も連続してこられなかったから……寂しかったんですぅ。大好きな場所だったので」
口をすぼませて頬をふくらませ、もじもじと体を動かした。
……紅茶、うまいな。
渋みが強くなくて、食べすぎた胃にも優しそうだ。
「でも! もう大丈夫ですもんねっ」
プリンさんが、すくっと立ちあがった。
「軍師様がうちにきてくれたらぁ、毎回ここでお茶できますもんねっ!」
「……プリンさん」
「え?……違いますよぉ! 私の名前はプリモですっ!」
「あなたは餡月郷にいたことがあるんですよね」
断定して言うと、たちまちプリンさんが体をこわばらせた。
「……え? なに、言ってるんですかぁ?」
冷や汗が、頬を伝っていく。
「そんなわけないじゃないですかぁ! 私は生まれも育ちも、メローリアですぅ!
そんなことしたら重罪! 捕まっちゃいますよっ」
「…………」
視てみるか。
プリンさんを凝視して、意識を集中。
――瞬間。
(さいっこう! ここなら、私がお姫様になれるんだぁ!)
今よりすこし若いプリンさんが、目をキラキラさせ、騎士団の制服を両手で掲げて見ている姿。
……わかりづらいな。
どの段階の記憶なのか、判別しかねる。
「はぁっ!? ちょ、なにそれぇ!」
墨を吐いたあんこを、プリンさんは顔をゆがめて嫌悪感丸出しにしている。
「いやだ、もうっ!
……ああ! テーブルクロスが汚れちゃったじゃないですかぁ!
なんなんですか、そいつ――いえ、その子!」
「……あんこです」
「名前はもう聞きましたってばぁ!」
ぷんぷん、などと口で言って怒っているプリンさんを、ため息をつきながら眺める。
……やれやれ、だ。
視える情報がランダムなのが難点だな。
◇◇◇
帰ってしばらくしてから、夕食をいただいた。
「お食事が終わったらぁ、団長のところに報告に行きましょうねっ」
「……報告?」
「はいっ。今日一日の、大事な報告ですっ」
小首を傾げて笑顔で言うプリンさんに違和感を抱きつつ、ひとまずうなずいておいた。
そして、食後のお茶をゆっくり堪能してから、あの執務室へむかった。
「失礼しまぁす。プリモ、軍師様をお連れしましたぁ」
「……入れ」
プリンさんが扉を開けて、ウインク。
中へと入る。
部屋の主――ショートケーキ団長は、執務机でなにかの書類に目を通しているところだった。
閉じられた扉の前で、待機。
すこしして、彼が目をこちらにむけた。
「プリモから事前に報告は聞いている。我が騎士団に入ると決めたそうだな?」
「……いいえ?」
「軍師様っ!」
プリンさんが、僕の前に移動して手を握ってきた。
「もう、団長の前だからって恥ずかしがることないんですよっ?
今日一日で、たーっぷりメローリアの魅力に取りつかれたでしょう? こっちにきてもいいって思ったでしょうっ?
ねっ? そうですよねっ?」
「…………」
理解不能だ。
そんなごり押しで、話がうまく進むと思っているのか。
「……まったく思っていません」
「え……!? そんな……っウソ、ですよね?
あんなにたくさん、お菓子、おいしいおいしいって召し上がってたじゃないですかっ!
とっても気に入ったって、おっしゃってたじゃないですかぁ!
あれはウソだったんですか……っ? わ、私に……っ、ウソをついたんですかぁ?
あんなに一生懸命、サービスしたのに……っ」
本当に泣きだしたプリンさん。
顔を手で覆ってしばらく泣きつづけていたが、突然こちらを見てきた。
「っこんなに……っ私を、泣かせてぇ。罪悪感とか、うっく、な、ないんですかぁ……?」
目から涙があふれている。
鼻や声はほとんど変化なしの、きれいな「泣きの演技」だった。
……この演技力、もっと違うところで使えそうだな。
「ねぇっ! 聞いてるじゃないですか! ぼーっとしてないで、ちゃんと私の目を見て答えてっ!
罪悪感、ないんですか!?」
「はい。微塵も」
ぴしゃりと切り捨てると、すがりついて訴えかけてきたプリンさんが、目を見開いて固まった。
「……み……微塵、も?」
「はい。そもそも、あれを交渉だと認識していなかったもので」
一度、プリンさんから目を離し、ショートケーキ団長を見る。
こちらには興味なさそうに、黙々と自身の仕事をしている様子だった。
「……最初からそう言っていただいたほうが、効率的でした」
つかまれた腕を払いながら、彼女から一歩横に離れた。
――直後。
ドサッと、書類の束が机に叩きつけられるような音がした。
見ると、ショートケーキ団長が不機嫌そうに眉を寄せ、立ちあがっていた。
「やはり、プリモの勘違いだったか」
「あ……い、いえ、そんなはず――」
言いきる前にじろりとにらまれて、プリンさんがびくっと震えて縮こまる。
口をつぐんだ彼女は、そのまま下がって、僕から離れた。
「案ずるな。簡単に落ちるとは思っておらぬ。でなければ……面白くない」
じっと見つめられたので、こちらも同じように見つめかえす。
……面白さを優先するのか。
それも悪くはないし、こちらとしてはありがたいけど。
「下がれ」
「……失礼いたします」
一礼して、執務室を出た。
隣には、悔しそうに歯を噛みしめているプリンさん。
廊下を無言でさくさく歩き、僕の部屋の前で立ちどまって、キッとにらみつけてきた。
「散々人に奢らせといて……っ! 対価くらいちゃんと払いなさいよっ!」
「……もう払いました」
「はぁっ!? いつ!? なにを!?」
「今日一日、あなたの計画に従って行動しました。それが対価です」
「……はぁあ!?」
プリンさんは、もはや隠す気はなく、素を丸出しにして低めの声で言った。
そのギャップに驚いた様子で、あんこがたちまち後ろの襟の中に隠れた。
「最悪……っ! せっかく手柄にできると思ったのに!」
「……見立てが甘かったですね」
「なによ偉そうに! こっちの苦労も知らないで!」
「そうですか。苦労、されてるんですね」
境界をまたいだ経験者だから?
……その言葉は、心の中にとどめておいた。
プリンさんは、また歯を噛みしめてから、そっぽをむいた。
「そうやってふんぞり返っていなさいよ……団長は、絶対あんたを逃がさないから」
「……そうですか」
「あとねぇ! 人のこと詮索するのもやめなさいよ、うっとうしい!
絶対そのうち痛い目見るんだからっ!」
僕を指さしてそう吐きすて、プリンさんは去っていった。
……あんなセリフ言う人、現実にいたんだな。
脅しにはなっていないし、警戒されるだけで逆効果なのに。
最初から最後まで、妙な人だったな。
部屋に入る前、彼女の言葉を反芻する。
……どんな、痛い目を見るのか。
今のところ、牢には入れられてないし、拷問や尋問をされる気配もない。
けれど、それはショートケーキ団長次第。
……もうすこし、様子見しておくか。
おみやげ用のマカロンが入った箱を取りだして見つめたのち、部屋に入った。
◇◇◇
翌朝。
メローリアにきて、二日目の朝。
部屋の前にいた見張り役の団員に声をかけ、付きそってもらいながら兵舎の庭を散歩した。
高台の上に立っている兵舎は、すこし歩くと海が見える。
「…………」
いい景色だ。
朝日が海に反射して、すこし眩しいけれど。
――そのとき。
風にのって、声が聞こえてきた。
崖下に目をむけると、右方向、離れた位置に人がいるのがわかった。
あれは……漁師か。
砂浜に置かれた網を、数人が必死で引きあげようとしている。
彼らの脇には、鞭を持った人物。
動きが遅い引き手を、たちまちその鞭で打った。
……農奴と、指示役。
「そっからは逃げらんねぇぞ」
背後から声がして、すぐ振りかえった。
そこにいたのは――
訓練用らしい服に身を包んだ、クッキーさんだった。
……なぜだ?




