表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘味戦争の軍師 ~社畜の僕、相性が見えるだけで最強編成を作れるけど、この戦争ちょっとおかしくないか?~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第一章 お菓子の戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/23

「次の双甘大試、おぬしは弥太郎と組め」

「次の双甘大試(そうかんたいし)、おぬしは弥太郎と組め」


 神妙な顔で、大福さんが粕谷さんに言った。


 ……双甘大試、と言われても。

 それがなにを意味するのか、僕にはわからない。


「土井殿と……承知いたしました」


 粕谷さんが、両手を床について頭をすこし下げた。


 ……待てよ。


 土井弥太郎(どいやたろう)

 ど……どら、焼き?


 ――人名が菓子名。外見的特徴もほぼ一致。

 やはり、文化的命名体系か。



「味がかぶっています。考えなおすべきでは?」



 気づけば、そう口に出していた。


 直後――頭の中に、いくつか数値が浮かんできた。

 相性65%、補完率13%。


 ……変だな。情報が増えた。


「味が、かぶっている?」


 一拍おいてから、大福さんが繰りかえした。

 粕谷さんから、疑いの眼差しをむけられる。

 一方、ざらめさんは不思議そうにきょとんとしていた。


「味とはつまり、持ち味のことか?」

「……はい」


 菓子の味そのものという意味だが。

 訂正の必要はない。


「ほう。おんし、もしや戦略を立てるのが得意か?」

「得意かどうかは……現時点では断定しかねます」


 大福さんは、「ふむ……」と興味深そうにうなって、指であごをつまみ、僕をじっと見ている。


 ……ただのお菓子のペアリング的観点から言っただけだ。

 それが戦略を練るのに役立つはずがない。


「せっかくだ。おんしの意見、もっと具体的に聞かせてくれんか」

「きょ、局長! なにをおっしゃるのですか!」

「ええじゃろうて。正直言うとな……いささか自信がなくてな。他の者の意見を聞いて、再考するのも悪くなかろう」


 うろたえつつも口をつぐんだ粕谷さんの肩を叩きなだめていた。

 ……なかなかすごい音がしていた。


 まぁ、いい判断だ。

 それができるほど、このお方は器が大きい。局長たるゆえんか。

 いや。なるべくしてなった、というべきだな。


 ならば、僕もそれに応えなければならない。

 最適な策を出すには――


「双甘大試とは、何なのでしょうか」

「ん?……ああ、そうか。ええぞ。一から説明しよう。すまんが、ざらめ殿――」

「はい。お茶菓子をお持ちいたしますね」


 ざらめさんが、嬉しそうにほほえみながら、さっと立ちあがって部屋を出ていった。


 粕谷さんは、未だ不満げに口をつぐんでいる。


 ……お茶菓子、か。

 楽しみだ。もちろん、話も。


「ところで、おんし……若そうに見えるが、年はいくつだ?」

「28です」


 答えた瞬間、黙りこんでいた粕谷さんの指が、ぴくりと動いたのを見た。


「そうか! 輝一と同じ年か。偶然にしても、驚いたな」

「……そうだったんですね」


 自分の番を待つ弓道家のように、むっつりと口を閉じた粕谷さんを見る。


 雰囲気より若そうな印象だったが、同い年だったのか。


「まぁ、詳細はおいおい話すとして、必要なところだけ簡単に話そう」

「よろしくお願いいたします」


 僕の返事に、大福さんがうなずき、話しはじめた。

 まずは、この国の成り立ちについて。


瑞菓国(ずいかこく)は、地域が四つに分かれておる。一つは、我らが餡月郷(あんげつきょう)。それから、め……めろ……」

「メローリア、でございます」

「それだ。はぁ……どうも言いにくくて困るな!」


 スマートに助け舟を出した粕谷さんに対し、大福さんは大口を開けて豪快に笑った。

 ……横文字は、やはりなじみが薄いらしい。


 ゆっくりうなずいて、話の続きを待った。


「あとは、恵みの地――じゃのうて、恵環域(けいかんいき)。それから、(べに)(さと)もとい紅翠域(こうすいいき)

 この二つは中立の誓いを立てておるから、双甘大試とはあまり関係がない。名前だけ頭の隅に置いておけ」


 ……なるほど。

 同じ国内でも、まったく違う文化圏がいくつも存在しているのか。

 なかなか複雑な状態のようだ。


 再度うなずいた――ところで、ざらめさんが戻ってきた。

 彼女は、手にしていたお盆を抱えたまましゃがみ、まずは緑茶の入った湯飲みを順に置いていく。


「おお、それはもしや?」

「はい。福寿屋(ふくじゅや)の日の出饅頭でございます。

 先日、お伺いしたときにたくさんいただいたものです。どうぞ遠慮なく」

「それはありがたい。饅頭は福寿屋のが一番美味い」


 ざらめさんが持ってきた、山になった饅頭。

 真っ先に手にとった大福さんが、嬉しそうにそれを口に放りこんだ。


「お二人も。どうぞ」

「……いただきます」


 会釈してから、一つを手にとって眺めた。


 上に、太陽のような形の焼き印が押されている。「日の出饅頭」だからだな。

 半分までかじってみる。

 中は、つぶ餡。程よい甘さだった。


「……おいしいです」


 一言感想を述べて、ゆっくり咀嚼しながら断面を見た。


 これほどの甘さを出すには、かなりの量の砂糖を使わないといけない。

 ――この国には、砂糖が多く出回っている?

 つまり、それだけ裕福。


「見れば見るほど、不思議な奴じゃなぁ。

 そんなふうにぼーっとしていれば、トビにでもとられてしまうぞ?」

「……気をつけます」


 トビだろうとなんだろうと、近づいてくるものがいればすぐに気づけるから問題はない。


 苦笑する大福さんに軽く答えて、残った半分も口に入れた。


「さて……どこまで話した?」

「国のあり方――四つの地域があるところまでです」


「そうか。

 それでまぁ……多少は察しておるかもしれんが、儂ら餡月郷とめろ……メローリアは、国ができた頃から対立しておる。

 双甘大試とは、どちらが国の統治権を得るか。それを決めるための重要な行事なんじゃ」


 大福さんが、なぜか疲れた様子でため息をつき、お茶をすすった。


 ……行事、か。

 国の統治権を得るため、と言うわりには、まるでイベントのような言い方。

 それは、大福さんが軽く考えているわけではなく、この場を重い空気にしたくないための配慮。


 二つ目の饅頭に手をのばしつつ、うなずいた。


「儂が率いる甘誠組(かんせいぐみ)。それから、ヴィクトリウスが率いる、あん……アントルメ、騎士団。

 それぞれが兵を五人ずつ出して戦う。

 簡単に言えば、そんなところか」

「……なるほど」


 お茶を飲み、聞かされた情報を頭の中でまとめる。


 相手方の、アントルメ騎士団。

 その名は、製菓で使用される用語の一つだ。それも洋菓子の。

 つまり、相手は洋菓子の可能性が高い。


 和菓子対洋菓子。

 因縁の対決が、国家の内乱規模の争いになっている。


 ……面白い。ぞくぞくするな。


「どうした?」


 不審そうに眉をひそめた大福さんが、すこし身を乗りだしてきた。


 ……顔に出ていたか。


「いえ……双甘大試とは、どのような形式で戦うのでしょうか?」

「形式としては――全部で三試合。二人一組を二試合と、最後に単騎戦。つまり、代表者として五人が出る」

「……その五人とは、甘誠組の隊員であればだれでもいいのですか?」

「規則上はな」


 大福さんが、大きな音を立ててお茶を飲みきった。


「他になにか、聞きたいことはあるか?」


 聞かれて、いくつ目かわからない饅頭を口に放りこみ、ゆっくり咀嚼する。


 あと、必要な情報といえば。


「……差しつかえなければ、出場者のお名前を教えていただけませんか」

「かまわんぞ。ええな?」

「……局長が、いいとおっしゃるのなら」


 大福さんが粕谷さんを見て聞き、粕谷さんがそれにうなずいて返した。


「儂と輝一はもうわかっておるな?

 他三名についてじゃが……三番隊隊長、養田完二郎(ようだかんじろう)

 四番隊隊長、団三葉(だんみつは)

 そして最後に、五番隊隊長、土井弥太郎。

 この五人じゃ」


 大福さんは自慢げに、腕組みをしてすこし鼻息を荒くしつつ教えてくれた。


 ……羊羹に団子とどら焼き。

 団子は、なんの団子だろう。名前が「三葉」だから、三色団子か?

 ……違うな。どうもしっくりこない。


「団さんは……女性ですか?」

「ああ。三葉は強いぞ。仕事も早くて、重宝しておる。ときどき塩辛いことを言うがな!」


 大口を開けて、大福さんが笑った。


 その顔をじっと見つめつつ、思いついた。

 塩辛い。すなわち、塩気がある。

 ……みたらし団子。


 瞬間、すべてがぴったりおさまったような、すっきりした感覚がした。


 なるほど。

 この五種類――もとい、五人で組み合わせを考えればいいのか。


「では、今度はこちらが聞こう。おんしなら、どんな組にする?」


 大福さんが、膝をぱん、と叩いて、不敵な笑みを浮かべ、僕の顔をのぞきこんできた。


 ……簡単だ。


 お茶を飲み、口の中をさっぱりさせてから、話した。


「粕谷さんと羊羹さん、大福さんとみたらし団子さん。

 単騎には、どら焼きさんをあてるのが最適解だと考えます」


 言った瞬間、大福さんと粕谷さんが、ぽかんと口を半開きにして固まった。


 ……よくわからないので、ざらめさんにお茶のおかわりをおねだりした。


「そなた……! 人を菓子名で呼ぶなど! やめないか!

 それに、なんだ最適解とは!

 そんな組み合わせ、今まで一度も――」


 立ちあがった粕谷さんの反論は、大福さんの大きな笑い声により、途中でかき消された。

 天井を見上げ、大口を開けて笑っている。


 ……よく笑う人だな。そして、声が無駄にでかい。

 総司令官だから、仕方ないが……あまり近づかないでおこう。


「面白い。して、その組にしたわけは?」


 ギラギラした目をむけてくる、大福さん。


 僕は、ざらめさんからおかわりのお茶を受けとって、一口飲んだ。


 ……ここまで食いついてくるとは、想定以上の反応だ。

 もう一度言うが、単純にお菓子同士のペアリングを考えて言っただけだ。


 ――それにしても。

 この、体の奥が熱いような感覚は……いったい、なんだ?


 ……面白いな。

今日も読んでくださりありがとうございました!

感想、ブックマーク、評価等お待ちしております。

明日も20時頃の更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ