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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第二章 和菓子

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犯人が非効率な行動に出た。

 犯人が非効率な行動に出た。


 みたらし団子さんが投げた手裏剣が足をかすめ、倒れた直後。

 一緒に転がった白色さんの首に腕を回し、千枚通しのような細く短い剣を突きつけた。

 そして、こちらをむいて一言。


「来るな! 来たらこいつの命はない!」


 お決まりのパターンだ。

 一応、指示どおり足を止める。


 ……このまま、みたらし団子さんに攻撃を指示しても問題はない。


 そう考えた――直後。

 背後で、パキ、と枝を踏むような音。


 ……来たか。


「真白を離せ! あなたはもう逃げられない!」

「黙れ! こいつを殺して、お前を隊長の座から引きずりおろす! 絶対に!」

「それは無意味です」


 瞬間、全員が僕を見る。

 背後でまた、かすかに足音がした。


「あなたの思いどおりになることなんて、一つもありません」

「なにを……!」

「事実……大事にしていたはずの娘さえも、離れてしまいましたよね」


 犯人が、びくっと体をこわばらせた。

 千枚通しを持った手が、大きく震えている。


 ……もうすこし。


「……なんのことだか、わからないな。無意味? そんなことはない」


 犯人が、千枚通しを振りあげた。


「団三葉! お前は終わりだ。自分の立場を守るために妹を犠牲にしたと、世間に広めてやる!」

「やめてっ!」


 叫ぶ声。


 下ろされた千枚通しの軌道が、白色さんからわずかにずれる。

 その隙に、みたらし団子さんが素早く間合いを詰め、犯人の武器を弾く。

 ほぼ同時に、白色さんを犯人から奪いかえして保護した。


 僕と、制止の声をあげた人物――月見団子さんが、白色さんを抱きしめたみたらし団子さんの壁になるように、前に出る。


 月見団子さんは、怒りをむき出しにしていた。

 歯を強く噛みしめて、見開いた目で犯人を凝視している。


「な……なんで、あなたがここに?」

「隊長に呼ばれたからだ! あなたを止めるのに手を貸してほしいと!」


 月見団子さんが、震える手を腰の刀に置いた。


「外道め。私がこの場で斬りすててくれる!」


 月見団子さんが、興奮して荒い息をしながら犯人をにらみつける。

 犯人が、その場に座りこんだまま固まった。


「ど……どうし、て?」


 口元を隠していた手ぬぐいをとって、犯人――串本さんの顔があらわになった。

 引きつった笑顔を浮かべ、震える手を娘にむかってのばした。


「全部……あなたのためにやったのに!」

「ふざけないで! 隊長になりたいなどと、いつ言った!?」

「言ったじゃない! 強くなりたいって! だから私、応援してあげようと思ったのよ?

 ね? 大丈夫。母さんがいるから大丈夫。言うとおりにしていればいいの!

 いい子だから。わかるわよねっ? あなたは昔から、母さん思いの優しい――」


 早口で喋る串本さんの言葉の途中で、あんこをその顔面めがけて投げつけた。

 これ以上は、時間の無駄だ。


 触手を広げたあんこが、ちょうど彼女の顔を覆いかくすように貼りつく。


「いやぁ! なによこれぇ!?」


 さらに、あんこは墨を吐いた。


 暴れてつかんでこようとする彼女の手を逃れ、こちらに戻る。

 あんこはひょっとこ口をすぼめて、怒っているような顔をしていた。


 ……変な奴だ。


 肩の上に戻して、墨まみれの串本さんのほうを見る。


「汚い……! なによこれぇ! どいつもこいつも……っ私の邪魔をしてぇ!」

「……いえ。そもそも、あなたの計画どおりになる可能性はほぼゼロです」

「ぜろ……? なにを言っているっ! お前にいったい、なにがわかる!

 私は! 月美のために今まで必死に――」

「すべて非効率でした」


 そこで切って、一旦月見団子さんへと視線を移動してから、また串本さんへ。


「月見団子は、串に刺すものではありませんから」


 ――言った途端、なぜかその場にいた全員が固まった。


 ◇◇◇


 その後、串本さんを縄で捕縛して、連行。

 羊羹さんたちが待機しているところまで戻った。


「無事か」

「……問題ありません」


 駆けよってきた羊羹さんに答えると、白色さんを抱きあげているみたらし団子さんが頭を下げた。


「おかげさまで。このとおり妹は無事です」

「……そうか。なによりだ」


 羊羹さんがほっとした顔でうなずいた、その後ろ。

 最中さんたちのそばで泣きそうな顔をしている、桃色さんと緑色さんがいた。


「桃香。翠子」

「……っ姉さん!」

「姉上……っ!」


 二人は涙腺を決壊させ、しゃがんだみたらし団子さんに駆けより、抱きついた。

 ずっと抱かれていた白色さんも、同時に泣きだす。


「ごめんなさい。全部、私のせいよ」

「姉さん姉さん! ごわがっだぁ!」

「姉さまぁ……っ」

「姉上……っ!」


 ……収拾がつかなそうだな。

 羊羹さんとともに、すこし離れる。


「……見張りは?」

「すでに連行済みだ」

「では、串本さんの身柄もお願いします」

「承知した――連れていけ」

「へい!」


 羊羹さんに指示されたのは、雷おこしさん。

 月見団子さんから串本さんを受けとり、引っ張った。


「いや! 離して! なんであんたたちみたいな汚らわしい連中に――」

「あァ? だぁれが汚らわしいって?」


 雷おこしさんが、なお暴れる串本さんを上からにらみつける。

 串本さんが、「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。


「てめぇのほうがきたねぇだろうがよ。肥だめにわくうじ虫のほうがよっぽどましってもんだ」

「……っ!?」


 罵倒された串本さんは、唖然として口をパクパクさせていた。

 雷おこしさんに加えて、寄ってきた他の人からもにらみつけられている。

 そのままなにも言えず、縮みあがっていた。


 ……羊羹さんの隊の人を選んだのは、このため。


 連行されていく串本さんを見送ってから、空を見上げる。

 ――やせ細った月が、浮かんでいた。


 ◇◇◇


 翌日。

 報告のため、関係者全員に加えて留守番役だった粕谷さんたちもそろって、屯所の会議室に集まっていた。


「私が、しっかり母を見ておくべきでした……! 本当に、申し訳ございませんでした!」


 床に額を叩きつけるような勢いで、月見団子さんが土下座をしている。

 全員が黙って、厳しい目をむけていた。


「……お咎めなしでよろしいのでは?」


 一斉に、全員の視線がむけられる。


 ……今日のおやつは、最中。中身はつぶ餡。

 皮はしっとり、餡はねっとり。このバランスがいい。


「おのれは……なにか食いながらじゃないと話せんのか」


 口元を引きつらせたどら焼きさんが言うのを横目で流しつつ、かけらをあんこに与えた。


「そのわけは?」

「……なにか罰を与えれば、また逆恨みされるだけです」


 もっと欲しがっている様子のあんこに追加を与えてから、月見団子さんを見る。


「……だから、お母さんが死ぬまで親子であり続けてください」

「親子……?」


 なにを当然のことを、と言いたそうな視線が、ちらほら。


 ……当然、ではない。

 あの母親から逃れるために入隊した、月見団子さんにとっては。


 彼女の顔から、すっと血の気が引いていく。

 それを見て、理解した様子でみたらし団子さんがうなずいた。


「蜜森殿のおっしゃったとおりに。決して、目を離すな。次は……許さぬ」

「……っ! はっ!」


 月見団子さんは、唇を噛みしめてこらえたのち、力強く返事をした。

 最敬礼をした彼女が去っていった方向――閉じられた障子を見つめる。


 ……最適解ではあるけれど、最善ではない。

 定期的なケアが必要になる点も、考慮すべき。


 みたらし団子さんとアイコンタクトをして、うなずき合った。


「のう、蜜森」


 大きく息を吐いた大福さんが、困ったように首を振った。


「完二郎から聞いたぞ。おんし、人質を連れ去った輩を一人で追いかけていったそうじゃな?」

「……はい」

「どうするつもりだったのだ! 得物も持たずに!」


 粕谷さんが、吊りあげた目をして詰めよってきた。


 二つ目の最中に手をのばす。


「……武器なら、あります」


 一口食べたのち、肩の上で器用に寝転がっているあんこを手の上に置き、差しだした。


「これです」

「…………」


 注目されているのに気づいたあんこ。

 ボディビルダーのように、腰に手を当てて胸を張るようなポーズをしていた。


 途端に、五人が沈黙する。


「……これが、武器?……そういえば、黒い墨のようなものを吐いていましたね。

 あれのことですか? いったいどんな効果が?」

「団。本気にするな」

「えっ?」


 羊羹さんにつっこまれ、驚くみたらし団子さん。


 どら焼きさんが、あんこをからかってつついているのをぼんやり見つめる。


「……蜜森殿。今回の件、恩に着ます。おかげで、妹たちを無事に救いだせました」

「……恩に着ている場合ではありません」


 すべて終わったかのように礼を言うみたらし団子さんを一蹴して、大福さんを見上げた。

 再び表情を引きしめた彼が、うなずく。


「そのとおりじゃ。此度の件、諸悪の根源は三葉。おんしにある」

「……!」


 大福さんの鋭い声。

 一気に、空気がピリッとした緊張感に包まれる。


「局長! 団殿はどう考えても被害者です!」

「そもそも、三葉が妹たちを預けっぱなしにしていたせいで今回の件が起きた。そうじゃろ」


 抗議した粕谷さんが、大福さんにぴしゃりと切りすてられて、黙る。


 みたらし団子さんが、その場にひざまずいた。


「……おっしゃるとおりでございます。いかなる処罰も受ける所存です」

「ええ度胸じゃ」


 腕を組んだ大福さんが、にらみつけるような目で彼女を見下ろしつつ、一歩近づく。


 しゃく、と最中の皮を噛む音が、はっきりと聞こえるほどしずかだった。


「おんしに――」


 大福さんが、ゆっくりと……告げた。


「六日に一度の、休みを与える!」


 ――時が止まったかのように、だれも動かなかった。


「……局長?」


 疑問を感じている人たちがいる一方で、大福さんは満足げな笑みを浮かべていた。


「どうじゃ。仕事が大好きなおんしには、耐えがたい罰じゃろうて」

「っそれは……ですが!」

「んん? 先程、『いかなる処罰も受ける所存』じゃと言うておったじゃろ。あれは偽りか?」

「……っいいえ。しかし――」


 大福さんが、顔を上げたみたらし団子さんの前にしゃがみこみ、肩に手を置く。


「家族を大事に思う心。それはおんしだけの、一方的なものではないはずじゃ」


 打って変わって優しい口調で言われて、みたらし団子さんが顔を歪ませる。


「のう、蜜森」


 口の中に貼りつく最中の皮のかけらをなめとって飲みこみ、みたらし団子さんを見た。


「……あなたの働き方は、非効率です」

「それは……母を心配させないための方便では?」

「その意図もありました」


 答えたのち、粕谷さん、どら焼きさん、羊羹さんへ視線をむける。

 三人とも理解したようで、それぞれ不敵な笑みを浮かべてうなずいていた。


「三葉。気にせず休め。お前が休みの日は、わしらがなんとかする」

「俺たちを信用できない、と言うのであれば別だがな」

「いいえ! そんなことは!」

「では、決まりですね」


 優しくほほえむ他四人を見て、みたらし団子さんが目を見開く。

 そして、頭を下げた。


「謹んで、お受けいたします。厚く御礼、申し上げます!」


 承諾したあと、顔を上げたみたらし団子さんは、疲労感をにじませながらも笑っていた。


 ――が。


「ところで……休みの日とは、いったいなにをすればよろしいのでしょうか?」


 他四人が、笑顔のまま口元を引きつらせていた。

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