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甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第二章 和菓子

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みたらし団子さんが心底驚いているのが意味不明。

 みたらし団子さんが心底驚いているのが意味不明。

 ……まったく気づいていなかったのか、この人。


「串本って……三葉の妹らを預かってた奴じゃろ?……本当か!?」

「他にありえません」

「……どうして、ですか」


 努めて冷静を保とうとしながらも、額から頬にかけて冷や汗を流しているみたらし団子さん。


 ……そうか。

 信じていた。犯人だなどと、すこしも疑っていなかった。

 けれど。


「……串本さんは、『三人とも大人しく遊んでいた』と言いました。けど実際は、一人はお母さんの看病をしていた。矛盾しています」

「……たしかに」

「長屋周辺に争った形跡もなく、目撃者もいない。外部犯の可能性は低い」

「では……なぜ串本さんが?」

「……三色団子さんたちの行動を把握していたのは、あの人だけです」


 あんこが、わたわたと触手を動かしているのを横目で見る。

 あきらかに動揺しているみたらし団子さんを、心配しているのか。


「……三色団子さんたちも、串本さんの言うことなら信じたはずです」

「串本さんが、妹たちをだまして連れさった、と?」

「そうです」

「動機は? なぜそのお方が団殿の妹御を?」

「……みたらし団子さんを引きずりおろせば、次は娘の月見団子さんがその座につける可能性が高いからです」

「……そうか。だから先程、あのような質問をしたのだな」


 羊羹さんに聞かれて、うなずく。


 先程聞いた、月見団子さんが過去に吐きだした、心からの言葉を思いだす。

 ……彼女は、母親の呪縛から逃れたがっていた。

 そして、隊長にのし上がる件も、望んでいないしなれるとも思っていない。


 これは、娘を思うあまり母親が暴走した結果起きた事件だ。


 あんこが肩の上でくねくね動くので見てみると、みたらし団子さんが出血するほど強く唇を噛んでいた。


「私のせいで……私が、そばにいなかったせいで、あの子たちが……っ」

「……三葉。自身を責めるな。今は……どのようにして妹たちを救うか。それを考えるんじゃ」


 大福さんが、みたらし団子さんの肩に手を置く。

 顔を上げた彼女は、次に僕を見上げた。


「教えて、いただけないでしょうか。どうすれば妹たちを救えますか」

「…………」


 若干空腹を感じつつも、考えてみた。


 串本さんは、戦闘において優れた腕をもっているようには見えなかった。

 でも、人質がいるから一人でも追いつめられると思っているのか。


 ……他に、共犯者がいる可能性がある。


 だとすれば、書状の指示どおりみたらし団子さん一人で行かせるのは厳しい。


「三葉一人で行くしかない……じゃろ?」

「ですが、それだと相手がなにをしてくるかわかりません」


 粕谷さんが、大福さんに一歩近づいた。


「局長。此度の件、団殿の私事とするには重いのでは。部隊使用の許可を」

「うむ……」


 大福さんが、どっしりとあぐらをかいて座りこみ、腕を組んで考えている。


「……私事ではまずいのですか」

「ああ。規則で禁じられている」


 羊羹さんに近づき、こそっと聞くと、同じように小声で答えてくれた。


 ……なるほど。そういうことか。


「それも狙いですね」

「……なに?」

「みたらし団子さんを責めるいい材料になります」


 ――全員が、顔をしかめた。


 指示どおり一人で行けば、危険が及ぶ。

 部隊を動かせば、規則を破ったと追及できる。


 ……それで、退路を断ったつもりか。

 甘い。


「気にする必要はありません」

「……なぜだ?」

「未成年の誘拐は、立派な治安案件だからです」


 そう言って、大福さんを見た。

 彼は、口角を上げて力強くうなずいた。


「……羊羹さん。10人ほど人を貸してください」

「うちのでいいのか」

「はい。できるだけ素行の悪い方々を」

「……? 承知した」


 羊羹さんは、不思議そうに眉を上げていたが、すぐに大福さんに一礼してから部屋を出ていった。


 次に、当事者のみたらし団子さん。


「先に現場に行って、状況把握。あと、月見団子さんにも声がけを」

「……承知しました」


 踵を返そうとした彼女を、あんこが触手をのばして引きとめた。

 振りかえった彼女の目を、凝視する。


「必ず、助けます」

「……っはい」


 ぐっとこらえながら返事をして、大福さんたちにむけて一礼。出ていった。


 残った三人のほうを振りむく。


「……二人が抜けた穴を補えるように、警戒を」

「うむ」

「承知した」

「……やはりわしの出番はなしかい」


 素直じゃないどら焼きさんが、不満そうなふりをしてぼやいた。

 ……三人とも、心配しているのが手に取るようにわかる。


「おんしはどうする?」

「……羊羹さんたちとともに現場へむかいます。馬をお借りしたいのですが」

「おお。一人で乗れるようになったんじゃな?」


 ……まだ、軽く走れる程度だけど。

 いい機会だから、試すのも悪くない。


 ◇◇◇


 用意されたのは、比較的大人しく扱いやすい馬だった。


 ……最初だからな。助かる。


「軍師殿! あっしらをご指名いただき、ありがとうごぜぇやす!」

「……はい」


 最中さんが、馬を横につけて走りながら話しかけてきた。


 ……この人を選んだのはナイスだが、今はしずかにしていてほしい。


「斉藤。話しかけるな。蜜森は馬で移動するのはこれが初めてなのだ」

「ええっ!? 本当ですかい? そりゃ大変だ! じゃあ、応援しやす! がんばれ、軍師殿!」


 直後、後ろからも複数人の応援の声。

 首の後ろの襟の中に隠れたあんこが、揺れで動くせいで妙な感触。


 どれも、どうでもいい。


 馬の後ろ足の動きに合わせて、姿勢を維持。

 ……いい感じだ。この調子でいければ、問題ない。


 まもなく、東の森に到着。

 木々が立ちならんでいて、夜の闇のせいで先が見通せない。


「手前で降ります。その先は徒歩」

「ああ――全体、止まれ!」


 羊羹さんが、振りむいて指示を出す。


 手綱を引いた。

 ――落ちた。


「うわあ、隊長ぉ! 軍師殿が落馬しやした!」


 ……いちいちうるさい。


「大丈夫か!?」

「……問題ありません」


 馬を大人しくさせていた羊羹さんが、すぐに駆けよってきた。


 ……きちんと受け身もとれた。打撲程度で済んでいるはず。

 すぐに起きあがり、馬を森の入り口の端に待機させる。


 それが済んだタイミングで、みたらし団子さんが、くノ一よろしくひざまずいた格好で現れた。


「お待ちしておりました。

 奥にある谷の縁に……妹たちが吊るされています。それを囲うように、見張りが隠れています」

「人数は?」

「五人」

「……串本さんは?」

「吊るされた妹たちのそばに、顔を隠した人物がいます」


 ……隠したところで、こちらからしてみれば今さら感が強いが。


 見張りは五人。まずそこから。


「二人一組で、見張りをそれぞれ捕縛。音を立てないように細心の注意を」

「承知した……聞いたとおりだ。切りまぜろ」


 羊羹さんがうなずき、部下たちに指示を飛ばした。

 ……最小接触で連携しろ、だな。


「みたらし団子さんは、犯人の指示どおり正規のルート――道を通って、三色団子さんたちのところへ」

「承知しました」


 彼女は、森の奥をにらみつけるように見つめてから、落ちついた足取りで歩いていった。


「……羊羹さんは、彼女のそばで補佐を」

「どう動けばいい?」

「人質の安全確保をなにより優先。あとは、みたらし団子さんのことも」

「……承知した」


 引きしめた顔でうなずいた羊羹さんは、足音を立てないようにみたらし団子の後ろをついていった。


 深く息を吐いて、森とは反対側を振りむく。

 月見団子さんが、来る気配はない。


 ……さすがに、心境的には厳しいはず。

 いないものとして考えておく必要があるな。


 肩の上のあんこに一度目をむけてから、森へと足を踏みいれた。


「桃香! 真白! 翠子……っ!」


 細い獣道を進んでいると、先のほうでみたらし団子さんの声がした。

 そこから、茂みに身をひそめながらゆっくり進んでいく。


 ……斜め前に、木の陰に隠れた羊羹さん。

 そして、そのさらに前方に、立ちつくしているみたらし団子さんの背中が見えた。


 ――たいまつの明かり。

 吊るされた子ども三人と、口元を手ぬぐいで覆った人物を煌々と照らしている。


「姉さまぁ」

「申し訳ありません、姉上……っ」

「姉さん、助けて……っ!」


 三人の涙ながらの声を聞き、みたらし団子さんが足を強く踏みしめる。


「一人で来たのだろうな」

「……もちろんだ。妹たちを離せ!」

「私としても、そうしてやりたい。だが……それはお前次第だ」


 声は、男性のそれに似せている。

 手ぬぐい越しのせいもあり、若干聞きとりづらい。


「なにが狙いだ」

「簡単なことだ」


 犯人がたいまつを持って、吊るされている子どもたちに一歩近づく。


 そこで、羊羹さんがこちらを振りかえってうなずいた。

 ……見張りの捕縛、成功。


「隊長の座から下りろ」

「……それはできない」

「そうか。では、一人ずつ死んでもらうしかないな」


 犯人が、たいまつの火を一本の縄に近づける。


「待て……! この場で私がそれを約束したとしても、妹たちを離す気はないのではないか!?」

「……私が約束を違えると?」

「交換条件を行動に移すのは、私のほうが後ではないか」


 それを聞いた犯人が、笑いだした。

 ……声、戻ってるけど。


「案ずるな。証人がいる。この場でお前が誓いを立てれば、反故になどできはしない!」


 犯人が、そばにある木を二回、足で強く蹴った。


 ――沈黙が下りる。


「……! やはり部下を連れてきていたか!」

「っ!?」


 たいまつの火が、縄に燃えうつる。


 今のは……そうか、合図か。


 縄がたちまち切れて、子どもたちが谷底へ落ちていく。

 そのうちの一人、白色さんを犯人が抱えて、横道へと走りだした。


「二人を確保。あとは任せます」


 それだけ言って、犯人を走って追いかけた。


 ……暗くて視界が悪いし、足場が悪い。

 けれど、動く。

 乗馬訓練で鍛えた効果だ。


 一方で犯人も、慣れた道のように走っている。

 当然だろうが、事前に下見をしつつ、逃げる練習もしていたようだ。


 そのとき、風を切るような音がしたので横を見ると、みたらし団子さんが追いついてきた。


「二人は」

「養田殿に預かっていただきました」


 みたらし団子さんが、前を見て走りながら答える。


 ……二人は無事。残すは一人。


「この先は?」

「まもなく森を抜けます。飲み屋が並ぶ通りにつながる路地がすぐ近くに」

「……居住区のむこう側ですね」


 みたらし団子さんが、うなずく。


 ……妙だな。

 森を抜けた先が、あそこに通じる路地になっているのか。


「炭焼き職人のために作られた道です。今は、夜の間だけ裏道として使われています」


 ようするに、子どもを抱えた状態でも、即不審者扱いされる可能性は低い。

 一方でこちらは、第三者を巻きこむリスクを背負う。


 ……入念に計画を立てていたんだな。

 だが――甘い。


「じきに止まります」

「えっ?」

「あの人は、裏道には入れません」


 まもなく、森の出口が見えてきた。


 犯人が、裏道に入ろうとして――


「そこの者! そんなところで寝るんじゃない!」

「いーじゃないですかぁ……ただの酔いざましですよぉ、旦那ぁ……」


 酔っ払いと、シラフの人の厳しい声。


 この辺りは、本来みたらし団子さんの隊の管轄。

 今は、大福さんの一番隊が担当する区域に含まれている。


 ……ただし、連携はとっていない。


「止めてください」


 みたらし団子さんが、うなずくと同時に手裏剣をかまえて――投げた。

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