みたらし団子さんが心底驚いているのが意味不明。
みたらし団子さんが心底驚いているのが意味不明。
……まったく気づいていなかったのか、この人。
「串本って……三葉の妹らを預かってた奴じゃろ?……本当か!?」
「他にありえません」
「……どうして、ですか」
努めて冷静を保とうとしながらも、額から頬にかけて冷や汗を流しているみたらし団子さん。
……そうか。
信じていた。犯人だなどと、すこしも疑っていなかった。
けれど。
「……串本さんは、『三人とも大人しく遊んでいた』と言いました。けど実際は、一人はお母さんの看病をしていた。矛盾しています」
「……たしかに」
「長屋周辺に争った形跡もなく、目撃者もいない。外部犯の可能性は低い」
「では……なぜ串本さんが?」
「……三色団子さんたちの行動を把握していたのは、あの人だけです」
あんこが、わたわたと触手を動かしているのを横目で見る。
あきらかに動揺しているみたらし団子さんを、心配しているのか。
「……三色団子さんたちも、串本さんの言うことなら信じたはずです」
「串本さんが、妹たちをだまして連れさった、と?」
「そうです」
「動機は? なぜそのお方が団殿の妹御を?」
「……みたらし団子さんを引きずりおろせば、次は娘の月見団子さんがその座につける可能性が高いからです」
「……そうか。だから先程、あのような質問をしたのだな」
羊羹さんに聞かれて、うなずく。
先程聞いた、月見団子さんが過去に吐きだした、心からの言葉を思いだす。
……彼女は、母親の呪縛から逃れたがっていた。
そして、隊長にのし上がる件も、望んでいないしなれるとも思っていない。
これは、娘を思うあまり母親が暴走した結果起きた事件だ。
あんこが肩の上でくねくね動くので見てみると、みたらし団子さんが出血するほど強く唇を噛んでいた。
「私のせいで……私が、そばにいなかったせいで、あの子たちが……っ」
「……三葉。自身を責めるな。今は……どのようにして妹たちを救うか。それを考えるんじゃ」
大福さんが、みたらし団子さんの肩に手を置く。
顔を上げた彼女は、次に僕を見上げた。
「教えて、いただけないでしょうか。どうすれば妹たちを救えますか」
「…………」
若干空腹を感じつつも、考えてみた。
串本さんは、戦闘において優れた腕をもっているようには見えなかった。
でも、人質がいるから一人でも追いつめられると思っているのか。
……他に、共犯者がいる可能性がある。
だとすれば、書状の指示どおりみたらし団子さん一人で行かせるのは厳しい。
「三葉一人で行くしかない……じゃろ?」
「ですが、それだと相手がなにをしてくるかわかりません」
粕谷さんが、大福さんに一歩近づいた。
「局長。此度の件、団殿の私事とするには重いのでは。部隊使用の許可を」
「うむ……」
大福さんが、どっしりとあぐらをかいて座りこみ、腕を組んで考えている。
「……私事ではまずいのですか」
「ああ。規則で禁じられている」
羊羹さんに近づき、こそっと聞くと、同じように小声で答えてくれた。
……なるほど。そういうことか。
「それも狙いですね」
「……なに?」
「みたらし団子さんを責めるいい材料になります」
――全員が、顔をしかめた。
指示どおり一人で行けば、危険が及ぶ。
部隊を動かせば、規則を破ったと追及できる。
……それで、退路を断ったつもりか。
甘い。
「気にする必要はありません」
「……なぜだ?」
「未成年の誘拐は、立派な治安案件だからです」
そう言って、大福さんを見た。
彼は、口角を上げて力強くうなずいた。
「……羊羹さん。10人ほど人を貸してください」
「うちのでいいのか」
「はい。できるだけ素行の悪い方々を」
「……? 承知した」
羊羹さんは、不思議そうに眉を上げていたが、すぐに大福さんに一礼してから部屋を出ていった。
次に、当事者のみたらし団子さん。
「先に現場に行って、状況把握。あと、月見団子さんにも声がけを」
「……承知しました」
踵を返そうとした彼女を、あんこが触手をのばして引きとめた。
振りかえった彼女の目を、凝視する。
「必ず、助けます」
「……っはい」
ぐっとこらえながら返事をして、大福さんたちにむけて一礼。出ていった。
残った三人のほうを振りむく。
「……二人が抜けた穴を補えるように、警戒を」
「うむ」
「承知した」
「……やはりわしの出番はなしかい」
素直じゃないどら焼きさんが、不満そうなふりをしてぼやいた。
……三人とも、心配しているのが手に取るようにわかる。
「おんしはどうする?」
「……羊羹さんたちとともに現場へむかいます。馬をお借りしたいのですが」
「おお。一人で乗れるようになったんじゃな?」
……まだ、軽く走れる程度だけど。
いい機会だから、試すのも悪くない。
◇◇◇
用意されたのは、比較的大人しく扱いやすい馬だった。
……最初だからな。助かる。
「軍師殿! あっしらをご指名いただき、ありがとうごぜぇやす!」
「……はい」
最中さんが、馬を横につけて走りながら話しかけてきた。
……この人を選んだのはナイスだが、今はしずかにしていてほしい。
「斉藤。話しかけるな。蜜森は馬で移動するのはこれが初めてなのだ」
「ええっ!? 本当ですかい? そりゃ大変だ! じゃあ、応援しやす! がんばれ、軍師殿!」
直後、後ろからも複数人の応援の声。
首の後ろの襟の中に隠れたあんこが、揺れで動くせいで妙な感触。
どれも、どうでもいい。
馬の後ろ足の動きに合わせて、姿勢を維持。
……いい感じだ。この調子でいければ、問題ない。
まもなく、東の森に到着。
木々が立ちならんでいて、夜の闇のせいで先が見通せない。
「手前で降ります。その先は徒歩」
「ああ――全体、止まれ!」
羊羹さんが、振りむいて指示を出す。
手綱を引いた。
――落ちた。
「うわあ、隊長ぉ! 軍師殿が落馬しやした!」
……いちいちうるさい。
「大丈夫か!?」
「……問題ありません」
馬を大人しくさせていた羊羹さんが、すぐに駆けよってきた。
……きちんと受け身もとれた。打撲程度で済んでいるはず。
すぐに起きあがり、馬を森の入り口の端に待機させる。
それが済んだタイミングで、みたらし団子さんが、くノ一よろしくひざまずいた格好で現れた。
「お待ちしておりました。
奥にある谷の縁に……妹たちが吊るされています。それを囲うように、見張りが隠れています」
「人数は?」
「五人」
「……串本さんは?」
「吊るされた妹たちのそばに、顔を隠した人物がいます」
……隠したところで、こちらからしてみれば今さら感が強いが。
見張りは五人。まずそこから。
「二人一組で、見張りをそれぞれ捕縛。音を立てないように細心の注意を」
「承知した……聞いたとおりだ。切りまぜろ」
羊羹さんがうなずき、部下たちに指示を飛ばした。
……最小接触で連携しろ、だな。
「みたらし団子さんは、犯人の指示どおり正規のルート――道を通って、三色団子さんたちのところへ」
「承知しました」
彼女は、森の奥をにらみつけるように見つめてから、落ちついた足取りで歩いていった。
「……羊羹さんは、彼女のそばで補佐を」
「どう動けばいい?」
「人質の安全確保をなにより優先。あとは、みたらし団子さんのことも」
「……承知した」
引きしめた顔でうなずいた羊羹さんは、足音を立てないようにみたらし団子の後ろをついていった。
深く息を吐いて、森とは反対側を振りむく。
月見団子さんが、来る気配はない。
……さすがに、心境的には厳しいはず。
いないものとして考えておく必要があるな。
肩の上のあんこに一度目をむけてから、森へと足を踏みいれた。
「桃香! 真白! 翠子……っ!」
細い獣道を進んでいると、先のほうでみたらし団子さんの声がした。
そこから、茂みに身をひそめながらゆっくり進んでいく。
……斜め前に、木の陰に隠れた羊羹さん。
そして、そのさらに前方に、立ちつくしているみたらし団子さんの背中が見えた。
――たいまつの明かり。
吊るされた子ども三人と、口元を手ぬぐいで覆った人物を煌々と照らしている。
「姉さまぁ」
「申し訳ありません、姉上……っ」
「姉さん、助けて……っ!」
三人の涙ながらの声を聞き、みたらし団子さんが足を強く踏みしめる。
「一人で来たのだろうな」
「……もちろんだ。妹たちを離せ!」
「私としても、そうしてやりたい。だが……それはお前次第だ」
声は、男性のそれに似せている。
手ぬぐい越しのせいもあり、若干聞きとりづらい。
「なにが狙いだ」
「簡単なことだ」
犯人がたいまつを持って、吊るされている子どもたちに一歩近づく。
そこで、羊羹さんがこちらを振りかえってうなずいた。
……見張りの捕縛、成功。
「隊長の座から下りろ」
「……それはできない」
「そうか。では、一人ずつ死んでもらうしかないな」
犯人が、たいまつの火を一本の縄に近づける。
「待て……! この場で私がそれを約束したとしても、妹たちを離す気はないのではないか!?」
「……私が約束を違えると?」
「交換条件を行動に移すのは、私のほうが後ではないか」
それを聞いた犯人が、笑いだした。
……声、戻ってるけど。
「案ずるな。証人がいる。この場でお前が誓いを立てれば、反故になどできはしない!」
犯人が、そばにある木を二回、足で強く蹴った。
――沈黙が下りる。
「……! やはり部下を連れてきていたか!」
「っ!?」
たいまつの火が、縄に燃えうつる。
今のは……そうか、合図か。
縄がたちまち切れて、子どもたちが谷底へ落ちていく。
そのうちの一人、白色さんを犯人が抱えて、横道へと走りだした。
「二人を確保。あとは任せます」
それだけ言って、犯人を走って追いかけた。
……暗くて視界が悪いし、足場が悪い。
けれど、動く。
乗馬訓練で鍛えた効果だ。
一方で犯人も、慣れた道のように走っている。
当然だろうが、事前に下見をしつつ、逃げる練習もしていたようだ。
そのとき、風を切るような音がしたので横を見ると、みたらし団子さんが追いついてきた。
「二人は」
「養田殿に預かっていただきました」
みたらし団子さんが、前を見て走りながら答える。
……二人は無事。残すは一人。
「この先は?」
「まもなく森を抜けます。飲み屋が並ぶ通りにつながる路地がすぐ近くに」
「……居住区のむこう側ですね」
みたらし団子さんが、うなずく。
……妙だな。
森を抜けた先が、あそこに通じる路地になっているのか。
「炭焼き職人のために作られた道です。今は、夜の間だけ裏道として使われています」
ようするに、子どもを抱えた状態でも、即不審者扱いされる可能性は低い。
一方でこちらは、第三者を巻きこむリスクを背負う。
……入念に計画を立てていたんだな。
だが――甘い。
「じきに止まります」
「えっ?」
「あの人は、裏道には入れません」
まもなく、森の出口が見えてきた。
犯人が、裏道に入ろうとして――
「そこの者! そんなところで寝るんじゃない!」
「いーじゃないですかぁ……ただの酔いざましですよぉ、旦那ぁ……」
酔っ払いと、シラフの人の厳しい声。
この辺りは、本来みたらし団子さんの隊の管轄。
今は、大福さんの一番隊が担当する区域に含まれている。
……ただし、連携はとっていない。
「止めてください」
みたらし団子さんが、うなずくと同時に手裏剣をかまえて――投げた。




