表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘味戦争の社畜軍師 ~敗北寸前の和菓子軍を任された~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第二章 和菓子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/37

団子がデコレーションされたショートケーキはおかしい。

 団子がデコレーションされたショートケーキはおかしい。

 巨大なそれを、トンネルを掘るように食べすすめていくうちに――人の声。


「風! とうに日の出の刻はすぎているぞ!」


 ……夢だった。

 起きあがってみると、粕谷さんがふすまを開けて顔をのぞかせていた。


「やっと起きたか。珍しいな。お前が寝坊など」

「……慣れないことをしたせいかと」

「はは。さすがの風でも、乗馬の訓練はこたえるか。初日からそんなでは身がもたないぞ」


 続けて、「顔を洗ってこい」と言って、粕谷さんは去っていった。


 ……名前。

 名前で呼んでもらえるようになった。信頼の証か。


 それにはまったく触れず、なんでもないようにふるまう粕谷さんとともに朝食を済ませる。

 そして、出勤。

 僕は馬場、粕谷さんは道場へ。


 馬場には、すでに饅頭さんがいた。


「本日もよろしくお願いします」

「……逃げずにきたのは褒めてやる。乗れ」


 そう言って、馬の手綱を渡してきた。


 ……逃げる? なぜ?


 尋ねるのは野暮だと思い、あんこを柵の上に置いてから、馬にまたがった。


 今日は、進む、止まる、曲がる方法をそれぞれ習った。

 昨日はあまりなかった、饅頭さんの指導がバシバシ入る。


「愚か者。手綱の引きが強すぎるのだ」

「……はい」


 なら、今のを100として、30%減で。


「力みすぎているぞ」

「……はい」


 一点に集中しないで、分散すべきだな。


「そら見ろ。腰まわりが固くなっているではないか」

「……はい」


 叩かれた位置周辺の、関節の可動域を意識して。


「ぼーっとするな!」

「…………」


 してない。


 コツをつかんで慣れるまでは、長い道のり。

 だが、悪くない。


「今日はここまで。明日から三日間は別の者に来させる。

 しばらくは同じことを繰りかえし行い、体に覚えさせるのだ」

「……承知しました」


 うなずいて返事をすると、饅頭さんは馬を連れていった。


 その場に座りこみ、近寄ってきたあんこを肩に乗せる。

 竹製の水筒に入れて持参した水を飲んで、空を見上げた。


 ふと、昨日見た夢の内容を思いだす。

 ……団子デコレーションのショートケーキ。

 斬新すぎる。


「大丈夫ですか?」

「なにか必要なものはありますかぁ?」

「こちら、よろしければ。甘いもので疲れを癒してください」


 ……三人の少女もとい、三色団子トリオが顔をのぞきこんできた。

 緑色さんにいたっては、濃い緑色をした団子――よもぎ団子を差しだしてきた。

 なるほど。今日はこの三人か。


「……三色団子さんたちでしたか」

「違います! 私たちは団子ではありません!」

「桃香。この方独自の呼び方だと、姉上がおっしゃっていたでしょう」

「わあ。その赤い子はなんですかぁ?」


 桃色さんは不満げに頬をふくらませ、緑色さんがそれをなだめ、白色さんはあんこに興味をひかれている様子だった。

 桃色は気が強めで、緑はしっかり者。白はマイペースだな。


 理解してうなずき、差し入れの団子を食べた。

 ……中に餡子が入っていない。手作り感満載だ。

 しかし、ちゃんと甘くて美味い。


 白色さんが、団子を与えたあんこが喜ぶ姿を見て、「かわいー」と言って笑っていた。


「……三人とも、なぜここに?」

「突然申し訳ありませんでした。姉上が忙しそうにされていたので、手伝いを申しでた次第です」

「……みたらし団子さんは、荷運びの仕事もされているようでしたが」

「そうなんです。姉さん、毎日仕事で走りまわってるんです。私たちや、病気の母さんを養うために」


 桃色さんが、最初に説明してくれた緑色さんを押しのけて、身を乗りだしてきた。


「……お父さんはいらっしゃらないんですね」

「父さんのことはよくわかりません。お酒ばっかり飲んでて、早くに死んでしまったと聞きました」

「桃香、あんまり家のことを言ってはいけません。ご迷惑になります」


 緑色さんが、桃色さんと僕の間に入って遮る。


「そんなことないですよねっ?

 ……蜜森さんに聞けば、私たちが姉さんの役に立つ方法が見つかるはずよ!」


 桃色さんが、拳を握って懇願するかのような視線をむける。

 ついで、先の彼女よりは弱めの眼力だったが、白色さんも。

 緑色さんは、二人を止めようとしたが、結局流されて、同じようにこちらを見つめてきた。


 ……思いは三人同じ。


 おかげで、みたらし団子さんの背景がわかった。

 ようは、長女であるみたらし団子さんが家計を一手に担っているのだ。


 ……『毎日仕事で走りまわってる』とは、誇張ではない可能性があるな。


「蜜森さん! ぼーっとしてないで、なにかいい案を考えてください!」

「……お姉さんを助けたい、と」


 三人が、うなずく。緑色さんは、控えめに。


 彼女たちを見ながら、残っていた団子を食べて、飲みこむ。


「……手伝うより、みたらし団子さんの負担を減らすべきです」

「負担を減らす? それはどうやって――」

「お嬢さん方! そろそろ帰りますよ!」


 桃色さんが食い気味になったのを遮るように、だれかがやってきて声を張りあげた。

 赤みが強いオレンジ色の着物に、丸髷を結った中年女性だった。


 この子たちの母親……にしては、病弱さは微塵も感じられない。


「……どちら様ですか」

串本(くしもと)正子(まさこ)さん。串本のおばさまと呼んでおります。私たちが住んでいる長屋のお隣さまなのです」

「姉さまがいない間、私たちの面倒を見てくださっているんですよー」


 白色さんが、名残惜しそうではあったが、あんこを返却してきた。


「ご飯はおいしいけど、ちょっと口うるさくてやな人なんですっ」

「こら、桃香!」


 にひひ、と笑った桃色さんを、緑色さんが口の前に人差し指を立てて、たしなめる。


 ……串本? 団子の串?


「ほら! もう、やることあるんですから。いつまでも遊んでないで!」

「遊んでないもん!」

「遊んでいるようなものでしょう! まったく……あら、そちらは……」


 口ごたえをする桃色さんを叱った串本さんは、こちらに気づいてはっと目を見開いた。


「もしや、軍師様!? ね、甘誠組(かんせいぐみ)の軍師様では!?」

「……そうです」

「あらまぁ……! この子たちとはお知り合いなので? それは知らなかった!

 なんでもっと早く言わないの!」


 理不尽に怒られて、三人が不満そうに目を細める。


 ……知り合い、と呼べるほどではない。


「あのですね、実はうちの娘が甘誠組の隊士をしておりますの。

 月美(つきみ)と申しますけど、もちろんご存じですよねっ?」

「……はい。鍛錬しているところをお見かけしました」


 四番隊の道場で、声をかけた覚えがある。


「あらぁ! もしかして、次の双甘大試(そうかんたいし)には娘を出していただけますの!?

 うちの子ほどの実力者なら、あちらの長も恐れをなして降参するに決まっていますわ!

 どうぞ、よしなに!」


 詰めよってきた串本さんは、最後に笑顔で僕の手を両手で握って、軽く上下に振った。


 ……串本月美さん。もとい、月見団子さん。

 彼女はたしかに強いが、そこまでの実力者ではない。


「それじゃ帰りますよ! お母さんも心配されていますからね。軍師様、どうもお邪魔しましたぁ」

「待って! まだ私たち、なんの役にも立ってない!」

「桃香。おばさまを困らせるわけにはいきませんよ」

「でも……!」


 帰りたがらない桃色さんの前に、団子を食べたあとの串を突きだす。


「……とてもおいしかったです。あなたたちのおかげで疲れがとれました」


 言った途端、桃色さんの顔がぱぁっと明るくなる。


 そして、三人は串本さんに連れられて帰っていった。

 手を振る白色さんに、あんこが触手を一本上げて、同じように振っていた。


 ……名前がお菓子になっていない串本さんは気になる。

 が、みたらし団子さんのタイムスケジュールも気になる。

 警備が疎かになる危険性がないか、無駄がないかチェックが必要だな。


 ◇◇◇


 翌日、乗馬訓練の前に、四番隊の詰所へとやってきた。


「これは、蜜森様。なにかご用でしょうか」


 顔を出すと、白いヒゲが特徴の中年男性がすぐに声をかけてきた。

 彼の名は、蓬莱(ほうらい)段造(だんぞう)。よもぎ団子さんだ。

 みたらし団子さんに一番近い部下らしい。


「……みたらし団子さんのここ最近のスケジュール――日程を知りたいのですが」

「隊長の日程ですか? なにか問題でも?」

「無理をされているのではないか、と」

「……!」


 よもぎ団子さんが、息を飲む。


「承知いたしました。ひとまず、昨日を例に申しあげます。

 朝はこの詰所に立ちより当番からの報告を受け、その足で担当区域の見回り。

 その後、道場で部下たちの指導にあたり、昼をはさんでまた荷運びの仕事。

 夕刻の日の入り前に、また詰所に寄って報告を聞いた後、お帰りになりました」


 ……想定以上だった。


「……朝の詰所に立ちよる前と、日の入り前に立ちよった後、仕事をしていた可能性は?」

「大いにありえます。以前、お見かけしたことがあります」


 ……今の日の出と日の入りの時間を考慮して、仮に4時から19時まで仕事をしていたとする。

 休憩時間を含めても活動していた時間は――実に15時間。


 それを毎日続けているのだとしたら、余裕で過労死ラインを超える。


「蜜森様。私は、隊長のお体が心配です。今はお若いゆえ、多少無理をしても平気かもしれませんが……」


 よもぎ団子さんが、ヒゲをなでながら顔をうつむけた。


 ……若いかどうかは関係ない。

 彼女の働き方は、どう考えても非効率だ。


「……局長に相談してみます」

「くれぐれも、よろしくお願いいたします」


 深々と頭を下げてきたよもぎ団子さんにうなずき、踵を返した。


 次は、大福さんのいる一番隊の道場へ。

 予想どおり、彼は鍛錬する部下の指導にあたっていた。


「三葉のことか。儂も気にしてはいるんじゃが……何度伝えても変わらんのじゃ」


 大福さんは、腕組みをして竹刀を振っている部下を見ながら、首を横に振った。


「事情が事情じゃ。あまり強く言えない面もあってのう」

「……みたらし団子さんが倒れれば、家族丸ごと生活がままならなくなります」

「わかっておる。じゃから、頼む。おんしからも言ってやってくれ。

 儂とおんし、二人から言われれば、さすがの三葉も考えなおすやもしれん」


 大福さんから真剣な眼差しをむけられ、うなずいた。


 道場をあとにして、馬場にむかいながら考える。


 ……仕事中毒者を諭すには。

 彼女の場合、家族を引きあいに出すのがベストだな。


 ――しかしその後、みたらし団子さんと会う機会はなかなか訪れなかった。

 とある事情で、緊急の会議が開かれるまでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ