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甘味戦争の軍師 ~社畜の僕、相性が見えるだけで最強編成を作れるけど、この戦争ちょっとおかしくないか?~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第二章 和菓子

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偉い人からの呼び出しだった。

 偉い人からの呼び出しだった。


「儂とともに、すぐにこいとのことじゃ……まいったのう」


 大福さんは、困惑して頭をぼりぼりかいていた。


 ……白妙様。

 大福さんが、「様」をつけて呼ぶ。彼よりさらに上の立場のお方。

 名前だけでは、どのお菓子がもとになっているかはわかりづらい。

 ここにきて、初の例外にあたる人物の可能性もある。


「白妙様、とは?」

「お前! あのお方を知らんのか!?」

「無理もありません。蜜森は、最近この国にきたばかりの身ですから」


 こっそり、横の粕谷さんに聞いたつもりが、すぐにどら焼きさんが驚いて反応した。

 粕谷さんが、改めてこちらをむく。


白妙(しろたえ)宗景(むねかげ)様。餡月郷(あんげつきょう)の領主様だ。民からは将軍様とも呼ばれている」

「将軍様……」


 つまり、和菓子界の王様。格式が高い。


 ……練り切り?


 すぐに、ぴったりとはまるような感覚がした。

 まちがいない。練り切りには白あんを使うしな。


 ……呼ばれた理由で一番思いあたるのは、大会の件。

 それから、身分がはっきりしない件での警戒と確認。


 そう思って大福さんに視線をむけると、彼は膝をパン、と叩いて立ちあがった。


「こうしてはおれん。蜜森。すぐ支度してまいれ」

「……承知いたしました」


 大福さんはそう言いながら、部屋を出ていった。

 遅れて、僕も立ちあがる。


「……どんな格好をしていけばよろしいのでしょうか」

「…………」


 特に粕谷さんが、険しい顔をしていた。


 ◇◇◇


「蜜森、疲れとらんか?」

「……問題ありません」


 大福さんにしがみつくような格好で、馬に乗っている。

 おまけに、慣れない服装。

 窮屈だ。


 これは、粕谷さんから借りたもの。

 羽織はなく、地味な着物に袴を履いたスタイルだ。サイズも微妙に大きい。


 あんこは、粕谷さんに預けてきた。

 そのときの暴れ具合はかなりのものだったが、スルーした。


「白妙様の御殿までは、一里以上はあるからのう。さすがに歩いてはいかれんのでな」

「……お手数をおかけします」

「かまわん。おんしのいた国……日ノ本とか言ったな? そこでは馬に乗らなかったのか?」

「他の……移動手段があったので」

「ほう。それは気になるのう。

 ここでは今後も必要になるじゃろうから、早いうちに乗れるようにしておくのがよかろうて」

「……善処します」


 一朝一夕にはいかない。けれど、必要不可欠。

 いい練習場と馬の調達が必須だ。


「ほれ。見えてきたぞ」


 しばらく走って、大福さんが言った。


 朱塗りの神殿のような建物。

 ……白妙様だからといって、白い御殿ではなかったようだ。


 建物のかなり手前で馬を下り、近づいていく。

 警戒する門番に、大福さんが白妙様からの文を見せて、通してもらった。


 中に入ると、立派な大きな松がある庭が目についた。

 歩いていく廊下は、どこからでもその庭が眺められるようになっている。


 ……大福さん、迷いなく歩いているな。


「白妙様にお会いしたことがあるのですか?」

「あるぞ。そこまで気難しいお方ではない」

「……なぜ粕谷さんはあんなにそわそわしていたのでしょうか」


 出かける前、「同行します!」と、最後までごねていた粕谷さんの姿を思いだす。


「……まぁ、あれは生真面目な奴じゃからのう」


 ……よくわからない。

 ため息をつきつつ、前を歩く大福さんのあとを追った。


 まもなく、床に座って槍のような長物をもち、警戒している人がいる扉の前に辿りつく。

 今度は、文を見せる必要はなく、警備担当はすぐに身を引いた。


「御前。大丸殿とお供のお方が参られました」

「通すがよい」


 透きとおるような声。

 警備担当が一礼し、両開きの扉が開いた。


 大福さんが、深く一礼して中に入っていく。

 僕も、同じように。

 大福さんの横に移動し、同時に床に座って平伏した。


「大丸福之進。蜜森風。ただいま参上つかまつりました」

「……面を上げよ」


 顔を上げ、しっかりと前をむく。


 一段高い畳の上に、そのお方が座っていた。

 しかし、周囲を御簾で覆っているため、顔ははっきり見えない。


「急に呼びたててしまい、すまなかったな」

「滅相もございませぬ。御前にお呼びいただけるのは、誉れにございます。

 いつどこにいようと、飛んでまいります」

「そうか」


 白妙様が、ふっと笑ったように息をもらした。


 ……声に張りがある。高齢とは言いがたい。


「その方。蜜森と申したな」

「……は」

「近う寄れ」


 ……想定外。

 一拍置いてから、言われたとおりすこし前に出た。


「もっと、顔をよく見たい」


 白妙様が、右と左を順に見た。

 すると、そばに待機していた家臣二人が立ちあがり、御簾を上げた。


 そのお顔が、はっきりと見えた。

 ……口ひげはあるが、目立つシワはない。

 四十代前半あたりが妥当だ。


 彼の口元が、わずかに上がった。


「顔を見られて、嬉しく思うぞ」

「……ありがたきお言葉にございます」

「うむ。戻ってよい。もうすこし、話を聞かせてほしい」


 頭を下げ、座ったまま後ずさりするようにして、大福さんの横に戻った。


「そなた、聞くところによると人を菓子にたとえるのがうまいそうだな。

 大丸は……大福、だったか?」

「そのとおりにございます」

「……ふふ。面白い。たしかに、名前の中に大福の文字がある」


 白妙様は、上を見てなにかを考えたのち、また視線を戻した。


「では、聞こう。我はなんだと思う?」

「……御前を菓子にたとえるなら、でございますか」

「さよう。今すこし考えたのだが……わからぬ。そなたはなんだと思う?」


 真横の大福さんを一瞥。

 かすかに、うなずいていた。


 ……言っても、いいんだな。


「練り切りが一番お似合いかと存じます」

「ほう。練り切り……誠にそう思うか」

「はい」


 白妙様もとい練り切り様は、感心したように口を半開きにして、二度うなずいた。


「それはいい。季節も感じられるし、なにより美しい……我にはもったいないほどだ」

「いいえ。和菓子の王は、練り切り以外にありえません」


 そう言った直後、すぐ大福さんに肘で突かれる。

 すぐに平伏。


「……ありがたい言葉だ。嬉しく思うぞ」

「はっ。ご無礼つかまつりました」

「かまわぬ。気にするな」


 頭を上げてみると、練り切り様はまた何度かうなずいていた。


 そして、次は大福さんのほうに視線をむけた。


「先の双甘大試(そうかんたいし)、実に見事だった」

「はっ。お褒めいただき光栄にございます」

「今回と前回、戦術がそれまでとは違ってみえたが……あれは、蜜森の策だな?」

「さようにございます。

 意外性があり、戸惑いましたが。おかげで勝利をおさめることができました」


 練り切り様が、感心したようにほほえんでいる。


 違ってみえた?


 ……今なら、聞いても問題ないな。


「恐れながら、お尋ねしたきことがございます」


 言った直後、また大福さんから肘で突かれた。


「よい。なんなりと申せ」

「……ありがとうございます」


 一礼してから、続けた。


「練り――御前は、双甘大試を直接ご覧になっていたのですか」

「ああ。欠かさず観ていた」


 ……やっぱり。


「ごく近しい者しか知らぬゆえ、口外は禁ずる」

「もちろんにございます。差しつかえなければ、理由を教えていただけないでしょうか」

「周りの者に騒がれては、観戦どころではなくなってしまう。加えて、民に危険が及びかねん。

 ……それが、表向きだ」

「……裏は?」

「萎縮させないためだ。『我が見ている』と知れば、それだけで重圧になってしまうだろう。

 しかし……どうしても、この目で見ておきたかった。

 我をこの国の王にするために、身を削って戦っている者たちの勇姿を……この目に焼きつけておきたかったのだ。

 勝ち負けなど関係なく、な」

「……白妙様……」


 慈愛に満ちた優しいお顔を、大福さんが感激した様子でしばらくじっと見つめたのち、床に頭をつけた。


「そのお言葉があるだけで、いかようにもなれましょう。

 この大丸、これからも良き知らせを届けられるよう、精進してまいります!」

「ああ。楽しみにしているぞ」

「ははっ!」


 床が、びりびりと振動するほどにでかい声だった。

 まぁ、それはいいとして。


 萎縮させないため、というのは、理にかなっている。

 ふと思いうかんだのは、粕谷さんとどら焼きさん。


 考えなしではなく、きちんと周りのことも見えている。

 人心を掌握するのがうまい。

 ……優れた王様だ。


「そなたらに褒美を授けようと思う。受けとってくれるな?」

「それはそれは。恐悦至極に存じます。ただ……」

「……ただ?」


 聞きかえされ、顔を上げた大福さんは、やる気をみなぎらせた目をしていた。


「我々は、まだ勝ってはおりませぬ。星を五分に戻しただけ――これからにございます。

 褒美をいただけるのならば、御前が我ら瑞菓国の王になった暁。それで十分にございます」

「……ならば、なおのことだ。英気を養い、これからに繋げよ」

「……! はっ!」


 大福さんが平伏したのに合わせて、僕も同じようにする。

 

 ……やんわり断ろうとしたのに、失敗した。

 褒美とはなにか。要チェックだな。


 かすかに布がすれる音。

 見上げると、練り切り様が立ちあがっていた。


「今日は、会えてよかった。またいずれ会おうぞ」

「……ありがたきお言葉にございます。そう願っております」


 ほほえんだ練り切り様が、うなずいてから去っていく。

 大福さんと一緒に頭を下げたまま、それを見送る。


 ……終わったか。


「なんとか乗りきったのう……」


 謁見の間を出てすぐに、大福さんが大きく息を吐いた。

 彼も、幾分かは緊張していた様子だ。


「ひやひやさせよって。度胸がありすぎるのも考えものじゃな」

「……そうでしょうか」


 苦笑する大福さんに、頭を小突かれた。


 様子をうかがいつつ、相手の機嫌を損ねないよう配慮して質問したのだ。

 なんの問題もない。


「褒美の品とは、なにかご存じなんですか?」

「白妙様のことだ。食料がほとんどじゃろうな。問題なのはその量でなぁ……」


 立派な中庭が見える廊下を歩きながら、大福さんは腕を組んでうなっていた。


 ……食料か。

 大福さんの様子から察するに、消費に困るほどの量だな。


 外につながるところの前まできたとき、むかい側の廊下を歩いていた人と目が合った。


「おお! 肥田様!」


 大福さんが嬉しそうに駆けよっていったので、ついていく。


「ご無沙汰しております」

「大丸か。御前に呼ばれたのか」

「はい。お褒めの言葉をいただきましてなぁ」


 大福さんが、笑顔で話しかけたその人。



(八重……! なぜだ八重ぇ……!)



 ……まちがいない。

 あのときの、あの人だった。

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