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甘味戦争の軍師 ~社畜の僕、相性が見えるだけで最強編成を作れるけど、この戦争ちょっとおかしくないか?~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第一章 お菓子の戦争

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だれもが圧勝で終わると思っているのを、覆す。

 だれもが圧勝で終わると思っているのを、覆す。

 それだけのポテンシャルが、たい焼きさんにはある。


「最終戦、第三試合――始めっ!」


 先に動いたのは、フレジエ団長。

 たい焼きさんは、一歩前に出たところで身構える。

 即座に一撃が入った。


「ぐ……」

「時間はかけぬ。安心しろ」


 そこからは、一方的な展開だった。

 ほとんどタコ殴り状態で、たい焼きさんはかろうじて立っている程度。

 さすが、平隊員相手にも容赦しないな。


「……!」


 大福さんが、たまらず立ちあがった。


 戦場にむかって一歩前に出たその先に、あんこを投げつける。

 着地したあんこは、驚いた様子で周囲を見回したあと、大福さんを見上げて旗を振った。


「大福さん」


 生地。中身の餡子。

 たい焼きさんの良さが出るのは、ここからだ。


 名を呼んだだけにとどめて、じっと見つめる。


 大福さんは、決意をこめたような目でうなずき、座りなおした。

 そして、半ばやけくそのように柏餅を二つ手にとり、まとめて丸ごと口に放りこんでいた。


 ――そのとき。


「これ以上……無駄な時間を使わせるな!」


 強打がたい焼きさんを襲い、数メートル後ろに飛ばされる。

 その場に座りこみ、動かなくなった。


「……ふん」


 フレジエ団長が、主審のブドウさんを見る。

 ――直後。


「まだ……終わってなど、おりませぬぅ!」


 素早く立ちあがったたい焼きさんが、フレジエ団長に駆けよる。

 そして、一撃。

 フレジエ団長は難なく受けとめたが、一瞬体勢を崩した。

 顔に驚きが浮かぶ。


「いけぇ、太一! 一気に攻めろ!」


 観客席からの声。

 ……そうだ。今が攻め時だ。


 攻勢に出るたい焼きさん。

 今度は、フレジエ団長が受け身に入る。

 隙をついて攻撃しているが、白たい焼きモードのたい焼きさんは、柔軟にかわしている。


 ……それはいいけど。


「うおおおおおっ!」


 いちいち叫ぶな。体力を消耗する。


 受け身のフレジエ団長は、攻めあぐねていていら立っているのがわかる。

 もう一押しだ。


「はぁぁぁぁっ!」


 たい焼きさんの渾身の一撃。

 勝負あった――と、思った。


「っ!?」


 フレジエ団長が、しなやかな動きで攻撃を受け流す。


 ――この動き。

 頭に「あるもの」が浮かんで、思わず立ちあがる。


 ……そうか。そうきたか。

 想定外だった。


「まだまだぁ!」


 たい焼きさんが、再び攻撃。

 しかし、その攻撃はフレジエ団長には届かなかった。

 勢いがだんだん落ちていき、木刀の先が地面に刺さる。


 ――スタミナ切れ。


 そこに、容赦なく入るフレジエ団長の攻撃。

 たい焼きさんの体が吹きとび、うつ伏せに倒れて動かなくなった。


 倒れているたい焼きさんに近づく、フレジエ団長。

 しばらく彼を見下ろしてから、木刀を軽く放りなげて、踵を返した。


「あ、だ、第三試合! 勝者、アントルメ騎士団!

 以上をもちまして、今回の双甘大試(そうかんたいし)ならびにグラサージュ・マッチは――甘誠組(かんせいぐみ)の勝利に決しました!」


 主審のブドウさんが宣言した直後、沸き立つ会場。

 洋菓子側からは、フレジエ団長を称える声が聞こえる。


 いよいよ駆けよろうとした大福さんの前に、だれかが飛びこんできた。

 ……どら焼きさん。

 とうとう我慢できなくなったか。


 観客席から飛びおりてきたどら焼きさんは、倒れているたい焼きさんに駆けより、助けおこした。

 何度か揺さぶっていたが、まもなく俵担ぎをしてこちらに運んできた。


「弥太郎……」

「申し訳ありません! いてもたってもいられず!」

「いや、かまわん。そんなことより、手当てが先じゃ」


 振りかえった大福さんと目が合った羊羹さんが、最中さんに指示を出す。


 救護係を呼びにいった最中さんと入れかわるように、粕谷さんとみたらし団子さんがやってきた。


「土井殿! 無茶をなさいますな!」

「あんなところから飛びおりるなんて……どこかで頭、打ったのですか?」

「やかましいわ! ああするしかなかったじゃろが!」


 どら焼きさんが吠えると、そのおかげか、たい焼きさんががばっと体を起こした。


「……はっ!? ここは!?」

「落ちつけ。痛むところはあるか?」

「ありませぬ! 試合はどうなったので!?」

「落ちつけと言われとるじゃろ! お前の負けじゃ!」


 どら焼きさんの一言で、たい焼きさんは目を見開き、口を大きく開けた状態で固まった。

 ……脳内処理が追いついていない様子。


 そんなたい焼きさんの前にしゃがんだ大福さんが、優しく肩に手を置く。


「ようがんばった。あそこまで、よくヴィクトリウスを追いつめた」

「……!」


 大福さんの言葉はちゃんと届いたようだ。

 たい焼きさんは口をパクパク動かし、その後震わせていた。


「……い、いいい! いえ! 勝利をお届けできず、隊長の仇も討てず……!

 面目次第もございませぬ……!」

「そんなことはない。なぁ、蜜森。おんしからもなにか言ってやってくれ」


 どら焼きさんが、「じゃから――」と言って割りこもうとしたのを、羊羹さんが肩に手を置いて止める。


 たい焼きさんが、こちらを見た。


 ……今はまだ、緊張状態を保っている。

 急に緩めるのは危険。


「……ご無事でなによりですが、結果的には残念でした」

「は、はい……なにがだめだったのでしょうか……」

「それは、あなた自身がよくわかっているはずです」

「……っ」


 たい焼きさんが、僕の言葉を聞いて歯を噛みしめ、それから土下座をした。


「はっ! なにからなにまで足らない気がしておりますっ!

 一つ一つ、きっちり乗りこえていけるよう、努力いたしまぁすっ!」


 そう言って、土下座してからすぐ上げられた顔。

 とても嬉しそうで、目はキラキラと輝いていた。


 ――しかし。


「っ!? 太一!? おい!……アホかお前はぁ!」


 立ちあがった瞬間、たい焼きさんは横にいたどら焼きさんに、くたりと寄りかかった。

 とうに限界だったようだ。


 すぐに、駆けつけた救護係によって運ばれていく。


 主にどら焼きさんが大騒ぎしている中、洋菓子側のほうを見た。

 すでに選手は全員引きあげている。


 ……盲点だった。

 まさか――ヴィクトリウス氏が、ショートケーキだったなんて。


 ◇◇◇


 会場から引きあげた数時間後の、総括の場。

 なぜか、今回は僕も呼ばれていた。


 ……正直なところ、すぐに帰って考えをまとめたかったのだが。

 三試合の振りかえりに加えて、フレジエ団長――改め、ショートケーキ団長についても。


 ――なぜ、思いいたれなかった?


 たい焼きさんとの試合で見せた、攻撃を軽く受け流すあの動作。

 あれは、それまで得ていた彼に関するどの情報にも、合致しない。

 けれど、スポンジ生地の軽い口当たりのショートケーキなら。


 ……相手は全員、洋菓子だと思いこんでいた。

 それに属する「別物」だとは、考えもしなかった。


 欠けていた最後のピースがはまったような感覚。疑う余地はない。


「輝一。弥太郎。岡と矢島の具合はどうじゃ?」


 ……大福さんの真剣な問いかけの言葉を聞き、思考を中断する。


「は。大事ありません。医者の話では、数日で元どおりになるとのことです」

「右に同じです。太一の奴、すぐにでも復帰して鍛錬したいと騒いでおりました」


 粕谷さんとどら焼きさんが、苦笑しながら報告した。

 それを聞いた大福さんは、腕組みをしたまま満足そうにほほえみ、うなずいた。


「儂もここにくる前に、隊に顔を出してきたんじゃが……皆、やる気をみなぎらせておった。

 『次こそは我を』とな」


 大福さんはそこで一旦切り、間をおいてから僕を見て言った。


「それも、狙いだったか?」


 他の四人全員の、驚きに満ちた視線が、一気に集まった。


 ……狙ってなどいない。

 それは、ただのおまけのようなものだ。


「……いい影響が出たのならよかったです」


 ほう、と感心するような声がした。


 視界の端で、あんこが菓子皿に積まれたゆべしに近づいて、観察しているのが見えた。

 ゆべしか。クルミ入りだといいな。


 一つ手にとって、ちぎってかけらを与えてみる。

 期待どおりだった。


 それを食べたあんこも、くるくる回って喜んでいる。


「そこで一つ、提案じゃが……蜜森には、これからも我らが甘誠組のため働いてもらいたいと思っておる。

 今後は、月ごとに手当を出そう。異論は?」


 大福さんが、全員をざっと見回す。


 月ごとに手当。正式に雇われるということ。

 ……仕事が、見つかった。


 すぐに反応したのは、どら焼きさんだった。

 立ちあがり、握った拳をぷるぷると震わせている。


「異論など――ありませぬ!」


 後半は叫ぶような大声だったため、すぐ横にいた粕谷さんがびくりと体を震わせていた。

 ついでに、あんこも驚いて僕のもとに戻り、着物の裾の内側に隠れた。


「わし自身のこともあるが、なによりは太一じゃ。

 あいつの底力を見出し、よく発揮させてくれた。感謝しかない!」


 そこで切ったどら焼きさんは、座って俺を見つめたあと、大福さんのほうをむいた。


「局長。ぜひそのとおりに! なぁ。それでいいじゃろ!?」


 他三人を見回す。


 ……この人に信用してもらえたのなら、かなり大きい。


 見れば、他の三人も穏やかな表情を浮かべていた。


「土井殿の言うことにも一理あります。局長のおっしゃるとおりに」

「私も同意見です」


 みたらし団子さんと、羊羹さんが続けて返事をした。


 最後に残った粕谷さんを、大福さんが見る。

 粕谷さんは、すこし沈黙したあと、ふう、と息を吐いた。


「異論……あるわけがありません」


 返事をしたあと、こちらを見て苦笑していた。


 ……信用はされているけど、信頼にはまだいたっていない。

 当然だ。

 着実に評価されているようだから、問題はない。


「決まりじゃな。蜜森。次の双甘大試は、ひと月後じゃ。

 次勝てば、三連勝。

 先代から数えても、今まで一度も成し遂げられておらん。

 是が非でも、よろしく頼むぞ」


 ……三連勝は、史上初。

 当然、やってみせる。


「……はい。こちらこそよろしくお願いいたします」


 まず、大福さん。

 続いて、他の四人にむけて、順番に頭を下げた。


 ……具体的になにをどれほどもらえるのか。

 その他の待遇、雇用形態についても確認の必要があるな。


 ゆべしを口に入れて頬張りながら考えていたら、部屋の戸が外側から叩かれる音がした。


「御免――局長。文が届きました」

「文? だれからじゃ」

白妙(しろたえ)様からでございます」

「……なに?」


 ――その名が紡がれた瞬間、場の空気が一変した。


 ◇◇◇


 一方、その頃。


 メローリアはアントルメ騎士団の屯所。

 執務室にいるヴィクトリウスは、椅子に座って考えをめぐらせていた。


 そこで、扉がノックされた。


「シュリオ・クレマン、まいりました」

「入れ」


 入ってきたシュリオは、ところどころに手当ての跡があり、痛々しい姿をしていた。

 執務机の前まで移動し、きちっと頭を下げる。


「……体の具合は」

「面目次第もございません。どのような罰も受け入れる所存でございます」

「よい。今回はその件で呼びつけたのではない」


 振りかえったヴィクトリウスを、シュリオが困惑したように上目遣いで見つめる。


「甘誠組が、軍師を引きいれたようだ」

「軍師……では、ここ最近の采配が大きく変わったのは」

「まちがいなくかの者の仕業だ」


 そう言ったあと、ヴィクトリウスは立ちあがり、左にある窓の前に移動した。

 外を見つめながら、頭の中で蜜森の姿を思いだしていた。


「徹底的に、調べあげろ」

「……はっ」


 シュリオは、返事をして執務室をあとにした。

 それからも、ヴィクトリウスは窓の外を見つめつづけた。


「我が手中におさまりきるかどうか……試してくれよう」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

これで一章は終わりです。

次回からは、主人公の身の回りで色々な事件が起こり、ことごとく解決していく話になります。

是非お楽しみください。

明日からも20時頃の更新を予定しています。

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