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甘味戦争の軍師 ~社畜の僕、相性が見えるだけで最強編成を作れるけど、この戦争ちょっとおかしくないか?~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第一章 お菓子の戦争

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シュークリームの中身はクリームとは限らない。

 シュークリームの中身はクリームとは限らない。

 実は変わり種のプリンだった、とくれば、かなりのインパクトがある。


 実際、相手はそれを狙ってくるはず。


 シュークリームさんが外殻として相手を寄せつけず、プリンさんがコアとしてその守りを補強する。

 となると……圧力を加えてうまく分離させるのが、攻略ポイント。


「すこし変えます」

「ほう。どのように?」

「大福さん、前へ。速攻を仕かけてください」

「……では、岡は?」

「相手の足場が崩れたのを確認してから攻撃」


 次の柏餅を手にとり、柏の葉をはがしたところで一旦手を止める。


「……例外時は防御を優先で」

「うむ」

「承知いたしました」


 大福さんがうなずき、おかきさんがうやうやしく頭を下げる。

 そして、二人でアイコンタクト。


「まいる」

「はっ!」


 二人が出陣する。

 待機している他三人はなにも言わず、その後ろ姿にむけて頭を下げた。


 シュークリームさんとプリンさんも、戦場の中央にむけて歩いて近づいていく。

 ……プリンさんは、ここからでもはっきりわかるほど、嫌そうな顔で大福さんのほうを見ていた。


 中央に近づいて止まったところで、シュークリームさんが彼女の耳元でなにか話しかけていた。


 ……彼は、フレジエ団長の次に厄介な相手。

 すくなくとも同じ轍は踏まないように、あらゆる対策を講じてくる。


「第二試合、出場者がそろいました。準備はよろしいですか?」


 ――四人が、うなずく。


「では――第二試合、始めっ!」


 大福さんが駆けだす。

 シュークリームさんが前に出た。

 想定どおりだ。


 ……いや、違う。


 大福さんの攻撃を、シュークリームさんが受けた。

 その横を、プリンさんがすり抜ける。

 裏に回りこんで、おかきさんを攻撃。


 ……連携、していない。


「今度はぁ、この前みたいにはいかないからっ!」

「…………」


 プリンさんは、執拗におかきさんを狙っている。

 けれど、一瞬の隙をついて、おかきさんが攻撃。


「いやん、こわぁい!――なぁんちゃ、って!」


 プリンさんが見切って、反撃。

 おかきさんは、後方に跳んでそれをかわした。

 じりじりと、大福さんから離されている。


 ……なるほど。


 狙いは、分断だな。

 連携を優先しなかったのは、こちらの裏をかくために違いない。


 プリンさんが、ニヤリと笑った。


「前のときはぁ、あんまりプリちゃんの活躍見せられなかったから……

 お詫びに今回は、たーっぷりサービスしちゃうよっ!」


 プリンさんが、器用に木刀を脇にはさむ。

 手でハートマークをつくり、観客にむけてそれを押しだした。

 たちまち歓声が沸きおこる。


 ……この世界でいうアイドル枠か。そういう存在もいたんだな。


 おかきさんは、動かずに彼女の同行を律儀に注視している。


「いっくよー? プリちゃんのぉ――必殺! シューティングスター!」


 ただの突き攻撃だった。速さはあるが。

 それを弾きかえしたおかきさんが、反撃。


「は!? この野郎……っ」


 プリンさんが、一瞬鬼の形相になる。

 あとは、体力と気力勝負。


 一方の、大福さんとシュークリームさんへと目をむける。

 大福さんは、攻めてはいるが肝心の一撃がなかなか入らない様子だ。

 シュークリームさんは、攻撃してこない。


「今日は大人しいのう」

「同じ手を食うわけにはまいりませんので」

「気持ちはようわかる。

 じゃが……そろそろ動かんと、上のあやつがしびれを切らすぞ?」


 シュークリームさんが、洋菓子側の控え場所を一瞥する。

 その隙に大福さんが攻撃するが、体勢は崩れない。


「ご安心ください。すぐに、決着はつきます」


 シュークリームさんがそう言った、次の瞬間。


「ご苦労、さまぁ!」

「……っ!」


 おかきさんが木刀を弾かれ、真っ二つにへし折られる。

 無防備になった彼に、プリンさんの追撃。

 おかきさんが、吹きとんだ。


「岡殿!」

「こりゃいけねぇ……! 軍師の旦那! なにか指示を!」


 たい焼きさんと最中さんが、焦って立ちあがる。


 ……やかましい。


 詰めよってきた最中さんに驚いたあんこが、柏の葉で作ったお面をつけてガード――の、つもりか。


 柏餅を口に放りこむ。

 咀嚼しながら、横にいる羊羹さんに目をむけた。


「……不要だな」


 彼の答えに、ゆっくりうなずく。


「うぉぉぉぉっ!」


 大福さんが雄叫びをあげる。

 すでに防御姿勢に入っていたシュークリームさんがガードしようとするが、弾かれる。

 勢いは止まらず、無防備状態だったプリンさんを蹴散らした。


「う……ウソぉ……」

「きゃー! プリちゃーん!」


 観客――プリンさんのファンらしき人たちが、悲鳴をあげている。


「だからあれほど油断するなと……!」


 シュークリームさんが、忌々しげに倒れたプリンさんを見つめる。


 これで、大福さんとシュークリームさんの一騎打ち。

 ……とは、ならない。


「ぐっ!?」


 倒れたはずのおかきさんが、シュークリームさんを背後から攻撃。

 折れた木刀を、二刀流のように両手で持って使っていた。


「諦めが悪い。それが我ら甘誠組(かんせいぐみ)じゃ」


 大福さんが、木刀を両手でかまえる。

 シュークリームさんが、距離をとろうと後ろに素早く下がる。


 ……けれど。


「っ! しま……っ」


 足元にあったものに引っかかり、転びそうになった。

 ――折れた木刀。おかきさんだ。

 とっさに防御姿勢をとるシュークリームさんだが、無駄だった。

 まるで隕石のような大福さんの一撃が、シュークリームさんを押しつぶした。


「……っただ、では……!」


 倒れる寸前、シュークリームさんが折れた自身の木刀を大福さんめがけて投げる。

 大福さんはよけずに、殴りつけて粉砕していた。


「すまんの。おんしにも立場っちゅうものがあるじゃろうて。

 じゃが……儂らは負けん」


 シン、としずまりかえった戦場に、大福さんの重い言葉が響く。


 瞬間、観客席が沸き立った。


「大丸様ぁ!」

「さすがでございますぅ!」

「うおおおお! 局長バンザイ!」


 ……聞きおぼえのある大きな声もしていた。


 まもなく、救護スタッフが駆けつけた。

 プリンさんにシュークリームさん、それから、いよいよ力尽きたおかきさんを担架で運んでいった。


 運ばれていく寸前、大福さんがなにか話しかけていた。

 その背中は、丸まっている。


 ……水分多めのプリンの攻撃を受けるうちに、おかきがしけってしまった。

 防御優先は、まちがいではなかった。

 けれど、足りなかったのは分断されたあとの対応。再定義しておく必要があった。


 ……次は、落とさない。


「お見事です」

「さすがでした、局長!」

「右に同じく! さすがでございますっ!」


 三人の労いの言葉がして、大福さんが戻ってきたのに気づいた。

 手元近くにいたあんこが、柏の葉を布団にして横になっているのを見てため息をつく。


「うむ。なんとかな」


 大福さんは、言葉少なに汗ふき用の手ぬぐいを受けとり、豪快に顔面をごしごし拭いていた。


 ……気持ちが沈んでいる。

 おかきさんをフォローできなかったのを、悔やんでいる様子。


 引きずられては、組全体の士気低下に直結。

 激励が必要。


「大福さん」

「……なんじゃ?」

「今のあなたの中身は、つぶ餡ですか。それとも、こし餡ですか」


 大福さんが、顔を拭く手を止める。

 他の三人は、わけがわからないとばかりに目を細めたり、首を傾げたりしていた。


「……そうじゃのう……」


 大福さんが布をとって、顔をこちらにむける。


「儂はやはり、歯ごたえのあるつぶ餡がええのう」

「……では、大丈夫ですね」


 大福さんが、笑顔を浮かべて力強く「うむ!」と、言ってうなずいた。


 ……まだ、折れていない。

 これで解決だ。


「……隊長。今の、どういう意味で?」

「いや……俺にもわからん」


 最中さんと羊羹さんが、こそこそと話している。

 一方で、


「うおおお! 局長! 軍師殿! おらも中身たっぷり、歯ごたえのあるつぶ餡でいきますぞ!」


 たい焼きさんは、相変わらず一人で盛りあがっていて、うるさかった。


「……はい。ぜひ」


 理解しているかは微妙だけど、一番の目的は達成できたので問題なし。


 すると、前回のときのように、スタッフが確認のためやってきた。


「最終戦ですが――」

「もちろん、やらせていただきますぞっ!」

「……承知いたしました。では、ご準備のほうを」


 たい焼きさんがやる気をみなぎらせているのを見て、すこし引き気味だった。


 そのスタッフが出ていくと、たい焼きさんは鉢巻きをぎゅっときつく締めた。

 続けて、準備運動。

 腰をぐるぐる回しおえたところで、こちらを見る。


「軍師殿! まずはどういたしますか!?」

「……最初は白で」

「おお。しばらく様子見といきますか?」

「いいえ」


 間髪入れず否定すると、たい焼きさんが目を丸くして固まった。

 すぐには説明せず、洋菓子側の控え場所に目をむけ、出てきたフレジエ団長を見つめる。


「フレジエ――いえ、ヴィクトリウス氏はお怒りでしょうね」

「そうじゃなぁ。あちらの連中が気の毒に思えるくらいじゃ」


 大福さんが、苦笑する。


 たしかに、遠目からでもフレジエ団長の怒気を感じるようだった。


「のん気に様子見などしている余裕はないぞ。決して、油断はするな」


 真剣な表情をした大福さんが、たい焼きさんを見て念を押す。


 それまで、遠足にいく前の子どものようにはしゃいでいたたい焼きさんが、急に大人しくなった。


「……はっ! 厳しい戦いになるのはわかっております。必ずや、一矢報いてみせますぞ!」

「一矢では困ります」


 気合いを入れたたい焼きさんの言葉を、また否定。

 手にとったお茶の入った湯飲みを置いて、たい焼きさんを見上げる。


「勝ってください」


 そのために、人選した。


 目を見つめつづけていると、たい焼きさんは体を震わせた。


「……っ承知! なにをすればよろしいので!?」

「白たい焼きの状態を維持。攻撃時もそのままで」

「……白たい焼きを、維持?」


 首を傾げるたい焼きさん。


 旗を手にしたあんこが、素早くそれを振りまわしたり、体をくねくねと柔軟に動かしたりしている。


 ……そう。その動きだ。

 攻撃は、力強く。攻撃されたときは、しなやかに。

 イメージは、焼けたあとの餅。


 しばらくして、たい焼きさんがはっと目を見開いた。


「承知いたしました! やってみせますぞ!」


 そう言って、腹に力を入れて「ふんっ!」と、大きく息を吐き、出陣していった。


「弥太郎の奴、気が気じゃないじゃろうなぁ」

「目に浮かぶようです」


 大福さんと羊羹さんは、茶化すようなことを言いつつも、その表情は引きしまっていた。

 視線の先には、フレジエ団長。


 彼は、すでに戦場の中央近くに移動していた。


「まさか平隊員をあててくるとは……どこまで我を侮辱するつもりだ」

「侮辱ではありませぬ! すべては、我らが局長、ならびに軍師殿の命ですぞ!」

「……軍師……」


 フレジエ団長と、目が合った。

 ……なんか、にらまれてるんだが。


 その視線は、あきらかに僕を標的にしていた。

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