シュークリームの中身はクリームとは限らない。
シュークリームの中身はクリームとは限らない。
実は変わり種のプリンだった、とくれば、かなりのインパクトがある。
実際、相手はそれを狙ってくるはず。
シュークリームさんが外殻として相手を寄せつけず、プリンさんがコアとしてその守りを補強する。
となると……圧力を加えてうまく分離させるのが、攻略ポイント。
「すこし変えます」
「ほう。どのように?」
「大福さん、前へ。速攻を仕かけてください」
「……では、岡は?」
「相手の足場が崩れたのを確認してから攻撃」
次の柏餅を手にとり、柏の葉をはがしたところで一旦手を止める。
「……例外時は防御を優先で」
「うむ」
「承知いたしました」
大福さんがうなずき、おかきさんがうやうやしく頭を下げる。
そして、二人でアイコンタクト。
「まいる」
「はっ!」
二人が出陣する。
待機している他三人はなにも言わず、その後ろ姿にむけて頭を下げた。
シュークリームさんとプリンさんも、戦場の中央にむけて歩いて近づいていく。
……プリンさんは、ここからでもはっきりわかるほど、嫌そうな顔で大福さんのほうを見ていた。
中央に近づいて止まったところで、シュークリームさんが彼女の耳元でなにか話しかけていた。
……彼は、フレジエ団長の次に厄介な相手。
すくなくとも同じ轍は踏まないように、あらゆる対策を講じてくる。
「第二試合、出場者がそろいました。準備はよろしいですか?」
――四人が、うなずく。
「では――第二試合、始めっ!」
大福さんが駆けだす。
シュークリームさんが前に出た。
想定どおりだ。
……いや、違う。
大福さんの攻撃を、シュークリームさんが受けた。
その横を、プリンさんがすり抜ける。
裏に回りこんで、おかきさんを攻撃。
……連携、していない。
「今度はぁ、この前みたいにはいかないからっ!」
「…………」
プリンさんは、執拗におかきさんを狙っている。
けれど、一瞬の隙をついて、おかきさんが攻撃。
「いやん、こわぁい!――なぁんちゃ、って!」
プリンさんが見切って、反撃。
おかきさんは、後方に跳んでそれをかわした。
じりじりと、大福さんから離されている。
……なるほど。
狙いは、分断だな。
連携を優先しなかったのは、こちらの裏をかくために違いない。
プリンさんが、ニヤリと笑った。
「前のときはぁ、あんまりプリちゃんの活躍見せられなかったから……
お詫びに今回は、たーっぷりサービスしちゃうよっ!」
プリンさんが、器用に木刀を脇にはさむ。
手でハートマークをつくり、観客にむけてそれを押しだした。
たちまち歓声が沸きおこる。
……この世界でいうアイドル枠か。そういう存在もいたんだな。
おかきさんは、動かずに彼女の同行を律儀に注視している。
「いっくよー? プリちゃんのぉ――必殺! シューティングスター!」
ただの突き攻撃だった。速さはあるが。
それを弾きかえしたおかきさんが、反撃。
「は!? この野郎……っ」
プリンさんが、一瞬鬼の形相になる。
あとは、体力と気力勝負。
一方の、大福さんとシュークリームさんへと目をむける。
大福さんは、攻めてはいるが肝心の一撃がなかなか入らない様子だ。
シュークリームさんは、攻撃してこない。
「今日は大人しいのう」
「同じ手を食うわけにはまいりませんので」
「気持ちはようわかる。
じゃが……そろそろ動かんと、上のあやつがしびれを切らすぞ?」
シュークリームさんが、洋菓子側の控え場所を一瞥する。
その隙に大福さんが攻撃するが、体勢は崩れない。
「ご安心ください。すぐに、決着はつきます」
シュークリームさんがそう言った、次の瞬間。
「ご苦労、さまぁ!」
「……っ!」
おかきさんが木刀を弾かれ、真っ二つにへし折られる。
無防備になった彼に、プリンさんの追撃。
おかきさんが、吹きとんだ。
「岡殿!」
「こりゃいけねぇ……! 軍師の旦那! なにか指示を!」
たい焼きさんと最中さんが、焦って立ちあがる。
……やかましい。
詰めよってきた最中さんに驚いたあんこが、柏の葉で作ったお面をつけてガード――の、つもりか。
柏餅を口に放りこむ。
咀嚼しながら、横にいる羊羹さんに目をむけた。
「……不要だな」
彼の答えに、ゆっくりうなずく。
「うぉぉぉぉっ!」
大福さんが雄叫びをあげる。
すでに防御姿勢に入っていたシュークリームさんがガードしようとするが、弾かれる。
勢いは止まらず、無防備状態だったプリンさんを蹴散らした。
「う……ウソぉ……」
「きゃー! プリちゃーん!」
観客――プリンさんのファンらしき人たちが、悲鳴をあげている。
「だからあれほど油断するなと……!」
シュークリームさんが、忌々しげに倒れたプリンさんを見つめる。
これで、大福さんとシュークリームさんの一騎打ち。
……とは、ならない。
「ぐっ!?」
倒れたはずのおかきさんが、シュークリームさんを背後から攻撃。
折れた木刀を、二刀流のように両手で持って使っていた。
「諦めが悪い。それが我ら甘誠組じゃ」
大福さんが、木刀を両手でかまえる。
シュークリームさんが、距離をとろうと後ろに素早く下がる。
……けれど。
「っ! しま……っ」
足元にあったものに引っかかり、転びそうになった。
――折れた木刀。おかきさんだ。
とっさに防御姿勢をとるシュークリームさんだが、無駄だった。
まるで隕石のような大福さんの一撃が、シュークリームさんを押しつぶした。
「……っただ、では……!」
倒れる寸前、シュークリームさんが折れた自身の木刀を大福さんめがけて投げる。
大福さんはよけずに、殴りつけて粉砕していた。
「すまんの。おんしにも立場っちゅうものがあるじゃろうて。
じゃが……儂らは負けん」
シン、としずまりかえった戦場に、大福さんの重い言葉が響く。
瞬間、観客席が沸き立った。
「大丸様ぁ!」
「さすがでございますぅ!」
「うおおおお! 局長バンザイ!」
……聞きおぼえのある大きな声もしていた。
まもなく、救護スタッフが駆けつけた。
プリンさんにシュークリームさん、それから、いよいよ力尽きたおかきさんを担架で運んでいった。
運ばれていく寸前、大福さんがなにか話しかけていた。
その背中は、丸まっている。
……水分多めのプリンの攻撃を受けるうちに、おかきがしけってしまった。
防御優先は、まちがいではなかった。
けれど、足りなかったのは分断されたあとの対応。再定義しておく必要があった。
……次は、落とさない。
「お見事です」
「さすがでした、局長!」
「右に同じく! さすがでございますっ!」
三人の労いの言葉がして、大福さんが戻ってきたのに気づいた。
手元近くにいたあんこが、柏の葉を布団にして横になっているのを見てため息をつく。
「うむ。なんとかな」
大福さんは、言葉少なに汗ふき用の手ぬぐいを受けとり、豪快に顔面をごしごし拭いていた。
……気持ちが沈んでいる。
おかきさんをフォローできなかったのを、悔やんでいる様子。
引きずられては、組全体の士気低下に直結。
激励が必要。
「大福さん」
「……なんじゃ?」
「今のあなたの中身は、つぶ餡ですか。それとも、こし餡ですか」
大福さんが、顔を拭く手を止める。
他の三人は、わけがわからないとばかりに目を細めたり、首を傾げたりしていた。
「……そうじゃのう……」
大福さんが布をとって、顔をこちらにむける。
「儂はやはり、歯ごたえのあるつぶ餡がええのう」
「……では、大丈夫ですね」
大福さんが、笑顔を浮かべて力強く「うむ!」と、言ってうなずいた。
……まだ、折れていない。
これで解決だ。
「……隊長。今の、どういう意味で?」
「いや……俺にもわからん」
最中さんと羊羹さんが、こそこそと話している。
一方で、
「うおおお! 局長! 軍師殿! おらも中身たっぷり、歯ごたえのあるつぶ餡でいきますぞ!」
たい焼きさんは、相変わらず一人で盛りあがっていて、うるさかった。
「……はい。ぜひ」
理解しているかは微妙だけど、一番の目的は達成できたので問題なし。
すると、前回のときのように、スタッフが確認のためやってきた。
「最終戦ですが――」
「もちろん、やらせていただきますぞっ!」
「……承知いたしました。では、ご準備のほうを」
たい焼きさんがやる気をみなぎらせているのを見て、すこし引き気味だった。
そのスタッフが出ていくと、たい焼きさんは鉢巻きをぎゅっときつく締めた。
続けて、準備運動。
腰をぐるぐる回しおえたところで、こちらを見る。
「軍師殿! まずはどういたしますか!?」
「……最初は白で」
「おお。しばらく様子見といきますか?」
「いいえ」
間髪入れず否定すると、たい焼きさんが目を丸くして固まった。
すぐには説明せず、洋菓子側の控え場所に目をむけ、出てきたフレジエ団長を見つめる。
「フレジエ――いえ、ヴィクトリウス氏はお怒りでしょうね」
「そうじゃなぁ。あちらの連中が気の毒に思えるくらいじゃ」
大福さんが、苦笑する。
たしかに、遠目からでもフレジエ団長の怒気を感じるようだった。
「のん気に様子見などしている余裕はないぞ。決して、油断はするな」
真剣な表情をした大福さんが、たい焼きさんを見て念を押す。
それまで、遠足にいく前の子どものようにはしゃいでいたたい焼きさんが、急に大人しくなった。
「……はっ! 厳しい戦いになるのはわかっております。必ずや、一矢報いてみせますぞ!」
「一矢では困ります」
気合いを入れたたい焼きさんの言葉を、また否定。
手にとったお茶の入った湯飲みを置いて、たい焼きさんを見上げる。
「勝ってください」
そのために、人選した。
目を見つめつづけていると、たい焼きさんは体を震わせた。
「……っ承知! なにをすればよろしいので!?」
「白たい焼きの状態を維持。攻撃時もそのままで」
「……白たい焼きを、維持?」
首を傾げるたい焼きさん。
旗を手にしたあんこが、素早くそれを振りまわしたり、体をくねくねと柔軟に動かしたりしている。
……そう。その動きだ。
攻撃は、力強く。攻撃されたときは、しなやかに。
イメージは、焼けたあとの餅。
しばらくして、たい焼きさんがはっと目を見開いた。
「承知いたしました! やってみせますぞ!」
そう言って、腹に力を入れて「ふんっ!」と、大きく息を吐き、出陣していった。
「弥太郎の奴、気が気じゃないじゃろうなぁ」
「目に浮かぶようです」
大福さんと羊羹さんは、茶化すようなことを言いつつも、その表情は引きしまっていた。
視線の先には、フレジエ団長。
彼は、すでに戦場の中央近くに移動していた。
「まさか平隊員をあててくるとは……どこまで我を侮辱するつもりだ」
「侮辱ではありませぬ! すべては、我らが局長、ならびに軍師殿の命ですぞ!」
「……軍師……」
フレジエ団長と、目が合った。
……なんか、にらまれてるんだが。
その視線は、あきらかに僕を標的にしていた。




