表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘味戦争の軍師 ~社畜の僕、相性が見えるだけで最強編成を作れるけど、この戦争ちょっとおかしくないか?~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第一章 お菓子の戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/21

運命の日がやってきた。

 運命の日がやってきた。

 僕から見れば、二回目の双甘大試(そうかんたいし)


 粕谷さんからもらった羽織を着て、共に待ちあわせ場所へ。

 ただし、出場者ではない粕谷さんは、平服姿だ。


「客席から拝見させていただきます」

「うむ。安心して見ておれ」


 粕谷さんは、大福さんの言葉にうなずいていた。

 が、若干不安そうに出場する平隊員たちへと目をむけていた。


 最中さんは、わくわくが止まらないのかニヤニヤしている。

 おかきさんは、無表情。

 たい焼きさんは、待ちきれないとばかりにそわそわしていた。


「太一! はしゃぐな! 油断するな!」

「はしゃいでなどおりませぬ! 武者震いです!」

「なにが武者震いじゃ!」


 粕谷さんと同じく平服姿のどら焼きさんが、たい焼きさんの頭をはたいた。

 そして、真剣な表情でこちらを見る。


「頼んだぞ。ここまできたからには、最後まできっちり導け。

 ハンパな仕事は許さんからな」

「……務めは果たします」


 会釈すると、どら焼きさんはそれでも不満げに口をへの字に曲げて、そっぽをむいた。


 その後、歩きだして会場の門の前に到着。


「ご武運を」

「うむ。行ってまいる」


 粕谷さんが代表して一言言って、大福さんを先頭に中へと入る。

 出場者の平隊員の三人は、深く頭を下げてからそれに続いた。


「蜜森」


 最後に入ろうとしたところで、粕谷さんに呼びとめられる。


 ……不安そうな顔。

 いろんな感情がごちゃまぜになっているようだ。


「くれぐれも、頼んだぞ」

「……おまかせを」


 短く言葉をかわし、互いにうなずき合う。

 そして、僕もすこし遅れて一団についていった。


 さて。今日のお茶菓子はなにが用意されているのだろうか。


 控え場所についたときにまず目に入ったのは、ざるに山ほど積まれた柏餅。

 ……そうだな。気候的に、ちょうど時期だな。


 若抹茶さんによる登録人数確認と、スタッフによる身体検査は無事完了。


 さっそく柏餅を一つ手にとった。

 傍らで、第一試合の出場者の羊羹さんと最中さんが、支度を整えていた。


「蜜森。先日お主が申していたとおりでよいのか」


 鉢巻きをきつく締めた羊羹さんが、聞いてきた。


「……そうですね……」


 柏の葉をはぎ取って一口食べてから、洋菓子側を見る。


 相手は、クッキーさんとアイスクリームさん。

 相性94%、補完率90%。

 強敵だ。


 性格面でも、短期決戦を望むアイスクリームさんとせっかちなクッキーさんなら、うまく噛みあっている。

 同時に攻撃されたら、羊羹さんが防御にまわっても耐えられるかは微妙。

 最中さんなら、もっと可能性は低い。


 けれど……あの二人は、自己主張が激しい。

 ミスを誘って焦らせるのがベスト。


「最中さん」

「へい」

「守らないでください」

「……なんですと?」


 やる気十分で指示待ちをしていた最中さんが、眉を寄せた。

 他の人も、困惑してこちらを見てきた。


「守るのではなく、粘ってください」

「……おっしゃってる意味が、よくわからんのですが?」

「本来のあなたが得意とする動きでいい、ということです」


 最中さんが、言葉を失って目を見開いた。

 ……なぜ、驚く?


 最中の皮は、もろい。

 餡は、やけに粘る。

 なら、防ぐよりも――ねちっこく削るほうが合っている。


「羊羹さんはとどめ役。危ないとき以外は温存してください」

「前回の儂と三葉の戦法と、似ているようで違っておるな」


 大福さんの言葉に、うなずいた。


 今回は、いかに相手の攻撃を受けないかが重要。

 守りは必要ない。


「……承知。好きなようにやらせていただきやすぜ?」


 最中さんが、心底嬉しそうに口角を上げ、言った。

 そして、羊羹さんと顔を見合わせてうなずきあい、戦場に立った。


 観客からの歓声。

 ……かすかに、どら焼きさんっぽい声が聞こえた気がする。


 ハラハラしながら観戦している姿を思い浮かべながら、あんこにちぎった柏餅を与えた。


「吸いこむな」


 ……忠告したのに聞かなかった。

 あんこは、案の定喉に詰まらせた様子でじたばたともがいていた。

 吸いこむ形式でしか、物を食べられないのか? 不便だな。


 残った柏の葉を弄びつつ、戦場に目をむける。

 騒がしい歓声を浴びながら、第一試合の出場者の四人が近づいていった。


「本日の主審、武捨ミチオでございます。どうぞよしなに」


 主審の人が、律儀に順番に四人それぞれのほうをむいて、頭を下げた。


 ……武捨、ミチオ?

 蜜の冠(メリス・オルナ)のメンバーなら、野菜か果物のどちらかのはず。


 ……待てよ。

 ミチオを漢字であてた場合、「道」の字が入るなら――ブドウか。


「ただいまより! 双甘大試またはグラサージュ・マッチ第一試合を始めます! 準備は」


 ブドウさんが、四人に目配せをする。

 四人が、ほぼ同時にうなずいた。


「では――始めっ!」


 合図と同時に引いたブドウさんの真ん前を、クッキーさんとアイスクリームさんが突っ切っていく。

 想定どおり。


 羊羹さんが、一歩下がった。


「無理はするな」

「おまかせくだせぇ!」


 最中さんは動かない。

 クッキーさんとアイスクリームさんが、同時に攻撃。


「あらよっと」


 最中さんが、華麗によける。


「また時間稼ぎ?」

「部下を囮に使おうってか? 甘いんだよ!」


 アイスクリームさんとクッキーさんが、最中さんを挟みうちにする。

 再び、二人の攻撃。


「そりゃねぇぜ、旦那方」


 直前で、最中さんがしゃがんでかわす。

 クッキーさんとアイスクリームさんがぶつかりそうになる。

 二人が最中さんから距離をとった。


「おい! アイザックてめぇ、危ねぇだろうが!」

「うるさいなぁ! だから俺はシュリオと組みたいって言ったのに!」

「なんだとコラ!」


 ……思ったとおりだ。

 こうなれば、もはや最中さんの手の上で転がされているようなものだ。


「旦那方。そんなにツンケンしないほうがよろしいかと思いやすがね?

 せっかくの双甘大試の場なんだし」

「はぁ? てめぇ、平隊員のくせしてだれに口を――」

「ほらほら。おたくの団長様がお怒りの様子ですぜ?」


 最中さんに言われて、二人がすぐに洋菓子側の控え場所のほうをむく。


「なぁんてなぁ!」

「はっ!?」


 最中さんがクッキーさんに拳で攻撃。

 クッキーさんが、顔面にもろに食らう。

 後ろに吹っとんで倒れたが、バック転をして起きあがった。


 洋菓子側から、悲鳴とブーイングの嵐。

 ……いや。今のは引っかかったほうが悪い。


「くそ……! てめぇ、許さねぇ!」


 クッキーさんの猛攻が始まった。

 やはり、砕けたあとも強い。

 けど、それは最中さんもだ。


「……! まだまだぁ!」

「お前……っしつこいんだよ! さっさと、壊れろ!」


 最中さんの眼前に、クッキーさんの木刀が迫る。

 そのとき、羊羹さんが動いた。


「ばかクリス!」


 アイスクリームさんが割りこんで、ガードの姿勢。

 クッキーさんも、すこし遅れたがガード。


 ……ここでアイスクリームが防御?

 無意味だ。

 時間がたちすぎていて、溶けかけの状態――防御にまわす余力はないはず。


 瞬間、羊羹さんの一撃が入る。

 守備側の陣形が崩れ、二人が吹きとんだ。


「……待って……これ、まずいでしょ……」

「言ってる場合か……! さっさと起きろ!」


 倒れたままもがいている二人の顔近くの地面に、木刀がどすん、と突きささる。


「勝負は、ついただろう」

「往生しなせぇ」

「……っく、そ……!」


 とどめの二人のセリフに、クッキーさんとアイスクリームさんは悔しそうに顔をゆがめつつ、地に伏した。

 勝負あり。


「第一試合、甘誠組(かんせいぐみ)の勝利っ!」


 ブドウさんが宣言し、たちまち歓声が沸きおこる。


 洋菓子側からは、またしてもブーイング。

 それには気にもとめず、最中さんが和菓子側の観客のほうをむいて、あげた両手を振っていた。


「お見事でございますぅぅぅ! お二人ともぉ!」


 たい焼きさんが、口元に手を添えて叫んでいる。

 ……柏の葉を顔に投げつけてやりたくなった。


「養田様もさることながら、斉藤殿も……見事にございますな」

「うむ。ああいう嫌らしい戦い方は、あやつの専売特許のようなもんじゃからなぁ」


 おかきさんと大福さんが、感心しながら戻ってくる二人を見つめていた。


 ……作戦変更して、正解だった。

 持ち味を生かしつつ戦略を練るのを基本にする。

 そのほうが、ミスマッチが起こりにくいのがはっきりわかった試合だった。


 やがて戻ってきた二人を、真っ先に大福さんが出迎えた。


「二人とも、ようやった! 見事じゃったぞ!」

「ありがとうございます」

「勝利をお届けできて、あっしも嬉しく思っておりやす」


 羊羹さんと最中さんが、大福さんにむかって頭を下げた。


 最中さんは、終盤にクッキーさんの猛攻を受けたせいか、隊服があちこちボロボロになっていて息も上がっている。

 見かねたたい焼きさんが、一人で大騒ぎしながら女中を呼びつけて、手当てをさせた。


「蜜森殿」


 手当てが終わった最中さんが、こちらに体をむけて呼んだ。


「正直、最初におっしゃってた『盾になる』って話……

 無理かもしれねぇって、自信がなかったんでさぁ」

「……そうでしたか」

「しかし! 試合直前に指示を変えてくださったおかげで、のびのび戦えやした。

 感謝しかありやせん」


 最中さんが、視線を上げて大福さんを見る。


「局長の勘の正体が、なんとなくわかった気がしやす。蜜森殿は、立派な我が組の軍師でさぁ!」


 最中さんが自信満々に言ったあと、大福さんと羊羹さんがほほえんでいるのが見えた。


 柏の葉で遊んでいるあんこを、目で追う。

 布団にしたり、部分的にくりぬいてお面のようにしたりしている。


 ……まだなにも終わってない。


「勝負は、これからですよ」

「おお。そりゃ失礼しやした」


 見上げると、大福さんが不敵な笑みを浮かべて、うなずいていた。

 その後ろで、表情を引きしめたおかきさんが、鉢巻きをきつく縛っていた。


「岡」

「万事整っております」


 普段より大きめの声で、おかきさんがこたえる。

 大福さんが満足げに口角を上げ、戦場へと目をむけた。


「相手は女騎士と参謀じゃな。さすがに水分が飛ぶかもしれんのう」

「温度管理は怠らぬよう気を引きしめます」

「そう固くならんでもよい」


 水分が飛ぶ……ニュアンスでは、「余裕がない」と解釈すべき。

 温度管理は、「警戒」だな。


 洋菓子側の控え場所から、プリンさんとシュークリームさんが出てきたのが見えた。

 そのとき、予鈴の花火が鳴った。


「どうする?」


 大福さんが、僕を見下ろしながら聞いてきた。


 戦場を見つめながら、考える。

 シュークリームさんとプリンさん……相性85%、補完率61%。

 先程の二人のように、強い対比はない。組んで完成系になるタイプだ。


 当初は、おかきさんである程度削ってから、大福さんで一気に攻めるプランだった。

 けれど、その戦法は先の第一試合で使っている。

 同じ手は絶対に通用しない。


 お茶を飲んで、深く息を吐く。


「……難しいですね」


 ぽつりと呟くと、空気で動揺が広がったのがわかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ