想定どおりの三人だった。
想定どおりの三人だった。
左目の上に傷跡のある、目つきの悪い最中さん。
すこし丸みを帯びた小柄な体形の、おかきさん。
そして、自信ありげにドヤ顔をしている、極太眉のたい焼きさん。
その三人は、入口近くの下座に大福さんから見て横に並んで立ち、一礼した。
「座れ」
大福さんの指示で、それぞれが座る。
どら焼きさんが汗をかきながら、大福さんとその三人を交互に見ていた。
「第一試合、完二郎と斉藤中道。
第二試合、儂と岡喜兵衛。
そして第三試合、矢島太一郎。
以上じゃ」
大福さんの発表のあとは――長い沈黙が下りた。
そろそろと思い、耳をふさぐ。
「はぁあああ!?」
案の定、どら焼きさんが叫びながら立ちあがった。
「どういうことですか、局長」
「私たちはお役ご免ですか?」
「ばかを言え。そんなわけがなかろう。今回限定の組じゃ」
大福さんが、詰めよる粕谷さんとみたらし団子さんの合間から、こちらに視線をむけてきた。
「……最適解です」
「お前は黙っとけ! 局長! いくらなんでも無理がすぎます!」
「落ちつけ、弥太郎。
蜜森、もうすこし詳しく説明してやってくれんか」
大福さんに言われて、うなずいた。
内部分裂だけは、さけなければならない。
「まず、最中さんと羊羹さん」
「……最中ってぇのは、あっしのことですかい?」
傷跡の男性が聞いてきたので、うなずいた。
態度も見た目も、一般的にイメージされるヤクザの人そのままだ。
「最中さんは、羊羹さんの盾役。羊羹さんは終始攻撃役」
「盾……」
すこし戸惑っているように呟いた最中さんに次いで、羊羹さんを見る。
彼が、動揺を隠しながらしずかにうなずいたのを見て、続けた。
「次に、大福さんとおかきさん」
「うむ」
「……は」
おかきさんの声は、聞きとりにくい小さめの声だった。
「二人とも攻撃役。おかきさんで切りくずしてから、大福さんで一気に攻める」
「ほう」
「……承知いたしました」
大福さんは、面白そうに不敵に笑い、おかきさんは無表情で頭を下げた。
「最後に、たい焼きさん」
「はっ! おらの出番ですな!」
「しずかにせんかい、太一!」
……どら焼きさんの声も、大概だが。
「相手はあちらの団長。攻撃と守りの切り替えが重要です」
「……ほほう! つまり、おらが隊長の仇を討てばよろしいのですな!?」
「なにが仇じゃ! わしはまだ死んどらんわ!」
どら焼きさんがたい焼きさんに近寄って、頭をはたいた。
……すこし理解がずれているので、修正が必要。
そこで、こちらをずっとじろじろ見ていた最中さんが、手をあげた。
「局長。申し上げても?」
「ああ。ええぞ」
「……では。そもそもの話でございやすが、そちらのお方は軍師殿でよろしいんで?」
最中さんが、あげていたほうの手で僕をさし、言った。
「軍師!? いや、なにを言っ――」
「あっしは、局長にお尋ねしてるんですがね」
「……そうか」
最中さんにすごまれて、どら焼きさんが顔を引きつらせて目をそらした。
……最中とどら焼き。なぜ仲が悪い?
気になったので、一応調べてみた。
相性70%、補完率31%。
……まぁ、ただの性格的な問題だな。
こちらが考えていた一方で、最中さんは大福さんをじっと見ていた。
「……いや。正式に雇いいれたわけではないがの。
今のところは、策を出す手伝いをさせているだけじゃ」
「では、そのお方を信じる理由は?」
「勘じゃ」
最中さんの問いに、即答する大福さん。
隅で、どら焼きさんと粕谷さんが、「勘って……」と、呆れてぼそっと呟いていた。
しかしそれは、長年の経験則によるものだ。判断材料には十分なりえる。
すると、最中さんが自身の膝をパン、と強く叩いた。
「そりゃいい! 局長の勘ほど頼りになるもんはありゃしねぇ。ですよね、隊長」
「……そのとおりだな」
羊羹さんも、笑っていた。
それを見て満足した最中さんが、両手で拳をつくり、それを床につけた。
「おっしゃったとおりの動きができるよう、本番まで十二分に鍛錬を積んでまいりやす。
他に助言など、もしあればいつでもお申しつけくだせぇ」
「……はい。よろしくお願いします」
こちらが会釈すると、最中さんは深々と頭を下げた。
信頼さえ得られれば、懐に入るのを簡単に許してくれる。だけど、妄信はしないタイプ。
味方としては、かなり頼もしい部類の人だな。
「では、他はどうじゃ?」
大福さんが、おかきさんとたい焼きさんを見る。
そわそわしているたい焼きさんを尻目に、おかきさんが最中さんと同じように頭を下げた。
「慎んで、お受けいたします。
局長と組ませていただけるなど、この上ない栄誉。務めを果たせるよう努力いたします」
「おらも異存などありませぬ! 必ずや隊長の仇を!」
「じゃから! わしは死んでおらんと言うとるじゃろがい!」
立ちあがって詰めよろうとしてきたたい焼きさんを、どら焼きさんが突きとばして止めた。
大福さんが、それを見てケラケラと笑っている。
「そんなわけじゃ。輝一に三葉に弥太郎。すまんが、おんしらは今回裏方に回ってもらう。
何度でも申すが、切りすてたわけではない。腐らんでくれよ」
「はい。承知しております」
「かまいません。私は私のできることをいたします」
「……ぜひとも今回だけにしてくだされ!」
みたらし団子さんと粕谷さんは潔い返事をしていたが、どら焼きさんは不満げだった。
それを聞き、大福さんが不敵な笑みを浮かべる。
……あとでうまく機嫌をとっておこう。特にどら焼きさんの。
「決まりじゃな。各人、本番まで鍛錬を惜しまぬように……次も、勝つぞ」
「……はっ!」
大福さんが真剣な眼差しで見回すと、全員が返事をして頭を下げた。
平隊員の三人の声が、ひときわ大きく……耳をふさいでおいて正解だった。
気合いは、十分。
次も勝つ? それは必然だ。
◇◇◇
翌日。
会議の直後から、出場者は鍛錬に力を入れていると聞いた。
僕は、一人で縁側に座って庭を眺めている。
粕谷さんもざらめさんも、いない。
肩から下りたあんこが、飛んできた小鳥とケンカしている。
しずかでゆったりとした時間がすぎていく。
……無駄な時間だな。
家を出て、今回は甘味通りではなく、別のところへ行ってみることにした。
先日大福さんからもらったものに、ざらめさんに頼んで書きたしてもらった地図。
これをもとに、今回は日用品を売っている店が並んでいる場所へ。
反物屋に雑貨屋、両替商。書店。その他諸々。
甘味通りに負けず劣らず、こちらも活気がある。
感心したのは、ここでも、甘味を売る商売人がいたこと。
「あまーい蜜だよー。冷えてるよー」
「飴ー。飴だよー」
通りに入ってまもなく、天秤棒担ぎの人とすれ違った。
前者は、寒天に黒蜜をかけただけの簡易的なあんみつ。後者は飴細工を売っていた。
……甘酒はない。もうすこし暑くなってからだな。
店や歩く人々を観察しながら、ふとある屋台に目がとまった。
たい焼きを売っている。
誘われるように、近づいた。
「らっしゃい」
屋台の内側にいるのは、ねじり鉢巻きをした中年男性。
低くて太く、一度聞いたら忘れない特徴的な声をしていた。
鉄板をのぞきこむと……目を見張った。
白いたい焼きがある。
……皮の原料は、米粉やタピオカ粉。
ありえない。
「……これは?」
「ああ。お客さん、お目が高いね。
こいつはうちだけの看板商品。餅皮で作ったたい焼きだよ」
やはり、餅か。
一つ購入して、歩きながら食べてみた。
……美味い。
外側は焼かれているため硬めだが、中は柔らかい。
つぶ餡が、存在を大いに主張している。
ただ……ほとんど大福。タピオカ粉の皮のようなもちもち感もない。
けれど、これはこれでありだ。
あんこに与えたら、飛びあがって喜んでいた。
……これ、使えるな。
地図を取りだして、場所を確認。
踵を返して、道場へとむかった。
まずは、羊羹さんと最中さんがいる三番隊。
「右が生焼けだぞ!」
「へいっ!」
……この二人は、問題なし。
続いて、おかきさんのいる二番隊。
「もっと力強くこねろ!」
「はっ!」
「今。もっと素早く動けたはずです」
「はいっ!」
おかきさんは、上司の粕谷さんに加えて、みたらし団子さんにも稽古をつけてもらっていた。
こちらも、問題なし。
相手によっては戦い方を変える必要性が出てくるが、今のままの特訓方法でも対応はできる。
さて、問題のたい焼きさん。
「どりゃあ!」
「なんの!」
「ここかっ!」
「……甘いわ!」
「っぐえ!」
似たようなことを繰りかえしていた。
たい焼きさんが、どら焼きさんに竹刀で斬りかかっては隙をつかれて撃沈。
まだまだ、と起きあがっては、その繰りかえし。
……やはり、あれが役に立つな。
「ぜんっぜん足らんわ! わしに勝てなくて、双甘大試でまともに戦えると思うな!」
「ぐぬぬ……! まだまだですぞ! もう一本!」
「すこし、よろしいですか」
転がっていたたい焼きさんが起きあがったタイミングで話しかけると、二人がぎょっとしてこちらをむいた。
「……あ!? お前、なにしにきた!? 邪魔しにきたのか!?」
一応、どら焼きさんに一礼してからたい焼きさんに近づく。
「あなたは、白たい焼きにもなれます」
「……白、たい焼き?」
たい焼きさんが、丸くした目で何度か瞬きをした。
知らないはずはない。
うなずきつつ、たい焼きさんの反応を待った。
「じゃから……! 人を食べ物でたとえるなとあれほど!」
「もしや、餅皮のたい焼きのことでは? 源さんの屋台の。おらに、あれになれと?」
「そうです」
「……おお! 理解しましたぞ!」
「なんでじゃ!」
コントのようなやり取りを眺めつつ、邪魔にならない位置まで下がった。
「隊長! もう一本!」
「……何本やっても同じじゃ!」
そう言いながらも、たい焼きさんから距離をとってかまえるどら焼きさん。
「覚悟せぇ!」
速攻を仕かけるどら焼きさん。
それを、たい焼きさんが滑らかに体を曲げて、かわした。
……思ったとおりだ。彼は、体が相当柔らかい。
その後も、どら焼きさんの攻撃を、華麗によけていく。
「おい……! よけてばかりで、やる気あるのか! ええ加減……っかかってこんかい!」
「はいっ!」
どら焼きさんの攻撃が荒くなった隙を、たい焼きさんがつく。
通常のたい焼きに、モードチェンジ。
ベストなタイミングだった。
どら焼きさんの竹刀を払い、喉元に竹刀の先を突きつける。
勝負が決まった。
唖然とする、どら焼きさん。
「軍師殿! こういうことですな!?」
「……まだ軍師ではありません。そのとおりです」
「承知! これを完璧に身につけてみせますぞ!」
たい焼きさんと顔を見合わせて、うなずいた。
「おいっ! どういうことか説明せい!」
「おらは白たい焼きになったのです!」
「じゃから、それがなにかわからん言っとるじゃろがい!」
どら焼きさんが、たい焼きさんの胸倉をつかんで振りまわすのをしばらく見たあと、踵を返した。
餅戦法が使えるなら、いいところまでいく可能性大。
あとは――フレジエ団長の正体さえつかめればいい。
――このもどかしい感覚は、次の大会で晴れる。
そう予感しつつも、突然暗雲が立ちこめてきた空を不審に思って、目を細めた。




