悪役令嬢は美形の父に不意打ちされる2
影になったジュリアンの顔立ちが、恐ろしいほど整っている。20代のような風貌も相まって、威力が増している。
鼻腔をくすぐる、上質な香水の匂い。普段は父親として優しく微笑んでいる瞳が、今は、暗く、深く、妖しく揺らめいていた。
息が詰まる。
至近距離で見つめ返されるだけで、背筋に痺れが走り、ソフィアの思考は真っ白に染まった。
「ソフィア……」
耳元で落とされた、低く甘い声。
ジュリアンの長い指先が、ソフィアの頬に落ちた髪を優しく耳へと滑らせる。
その指がソフィアの肌に触れるたび、そこから熱が伝わってくるかのようだった。
「どこへも行かないでくれ。ずっと、私の目の届く範囲に居てくれ。ソフィア……」
「っ……」
声が出ない。
「やめてください!」と突き放したいのに、瞳に囚われ、喉がキュッと絞まる。
ドックン、ドックンと、胸の奥で早鐘を打つ鼓動がうるさくなる。
「おとう……」
「どう?びっくりしたかい?」
ニヤリと、ジュリアンは笑う。
「……は?」
意味がわからなかった。
「いやー、誰かを押し倒すなんてリーシェ以外初めてだったよ。何度やっても、緊張する……」
「おらあっ!」
「ゔっ!」
ソフィアが、ジュリアンの腹に蹴りを入れた。
ジュリアンは、痛みに顔を歪め、蹴りを入れられた腹を抱える。ソフィアは、嫌なものでも見るかのように蔑む視線を向けた。
「や、やりすぎたよ……ごめんね」
「本当ですよ。さっさと反省してください」
「それにしても……まさか本当に容赦なく蹴られるとは……ソフィア、リーシェと似てきたね……」
ジュリアンの頭に、かつてアーテル伯爵を粛清し、自分に自信をなくしていた時にリーシェからチョップされた記憶がよぎる。
「無駄口叩いてないで、さっさと永眠してくださいませ」
「酷いな」
ジュリアンは、苦笑しながらもベッドに入る。
ソフィアと向かい合っている。彼女の眉間には皺が寄っている。
「……あっち向いてください」
「えー?私は、ソフィアの顔を見ながら寝たいけどね」
彼女は黙って自ら反対を向く。
ジュリアンは愛でるような視線を向けながら、後ろからそっと優しく抱きしめる。
「大好きだよ」
「私は、大嫌いです」
「つまり、大好きってことだよね?」
呆れたような雰囲気を醸し出すソフィアに、ジュリアンは寂しそうに微笑するが、彼女を見つめるその目は変わらない。
「……さっき言ったことは、嘘ではないよ。どんな君でも、大切で、愛おしい__」
背後から伝わるその温もりが、時を忘れさせる。
暖かくて、心地よい。単純に、2人でくっついているからなのだろうが。
優しくて、まるで大事なものを抱えるみたいな。きっと、彼は私のことを一生嫌いにはならないのだろうと。そう確信してしまうほどには。
そして、不思議だった。初めて誰かと一緒のベッドで寝て、バックハグもされるのに。
この感覚が、凄く__懐かしかった。
(……馬鹿。本当に、馬鹿じゃないの__)
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