第44話 ネズミグランプリ
ディーターがいる可能性が高いパドックへローザと向かう。
まだ、パドックは始まっていないようで人はまばらだ。
《ツバキ、ポマードの奴、臭い、する?》
《しない》
まだ、来てないのかもしれない。
しばらく待つことになった。
ローザはネズミ一覧を真剣に見ている。
ツバキに時々涼しい風を送りながらオレは辺りを見回した。
ネズミの入ったガラスケースがコンベアーの上をゆっくりと流れていく。
中のネズミは人々のざわめきにも反応していない。
なんでだろう。
「オッズ低い~。あーもう一番人気のケース叩いたら走れなくなったりしないかな」
不穏な会話が聞こえてきた。
「ぎゃはは……ばっかだなぁ~。できたら俺もやりたいよ。でもアレだろ」
柄の悪そうな若い男性のグループだ。
「あのガラスケースってネズミから音とかこっち側がわからないようになってるんだろ。叩いたって反応しやしないさ」
ほうほう。そんな仕組みがあるのか。オレは耳をそばだてて聞き入る。
「あー、大穴こないかなぁ」
「いや一番人気単勝に全額突っ込んどけって」
仕組みが気になるのですが……この男性たちの会話からは、これ以上得ることはできなさそうだ。
部屋の中央には、コースの模型が飾ってある。
この模型はそんなに大きくないが、実際にネズミが走るコースは二十メートルらしい。
障害物のある直線。
小さな丸太を乗り越えたり、飛び石みたいなものが置かれている。
これは瞬発力を試すのかな。
迷路。
片方にだけ曲がり続けるとループする仕組みが、どちらにもある。
知力だな。
一本橋。
落ちると、橋を渡る前の側にしか登ってこれなくなっている。
バランスかな。
ロープ。
紐をよじ登って、上の穴までたどり着くようになっている。
これはパワーだな。
最後は何もない直線。
スピードだ。
これは、すべてを兼ね備えたネズミが勝つレースってことなのか。
壁に貼ってあるオッズの紙が貼り替えられた。
横に小さなステージがあり、そこに派手な服装の男性が立つ。
「さぁ~、ネズミグランプリ! パドック解説はじまるよ~!」
パフパフパフ。
陽気な感じでラッパが鳴り響く。
「1番、チューチューマッスル!」
ちょうど1番のゼッケンをつけたネズミのガラスケースが来るタイミングだ。
「ロープ巧者です。ただ、迷路を無事に抜け切れるか……迷路の成功率は五十パーセントです」
……買うのは危険すぎる奴だろう。
オッズも201倍になっている。
「2番、ネズチューカイザー!」
2番のゼッケンをつけたネズミのガラスケースが来た。
なるほど、解説にタイミングを合わせているんだな。
「現在15戦15勝です。まさに無敗のネズミ! 現在のオッズは1倍ですね!」
1倍って……それ、賭けになってなくない?
ネズチューカイザーは、落ち着いた感じの黒いネズミだった。
「3番、スイートチューチュー!」
《ポマードの奴の臭いがしたよ》
オレは慌てて辺りを見回した。
《どこ?》
《ニャーたちが入ってきた方向》
「ロミー!」
「うっさい! 今いいとこ」
ローザは当てにならない。
オレは自警団員を探す。
《臭いの近づいてきてるよぉ》
いた!
今回、自警団員は私服だ。
ただし、見分けられるように木で作られた猫のカフスをしている。
ちなみに、支配人が作ったらしい。
モデルはノアルだとか。
ちょっと欲しいと思ってしまった。
オレは自警団員に近づき、耳打ちをした。
自警団員が合図を出す。
すると、部屋の出入口を封鎖するように、自警団員たちが集まってきた。
《臭い、どこ?》
《ローザのとこー。うう、臭いよー》
ディーターが近くにいる。
オレは猫トイレの開発で作った消臭の魔石を起動した。
ツバキ、我慢させてごめんな。
《臭いなくなったー!!》
やがて、ローザの近くにいたディーターが、自警団員に連れていかれるのが見えた。
ローザは、気づきもしなかった。
「うぎぎぎぎっ」
ローザがネズミ券をゴミ箱に叩きつける。
ネズミグランプリ。
ローザが買ったのは『チューチューマッスル』だった。
「いや、あの解説でどうしてそれ買うんだよ」
「だって~。ネズチューカイザーは1倍じゃないの。それじゃつまらないわ!!」
チューチューマッスルは、最後まで迷路から脱出できなかった。
メインとなるレースが終わったためか、だんだんと閑散としてきた。
「このままじゃ、帰れないわ!!」
「いや、帰ろうよ」
ローザは鼻息荒く、次のレースが行われる場所を探していた。
《アル、あっちのネズミはアルと同じ感じがする~》
ツバキが不思議なことを言い出した。
オレがネズミと一緒?
それはどういう意味で?
《何、同じ?》
《あのね。アルがニャーに風当ててる時と同じ》
それは魔法使っているってことか。
全ての生物が魔力を持つことは分かっている。
理論上ネズミが使っていてもおかしくない。
オレは、ツバキが同じと言うネズミに目を向けた。
「アル? 何か面白そうなレースあった?」
「ああ。ちょっと気になって……」
「よし!! いってみよー!」
オレはローザに引っ張られるようにして、魔法を使っているかもしれないネズミの元へ向かった。
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