第45話 勝つまで帰らない!
ローザに引っ張られていった先のレースは、対戦式というらしい。
ネズミ同士というより、ネズミ調教師同士の対戦なのだそうだ。
二人のネズミ調教師が赤と青に分かれ、それぞれ選りすぐりの五匹を用意し、五種の短いコースで競う。
客は、その勝敗の結果に賭けるという形式らしい。
どちらかが先に三勝した時点で勝敗が決まる。
赤が勝つと予想する場合でも、ストレート勝ちなら赤3-0、僅差なら赤3-2というように、勝ち方まで予想する。
引き分けはない。
つまり、賭けられるのは、赤3-0、赤3-1、赤3-2、青3-0、青3-1、青3-2の6パターンのどれかになる。
五種のコースも、それぞれ違っている。
一本橋、迷路、ロープ、飛び石、直線。
瞬発力、知力、力、ジャンプ力、スピードが求められるラインナップだ。
コースの順番はクジで決められ、そのコースをどのネズミに走らせるかは、それぞれの調教師の采配で決まる。
赤の方の調教師は常連らしく、赤のほうが売れているようだ。
青はニューフェイスとのこと。
「赤で決まりだろ。あとは赤3-0か穴狙って赤3-1か。1勝すれば新人としては優秀だろう」
近くにいるおじさんの会話が聞こえる。
ローザが赤3-2を買っているのが見えた。
ツバキが言っていた、魔法を使っていたかもしれないネズミは、青の調教師が選んだネズミだった。
「ほらー!アルも一回ぐらいは賭けようよ!!」
オレはローザに押されて、ネズミ券を買うことにした。
青3-0を手にしたオレに、ローザがにんまりと、
「アルってギャンブラーね!!夢があるわぁ~」
201倍のローザには言われたくないなと思った。
カランカランカラン。
係員が手で持った鐘を鳴らす。
「対戦式レース、マウスデュエルのネズミ券販売を締め切ります!!」
ぞろぞろとネズミ券を買った人たちが集まってくる。
思ったより買っている人が多いな。デュエルっていう響きがいいのだろうか。
レースの主役であるネズミたちは、それぞれの色のゼッケンを身に着けケージでその時を待っていた。
「それでは運命のくじを引きます~!!」
係員がクジの入った筒を振ると1本の棒が出てくる。
「第一試合は、飛び石です!!」
飛び石はランダムに配置された足場に飛び移りながらゴールを目指すコースだ。
赤の調教師が選んだのは、後ろ脚が長く感じる。いかにもよく跳ねそうなネズミだった。
対する青の調教師が選んだのは、普通のネズミに見えた。
あえていうなら頭が大きくて、ちょっとバランスが悪い感じだ。
「おいおい、迷路に出す奴と間違えてないかー?」
「間違ってるって新人に教えてやれよ。司会者ー!!」
「飛び石は捨ててるんじゃないか?」
どこからともなくヤジが飛ぶ。
にやにや笑う赤の調教師に対して、青の調教師は無表情だった。
2匹のネズミをゲートに入れる。扉が開いたらスタートだ。
かしゃん。
扉は静かに開いた。
《アル、あの気配がするよー》
赤のネズミは俊敏な動きで飛び出していった。
軽快に飛び石を跳ねていく。青のネズミはまだ飛び石に移ってもいなかった。
誰もが赤で決まりだと思った、その瞬間だった。
青のネズミが体を縮めたと思ったら、ひと跳びでゴール前まで跳んだのだ。
ざわめきが止まった。
青のネズミは、そのままするりとゴールに入った。
「……青の勝利です!!」
慌てて係員が結果を叫ぶ。
室内は怒号に包まれた。ネズミ券が宙を舞う。
今ので、赤3-0は外れが決まったのだ。3分の1ぐらいがネズミ券を投げ捨てていた。
「うんうん、いい感じ~」
赤3-2を買ったローザはにやにやしている。
再び係員がクジの入った筒を振った。
「第二試合は、一本橋です!」
コースには橋が一本だけ掛けられている。
先に橋に取りついた方が落ちずに渡り切れれば勝負が決まるのかな?
そうすると決め手は瞬発力になるのかな。
「一本橋なら赤の勝ちだな」
常連らしい人の会話が聞こえてきた。
青の調教師は、小柄なネズミを選んでいた。いかにも身が軽そうだ。
対して赤の調教師は体の大きなネズミを出した。
「いや、鈍重そうにみえるけど。これはまた青が勝つんじゃないか?」
「お前わかってないなー。一本橋はな。後ろからが有利なんだぜ」
何で後ろからが有利なんだろう?
会話に耳をすませながら、レースに注目する。
既にネズミはゲートに収まっていた。
かしゃん。
扉は静かに開いた。
青のネズミは颯爽と一本橋に取りついた。
赤のネズミも、その後を追った。
《アル、また》
赤のネズミが後ろから、青のネズミを撥ね飛ばそうとする。
体格が違う2匹だ。
誰もが青のネズミが落ちると思った。
青のネズミは耐えた。
それから赤のネズミは何度も攻撃を仕掛けたが、青のネズミはものともしなかった。
しまいには青のネズミのしっぽに噛みついた赤のネズミを引きずりながら橋を渡り切った。
「……青の勝利です!!」
ざわつく場内に係員の声が通った。
再び怒号があがる。赤3-1に賭けた者たちが、ネズミ券をそこかしこに投げ捨てた。
「来たわ!!ここから怒涛の赤3連勝ね」
ローザのにやにやは止まらない。
みたび係員がクジの入った筒を振った。
「第三試合は、直線です!」
歓声があがった。人気のコースらしいな。
直線は障害物も何もない、純粋にスピードだけを競うレースだ。
「青の連勝もここまでだろうな。直線はなー」
常連の会話にローザが鼻の穴を膨らませているのがわかる。
「ストレートはないだろう。青3-0とか誰も買ってないんじゃないか」
いえ、ここにいます。
ちょうどこの頃、最終オッズが壁に貼り出された。
赤3-0 1.2倍
赤3-1 1.6倍
赤3-2 6.8倍
青3-0 102.2倍
青3-1 32.4倍
青3-2 12.6倍
室内がざわつく。
ほとんどの人が赤3-0、赤3-1だったのか。
そうこうしているうちに第三試合の準備が進んでいった。
赤の調教師はすらりと足が長い、細身だが体が大きなネズミを選んでいた。
連敗は避けたいからか、こころなしか顔がこわばって見えた。
対して青の調教師は最初と変わらない無表情だ。
選んだネズミも何の変哲もない、やはり体のバランスが悪そうなネズミだった。
ネズミがゲートに収まった。
かしゃん。
扉が開くと共に歓声があがる。
「いけー!!」
赤のネズミが勢いよく飛び出していった。
青のネズミはしばらく出てこない。
《まただよ》
青のネズミが動き出した。
大分引き離されている。
巻き返しは無理だと誰もが思っていた。
しかし、差がするすると縮まっていく。
「逃げろ逃げろ逃げろー!!!」
絶叫もむなしく、青のネズミはゴール直前で赤を追い抜いた。
絶叫の中、ネズミ券が飛んでいた。
「青、三連勝! 青3-0です!!!!」
係員が必死に声を張り上げて宣告した。
「うそよ……あああああ」
ローザがよろよろとネズミ券を握りしめていた。
換金窓口にしばらく近寄らないほうがよさそうだな。
室内の人がほとんどいなくなったタイミングでオレはこっそり換金した。
儲かったなー。
ちょっといい魔石買っちゃおうかな。
「ねぇねぇ、おじさま。その当選金、転がして増やしましょうよ」
今さらロミーの設定を思い出したように、ローザがすり寄ってきた。
「ロミー帰りますよ」
「やだやだやだ。勝てるまで帰らないもん!!」
「負ける奴は絶対そういうんだよ!!」
オレはローザを引きずって、賭場を後にした。
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