幕間 ゼラアム皇国
※幕間です。
本編の合間に挟まる寄り道のようなお話です。
読まなくても本編の理解には影響しませんので、気が向いたときにでもどうぞ。
無理して読む必要はありません。
猫たちもそう言っています。
――ゼラアム皇国
ゼラアム皇国の初代皇帝は、もともとは一人の傭兵であった。
世は、魔石魔法と入れ墨魔法がしのぎを削っていた時代。
初代皇帝の名は、ジーク。
国とは名ばかりの、明日をも知れぬ集団が乱立する地域で、彼は育った。
元々彼が所属していた国は魔石魔法を主流とする国であったが、彼が15歳になる前に略奪にあい潰されてしまった。
奴隷になることを避けるために彼は逃げ出した。
しかし、国に属していない彼は定住することはできなかった。
彼は魔法使いとして優秀な部類であった。糊口をしのぐために傭兵となるのは必然であった。
最初は魔石魔法を主流とする国ばかりに加勢をしていたが、傭兵仲間から入れ墨魔法を学んでからは、どちらの陣営にも入るようになり、彼は貪欲に技術を吸収していった。
彼は魔法の特性を理解し、人を動かすことに長けていた。
また戦の勝ち負けに敏感であった。
最初は彼のいうことを聞かなかった傭兵たちも、彼と同じ陣営だと勝てるため、次第に彼の周りに人が集まっていった。
ジーク自身も人が多い方が勝てることを理解していた節もあった。
そうして彼は22歳の時に傭兵団を立ち上げた。
これが後の皇国となるゼラアム傭兵団の始まりだった。
ゼラアムは当時の傭兵団中心人物、副長3人の頭文字とジークの頭文字ジをとって「ジラアム」だったのがなまって「ゼラアム」になったと言われている。
ジークは魔法の技術を学ぶことに貪欲であった。
そうして学んだ技術を次々と戦術に取り込んでいった。
魔法をひとつひとつで扱うのではなく、集団で使うことによって効果を2倍にも3倍にも引き上げる。
まさにジークは集団戦術魔法の開祖とも言えた。
そうしたゼラアム傭兵団の活躍もあり、群雄割拠であった小国群は次第にまとまっていった。
その頃にはゼラアム傭兵団も1000人を超える大所帯となっており、傭兵団自身が国ともいえる状態であった。
ジークが28歳になったとき、彼は所帯を持った。
そして、定住の土地を手に入れることを決意した。
1年を要したが、それまで各国に拠点を置いて散らばっていたゼラアム傭兵団は、ついにひとつの土地へ集結した。
ゼラアム傭兵国の誕生である。
一部の歴史家の間では、ジークの奥方が妊娠したために定住の地を求めたのではないかといわれている。
周辺の国々は恐々とした。
今まで自分たちのために戦っていた傭兵団が、ひとつの国となった。
しかも、それが自分たちに牙を剥く可能性があるのだ。
やがて各国は、ゼラアム傭兵国に対抗するため、次々と同盟を結んでいった。
当時の資料には、ゼラアム傭兵国の兵力が約三千だったのに対し、これに対抗する同盟国側の兵力は四万に達していたと記されている。
この数字だけを見ても、当時の周辺諸国がゼラアム傭兵国をどれほど恐れていたのかがうかがえる。
ジークは、取り込んだ相手の能力を正確に把握し、それぞれに適した役割を与えることに長けていた。
この時代、在野にいた優秀な人材の多くが、ゼラアム傭兵国に取り込まれたのではないかともいわれている。
また、ジークは傭兵時代の経験から、周辺諸国の軍事事情や弱点を隅々まで熟知していた。
戦いが始まると、同盟国群はあっという間に細切れにされていった。
連携を断たれた国々は、それぞれ個別にゼラアム傭兵国の攻撃を受け、各個撃破されていく。
三千対四万。
圧倒的な兵力差がありながら、同盟国群は次々と崩れていった。
そして、同盟国群がすべてゼラアム傭兵国に併呑されたのは、ジークが35歳の時であった。
もちろん、ゼラアム傭兵国の躍進はジーク一人の力によるものではない。
彼を支えた三人の副官もまた、非常に優秀な人物であった。
後に彼らは軍団長と呼ばれるようになり、それぞれが数々の戦場で功績を残している。
ただし、三人の活躍についてまで語り始めると長くなるため、ここでは割愛する。
なお、ジークと三人の軍団長が繰り広げた戦いは、現代でも人気の演目となっている。
ジークの没後、ゼラアム傭兵国はゼラアム皇国と名を改めた。
現在のゼラアム皇国にも、初代皇帝ジークの影響は色濃く残っている。
その最たるものが、徹底した実力主義である。
皇族と軍団長の家系を除き、その他すべての貴族の爵位は一代限りとされている。
どれほど高い爵位を得ようとも、本人が新たな功績を残さなければ、その爵位は子へ受け継がれない。
そのため、ゼラアム皇国では常に功績を求めて競い合う者たちが存在する。
もっとも、実力主義が徹底されているからこそ、功績を金で買う者もいる。
表向きには決して認められてはいないが、裏では功績の売買が行われている――そんな噂も、古くから絶えることがない。
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