第40話 老猫は見ていた
茫然とした支配人が、
「ちょっと整理しましょうか?」
メモを取り出そうとしたオレにツバキが爪をたてる。
《アル、ツバキ頑張ったよ。おやつー!!》
「あ、ちょっと待ってください。猫たちにおやつあげるので」
赤いリボンの袋からクッキーを取り出して、ツバキとノアル、そしてマダムの前に置いた。
マダムはちらりとオレの方を見た。
3人で金庫を開け閉めして音を確かめた。
――金庫の音
がしゃん。 → 鍵が開く音
ぎぎぎぎぎ。 →扉が開く音
ぎぎぎ…がしゃん。 →扉が閉まって鍵がかかる音
ぎぎぎ…かつん。 →扉が閉まりかけ、切れ端が挟まった音
「いつもこれを挟んでいたとはどういうことでしょうか?」
支配人の額に青筋が浮かんでいる。エドガーは気まずそうに口を開いた。
「いやー、持ち運びするものが多いときとかさ。これをドアストッパーにしてたんだよ」
「やっていたのは、他に誰ですか?」
「えーっと、支配人以外……です」
支配人の腕がぷるぷる震えている。
「ほら、アントンとか鍵開けれないからさ。必要だったんだよ」
支配人はゆっくり息を吐いてから、
「今後の課題ですかね……ディーターが金庫に入ったのは間違いないのでしょうね」
支配人が紙にまとめた情報をオレたちに見せてくれた。
――支配人のメモ
誰かが金庫を開ける。
ドアストッパーを仕掛ける。
↓
夕方、ディーターが金庫に侵入。
ドアストッパーを仕掛ける。
↓
誰かが金庫を閉める。
ドアストッパーを外す。
↓
19時、劇場内の見回り。
金庫が閉まっていることを確認。
↓
夜、ディーターが金庫内部から鍵を開ける。
ドアストッパーを仕掛ける。
ディーターが部屋から出ていく。
↓
複数の人が部屋に入ってくる。
そのうち何人か、もしくは全員が金庫に入る。
ドアストッパーを外す。
ドアストッパーをマダムのいた辺りに投げる。
怪しすぎる。
一緒にメモを見ていたエドガーが口を開く、
「怪しいけど、結局贋作にすり替えていたかどうかはわからないね。不法侵入はあきらかだけど。あと開けたの誰?」
「開けた人が誰なのかは調べたらわかるでしょう。あとはその日に回収の依頼を出したのは誰かですかね。私が調べてきます」
支配人はそういうとメモを懐にしまった。
《ポマードの奴が来たー!!》
《臭いのが近づいてきてる!!》
ノアルとツバキが、口々に叫びだした。
猫たちが突然騒ぎ出したことに、支配人とエドガーはいぶかしげな顔をした。
「ポマードの奴が近づいてきてるって言ってます」
「なんだって!?」
さて、どうしよう?隠れるか?
エドガーの誘導でオレたちは、金庫のある部屋の奥に移動した。
程なくして、ディーターが大道具部屋に入ってきた。
本当に来た!! ツバキが鼻を押さえてふるふるしている。
ディーターは金庫のある部屋の方ではなく、書き割りが置いてある方に向かっていった。
《もう無理!!!!》
ノアルが飛び出した。一目散に出口に向かって走っていった。
その音でディーターがこちらを見た。
見つかった。
「あ……あの大道具部屋の不用品回収を……」
ディーターがしどろもどろに言い出した。
支配人が問い詰める。
「外の不用品しか依頼していないのですが?」
ディーターは落ち着きなく目を動かしながら、
「あ、えーっと。ここに回収して欲しいものがあると伺ったので」
「誰にですか?」
「誰だったかなー?いつも見かける人なのですが……あっ、部屋間違えました!!」
ディーターは踵を返して逃げ出した。
「待ちなさい!!」
エドガーがディーターを追って飛び出していった。
慌ててオレと支配人も追っていく。
ツバキが入ったカバンが重い。
大道具部屋を飛び出したときにはディーターどころか、エドガーの姿も見えなかった。
しばらくして、オレより前に行っていた支配人が戻ってきた。
「見失ってしまいました。エドガーが怪我しないでいてくれればいいですが……」
「ごめん、見失った……敷地外に逃げられたかも……」
息を切らしたエドガーが戻ってきた。
そういうと彼は座り込んだ。
「相手が刃物とか持っていたらどうなっていたかわからないのですよ」
支配人はポケットから出したハンカチをエドガーに渡しながら、
「それに、部屋間違えたと言い張られたらどうしようもないですね」
「それってボクの走り損――!」
エドガーは突っ伏した。
「それよりも彼はここに何しにきたかですよね?」
支配人の視線は書き割りのところで止まった。
今までの舞台で使ったものなのだろう。大量の書き割りが、ところ狭しと雑然と並んでいる。
ちょんちょん。
オレのズボンの裾をつつく感触がした。
ツバキはカバンの中だからノアルが戻ってきたのかな。
オレの足元にはマダムがいた。
マダムは書き割りの間をすり抜け、奥に立てかけてある一枚の大きな書き割りの前に座った。
《あいつらがここでガサゴソやってたのさ》
そういうと元の位置に戻っていく。
オレが置いたクッキーはなくなっていた。
《あいつらは、あたしに爪とぎ投げつけたんだ。こらしめてやってくれるならいい気味よ》
そういうとマダムは丸くなった。
《マダム、感謝》
《ふん、そう思うならまた今度マッサージしに来な》
「今、マダムが教えてくれた書き割りの所に何かあるみたいです!!」
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