第36話 ポマードの男を知る猫
赤いリボンの袋からハンナ手製のおやつを取り出しツバキとノアルに与える。
あまりの食いつきの良さにローザが目を丸くしながら、
「それってそんなにおいしいの?ひとつもらえる?」
手を出すローザにひとつ渡す。ついでに手を出している支配人にも渡した。
勢いよく口に入れたローザは口を押えて、
「なんか生臭いというか肉っぽい、うっ……」
ローザを横目に支配人は匂いを嗅ぎ、割って断面を確認してからノアルにそっと渡した。
ツバキはそれをうらやましそうな目で見ていた。
オレは気づいた。
金庫の扉が閉まっている。
これって閉じ込められたってこと?
オレの視線から察したのかローザが、扉の脇にある閂をはずし、扉を開けた。
「ふふ、閉じ込められたと思った?扉は勝手に閉まるようになっているけど、中からは開けられるんだよ。じゃなきゃ、アントンに任せられないもの」
「おやつタイムも終わりましたし、そのポマードの男の件について猫に聞いてもらえますか?」
ノアルが歩き出した。
《昼寝してくる。眠たいや》
猫だからなぁ。
「もしや、案内してくれるってことですか?」
期待する支配人にオレは事実を告げる。
「……ノアルはそろそろお昼寝の時間だそうです」
「……猫ですね」
支配人は肩を落とした。
「他の猫にも当たってみませんか?」
オレの提案で、他の猫を探すことになった。
「なかなか、猫を見かけませんね」
地下から一階に戻り、猫を探してうろつく。
「客席側よりも裏方側で日当たりが良い場所を目指してみましょうか?」
支配人が提案した、猫がいそうな場所を目指して歩いていると窓の外に青い花の植木鉢やぬいぐるみが置かれていた。
植木鉢はともかく、ぬいぐるみが何で外に置かれているんだろう?
オレの視線に気づいたのか、支配人が、
「ああ、あまり大きな声で言えないのですが。ファンからのプレゼントなのです」
それが何で外に?
「申し訳ないのですが、ファンからのプレゼントには変なものが入っていることが多くて……探索のマーキングがかかってたりするんですよ」
青い植木鉢の空き巣犯と同じような人って他にもいるのか……。
「受け取って、劇場の敷地に置いてから業者に処分してもらっています。内密にお願いします……」
カイルは変なもの仕込んだりしてないよな?
かぎしっぽの感覚だとあの辺りは絶好の昼寝スポットだな。
オレは目を凝らして辺りを見回した。
いた。クリーム色の大きなぬいぐるみのお腹をベッド代わりに、同じ色の猫が丸まっていた。
「ぬいぐるみの所に猫がいます」
「そこの搬入口から出れますよ」
うーん、警戒されて逃げられそうだな。
《ツバキ、交渉、頼む、できる?》
《うーん?おやつくれる?》
ツバキは面倒そうな感じだ。オレは赤いリボンの袋からおやつを取り出した。
《ポマードの奴、知ってる、聞く、頼む》
ツバキはおやつから目を離さないまま、
《わかったー。聞いてくるからちょうだいー》
搬入口の扉をそっと開けるとツバキは交渉に向かった。
《こんにちはー。いい天気だね》
《お前誰?》
《ツバキ。人探しを手伝ってるんだ》
《飼い主か?》
《違うよー。ポマードの奴って人間》
その名前を聞いた途端にクリーム色の猫は嫌そうな顔をした。
《アイツ臭いから来たらすぐわかるぜ》
《どの辺りにいるの?》
《この場所にはよく来るぜ》
ローザがうずうずしながら、オレに聞いてくる。
「ねぇ、何て言ってるの?」
「今、会話聞いてるからちょっと待って」
今は、静かにしてて欲しいのでオレは口に指をあてて、しーっと合図をした。
クリーム色の猫は、いつでも逃げれるように体勢を変えてこちらを気にしている。
《あいつら何だ?捕まえる気か?》
《違うよー。話が聞きたいんだって》
《は?猫の言葉わからないのにか?》
《アルはわかるよー。それでポマードの奴のこと知りたいんだって。報酬に美味しいおやつもらえるよ》
ツバキ……。よだれでてるぞ。
《ごく……そんなに美味しいのか》
あ、ツバキの食いしん坊が役に立っている。
《そのおやつとやらをそこに置け、置いたら離れろよ。ポマードの奴のこと話してやるから!!》
オレは、クリーム色の猫に言われた場所にクッキーを置いてから距離を取った。
《本当にわかってるみたいだな》
そう言いながらも視線をこちらから外さずにクッキーに近づいていく。ぱくりっ。
《!!!!!》
《ニャーにもちょうだい!!》
ツバキが走って戻ってきた。クッキーを渡すとむさぼり始めた。
《ポマードの奴は、ここにあるものを持っていく》
《どこに?》
《あっち?》
《最近見かけたのは?》
《わかんない。だけどアイツ、全部持っていくから、ぬいぐるみがここに置かれる以前しか来てないぞ》
足元のぬいぐるみをちょんちょんとつつく
ツバキはオレのところに戻ってきた。
《アル、ニャーはちゃんと交渉できたよ。おやつー》
さっき食べたのは交渉の報酬とは別だと言いたいらしい。
オレはため息をつきながら、赤いリボンの袋から取り出したクッキーをツバキに渡した。
猫から聞いた話を二人に伝える。
「ポマードの男は、猫の嗅覚で来たらすぐにわかるくらい臭いそうです」
ローザが噴出した。
「それでこの場所によくきて、ここにある物を全部持って、あっち側に運んでいくと」
猫が言っていた方向を指し示す。
「直近でここに来たのはあのぬいぐるみが置かれる前だと」
支配人が顎に手をあてながら、
「ポマードの男は、回収業者ではないでしょうか? 定期的にここにあるプレゼントを回収してもらっていますので」
「ねぇ、回収頼んだら来るのでしょ?臭いで分かるなら頼んでみたらいいんじゃない?」
ローザの提案に、
「今日依頼して、明日にでも来てもらいましょうか。ジルバーシュタイン様、明日猫と一緒にここに待機してもらえますか?」
「はい、大丈夫ですよ」
オレは了承し、ツバキをカバンに戻した。
支配人は眉間を指でもみほぐしながら、
「しかし、ポマードの男が回収業者だとして金庫の中に臭いが残るのは不自然ですね」
いくら強烈でも臭いは少しずつ薄れていくものだ。
金庫の中は閉ざされた空間だ。とはいえ、猫の嗅覚でまだ臭いを感じるということは、結構最近のことだったんじゃないだろうか。
考え込む支配人とオレに向かって、ローザが提案する。
「ねぇ、猫たちのごはんの時間に合わせて来てもらって、猫たちみんなに話を聞いたほうが早くない?」
「そうですね。私の方で従業員に回収業者を地下に入れたか、確認してみたいと思います。あと明日回収業者を呼ぶように連絡するので。すみませんが失礼いたします」
支配人は、素早くしかし静かに立ち去っていった。
「猫たちのごはんは朝7時頃のはず。それ以外は置き餌と個別におやつで対応しているから明日は早く来て欲しい」
ローザは伸びをしながら、
「あたしも明日は早起きするよー。だからアルも今日は早めに休んでね」
こうして、劇場での調査一日目は終わった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
楽しんでいただけましたでしょうか?
面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ぜひ☆やブックマークで応援していただけると嬉しいです!
感想などもいただけると、とても励みになります。
これからもよろしくお願いします!




