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アルフォンスは魔導士ではなく、猫である  作者: 猫のアミーゴ


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第3話 猫とメイドと魔法管理局

コン、コン、コン

「坊ちゃん、起きていらっしゃいますか?」

返事も待たずに、実家から派遣されているメイドのハンナがドアを開けた。

オレは、ふてくされるツバキに謝罪するのに必死で、ハンナが来たことに気づかなかった。



時は少し戻る――。

目が覚めたオレが目にしたのは、濡れたクッションと、その前にうずくまるツバキの姿だった。

かぎしっぽの記憶からオレは理解した。

ツバキのトイレ用意していなかったことに。

《オレ、準備、足りない、ごめん》

猫にとって、トイレは神聖な場所である。それを怠ったオレは、猫的に「ありえない」のだ。

《……ニャーは、我慢した。……お前、起こしたくなかったから》

あー、ツバキは疲れているだろうオレを起こしたくなかったのか。

かぎしっぽの記憶から、ツバキならこうするだろうということがわかる。

罪悪感で胸が痛い――。



「坊ちゃん、何していらっしゃるんですか?それに猫?」

そうだった、今日はハンナが来る日だった。

「あー、えーと」

どう説明しようか、言葉が出てこない。

ツバキは、ソファの後ろに隠れて、小声でオレに聞いてくる。

《こいつは、誰?敵?》

《敵、違う》

猫語を話すオレに、ハンナはにっこり笑って

「坊ちゃん、猫を拾ってこられたんですね。猫と会話するなんて」

そして、メッと子供を叱るようなしぐさで続けた。

「坊ちゃんはもう大人なんですから、動物を飼うなら自分でしっかりと世話しなければいけませんよ」

傍目から見たオレってそう見えているのか。何て説明すればいいのか。

そして子供扱いにちょっと落胆する。オレ28歳なんだが。



ハンナは、キッチンから底の浅い木箱を持ってきて、オレに渡してきた。

「坊ちゃん、こちらは私が片づけて置きますので、この箱の半分ぐらい、なるべくサラサラな土を入れてきてください。」

ぽかんとしているオレに、ハンナは続けて

「猫ちゃんのトイレを作ってあげなくては、また粗相しちゃいますよ」

あー、トイレ用か。

「庭に作ろうかと思ったんだけど」

庭にツバキのトイレコーナーを作れば解決だと思っていたので口に出す。

「まあ、それじゃ猫ちゃんは使いたいときにトイレ使えないですよ。ドアを開けっ放しは不用心です。雨の日はどうするんですか?室内にも作るべきです」

あ、はい。おっしゃる通りです。

《ツバキ、トイレ、オレ、作る、待つ》

ツバキに一声かける。そしてオレは、木箱を持って庭に出た。



裏口に近い一角、目立たない場所でオレは畑を耕す魔法を使った。

一度だけでなく、何回か掛けて、土をサラサラふわふわにする。

かぎしっぽ目線の最高のトイレが仕上がった。

土の一部を木箱に入れ、オレは室内に戻った。

室内ではすでに、ツバキの粗相の後は片づけられ、なんだかいい匂いが漂っていた。

オレが木箱を室内に置こうとしたところで、

「坊ちゃん、その箱は廊下の隅に置いてください。室内は掃除が大変です。それとあまり騒がしいところは猫ちゃんも嫌がりますから」

かぎしっぽの記憶がハンナの言うことが正しいと告げてくる。

オレは、ハンナの指示通りに箱を運んだ。



「坊ちゃん、猫ちゃんのごはんが出来ましたよ。あげてください」

ハンナが、茶色のクリームっぽいものと水が入った二つの皿を乗せたトレイを持ってきた。

《ツバキ、ごはん、食べる、する》

昨日からツバキは、パンをふやかしたものしか食べてない。

ツバキがソファの裏から顔をのぞかせる。

「坊ちゃん、猫ちゃんの名前は決めたのですか?」

「ツバキだ」

「まあ、坊ちゃんにしては、素敵な名前を付けられましたね」

……オレがつけた訳じゃないんだけどね。

ハンナが、茶色のクリームを指先につけて、ツバキに近づける。

ツバキは、敵じゃないと知ってはいるので威嚇はしなかった。

「ツバキちゃん、お腹減ってるでしょ。」

ツバキの口によだれが光ったのをオレは見た。

鼻をひくひくさせている。

《ツバキ、ごはん、安全、食べる》

ツバキは、そろそろとハンナに近づき、指をなめた。

《!!!!!!!!!》

ぺろぺろぺろぺろ……。

ツバキは止まらない。

あー、おいしいんだな。きっと。

ハンナが差し出した皿に頭を突っ込んで、ツバキは無心に食べ続けた。



皿が空になっても、ツバキは皿をなめつづけた。

やがて、顔の周りをなめ、それからやっと周りの様子に気づいたようだ。

《あれ……あ、つい、ごはんがおいしくてその……》

なんだか、ほっこりとした気持ちになる。これは、かぎしっぽの記憶の影響かな。

《ツバキ、あっち、トイレ、用意、した、使う》

ツバキの顔が輝いた。本当にごめんなー。

ツバキが走っていった先から砂をかく音がしてきた。



「さて、坊ちゃんのごはんも用意してますよ」

ハンナの一言に、オレも空腹だったことに気が付いた。

食卓で食事をとりながら、ハンナが一緒に持ってきた新聞を読む。



――劇場の人気女優に恋人がいることが発覚。お相手は、怪人役をやっていた俳優。

カイル、落ち込んでそうだな。ちょっとごはんがうまい。



――レンガ商店街近くの住宅に空き巣が入る。目撃情報があれば自警団までご連絡ください。

割と近くだな。マリアの家のすぐそばだ。あとで様子見に行こう。



――魔導士学校 名誉教授 スヴェン・ランゲ氏が死去。告別式は来月に行われるとのこと。詳細が確定次第、別途告知します。

ランゲ先生が、そういえば具合がよくないって聞いていたけど。



食事が済むタイミングで、コーヒーが出てくる。

「坊ちゃん、ツバキちゃんのごはんも作り置きしておりますので」

魔石冷蔵庫の中に、オレのごはんの作り置きの他にツバキ用のごはんも入れてあった。



ハンナは食器を片付けながら言う。

「ツバキちゃんの分で坊ちゃんの食事の材料が足りなくなったので、あとで作ったものをマリアに届けさせますね」

ツバキが、キッチンの入口から覗き込んでいる。

「ツバキちゃん、キッチンは入ってはいけませんよ。フェンスでもつけますかね」

《ツバキ、この、部屋、ハンナ、縄張り、入る、ハンナ、怒る、ダメ》

《ハンナ、強いの?お前よりも強いの?》

《ハンナ、とても、強い、怒る、こわい》

ツバキは神妙にうなずいた。

「たぶん、ツバキはキッチンには入らないから大丈夫かな」

「猫にはそんなことわかりませんよ」

「いや、オレが見張っておくから、大丈夫」

ハンナはちょっと不満げではあったが、納得してくれた。



「坊ちゃん、私はもう帰りますが、お出かけの予定はありますか?マリアを寄越すので」

オレは、いや予定はないよと言いかけて、思い出した。

「あ、今日は魔法管理局に行く予定だから、オレが帰りにマリアのところに寄っていくよ。近く通るし」

記憶の魔法の件で、行かなきゃいけないんだよなぁ。

面倒なことは早く済ますに限る。

「承知しました。では失礼します。ツバキちゃん。またね」

《ハンナ、ごはん美味しかった~》

ツバキは可愛らしく、ハンナにすり寄った。

胃袋掴まれてるな。あの茶色の奴なんだったんだ。



――魔法管理局

「おっ、アルじゃん。今日どうしたー?」

窓口は学生時代の同期のダーヴィットだった。

「いやー、うっかりテスト中の魔法(アプリ)をインストールしちゃって~」

「またか、お前、魂の領域(メモリ)大丈夫なのか?」

「それは、余裕あるからなんとか」

窓口が同期だと気楽だな。いいタイミングだった。

「じゃあ、エディタを出して。フォルダに記録してない?やらかしすぎだ。お前は魔法(アプリ)の精査するから、プレートに手を置いて」

手を置いたまま、10分ほど待つ。

「危険な特定コードの検出なし。効果は記憶の取り込み?永久発動型か」

ダーヴィットは手早く、書類に記載していく。

「何の記憶読み込んだの?それによるけど」

「……近くで死んでいた猫」

「まあ、魔法不使用措置(ブロック)の必要はないかな。近くで人が亡くなってなくてよかったな」

その可能性にオレはぞっとした。

「エディタは、5日後に取りに来い。」

手続きはさくさく進んだ。同期にまじ感謝。これが堅苦しい受付に当たったら、もっと時間が掛かったはず。

オレは肩の荷が下りた気分で魔法管理局を後にした。



一仕事終えたオレは、軽い足取りでマリアの家に向かう。

マリアは、家の外にいた。

「マリアー、ごはん取りにきたぞー」

「あっ、アル兄。お母さんから、ついさっき預かったよ。ちょっと待っててね」

マリアは、ハンナの娘だけど幼馴染に近い。

パタパタと家に入り、袋を抱えて戻ってきた。

オレは、近所の空き巣の件を聞こうと思っていたが、マリアのマシンガントークの前に言葉を引っ込めさせられた。

「アル兄、猫飼ったんだって。今度見に行っていいー?あとね、聞いてよー!うちの植木鉢が全部割られてたんだよ」

まったく、口をはさむ間がない。

「全部だよ。ありえなくない!!」

外にいたのは、それを片付けていたのか。端に植木鉢の破片がまだ残っていた。

「あ、そうだ。アル兄、犯人探す魔法つくってよ!!」

「いや……そんなピンポイント」

「だって、せっかく丹精込めて育ててたのにー!」

マリアの目に涙が浮かんでいる。

ちょっと、オレが泣かせたみたいになってるじゃないか。

「オレ今、エディタないから無理」

「アル兄、何かやったの?」

ハンナ経由で、オレの実家まで伝わったら、ちょっと面倒くさい。

マリアは、オレの様子を見て、にんまりと笑った。

「じゃあ、犯人探してくれるなら、お母さんには黙っておく」

昔、同じように口止め料代わりに、おやつ取られたなー。

オレは屈した。

「探すけど、見つけられるとも限らないし、期限5日でいいか」

どうせ、エディタは5日は使えないし。

「んー、仕方ないね。」

「あざっす」

完全敗北であった。



オレは、とぼとぼと荷物を置きに家に帰った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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