ネリー外伝2 恋の釣り作戦
※番外編です。今回はネリー視点のお話です。
※対応本編:第10話 猫ベッドとシュシュ、第11話 シュシュのひったくり
『猫ごと私を大事にしてくれる人』には、ひとりだけ心当たりがあった。
アルフォンス・フォン・ジルバーシュタイン様。
家から脱走した猫のレモンを探してくれた人だ。
ダーヴィットの友達。それが、アルフォンス様との唯一の繋がりだった。
仕事場の文房具の補充に敷地内の売店を訪れたときに彼がいた。
思わず彼に話しかけた。
「ジルバーシュタイン様、先日はありがとうございました。」
「ああ、レモンは元気にしていますか?」
彼は私のこともレモンのことも覚えていてくれた。
「ええ、首輪が外れた時のかすり傷だけで、特に大きなケガはなかったですわ。でも、もうドアには近づかないようになりましたね。」
お礼を言うのは変じゃない……大丈夫。
「とにかく無事でよかったです」
このままじゃお礼を言っただけで終わっちゃう。
私の中のイマジナリーララが『逃がすな!!絶対捕まえろ!!』と叫んだ。
「あのー、お礼に今度お食事でも、おごらせていただけないでしょうか?」
「いや、ダーヴィットに……」
「彼とは、別れましたから!!」
私は思わず食い気味に叫んでしまった。
あわてて取り繕う。
「うちの猫に嫌われる人とは付き合えないですわ」
「そうですか」
「じゃ、オレはこれ買ってくるので、アンバーとレモンによろしく言っといてください」
アルフォンス様は、さらりと去っていった。
昼休みにララに泣きついた。
「あんた頑張ったね。またいつか機会があればいいね」
ララは私の頭をポンポンと叩いたあと、レモン味のキャンディを机に置いていった。
昨日はアルフォンス様に意識を取られすぎて、文房具の補充を忘れてしまっていた。
上司であるハンス事務長は叔父である。
「仕事なのだからしっかりしなさい」と当たり前のおしかりを受けた。
その後は、アルフォンス様のことを根掘り葉掘り聞かれた。
「ジルバーシュタイン……ふーん」
叔父は意味ありげに、にやにや笑った。
叔父の視線から逃げるように私は売店に向かった。
私は目を疑った。
売店にアルフォンス様がいたのだ。
「ジルバーシュタイン様、また、お会いしましたね」
「よくお会いしますね。昨日はうっかりフォルダを買い忘れちゃって」
アルフォンス様も買い忘れか。
それだけで、ちょっと幸せな気分になる。私って現金だな。
ふと彼の視線が私の手首に移動した。
手首のシュシュが気になるのかな。
「ああ、これですか? レモンの首輪を同じ布で作ろうとしたんですけど、レモンがつけてくれなくて……もったいないから自分がつけちゃってます」
「首輪が引っ掛かったのが怖かったのじゃないかな」
この人は本当にレモンのこと心配してくれているんだな。
「じゃ、また」
「あっ……」
アルフォンス様は買い忘れたというフォルダを手にして、あっという間に会計に向かってしまった。
昼休みに再びララに泣きついた。
「うーん。厳しそうだねぇ……」
うう……。
何とか今日の仕事を終えて家に帰る。
口から思わずため息が零れ落ちた。
注意力も散漫になっていたのだと思う。
いきなり路地から男が飛び出してきた。
「きゃ!!」
男は私の腕をつかんで引っ張る。いや!何!!
「何してるんだ!!!!」
目に映ったのは水…?
衝撃と共に私の体は傾いた。突き飛ばされた…?
次にくる背中への痛みを覚悟したが、そのときはこなかった。
アルフォンス様!!!
今、私は彼の腕の中にいる。
心臓がバクバクいっている。
「エッカート女史、怪我は? 何か取られましたか!?」
そうだった。こんな時だというのに私はアルフォンス様から目が離れなかった。
辛うじて、絞り出した言葉は、
「あ……あのシュシュが……」
いや、そうじゃないよね。もっと言うことあるよね。
「怪我はありません。あの……ありがとうございます。」
ああ、もうこんなの運命感じちゃうじゃない……あああああ。
「あの、とっさに魔石投げてすみませんでした!!」
今さらながら、私は服が濡れていることに気づいた。
あの水。魔石から出たものだったのね。
とにかく、沈まれ心臓!!!
なるべく冷静な声を心掛けた。
「ふふ……助けてくださったんだもの。」
「失礼します!」
彼が使う魔法が私の濡れた服を乾かしていく。
何か会話のきっかけつくらなきゃ…。
「まあ! こんな魔法もあったのですね。私も買おうかしら」
「ぜひ、買ってください!! まだ一個もダウンロードされてないんで!!」
この話題に彼は食いついてきた。
私の中のイマジナリーララが釣り竿片手に『ヒットー!!』っと叫んでいた。
「ジルバーシュタイン様が作られたのですか?」
「売れてないんですけどねー。あの良かったら自警団の詰所までお送りしますよ」
イマジナリーララが、『合わせて糸を引くのよ』とリールを巻いている。
アルフォンス様は魔法が売れないことを悩んでいるようで、どうも説明文とマッチしていないように思えた。
私は自分を売り込んだ。
猛プッシュだ。
イマジナリーララが、『押し込め!!』と勢いよくリールを巻いている。
「あの良かったらお礼に説明文の見直しを手伝わせてください」
「是非、お願いします」
イマジナリーララが、『捕ったどー!!』と雄たけびを挙げた。
連絡先を取得していないことに気づいたのは、家に帰りついてからだった。
ショックでレモンを1時間もふった。
アンバーはすぐに察して逃げていた。
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