第24話 赤いタクシーの手がかり
自警団の詰所に向かう。花壇がどんな風になったか見ていこうと思い、先に裏手に回った。
なんということでしょう。オレが土を耕しただけだった花壇は縁石で囲まれ、赤やピンクの花が全面にゆれている。
その横には、以前耕しただけだった畑にもしっかりと畝が作られ、夏野菜が植えられている。
よく見ると大きな水瓶が設置され、ビオトープまで作られていた。
「ヘルマンさん、何かすごく変わってません?ここ」
もはや、庭師と化したヘルマンさんが、
「いやー、だんだん楽しくなってきちゃいましてね。ところで何かあったのですか?」
オレはブラウのことを相談した。
「落とし物、ペットを探してるといったお問い合わせは、各詰所ごとで管理していて共有はしてないんですよ」
書類の束を一枚ずつ確認しながら、ヘルマンさんは申し訳なさそうに言った。
「白い猫の問い合わせはここにはないですね、せめて管轄の詰所が分かればいいのですがね」
その管轄がわからないのが問題だよなぁ。
「猫を車から捨てる……しかも飼い主以外がですか」
詰所にいたイグナツさんも不愉快そうに眉を寄せた。
「不法投棄、飼い主以外が猫をさらったならば、窃盗にもなりますね」
「窃盗は、飼い主から届け出がないから無理だ。ただ、不法投棄ならありだな」
ヘルマンさんとイグナツさんは顔を見合わせると、
「アルさん、猫が捨てられたのはこの辺りでしたよね?」
地図のある地域を指さす。えーと、あの広場はここだから、合ってるな。
「そうです」
「不法投棄の疑いってことで捜査しましょう。私たちが付いていけばタクシー会社でも不動産でも話を聞いてくれるはずですよ」
詰所を空にする訳にはいかないということでイグナツさんが付いてきてくれることになった。
「この辺りのタクシー会社は10社です。そのうち赤い色はペーター運輸とブリッツ・ファールトですね」
イグナツさんと共に詰所から近い順に向かっていった。
ブリッツ・ファールトでは、受付が面倒くさそうに調べてくれた。
「弊社では約50台が都内を走っていますが……猫の不法投棄ですか。そのような報告は上がっていませんね」
「このエリアに行ったタクシーはないのですか?」
「5台ありますね」
「車体を見せていただくことはできますか?」
「……該当の5台は今、裏にありますから可能です。グットマンさーん、すみません。8番、19番、21番、32番、33番の車体に案内してあげてください」
受付が近くの運転手に声をかけた。
「グットマンさんが裏に案内します」
「はいはい」
グットマンさんがオレたちを裏に案内してくれた。
「話は聞こえてましたけど、車体に何かあるんですか?」
「捨てられた猫の爪に塗料がくっついていたんですよ」
「なるほど。そんなことをする客がいたら、だいたい会社に報告するんですけどね。しない奴もいるから」
3人でドア付近を丹念にチェックしたが、それらしき傷は見当たらなかった。
グットマンさんにお礼を言い、次の会社に向かった。
次の会社が本命かとペーター運輸に向かった。
入口で車を磨いている人に声をかけると、なんとペーター運輸の代表ペーターさん本人だった。
「いやー、車が好きでしてね。うちの会社の車はだいたい私が毎日磨いているんですよ」
ペーターさんは、車好きの気さくなおじさんだった。
事情を話すと
「許せないな。タクシーをなんだと思ってるんだ!!」
怒りをあらわにしていた。
「ただ、うちの車にそんな傷はなかったよ。私が毎日チェックしてるんだから間違いない」
うん、この人は車の傷を見逃しそうにないな。
「他に赤いタクシーを使用している会社ってご存じないでしょうか?」
イグナツさんの質問に、
「赤いのはうちとブリッツのとこだけだな。あ……まてよ。赤い塗料っていってたか?現物あるかい?」
オレは、慌ててカバンからハンカチに包んだ塗料の欠片を取り出して、ペーターさんに見せる。
ペーターさんはしげしげと塗料を見つめてから、指でつまんだ。
「マイヤー&ゾーネ・タクシーが、最近まで赤だったんだ。代替わりした際に色を変えたんだが、上から塗っただけだったんじゃないかな」
……ちょっと黒いのは、ブラウの爪の汚れじゃなかったのか。
ペーターさんにお礼を言い、マイヤー&ゾーネ・タクシーに向かうことにした。
マイヤー&ゾーネ・タクシーに到着した。
受付で事情を説明していると、奥から出てきた若い男が、
「うちは忙しいんで、お客じゃないなら遠慮してくれませんか?」
「そのお話だけでも……」
「その話聞いている間にも、客を乗せればお金になるんだから!営業妨害では?帰ってくれ」
けんもほろろにオレたちは追い出された。
「とりつく島もなかったですね……」
さて、どうしたものか。
「イグナツさん、オレ疲れたので、タクシーに乗って帰りましょう!出しますから」
そう、客ならいいだろう。
再び、受付に戻る。
「だから、営業ぼう……」
「自警団詰所まで乗車します!!」
男は何かいい掛けたが、黙った。受付が配車の手続きを行ってくれた。
オレとイグナツさんは、黒い色のタクシーに乗り込んだ。
「運転手さん、ちょっと遠回りしていいですから、話聞いてくれませんか?」
「いいですよ」
タクシーは拘束時間で料金が決まる。運転手は快く話に応じてくれた。
受付での話をすると、
「ああ、その若い男って新社長ですね。いっつもピリピリしてて私らもやりにくいんですよねぇ」
ブラウの事情を話す。
「あ……それ、うちですね。同僚が車から猫を捨てた客がいたと愚痴っていましたよ。社長にいっても怒られるから報告してないんですよ」
それから困ったように、
「確か、傷はペンキで塗ってごまかしたみたいですよ。バレたら減給されかねないので内緒にしてもらえると助かるのですが……」
これは、よくない組織あるあるだな。イグナツさんも無言ながら眉をしかめている。
「内緒にしますから、どこから乗ったかとか、どんなお客だったか教えてもらえますか?」
「それはノルに聞かないとわからないなぁ。全てを聞いたわけじゃないから」
「そのノルさんに話を聞きたいのですが」
「ああ、会社じゃダメだ。社長に怒られる。そうだな。今夜仕事が終わったらノルを誘ってくるから、一杯おごってくれないか?」
「わかりました」
マイヤー&ゾーネ・タクシーから、離れた飲食店に19時に集まる約束をして詰所で降ろしてもらった。
「アルさん……。経費にはなりませんよ」
「いや、自警団に出させる訳ないじゃないですか。自分で出しますよ」
あ、夜は勤務時間外だよね。
「夜の飲食店はイグナツさんは勤務時間外ですよね?さすがに無理ですよね。オレひとりで行ってきます」
「いや……そういう訳じゃ……」
「明日わかったことを報告にきます。今日はありがとうございました」
オレは、ツバキとブラウにごはんをあげるために一旦戻ることにした。
ツバキとブラウの間に仕切りを立て、ごはんを配置する。
二匹ともいい食いつきだ。ツバキは薄いと文句を言っていたけど。
《オレ、出掛ける、遅く、なる》
《ふーん》
ひとりぼっちでお留守番ではないツバキは塩対応であった。
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